第309話 進化したヒノノコ
進化したヒノノコと戦う事は決まったけども、事前情報はほぼ無しに等しい。とはいえ倒せるかどうかは別としても、常闇の洞窟に入る際に優先的に狙ってくるのであれば戦わないという選択肢はない。
「今回のヒノノコ戦の指揮はケイに任せるぞ」
「え、ベスタ? 良いのか?」
「ヒノノコ相手ならな。別に嫌なら俺がしてもいいが……」
「いや、それなら遠慮なくやらせてもらう」
みんなを見回してみれば頷いているし、特に異論はないようだ。それじゃベスタの配慮をありがたく受け取りますか。さて、とりあえずどうしようかな。
「それじゃヒノノコは俺達の連結PTで引きつけるから、その間に他の人達は常闇の洞窟へ入ってくれ。フラム、アーサーの2人でその辺の誘導を頼む」
「分かったよ、コケのアニキ!」
「え、ちょい待て、ケイ!? 入る方を優先して狙ってくるんじゃないのか!?」
「すんなり通すとでも思ってんの?」
「あ、いや、そういう訳じゃねぇよ……。よし、分かった!」
まったく、素直なアーサーと違って面倒なフラムめ。そんなに心配ならフラムを囮に使って、引きつけてやろうか……。まぁフラムの事はどっちでもいいや。
「アルは瘴気の薄い上空で待機。ハーレさんは巣からいつでも投擲出来るように準備。攻撃と回復支援のどっちでもいけるようにな」
「おうよ」
「了解です!」
「ルアーはアルへの攻撃を防いでもらえるか? クジラより木をメインで守る感じで」
「敵が火属性なら木の防衛は必須だな。そういうことなら任せておけ」
多少戦力の分散にはなるけど、空中勢はこれで問題ないだろう。アル自身も水魔法は使えるからある程度の攻撃は大丈夫だろうけど、それでも万が一には備えておきたい。
さて、次は攻撃組だけどこっちは空中勢以上に臨機応変に対応してもらうしかないな。ヒノノコの攻撃パターンにもよるけど、ここは防御寄りにしておこうか。
「地上で瘴気に突入するのは俺、ベスタ、サヤ、ヨッシさん、水月さん、ルストさん、ライさんでいく。ルストさん、ライさん、メインの攻撃方法を方向性だけでいいから教えてくれ」
「それは確かに必要な情報ですね。私は近接攻撃と回復です」
「俺は隠密系からの奇襲。主力は水魔法と毒魔法、ちょびっと物理の毒もありだな。あ、危機察知もあるぜ」
「よし、把握した」
とりあえずこれで簡単だけど必要な情報は得た。ヒノノコの攻撃パターンが前とは全く違う可能性が高いけど、とりあえず前との違いを見るのが先か。アルを空中に残すのも瘴気の外に出るかどうかの確認の為だしな。
さて前のヒノノコの行動パターンを参考にすると、ここはヨッシさんの出番だな。それにライさんが危機察知持ちっていうのは良い情報である。
「よし、ルストさんを中心にして固まる。広めの場所に陣取って、俺とベスタ、サヤ、水月さんで四方に散ってカウンター狙い。ルストさんはそこから追撃と捕縛にいけるか?」
「まぁその程度なら問題ないでしょう。ふふふ、黒い火とやらが楽しみですね!」
「……うん、任せた。ヨッシさん、前と同じ感じになるけど問題ない?」
「毒を持たせた統率のハチで誘き寄せだね。まぁ私自身が捨て身でなければ問題ないよ」
「ん? ヒノノコって毒になんかあんの?」
「あー、進化した奴がどうかは断定出来ないけど前は毒持ちと飛行持ちを執拗に狙う攻撃パターンでな」
「なるほどねー。って事は俺もそっちか?」
「ライさんは状況次第だな。場合によっては2人がかりで撹乱してもらうつもり」
「オーケー、了解した」
とりあえずの戦法としてはこれで良いだろう。……まぁ駄目だったら駄目だった時だ。その為の先遣隊でもある。翼竜とかエンの根とかも懸念材料はあるけど、やってみなけれなこればっかりはどうにもならないからね。さぁ、ヒノノコ戦を始めようか!
