第310話 瘴オオヒノノコの脅威


 さて、瘴オオヒノノコの本格的な討伐を始めようか! 特性に瘴気吸収があるから、この瘴気だらけの状態で既に倒せる気はしなくなってきてるけどね。どう考えても全力で回復するやつ……。とはいえ、やれるだけの事はやろう。


「ヨッシさん、ハチ2号、3号を毒を持たせてサヤと水月さんの前方にそれぞれ飛ばしてくれ。ライさんは上空に向けて毒魔法Lv2を打ち上げ。毒はタイミングを合わせるから合図まで待機」

「了解!」

「オーケー、任せとけ」


 よし、毒で瘴オオヒノノコ……長いからヒノノコでいいや。とりあえずヒノノコを誘導するのはこれでいい。進化して大きくはなっているけど、毒に対する攻撃性が変わってないのはありがたいとこだな。


「エンの根が厳しいかな!?」

「方向の分からない危機察知ありだ! 気をつけろ!」

「水月さん、正面から!」

「くっ! これは素早いですね!?」


 作戦を立てている最中でも、容赦もなくエンの根とヒノノコが襲いかかってくる。相変わらず視認するのも難しい速度での奇襲がお好みか! 大きくなってはいるから前よりは分かりやすいにしても、この瘴気には紛れきってしまうらしい。エンの根の攻撃も隠れやすい要素になっているみたいだな。

 こりゃ正攻法は先に瘴気の流出を止めて、視認性を上げてからの対戦か? ま、それでも常闇の洞窟に入る為の足止めは必要っぽいけどね。


「サヤ、ベスタ、水月さん、チャージしながら回避を優先! とりあえず大技ぶち込んで、回復傾向と行動パターンを見る!」

「分かったかな! 『重硬爪撃』!」

「サヤさんはそちらですか。では私は『重爪斬』!」

「あ、それどっちにしようか悩んだやつかな!?」

「サヤさん、そうなのですか?」

「避けながら雑談する余裕あんのかよ。『並列制御』『重硬爪撃』『重爪斬』!」

「ベスタさんに言われたくはないかな?」

「えぇ、それは同感です」


 まぁオオカミで避けながら両方の前足で応用スキルを発動しているベスタが言っても説得力はない。っていうか、2種類のチャージ系応用スキル……? 同時に発動してるけど、両方共に銀光を放って徐々に強まっているからチャージ系なのは間違いない。

 あんまりチャージ中に強く動かすとチャージ途中でスキルが発動してしまうはずだけど、ベスタの発動しないぎりぎりの力加減が凄いな。……操作系スキルの複数制御は得意だけど、この2つ同時の応用スキル発動と回避は真似できる気はしないね。


「ベスタ、その2つの違いって何?」

「『重硬爪撃』は爪持ちのみで斬るよりかは少し打撃寄り、『重爪斬』は爪持ちかつ斬撃の特性持ちの斬るのに特化しているやつだ」

「中継の時も思いましたが、ベスタさんは器用な事をしますね! 『根棍棒』『薙ぎ払い』!」

「このくらいはどうって事はねぇが、それが木の物理攻撃か」


 ベスタは器用にエンの根を避けながら説明をしてくれた。そこに襲いかかってきたエンの根をルストさんが太くなった根で打ち返している。サヤも水月さんもエンの攻撃が当たる様子はない。うん、このメンバーなら簡単に直撃を受ける事はないだろう。

 時々ヨッシさんやライさんを狙ってきているヒノノコの攻撃もルストさんが全て迎撃してくれている。その様子を見た限りでは毒属性の攻撃には過敏だけど、毒属性持ちに対しては少し優先度が高いくらいか。問答無用で毒持ちを襲っていた前とは少し違うね。


<行動値を3消費して『スリップLv3』を発動します>  行動値 38/53(上限値使用:3)


