第306話 次にすべき事


 イベント進行のメッセージが出てから再びグレイ達、3人の群集の長が姿を表してくる。さて、これからどういう方向性のイベントになるかがこれで分かってくるだろう。


[渡せる限りのものは渡した。これで何とかなるのだろうか……?]

『……あぁ、これまで情報の蓄積と分析もあったおかげだ。多少の無理はあるが、一時的な瘴気への対応は出来るだろう』

『で、これからどうすんだよ?』

『それですが一つ、お尋ねしてもいいですか?』

[……今の我に答えられる事であればなんでも答えよう]

『では、先程の言葉の意味を教えていただきたい。群集拠点種への浄化の譲渡が駄目な理由はなんだったのですか?』


 あ、確かにそれは気になるね。その直後にエンに異変が発生していたし、何かあるんだろうけどなんだろうか? それにしても群集拠点種に盛大な異常が起きているのにグレイ達は比較的冷静だな。……まぁ取り乱せば解決する訳でもないし、長として異常事態への対応としては正しいのか。


[その件か。……あの者達は我の一部に近過ぎたのだ。そなたらが【常闇の洞窟】と呼ぶあの地は、かつて大地の脈動で満ちていた場所であり、我が封じている瘴気への出入り口でもあるのだ。今は使い過ぎた大地の脈動の回復を待っていて、封じている瘴気への接点のみとなる……]

『……おい、それってもしかしてよ? いや、灰も青も存在は知ってるのか?』

『……えぇ、心当たりはありますので、おそらくは同じものかと……』

『あの正体の分からない金属塊がその封印の出入り口か』

[あぁ、そうなる。……そして壊れたのもそこに繋がるもの全てだ]


 あ、あれか! あの調査用にって事で設置されてた転移地点にあった謎の金属の塊って、瘴気の封印そのものだったのか!? そういやあそこから前兆として瘴気が出てきてたりしてたっけ。


『ちっ、片鱗は既に見つけてたって事かよ!?』

『……自己修復は可能だと言ったな。どの程度かかる?』

[分からぬ。……命を持たぬ我には瘴気の影響はない筈なのだが、何故か侵食されているのだ……。せめて周囲の瘴気が失くなれば……]

『……これは、危険を承知で乗り込むしかないですか』

[ぐぁ!? これはこの地で調べていたものか……? や、止めーー]


 そしてそのまま音声が途切れてしまった。……どうやら何かあったらしい。あそこで調べていたといえば、群集拠点種の分身体……? あ、何となくこれからすべき事が見えてきた。


『おい、どうした!?』

『……また途切れました。どうします、セキ、グレイ?』

『問題の場所は判明した。こうなった以上、直接乗り込むしかあるまい』

『そうですね。……協力関係はどうします?』

『群集拠点種が瘴気に呑まれたとするなら、同じ群集では対応できない可能性もある……。継続しかあるまい』

『はっ、しゃーねぇな。この一件が全て片付くまでは共闘続行だ』


 どうやら共闘は続行みたいだね。それに目的地も、倒す対象も何となく分かった。これは群集拠点種の分身体を倒せって事なのだろう。


『同胞諸君、聞いていたな? これより、瘴気の浄化とあのモノの救出、及び群集拠点種の救出の作戦を開始する。まずは封印の修復の為に、あのモノの救出を最優先とする。群集拠点種の分身体が敵となっている可能性がある為、他の群集の者と協力して事に当たってほしい』


 やっぱりそう来たか。それで救出して自己修復を待ち、その後に群集拠点種を正常化していくのが後編みたいだな。それにしても何であるのか分からない転移地点だったけど、こういう意味があるとはね。


『今の【常闇の洞窟】がどのようになっているかは未知数だ。先程分配したものを上手く活用して切り抜けて貰いたい。私達は群集拠点種の正常化の手段を探っていくが、同胞たちの力を信じている。任せたぞ』



<規定条件を達成しましたので、ワールドクエスト《この地で共に》が次の段階に移行します>

<各群集毎の常闇の洞窟にボスが出現しました>

<常闇の洞窟から瘴気強化種が溢れ出しました>

<競争クエストエリアの群集支援種で『瘴気耐性Ⅰの実』の入手が可能になりました>


 ちょ!? ボスの出現は良いけど、常闇の洞窟から瘴気強化種が溢れ出したー!? っていうか、地味に常闇の洞窟に入るのが大変なんじゃないか、これ!?

