第308話 先遣隊、出発
みんなはやる気一杯でPTを組んでいったり、PTを連結して人数の調整をしていっている。流石に先遣隊の希望者が揃うには少し時間が必要かもしれない。
「これはちょっと時間がかかりそうかな?」
「まだアイテムを交換して来たばっかの奴やこっちのエリアに来たばかりのやつもいるようだしな。お前らも今のうちにやる事があればやっておけよ」
「それもそうだな。クエストの詳細が更新されていないかどうかの確認もしておくか」
「そだね! 詳細の確認だー!」
「ま、それも重要だよな」
確かにアルの言う通り、クエストに進展があったから内容に更新があるかもしれないもんな。今のうちにクエストの進捗状況の変化を確認しておくのも必要だろう。とりあえずクエスト欄を開いてっと。お、やっぱり更新されてる。
【共闘イベント『瘴気との邂逅』】
ワールドクエスト《この地で共に》の進行状況
【赤の群集】
常闇の洞窟、金属塊の修復支援 0/13
ボス撃破 0/5
【青の群集】
常闇の洞窟、金属塊の修復支援 0/13
ボス撃破 0/5
【灰の群集】
常闇の洞窟、金属塊の修復支援 0/13
ボス撃破 0/5
ボス戦への参加回数:6(使用済み:2)
金属塊の修復支援というのはあの調査の為の転移地点の事なのだろう。各群集に13ヶ所ずつあるって、意外と多いな。あそこには群集拠点種が機能しなくなっているから転移は出来ないけど、常闇の洞窟のマップは埋まってるから、自分のいる場所の近くの所に行けば良いだろう。
位置の確認の為に常闇の洞窟のマップを見てみれば、初期エリアによっては近くにないとかバラつきがある。これは他の群集の常闇の洞窟と合わせれば全体的なバランスが良くなってるのかな?
そしてボス戦がまたあるね。……これは群集拠点種の撃破? うーん、何か違うような気もする。エン達の事なら、群集拠点種の解放とか救出とかそういう記載になりそうだよな?
使用済みの表記はアイテムの交換分って事か。こういう表記があるって事は、ボス戦への参加回数はアイテムとの交換の上限数ってところだろう。クエスト報酬はいくつかの候補からの選択制かな?
それにしてもボス戦か。場所を考えるなら、あの付近にはあれがいるんだよな。エンとは違うような気がするのは、それが頭に引っかかっているのかもしれない。
「なぁ、このボス戦の相手ってさ……」
「……多分、俺もケイと同じ事を考えてるぞ」
「アルさんもケイさんもそう思うよねー!?」
「あそこなら、あれしかいないかな」
「多分そうだろうね」
何がいると明言しなくてもみんな大体の予想がついているようだ。まぁリベンジは果たしたとはいえ、因縁のあったボスだもんな。おそらくあいつがパワーアップして再び俺たちの前に立ち塞がるのだろう。まぁ、まだ確定とは言えないけどね。
そしてその待っている間に、赤の群集のメンバーもササッと『瘴気の凝晶』と『浄化の輝晶』の交換に行っていた。根を極限まで伸ばして他の人達の隙間を掻い潜って歩くルストさんとそれに乗っている水月さんとアーサーの光景は珍光景だと思う。思いっきりハーレさんがスクショ撮ってたし。
しばらく経って、ルストさん達も戻ってきて先遣隊希望のPTもそこそこ集まってきている。俺らの他に灰の群集行き希望が4PT、赤の群集行き希望が5PTだった。俺らを含めると少し灰の群集行き希望が多いけど、極端な偏りというほどでもないので問題ない範囲かな。
他の人達は先遣隊からの情報を得てから、増援として常闇の洞窟入りとなりそうだ。ま、あそこは大人数で雪崩込む場所でもないしね。
「ルアー、赤の群集の森林の方は大丈夫か?」
「それならガストの奴がまとめてるから問題ねぇよ。たまには他で暴れてこいって追い出されたくらいだしな」
「なら心配はいらねぇな。よし、希望者はここまでだ。出発するぞ」
「「「「「おー!」」」」」
そしてそれぞれの先遣隊が出発となっていく。俺たちは全員アルに乗っての移動にしたかったけど、ルストさんが乗ってぎりぎり、そこからアーサーが乗った段階で重さに耐えきれず墜落となった。
そういう事情になったので、アルはクジラを小型化しての共生式浮遊滑水移動である。1PTだけなら実用段階にはなってきているけど、それ以上はまだまだ無理なようだった。
そして徒歩で移動し、灰の群集の森林深部へと突入していった。このメンバーでは不動桜などは敵にもならず瞬殺であった。まぁ当たり前といえば当たり前だけどね。流石に今の段階であれに苦戦しても困るし。