「それじゃ、全員突撃!」
「「「「「「「おー!」」」」」」」
「「「おう!」」」
そしてそれぞれが行動を開始していく。俺はまずアルを浮かせるところからだな。
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 55/55 → 53/53(上限値使用:3)
アルも小型化を解除し、背中に木を生やした形態へと変化させていった。そしてその周囲を泳ぐルアーと、巣でハーレさんは待機に入っていく。よし、こっちはこれでいい。
「アル、移動が必要な時は簡潔に方向と距離をPT会話で宜しく!」
「おう、その辺は頼んだぜ!」
おそらく直接視認しながらの操作は無理だからね。そこら辺は今まで使ってきた慣れで調整していこう。
そして常闇の洞窟へと突入していく先遣隊の他の人達と共に陥没エリアの中へと突っ込んでいく。……夜の日の夜目を使った時に比べると少し薄暗い程度までの視界は確保出来るのか。これならなんとか戦える範囲だな。
それにしても、生い茂っていた木々が枯れ果てて無残な姿になっている。……塵になって何も存在しないようになっていないだけでもマシなのかもしれないけど、これは普段の光景を知ってると悲しいものがあるね……。
「フラム、アーサー! 方向は分かるか!?」
「何度か見に来てるから大丈夫だよ、コケのアニキ!」
「げっ、翼竜がうじゃうじゃいるじゃねぇか!?」
「フラム兄、敵がいるなら倒すまで! 『自己強化』!」
「あーもう、それしかねぇか! 『自己強化』!」
フラムもアーサーも自己強化で移動速度を上げて、常闇の洞窟の入り口へと駆け出していく。そして他の先遣隊メンバーもそれを追いかけていた。まぁ灰の群集の人も結構いるので、迷う心配はないだろう。
「さて、ここから本番だ! 邪魔するのを徹底的に邪魔するぞ!」
「ふっ、先陣は行かせてもらう! 『自己強化』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」
「サヤさん、行きましょうか! 『自己強化』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」
「分かったかな、水月さん! 『自己強化』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」
そしてクマ2人と、オオカミ1人は速度を上げて突っ込んでいく。まぁそこまで即座に動く必要も……いや、あまり甘く見ない方がいいか。この時点でのボスがまともに倒せるかどうかは正直未知数だしね。
「皆さんやる気ですね。これは面白い光景が見れそうですし、私も手抜きは無しで行きましょうか。『纏属進化・纏水』! 『根脚強化』!」
「うぉ!? ルストさん、纏水ありか!?」
「各種進化の軌跡は常に複数個は持ち歩いていますからね。火属性の可能性が高いのでしたらこれは重要でしょう」
「……そりゃそうだ」
「それでは行きましょうか、ヨッシさん、ライさん。ケイさんもお乗りになりますか?」
「……そうさせて貰うか」
ヨッシさんとライさんは、ルストさんにしがみついて移動準備を行っていた。ま、行動値の節約をするならこれが良いだろうね。
纏水で湿気を帯びたルストさんの枝にハサミで捕まってぶら下がれば、凄い速度でルストさんが駆け出して行った。……木って遅いのが当たり前かと思ってたけど、育て方次第で普通に早く移動出来るんだね。
「ルストさん、ストップ。この辺でいい」
「分かりました」
「ベスタ、サヤ、水月さん、どうだ?」
「……これは厄介そうかな? 『強爪撃』!」
「えぇ、確かにこれは……。『受け流し』!」
「ちっ、エンの根の攻撃が厄介だな。『爪連撃』!」
少し先行していたベスタ達は、襲いかかってくる沢山の太いエンの根を正面から吹き飛ばしたり受け流して回避していた。まぁ全然ダメージはなさそうだけど、かなり攻撃頻度が高いな。
「配置完了しましたよ。ケイさん、これは根下ろししたほうが宜しいですか?」
「あー、ルストさん的にはどっちがやりやすい?」
「根下ろしなしでの近接ですかね」
「んじゃそっちで」
「了解しました」
ルストさんが得意な方がいいだろう。ルストさんを中心に据えるのは重要でも、根下ろしが必須ではないからね。
「おい、危機察知に反応ありだ! 誰か狙われてるぞ!」
「ちっ、早速か!?」
ライさんの危機察知に反応がありか。先遣隊の他のメンバー達がもう少し常闇の洞窟の入り口へと辿り着きそうだったのに、誰かが狙われているらしい。
PTメンバーの危機に反応する危機察知がこのタイミングで発動って事は狙われてるのはフラムかアーサーか。連結PTのメンバーの方には反映されないらしいからな。
翼竜も混ざってはいるけど、現状ではフラムとアーサーは翼竜とは戦ってはいないし、ざっと見た感じでも2人を狙う様子の翼竜は見当たらない。……よし、そうなるとこれが有効か。
