第305話 赤のサファリ同盟の人


 ここで会ったのがハーレさんが今朝会ったという蜜柑の人だったのは意外だったけれども、これは強い赤のサファリ系プレイヤーの実力を見るチャンスか……? 


「灰の群集のケイさんですね。面白そうな方というかPTのようなので、色々と見させてもらっても宜しいでしょうか? 出来れば一緒のPTになれると嬉しいのですが」

「……え、俺が観察対象……?」

「えぇ、面白いスクショもいくつか見させていただきました。是非ともよろしくお願いしたいところです」

「え、マジで?」

「あぁ、情報についての心配ですね。私が求めているのはゲームならではの未知の光景! それに必要な強さと技術は身に着けますが、それ以上はどうでもいいのです! 私は対人戦にも分析にも興味はありませんので情報流出のご心配なさらずに!」


 ちょっと呆けていたら、思いっきり語り出していた。あー、これがウィルさんが引っ張り出そうとしていた強い人達の片鱗か。

 全員が全員そうって訳ではないだろうけど、目的が相当サファリ系に振り切ってるね。しかも俺が観察対象かー。この感じだと冗談抜きで戦闘とかの情報はどうでも良さそうだ。……赤の群集的にはいいのか、これ。

 

「……ルアー?」

「あー、害はないから良ければ受け入れてやってくれ。こっちとしても迂闊な事は出来ないんだよ……」


 ん? ルアーもどこか呆れ混じりにため息をついていた。……この蜜柑の人、ルアー達に協力しに表に出てきた人じゃないのか……? 赤の群集でのこの蜜柑の人の状況がよく分からない。よし、その辺は確認出来そうな人もいるし、確認しておこう。


「おーい、フラム! ちょいこっち来い!」

「……ケイ、今度は殴らねぇよな?」

「殴って欲しいなら殴るけど……?」

「よし、分かった。何でも聞け!」


 ほう、フラムのヤツは今、何でもと言ったか? それならば徹底的に情報を絞り尽くしてやろうか。……まぁそれは冗談として、ちょっと赤の群集の事情を知っておきたいだけだしね。

 紅焔さんはソラさん達とどうするか話し合ってるみたいだし、あっちはあっちのPTに任せようか。


「アル、樹洞を頼む」

「おう、任せとけ。『樹洞展開』!」

「あ、聞く順番を間違えた。ちょっと、時間貰っていいかな? えーと……」

「あぁ、自己紹介を忘れていましたね。私は……そうですね。まだ集団名は決まってないのですが灰の群集に合わせましょうか。赤のサファリ同盟、移動拠点役の蜜柑のルストと申します。まぁ事情は気になるでしょうから、お待ちしていますよ」

「ほいよ、赤のサファリ同盟のルストさんだな」


 ルストさんが今名前を勝手に決めていたような気はするけど、赤のサファリ同盟なのか。まぁ名前は分かりやすくていいし、当人たちの問題なのでそこはスルーしよう。移動拠点役って事は、複数人のグループになっているのは間違いないようである。人数は灰のサファリ同盟よりも少ないって話だったけど、相当強いんだろうね。

 そしてさっきの会話からすると本気で対人戦には興味がなさそうだ。こういう集団もいるのは分かったけど、まさかその興味の対象にされるとは思わなかったけど……。


「とりあえずフラム、来い! ルアーも良いか?」

「まぁ、説明は必要か。行くぞ、フラム」

「そりゃそうか。って、俺登れないんだけど!?」


 あ、そういやアルは浮かせたままだったっけ。ルアーは軽々と浮かび上がって泳いできたけど、フラムは地面にいるままだ。折角ツチノコに進化したんならヒノノコみたいに跳び上がれよ、フラム。

 今はまだ混雑ってほどではないけど、これから本格的に混雑しそうだから解除して地面に下ろすって訳にもいかないしな。あ、目の前が湖なんだし、そっちに下ろすのもありか。……それよりフラムをサヤにぶん投げてもらった方が早い気もする。あー、でもサヤが投げるとダメージが……。