「いやはや、このような機会が早めに訪れてありがたいものです」
「あーそうかい。こっちとしてもちゃんとした共闘になりそうで少しホッとしてるぜ」
「ルアーさんも大変ですね。まとめ役などと面倒な事をなさるのですから」
「……なんでこうなってんだろうな、俺……」
何だか浮かれている様なルストさんと疲れたようなルアーが対照的である。ルアーもほんと大変そうだよね。
ルストさんが言う事ではない気もするけど、実際のところまとめ役をしなきゃいけないっていう義務もないんだから損な役回りにはなってるんだよね。ここは大変さを忘れてスカッと楽しんでいけるようにしてあげたいとこだね。その場所が真っ暗な常闇の洞窟というのもあれだけど。
「あ、そうだ。こっちのPTは俺が発光を持ってるから灯りは問題ないけど、そっちのPTは誰か灯りになるものは持ってる?」
「おう、俺が発光を持ってるぜ!」
「え!? カメレオンが光るの!?」
「ほほう? それは興味深いですね」
「おう、体表がピカーって光るぜ!」
「コケのアニキ! 俺も持ってるよー!」
「ライさんとアーサーが発光持ちか。それなら光源は問題ないな」
「問題は光源よりは瘴気だろう」
アーサーは俺と同じでコケが光る感じかな。体表が光るとライさんが言っているけどもカメレオンがどう光るのか実際に見てみたい。とりあえず光源はあるようなので常闇の洞窟の中に入るの自体は大丈夫だな。……瘴気に溢れた中を発光だけでまともに照らせればの話ではあるけどね。
そんな雑談をしているうちに再び黒の暴走種となってしまったエンの姿が見えてくる。移動の途中でも木々の間から立ち昇る禍々しい瘴気が見えていたけど、陥没エリアの上から覗いてみれば、瘴気の濃度がヤバいね。真っ黒な濃霧と言った感じだろうか。
「おっ、ベスタさんとみんな! ご苦労さまです!」
「ラックか。どうだ、様子は?」
「うーん、結構厳しい感じかなー。翼竜については分裂したのはどうにかなるけど数が多いし、エンの根は高威力過ぎるから回避がかなり重要だね。それとかなり厄介なのがいるよ」
何かを叩きつける様な音が時折響き渡っていたと思ったら、どうやらエンが根を叩きつける攻撃であったようである。今も禍々しく光を遮っている瘴気の中から、蠢くように動く木の根が薄っすらと見えている。厄介なのというのはおそらくボスがいるのだろう。
厄介なボスも気にはなるけども、まずこの視界の悪さが問題だな。瘴気の濃度が濃すぎて、何が起こっているのかさっぱりだ。瘴気がただの暗闇と思えないし、何か手段はあるんだとは思うけど……。そうじゃなければ戦おうにも戦えない。
「ラックさん、先に確認しときたいんだけど瘴気の中で視界って大丈夫?」
「あ、それなら確認済み。みんななら問題ないと思うよ。『瘴気耐性Ⅰ』は持ってるよね?」
「あー、あれか」
そういや前編が終わった時に取得してたっけ。内容を確認するのを地味に忘れてた気もする……。あれが今回重要になってくるって事なのか。
「瘴気への耐性を得ると簡単な説明だったが、具体的にはどういう内容だ?」
「それは単純で、瘴気の中での視界向上効果みたい。夜目や暗視に効果上乗せになるのも確認済みだー!」
「よし、確認済みなのはありがたい。全員聞いたな? 瘴気のある所では最低でも夜目を使え」
そのベスタの号令に合わせてみんなが夜目を発動していく。流石に夜目は誰でも持っているようであった。まぁ、簡単に手に入るし必須級のスキルだから当たり前か。
ラックさんが既に先行して確認をして、効果的な使い方を確定してくれていたのは本当にありがたいね。そして暗視にも効果ありか。……重ねがけならより効果が増すのかな?
<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します> 行動値 56/56 → 55/55(上限値使用:1)
お、夜目を使えば瘴気の中が薄っすらと見えてきたね。ふむふむ、多少は視界は良くなるみたいだし、これならなんとか戦えるか。一応、暗視の重ねがけも試してみよう。
<行動値上限を3使用して『暗視』を発動します> 行動値 55/55 → 52/52(上限値使用:4)
「ケイさん、それは待ったー!? あ、遅かった……」
「うっわ!? 眩し!?」
これ、駄目なやつだ! なにか陥没エリアの瘴気の中に蠢く赤いものが見えたけど、今はそれを考えてる場合じゃない。即座に暗視の解除だ! これは眩し過ぎる!