 瘴気耐性Ⅰは、前編が終わった時に手に入ったやつと一緒かな? ボス戦に参加してなかった人用のものになるのだろうか。


「これはこれは! 随分と楽しい事になってきたではありませんか!」

「ルストさん、なんか楽しそうだな?」

「それはそうですとも! 他の群集の常闇の洞窟というのは、現時点では一番入るのが難しいのですよ!? そこに正当な理由があって入れるというのですからね!」

「……なるほど」


 そういやそうなるのか。森林深部だと大体ヒノノコの周回PTもいるから、他の群集の人が入ろうとしてもそう簡単に入れる場所じゃないもんな。常闇の洞窟が今のところ完全に群集で専有が出来る唯一のエリアだし、こういう機会でもないと入れる機会も無いか。


「でも、真っ暗な上に瘴気で溢れているのなら面白みはないんじゃないかな?」

「何を言いますか!? それは行ってみないと分からないんですよ!?」

「そうだよねー! 意外な発見もあったりするもん!」

「おぉ、分かりますか、ハーレさん!」

「うん! 分かるよー! もし何も無くても、それもそれで醍醐味なんだよね!」

「えぇ、そうですとも! 未知の場所へと行く過程も重要なのですよ!」


 何気ないサヤの疑問に猛烈な勢いでルストさんが興奮している。……うん、どうやら普通にしている時は普通っぽいけど、こういう機会になるとテンションが上がり過ぎる人のようである。そしてハーレさんと完全に意気投合してるよ。

 もしかして、赤のサファリ同盟って変人集団か……? いや、自分の興味のある事を全力で楽しんでいるだけみたいだし悪い訳じゃないけどね。別に迷惑行為をしてる訳でもないんだしさ。


「ルストさん、落ち着いて下さい。ルアー、どうします?」

「……そうだな。とりあえず、ここで赤の群集の常闇の洞窟行きか、灰の群集の常闇の洞窟行きかを選んでもらった方が良いだろうな」

「私は勿論、灰の群集の方へと行かせてもらいますよ!」

「だから落ち着いて下さいと言っているでしょう!」

「はっ!? これは失礼しました、水月さん。つい興奮してしまいまして……」


 ルストさんは水月さんから爪での一撃を受け、冷静を取り戻していた。……うん、水月さんってやっぱりリーダーとか向いてる気がするよね?


「ちっ、出遅れたか」

「お、ベスタ!」

「ケイ達と……ルアーも居るのか。丁度いい。『ウィンドクリエイト』『風の操作』!」

「……しれっと跳び上がって来るんだな、ベスタも」


 少し遅れながらもやってきたベスタがアルの上に跳び乗ってきた。相変わらず身軽なもんだね。


「おぉ、あなたがベスタさんですね。お会いできて光栄です。ぜひお会いしたかったのですよ」

「……おい、ルアー。この蜜柑の木は誰だ?」

「あー、それはだな……」

「失礼いたしました。私は赤のサファリ同盟の蜜柑のルストと申します」

「……ほう、赤のサファリ同盟? なるほど、赤の群集の例の連中か」


 あ、ベスタの雰囲気が少し変わった。何やら見定めるように、緊迫感を漂わせている。まぁいきなりこうなると、そういう反応になるよな。


「イベントに参加し出したとは聞いたが間違ってはいないようだな。……強いな、ルストとやら」

「いえいえ、強さは色んな場所に行くのに必要なだけあれば良いのですよ。ただ少しだけ、群集の方に情報提供の手間を割くようにしただけです」

「……そういうタイプの集団か。ルアー、下手な手は打つなよ?」

「……分かってる」


 あ、流石ベスタだな。赤のサファリ同盟と赤の群集との間の大体の事情は察したらしい。


「このタイミングでケイ達といて、俺にも会いたがっていたってことは、あの実況か」

「……どうやら予想以上に鋭い方のようですね」

「一つ聞かせろ。どういう心変わりだ?」

「いえいえ、心変わりというほどではありませんよ。私達は私達のやりたい事をやっていただけですので。ただ、敢えて言うのであれば、あの方の心意気への返礼ですね」

「……そうか。ならいい」


 あの方っていうのは、まず間違いなくウィルさんの事なのだろう。ウィルさんはやり方こそ間違えたものの、赤の群集に確実に遺していったものがあるという事か。その内どこかで会える機会があればいいね。


「で、話し合いをしていたんだろう? どうなっている?」

「あー、とりあえず赤の群集の森林と灰の群集の森林深部でどっちに行くか希望を募ろうかと」

「ま、そんなとこか。アルマース、湖の上に移動できるか?」

「それくらいなら問題ないぞ。ケイ、良いか?」

「ちょっと動かすだけだし大丈夫だぞ」

「なら移動させてくれ。ここでも充分目立つが、あそこの方がもっと目立つからな」


 あー、それもそうだな。俺らは浮いているアルの背中の上にいるから混雑の影響は受けていないけど、地上では沢山の人達が集まってさっきの演出について話し合ってるしね。既にどっちに行くかの相談もしているようだし、注目を集めて団体行動に移すには湖の上が丁度いいだろう。