「それなら私がどうにかしますね。行きますよ、フラム」

「え、ちょ!? 水月!?」

「『投擲』!」


 水月さんに掴まれたツチノコのフラムはアルの背中に向けて放り投げられていく。水月さんが俺と同じ発想なのは意外だったけど、実際これが早いよね。

 俺達は元々アルの上に居たから問題はないし、そのままアルの樹洞の中へと入っていく。それに続いてルアーとフラムも中に入ってきた。ブツブツ何かを言ってるフラムは無視という事でいいだろう。

 そして樹洞展開で中に入れる上限人数が少し増えていたらしい。どうやら根の操作の昇華の効果とのこと。5人までだったのが6人までという追加らしいけどね。


「ケイ、灯りを頼む」

「ほいよ。アルは遮音設定にしといてくれよ」

「あぁ、分かってる」


<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します>  行動値 51/54(上限値使用:2)

<行動値上限を3使用して『発光Lv3』を発動します>  行動値 51/54 → 51/51(上限値使用:5)


 アル自身ではまだ灯りの用意が出来ないので、ロブスターの表面にコケを増殖させて簡易的な灯りを用意していく。樹洞の中には特にこれといって何もないので、みんな思い思いに好きな体勢で落ち着いていた。

 俺も適当に寛ぎつつ、事情を聞いていこうじゃないか。そもそもあのルストさんの目的は何なのだろう。……いや、目的はPTに同行する事か。


「で、さっきのルストさんの言ってた事ってどういう事だ?」

「……流石に説明なしって訳にもいかないか。まぁ本人が言ってた通り、赤のサファリ同盟の1人だ。名前はさっき付いたばかりみたいだが……」

「……ルアー、説明になってるのか、それ?」

「分かっている。ケイ、赤の群集のサファリ系プレイヤーの特徴は知ってるか?」

「あー、人数は少ないけど強い人が多いとは聞いたな」


 そして表に出てきてない人達が、そのタイプであるらしいというのも掲示板から何となく分かっている。とはいえ、俺が直接確認した訳じゃないから断言は出来ないけども。


「よし、そこを把握しているのなら問題ない。実情はその通りだ。そして赤のサファリ同盟は赤の群集の全体に対しては検証やまとめは手伝わないけど、自力で見つけた範囲のものは情報提供はするって事にはなっている。無理強いしたら即座に手を引くって条件付きでな」

「そうそう。ただ、その代わり情報の質は良いんだよ。あの人も昇華持ちだし、全体的に強いし。ちなみにガストが対外的な窓口役」


 へぇ、ルストさんも昇華持ちなのか。それに赤の群集での赤のサファリ同盟の立ち位置もなんとなく分かった。まぁ群集に所属しているからと言って指示に従う義務は欠片もないから、そういう方針の集団サファリ系プレイヤーがいるって事なのだろう。

 そしてガストさんが窓口役ときたか。ふむふむ、ガストさんも赤のサファリ同盟の一員という事なんだね。


「まぁ、その辺は赤の群集の都合だから別に問題はないんだが……悪いんだがケイ達のPTは赤のサファリ同盟に目をつけられてるぞ」

「……マジで?」


 さっきのルストさんの同行志願って目を付けられてるからか!? そんなに興味を持たれるような事って何かあったっけ? ガストさんの時も実力試しって事で勝負になったし、赤の群集の表に出て来てなかった人達って割とクセが強い……?


「どうにも興味を持ったものに対しては積極的に動くみたいでな。それとあのやり取りはほぼ見抜かれてるぜ。それまでも多少の興味は持っていたらしいが、あれが行動に移す決定的な理由になったらしい」

「あ、そうだ。その件、あれでほぼ解決したからな。あんがとよ、ケイ」

「……そっちで知ってるのは誰まで?」

「俺とガストは当事者だから当然として、後はフラムや水月、俺のPTメンバーくらいだ。情報提供に来ている連中は教えるまでもなく気付いてたがな」

「……やっぱり気付く人は気付くか」


 灰の群集でもレナさんやダイクさんにはあっさり見抜かれてるしね。おそらく気付いてはいるけど、黙認している人も結構いるんだろうな。

 それにしてもあれが決定打だったんだ。……そうなるとベスタも興味の対象か?