 おっと、エンの根が上から叩きつけられてきたからハサミを覆うコケで受け流すように回避っと。威力は高そうだけど速度はそれほどじゃないし問題ない範囲だな。

 ただし攻撃頻度は高いから、これはエンの攻撃の誘発パターンを探る方が良いかもしれない。……ん? もしかしてここで『浄化の輝晶』の被弾率上昇の効果を使うのか……? その可能性はあり得るね。


 それはそれとして、ヒノノコへの攻撃だ。本命は地上部隊のヨッシさんの統率のハチだけど、カウンターを狙えるメンバーがこれだけいるんだ。打てる手は可能なだけ打っておこう。


「ハーレさん、聞こえてるか?」

「もちろんさー! 私はどうすればいい?」

「ライさんの毒魔法にヒノノコが釣られた場合は、最大威力で爆散投擲。ベスタ、空中に吹き飛ばすのは可能か?」

「不可能とは言わねぇが、ケイの水流を貸せ」

「よし、了解。ハーレさん、どういう形であれ上空に出すからそこを狙え」

「分かったよー! 準備しとくね。『魔力集中』『アースクリエイト』『操作属性付与』『アースクリエイト』『爆散投擲・土』!」

「ルアーとアルはハーレさんのフォローを頼む」

「おう!」

「ま、これも重要か」


 よし、これで空中部隊の方は良いだろう。おっと、またエンの攻撃か。簡単に避けれるけど、結構鬱陶しい。どうやらエンの根の影にヒノノコは隠れているみたいだし、これは厄介だな。

 そういや翼竜は……あ、灰のサファリ同盟の人達が戦ってるっぽい。それに凄まじい勢いで蹴りまくってるリスが見えるので、あれはレナさんか。あっちは大丈夫そうだし任せておこう。


 そうして様子を伺っているとまたエンの根の攻撃が襲いかかってくる。ちっ、今度はエンの根が2本同時である。スリップでも避けれるけど、この頻度だと行動値の効率が悪い。後で必要にもなるし、水流の操作を使うか。


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 37/53(上限値使用:3): 魔力値 175/178

<行動値を19消費して『水流の操作Lv4』を発動します>  行動値 18/53(上限値使用:3)


 ちょ、エンの2本の根の死角からヒノノコが火を吐いてきた!? 危な!? 水流で押し流したから攻撃は受けてないけど、スリップで避けてたら直撃だったぞ!?

 ヤバい、これは危機察知持ちがPTに1人は必須かもしれない。アル達と班を分けたのは失敗だったか……? この分かれた状態だとハーレさんの危機察知は俺らの方には反応してないみたいだし……。


「思った以上に面倒だな、このヒノノコとエンの組み合わせ……」

「同感かな。もっと人数が欲しいとこだよね」

「ま、今回は様子見って事で我慢するしかなさそうだ!」


 ある程度予想はしていたしベスタにも忠告されたけども、実際に戦ってみて既にこの時点で厳しいのは大体把握出来た。これは思った以上に相手に地の利があり過ぎるな。


 さてとそろそろみんなのチャージも準備出来てきてるようだし、頃合いだろう。厳しそうだからと言っても、可能な範囲で情報は手に入れたいしね。本気でヤバくなるまでは様子を見て、それから常闇の洞窟へと退避だな。


「そろそろ仕掛けるぞ。もしヨッシさんのハチを狙ってくればサヤか水月さんがカウンター狙いで、俺とベスタがその後の追撃で上空に打ち上げる。ライさんの毒魔法を狙えば、ハーレさんが撃ち抜いた後に俺が水流で地面に叩きつける。ルストさん、近接での捕縛はいけるか?」

「……そうですね。私は今の時点ではその方が良いですか」

「悪いね。まだ戦い方が全然分かってないからさ」

「いえいえ、的確な判断でしょう」


 ライさんも正確に分かってないけど、一番未知数なのがルストさんだからね。さっきの攻防で強いという事は何となくわかったけども、具体的に何が出来るのかはっきりしていない状態では重要なところには組み込めない。

 毒魔法はヨッシさんのでよく見てるから分かるけど、近接型の木は全くの未知数なんだよな。うーん、こういう情報の偏りが発生するのはある程度は仕方ないか。


 とにかく準備は整った。さて、ヒノノコへのダメージを与える作戦開始だ! まぁ行動パターンを探るだけにはなりそうだけどね!