<『暗視』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 52/52 → 52/55(上限値使用:1)
「この辺は瘴気で少し覆われてて曇りみたいになってるから昼間の日でも夜目は大丈夫なんだけど、ケイさん、その組み合わせは昼間の日には普通にアウトだよ?」
「……そういや夜目でも眩しいのを忘れてた……」
「ケイ、大丈夫かな?」
「地味に盲目の状態異常になってる……」
「……ケイ、何やってんだよ」
これ、閃光を使った時のレベルで眩しかった。夜目が自動解除じゃなくて昼間の日のログイン直後に眩しかったのが上限値使用のスキルの仕様変更の理由になってたのに、なんで忘れてんだよ、俺ー!? 呆れたふうなアルの言葉に返す言葉もありません! でも、気になるものは確認出来たぞ。
「ラックさん、瘴気の中に何か赤いやつがいる……?」
「わぉ! え、今の一瞬で見えたの!?」
「やっぱりいるんだな?」
「いるよー。素早くて火を吐くやつがねー」
素早くて火を吐き、この場所にいるとなればあいつしかいない。俺たちにとっては少し因縁があるあいつが……。
「……ヒノノコか」
「ベスタさん、当たりー! でも進化したヒノノコとはこの中の状態では戦うのはお勧め出来なさそうかな?」
「ラック、どういう事ー!?」
「えっとね、瘴気のせいで隠密の効果が上がりまくってる上に、普通の火も吐くんだけど瘴気が混ざった黒い火も吐いてきてエンとも連携するから察知が難しくて回避困難なんだよね」
「黒い火ー!? スクショ撮りたいね!?」
「うん、それは私も同意。でも瘴気が邪魔過ぎるよ」
「……なるほどね」
多分だけど黒い火というのは瘴気の魔法と火魔法の複合魔法か? 元々隠密の特性持ちのヒノノコが進化して、瘴気属性まで得ているという事なのだろう。……確かに圧倒的に地の利は向こうに有りか。
1戦やってみないと分からないけど、これは常闇の洞窟からの瘴気の流出を止めてから倒せという事か? みんなを見てみると、既に臨戦態勢に移行している気もする。思うところは一緒かな。
「そもそもエンもヒノノコも両方まだ識別も出来てないんだよね」
「ヒノノコは分かるけどエンもか?」
「うん、もっと近寄らないと駄目みたい」
なるほど、簡単に捉えさせてすらくれない訳か。ここからエン自体は見えているけどもっと近付く必要があるし、ヒノノコはまずちゃんと視認しなければ話にならないと……。
そうなるとエンかヒノノコの識別くらいはしておきたいところである。そして可能であればヒノノコをぶっ倒したい。
「なぁ、ベスタ」
「……ボスは後回しでも良い気はするんだが、それじゃ納得しなさそうだな。……良いだろう、無理だと思えば引き上げるという条件付きで良いか?」
「もちろんだ!」
「おっし、今度は初戦負けにはしねぇぞ」
「初めから全力かな!」
「ヒノノコはぶっ倒すよー!」
「ま、こうなる気はしてたしね」
みんな気合十分である。さーて、進化したヒノノコはどんなもんだろうか。俺らだって自慢じゃないが相当強くなっているはずだ。早々簡単に遅れを取るつもりはない。
「他の連中は……いや待て。ラック、ヒノノコの討伐をしなければ常闇の洞窟には入れないのか?」
「あ、それは大丈夫っぽいよ。未討伐でも入れるから、そのままどんどん行っちゃってー! まぁ優先的に狙ってくるけどね!」
「……どっちにしろ足止めが必要じゃねぇか。他の連中は俺らが戦っている間に常闇の洞窟へ突入しろ!」
そのベスタの指示を受けて、先遣隊の他のPTは頷いていく。俺らの戦いたいという我儘ではあるけども、足止めという役割も持っているんだな。……って、ちょっと待った。俺らって?
「ケイ、呆けてんじゃねぇよ。そもそもこのボス戦が1PTで倒せる想定だと思うのか。それ以上に、こんな面白そうな事を自分達だけやる気か?」
「そうですね。黒い火というのも興味深いですし、私も共闘に来た以上は付き合いましょうか」
「そりゃそうだ。ここまでやってきて、ただ見てるだけってのもな?」
ベスタもルストさんもルアーも既に臨戦態勢に入っていた。どうやらここで大人しく見ているなんて真似をする気は欠片も無いようである。……まぁ言われてみれば確かにそうだよな。折角のボス戦だし、独占させろという方が無茶な話か。
それにルストさんの実力や、ルアーの今の強さを見る良い機会かもしれないね。ベスタはベスタでまだまだ何かを隠し持ってそうだしさ。
「お、俺だって、コケのアニキと一緒に戦うんだ!」
「アーサーもこう言ってますし、私も参戦させていただきますね」
「……俺は別に良いかな?」
「……フラム、そこは頑張りましょう?」
「うっ……。あーもう俺が一番死ぬ可能性高いけど、覚悟してやるよ!」
そしてフラムは腑抜けだけど、アーサーと水月さんも参戦の意思を示してきた。こりゃもうルアー達も含めて一緒に戦うしかないかな。
「よし、それじゃこの2PTで進化したヒノノコをぶっ倒すぞ!」
「「「「おー!」」」」
「気合いがあるのは良いが、現時点で勝てない可能性もあるからな。その時の引き際を誤るなよ」
ベスタの忠告はもっともだけど、初めから勝たない気で挑むつもりはない。翼竜が周囲を飛び回り、エンと連携し、隠密の特性は十全に発揮、瘴気との複合魔法を使い、そしてまだまともに視認さえ出来ていない。そんな進化したヒノノコ相手にどこまで通用するかやってやろうじゃないか!
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