 という事で、アルを湖上空へと移動させていく。流石に目立つから、みんなが話を中断してこちらへ視線を向けていた。


「少し話を聞いてもらって良いか?」

「おい、リーダーがここに参戦だぞ!」

「って事は作戦発表か!?」

「いや、方針提示じゃね?」

「とりあえず静かに聞こうぜ」


 この辺りは灰の群集のメンバーの反応である。そして赤の群集の方の反応は……。


「うわ!? 灰の群集の超強いオオカミの人だ!?」

「ザリガニの人もいる!?」

「……この前のクジラの人だよな?」

「あ、地味にルアーも一緒にいるな」

「あれ? 意外と仲は良い感じなのか?」

「そうみたいだな。あ、フラムもいる」

「あいつ、不動種だと良い仕事するのにそれ以外は微妙なんだよな。勿体無い……」


 まぁ色んな声が聞こえてくるけども、雰囲気は悪くないね。っていうか、フラムって赤の群集で不動種以外では微妙認定なのか。普段何やってんだよ、あいつ……。


「とりあえず赤の群集の常闇の洞窟と灰の群集の常闇の洞窟の二手に分かれる必要があるのは承知しているだろう。……そうだな。即座に決めろとなると急かし過ぎるから15時を目処にどちらに行きたいかを決めて、それぞれのエリアへ向かってくれ」

「はい、質問!」

「そこのネコの人、なんだ?」

「PTメンバーの人数は? 連結して最大18人?」

「……そうだな。あまり多過ぎても動きが取りにくいだろうから、出来れば1PTでの混成PT。人数的に合わなくて連結する場合でも2PTまでで留めておくほうが良いだろう」

「それもそうだね。りょーかい!」

「あぁ、3PTで連結したい場合もして問題はないからな」


 常闇の洞窟はクジラが通れるくらいの広さはあるから移動自体は問題ないとはいえ、あまり大人数過ぎてもやりにくくなるだけだろうしね。適度に人数を絞るのも必要になるだろう。


「とにかく各自で目的地を設定してくれ。意思確認はするが、無理強いはなしだ。それに時間もあくまで目安なだけで、先に出ても問題はないからな」


 そしてそれでとりあえずの指示出しは終了した。中継の効果もあったのか、赤の群集の人達もスムーズに指示に従ってくれていた。……それにしても今回も自由行動が基本方針とはいえ、出来る事が限られてくるね。

 あれ、そういやこっちはそれで良いとして、初期エリアの方は今どうなってんだ? 常闇の洞窟から敵が溢れてきているとか出てたけど大丈夫なんだろうか?


「ベスタ、初期エリアの方はどうなってるか分かる?」

「まだ確認は出来ていないから、これからやるとこだ」

「まだなんだー!? それじゃ灰のサファリ同盟の方に確認してみるよー!」

「……そういえば灰のサファリ同盟はこっちには来てないみたいだな。確認を頼む、ハーレ」

「任されました!」


 そしてハーレさんはすぐにラックさんへとフレンドコールを行い、状況の確認を始めた。まだ灰のサファリ同盟は森林深部にいるらしいし、そっちから情報を得ていくにも重要だね。

 溢れ出た敵がどの辺まで行動しているかによって、常闇の洞窟への突入にも影響が出てくるだろうしね。そういう情報の確認も含めての15時っていう時間設定なのだろう。


「うん、うん。分かったー! それじゃ後でねー!」

「ハーレ、どうだったかな?」

「陥没してるエリアに翼竜が多数だってさー! でもそこからは出てこないみたい!」

「翼竜っていうと、常闇の洞窟のコウモリ辺りが進化でもしたか……?」

「アルさん、多分それが正解さー!」


 なるほどね。あの分裂しまくるコウモリが進化して翼竜へとなった訳か。そして陥没エリアからは出てこないというのは朗報かもね。


「……これは常闇の洞窟への突入班と、陥没エリアでの戦闘班も必要か」

「……確かに」


 ただみんなで突入すればいいという訳ではなさそうだね。新しい纏属進化の使いどころにも気をつけないといけないし、転移も使えないから中々大変かもしれない。

 それでもクリアを目指して頑張るまで! とりあえず俺らがどこに行くかを決めていかないとね。

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