<行動値を3消費して『獲物察知Lv3』を発動します> 行動値 50/53(上限値使用:3)
黒い矢印がいくつも表示され、その先にはエンの根や翼竜へと繋がっている。……だけど、フラムとアーサーを狙うような位置の矢印は見当たらない。隠密持ちには効果がないのがこの獲物察知だ。だからこそこれが姿の見えない敵の攻撃の予兆だと判断できる。となれば、その場に留まる方が危険か。
「フラム、アーサー、全速力で無作為に動きまくれ!」
「よく分からないけど、分かったよ、コケのアニキ! フラム兄、乗って!」
「おう! ケイ、任せるぞー!」
「『猪突猛進』!」
そしてアーサーがフラムを背中に乗せて走り出した直後に、寸前までいた場所を赤黒い何かが凄い速度で通り過ぎて行った。……間一髪か。あ、すぐにまた襲いかかってきたようだけど、止まれないというデメリットがある代わりに速度のある猪突猛進でアーサーは攻撃を上手く躱している。
「おい、今のうちだ! 急いで洞窟に入っていけ!」
「おうよ!」
「今のやべー!?」
「ここは任せて俺らは俺らでやる事をやるぞ!」
「うっわ、中のほうが瘴気が酷いな……」
「おい、誰か新しい纏属進化を試して見ろよ?」
「……そうだな。少し進んだら試してみるか」
「とりあえず邪魔にならないように先に進むよー!」
その少しの隙を利用して、一気にみんなが常闇の洞窟へと突入していっていた。流石は先遣隊に立候補した人達である。行動が素早く、判断も早い。
さて、ここから先の洞窟の調査は彼らに任せるとして、俺らの我儘も含めてヒノノコとの戦闘と行こうじゃないか。相変わらず奇襲が好きなヒノノコめ。
「ヨッシさん、とりあえず1体! 様子見で!」
「了解! 『並列制御』『アイスクリエイト』『ポイズンクリエイト』『同族統率・毒氷』! 行け、ハチ1号!」
ヨッシさんが毒と氷の2属性を持ったハチを1体生成し、洞窟の入り口とは反対側へと飛ばしていく。そして、赤黒い影はそれを見逃す事はなく勢いよく食らいついていった。よし、この行動パターンは同じか!
「追撃行くよ! 『並列制御』『アイスニードル』『アイスプリズン』!」
「よし! 今の時点なら凍結が効くか!」
氷の檻に閉じ込められ、氷の棘に串刺しにされているヒノノコ。見た目は以前よりも大きく、丸太のような赤黒い棍棒に頭と尻尾が生えていて、そこに禍々しい瘴気の紋様が入っているような感じである。
流石に火属性持ちだからあっという間に氷は溶けているけども、爬虫類だと思われる種族的な特性から氷属性に対して絶対的な耐性がある訳ではないらしい。まぁヨッシさんの異常付与の特性の効果もありそうだけどね。
<ワールドクエスト《この地で共に》のボス戦に参加しました> 参加回数:7
おっと、こいつでもボス戦回数はカウントされるんだな!? ヒノノコ相手だと参戦のカウントは視認する事が条件か……? とりあえずヒノノコの動きが鈍っているうちに識別しておくか。見失ってからだと大変だしね。
<行動値を3消費して『識別Lv3』を発動します> 行動値 47/53(上限値使用:3)
『瘴オオヒノノコ』Lv10
種族:黒の瘴気強化種
進化階位:未成体・黒の瘴気強化種
属性:火、瘴気
特性:隠密、俊敏、瘴気吸収
名前は瘴気の瘴以外はカタカナ表記になっているけど、これは『大ヒノノコ』とかそういう感じだろうか? まぁ原型のツチノコ要素はノコだけは残っているんだな。見た目的には大きくなっているけども形状自体は大きくは変わらない。
さてと動きを鈍らせている間に他の先遣隊メンバーは洞窟内へと入り終えた。ここからは勝つか負けるかの分からないボス戦の開始である。多分正攻法は溢れ出ている元の金属塊を修復させて、周囲の瘴気を減らして戦いやすくしてからの勝負なんだろうけどね。
「みんな、気を抜くなよ! 今のこいつは相当な強敵だ!」
そうしているうちに瘴オオヒノノコの凍結効果は切れ、火を吹いて溶けかけていた氷の檻を完全に破壊していった。まぁ、決して氷魔法は火属性に対して効果的って訳じゃないもんな。これは仕方ないだろう。って、今度はエンの根が攻撃してきた!?
<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します> 行動値 44/53(上限値使用:3)
<行動値を3消費して『スリップLv3』を発動します> 行動値 41/53(上限値使用:3)
とりあえずエンの根はハサミの表面まで増殖させたコケで滑らせる事で回避する。あっ!? 少し気を取られた隙に瘴オオヒノノコの姿が消えている。……くっそ、相変わらず素早いな。
それにしてもエンの根の攻撃が予想以上に厄介だ。簡単に負ける気もないけど、この1戦かなり厳しいかもね。まぁ毒に対して攻撃してくるのが変わらないのはありがたいとこだ。そこを起点に攻略していこうじゃないか。
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