「ヨッシさん、ライさん!」

「了解! 『ポイズンクリエイト』『同族統率・毒』! 行け、ハチ2号、3号!」

「おうよっと! 『ポイズンボール』!」


 ヨッシさんの統率のハチはサヤと水月さんの目の前へと飛んでいき、ライさんの毒の球は瘴気に満ちたこの場所を突き抜け上空へと飛んでいく。さて、ヒノノコはどっちを優先的に狙う……?


「私のところですか!」

「支援します! 『根縛』!」


 ヒノノコが狙ってきたのは水月さんの目の前のハチである。即座にルストさんがヒノノコを根で拘束し、水月さんが拘束されたヒノノコを重爪斬で斬りつける。よし、爪に切り裂かれて地面に落ちた。そのままルストさんが根で巻き付き、ヒノノコを抑え込んでいてくれていた。ルストさん、水月さん、ナイス!


「サヤ、ヒノノコを上に向かって切り上げてくれ! ベスタ、水流に乗れ!」

「分かったかな!」

「あぁ、分かっている!」


 ベスタによればサヤの重硬爪撃は斬撃より打撃に近いという。それならばサヤには掬い上げる様にしてヒノノコを少し浮かしてもらった方がいい。その方が次の攻撃へと繋げやすいからな。サヤも即座に意図を汲み取ってくれたみたいだしね。

 ヒノノコが飛び出てきた位置はサヤより水月さんの方が近い。それ以上にライさんの毒魔法が近かったはずだけど、瘴気の外には興味はなしか。よし、ヒノノコが狙う方向性がある程度は見えた。


「ハーレさん、攻撃準備!」

「了解です!」

「ケイ、いくよ!」

「おうよ、サヤ! 行くぞ、ベスタ!」

「おう!」


 チャージ系の攻撃はチャージ完了後に発動まで任意の少しの待機時間があるけど、決して長くはない。サヤがヒノノコを掬い上げる様に、爪を下段から振り抜いていく。そのタイミングに合わせてルストさんも拘束を解いていた。

 その時の攻撃の跡を見てみればサヤと水月さんの使った応用スキルの違いがなんとなく分かった。水月さんの方が爪痕の深さが深く、サヤの方は吹き飛ばし性能があるみたいだね。この辺は微妙なスキル性能の差か。


 少し浮き上がったヒノノコの下に潜り込ませる様に水流を操り、ヒノノコを持ち上げていく。もちろんその状態で水流に乗ったベスタがヒノノコへと迫っていく。よし、ベスタやっちまえ!


「喰らいやがれ!」


 そしてベスタの右側の爪の斬撃特化になっている重爪斬が決まり、その直後に左側の爪の重硬爪撃でヒノノコを強烈な爪の一撃で吹き飛ばしていく。あ、これって使う順番を間違えると片方は空振りになりそうだ。


「来たね! 狙い撃つよー!」


 瘴気の外まで打ち上げられたヒノノコに対して、待ち構えていたハーレさんの爆散投擲が直撃し、再び瘴気の中へと戻ってきて地面へと打ち付けられていた。

 結構な威力の連続攻撃が直撃して、ヒノノコのHPは1割ほど減っている。あれだけやって1割しかと言うべきか、この人数で1割もと言うべきか微妙なとこだよな。


「……やはりか」

「回復早いな……」

「今はまだ倒し切るのは無理かな?」

「みたいだね?」


 盛大なダメージを受けたヒノノコは息を盛大に吸い込むように周囲の瘴気を吸い込んでいき、あっという間にHPが回復していく。うーん、あまりにも回復が早過ぎる。……そして、ヒノノコが息を吐き出すように……って、これはやばそう!?


「みんな、ルストさんのとこに固まれ!」


 即座に指示を出し、意図を察しした地上のみんなはルストさんの周囲に即座に駆け寄っていく。これならぎりぎり間に合うか!? 水流の操作じゃ相殺しきれるかわからない。ここは昇華魔法だ! 水流は破棄!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 17/53(上限値使用:3): 魔力値 172/178

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値2と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 15/53(上限値使用:3): 魔力値 169/178

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


<『昇華魔法:ウォーターフォール』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/178


 俺のウォーターフォールの発動と同時に禍々しさのある黒い火をヒノノコが吐き出してきた。……これ、俺の昇華魔法の威力は相当上がっているのにぎりぎり相殺しきれてるって事は、複合魔法じゃなくて昇華魔法の可能性大だぞ!? やばい、思った以上に現段階のヒノノコは強過ぎる。

 これは完全に周囲の瘴気を減らして、回復量を減らしてもっと大人数で戦うのが前提の難易度っぽい。ただ、常闇の洞窟へ突入する分には1PTが少し足止めするくらいで何とかなる範囲なのが救いか。


「アル、ヒノノコは今は倒しきれない! 足止めするからフラムとアーサーを回収して常闇の洞窟に先に行っててくれ!」

「……倒しきれないのは残念だが、仕方ねぇか」

「他のみんなも、今のうちに行ってくれ!」

「ケイはどうするのかな!?」

「なーに、どうとでもするさ」

「また1人だけみんなを逃がす為に倒されるのはなしだよ? それならみんなで戦おうよ」

「ヨッシさん、それは大丈夫。案がない訳じゃないからな」


 ま、博打ではあるんだけどな。でも『瘴気の凝晶』の効果から推測するとあながち悪い賭けじゃないと思うんだよね。……だけど、俺だけだとうまく行くかは分からないんだよなぁ。


「ケイさん、カッコつけて1人で死ぬのは許さないさー!」

「なら、ハーレさんに手伝ってもらうか。投擲が欲しいんだよ」

「おっと!? そういう事なら任せてね!」

「んじゃ、それ以外のみんなは退避よろしく! ベスタ、殿は頼んだ」

「仕方ねぇな。死ぬんじゃねぇぞ、ケイ。おら、のんびり突っ立ってねぇで進め!」


 以前のヒノノコとの初戦は俺1人だけで残ってみんなを逃して死んだから、みんなは不満げではあるようだ。とはいえ、必要性を感じているベスタ達が説得して退避してくれる事になった。ま、今回は仮に死んでもアルの木で復活出来るけどね。


「到着ー!」

「アル、ベスタ! みんなを任せたぞ!」

「……またかっこつけて死ぬんじゃねぇぞ!」

「はいはい、大丈夫だからさっさと行け。もう昇華魔法が保たないんだよ!」


 アルとルアーとハーレさんも到着して、退避の準備は完了した。そしてもう既にウォーターフォールも勢いが落ちてきて限界のようである。まぁヒノノコも自身が盛大な攻撃中だと、後ろから来たアル達の対処はし切れなかったようでそこはありがたいかな。

 まぁアル達もエンの根の回避にちょっと手間取ってたみたいだけどね。流石にクジラほど大きいと回避も難しいか。結構アルのHPが減っているみたいだし。


 そしてハーレさんと俺以外は退避が完了して、常闇の洞窟に入っていった。サファリ同盟の人達は、どうやらヒノノコが黒い火を吐き出した時点で退避したようである。流石は灰の群集メンバー。危険な状態からは逃げ慣れているようだ。

 これなら他の人達の心配はいらないし、後は俺らの逃げる隙を作るだけだな。


「それでケイさん、何やるの!?」

「ま、ちょっとした博打だな。失敗したら一緒に死ぬかもしれんけど、勘弁な?」

「えー!? 確実な方法じゃないの!?」


 確実かどうかを試す為でもあるからな。ま、なるようになれだ。さて、生死をかけた博打と行こうじゃないか。死んだ場合は、みんなからのお説教が罰だね。それは嫌だから狙ってる事が上手く行きますように!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る