「……ルアーさん、ルストさんが害はないってのはどういう事なのかな?」

「あぁ、それは単純だ。求めているのは珍しい光景とかだけで、その為の手段を教えることにも教わることにも興味がないんだよ。そしてそれを俺らから分析してもらう事も出来ない。情報提供してもらえるのは自力で得た情報だけって約束だからな」

「なるほど! そっか、ケイさんが色々とやってる事を見たいだけなんだね!?」

「……アルの空飛ぶクジラもじゃね?」

「ヨッシのハチも結構神秘的だし、それもあるのかな?」

「サヤの竜に乗るクマもじゃない?」

「ハーレさんは……意外と極端なのは特にないのか」

「うー!? 私はクラゲを被っているくらいだもんね!? あと実況も!」


 改めて自分達を分析してみれば心当たりになるものは意外と多かった。……まぁみんな色々やってるもんな。ハーレさん、聞いている限りだと多分実況そのものには興味を示さないと思うぞ。


「……まぁそれらを全部引っくるめた上でのPT全体への興味だな。あの連中から赤の群集全体へ分析結果の情報提供は無いから安心しとけ。下手すりゃ灰の群集に行きかねないんだよ、あいつら」

「ルアー、それは言ったら駄目なやつ!?」

「……しまったな。今のは聞かなかった事にしてくれ」


 ほうほう、赤の群集で自由に動けなくなるくらいなら灰の群集に移籍して自由に動こうという意思は少なからずある訳か。赤の群集としては機嫌を損ねて、限定的とはいえ質の高い情報提供元を失うのは痛手過ぎるんだろう。

 もしその手の人が移籍してきたら……意外と灰の群集はあんまり変わらなさそうな気がする。今の灰のサファリ同盟と相性が良いとも思えないから、ただ自由に好きなように動くだけだろうね。


「あんまり利点もなさそうだし、今のは聞かなかった事にするよ。で、共闘する分については問題はなし?」

「あぁ。力量はトップクラスだから、自分の意思で参戦してきている場合は問題ない」


 なるほどね。戦力としては申し分ないし、俺らに興味を持ってる以上は敵対する事もないだろう。それに対人戦にも興味はないと言っていたし、赤の群集への情報開示も限定的なもの。少し性格にクセはありそうだけど、そこに目を瞑れば共闘相手としては悪くないか。


「そういう事らしいけど、みんなどうする?」

「私は別に良いかな?」

「同じサファリ系プレイヤーとしては色々話してみたいです!」

「あはは、ハーレはそうだろうね。私としても問題ないよ」

「俺も別にいいぜ。癖はあっても悪意があるタイプじゃないみたいだしな」

「そんじゃクエストの内容次第だけど、状況次第ではPT連結も視野に入れるって事でいいか?」

「「「「異議なし!」」」」


 普通のPT構成として入るかどうかは、また別問題だけどね。紅焔さんが1人逸れているみたいだし、場合によっては紅焔さんを誘おうかと思ってるところ。まぁその辺は状況次第だな。


「とりあえず伝えるべき事は伝えたが、他に何かあるか?」

「……特にないかな?」


 ウィルさんの茶番の後に赤の群集がどういう状態になっていたかも聞けたし、それで動き出した強いタイプのサファリ系プレイヤーの動向も多少は分かった。ここから先はクエストの詳細が分かってからでないと行動方針は決められないだろう。


「それにしても、ケイのPTってとんでもないよな」

「フラムのとこも水月さんが凄いだろ? アーサーも結構強くなってるみたいだしな」

「……むしろ俺が一番やべぇ……」

「フラム、諦めて不動種に専念したらどうだ?」

「ルアー!? 何度も言うけど不動種も頑張るけど、俺も冒険したいんだよ!」

「なら近接は諦めて魔法にしとけ。正直、近接は向いてねぇぞ?」

「うぐぐ……事実なだけに否定出来ない……」


 フラムはフラムで色々悩んでるみたいだな。近接が苦手っぽいけど、それならルアーの言うように魔法や操作系を主力にすれば良いのに。……まぁ本人が拘りたいなら余計な事を言うのも無粋か。


「それじゃ話し合いはこれくらいでって事で。あ、ここでの内容は混雑してる中だとやりにくいからここで情報纏めつつ時間潰してたってことで良い?」

「あぁ、構わない」

「良いぞー」


 まぁ実際にこの後の行動をどうするかに関わる話と赤の群集の情報を纏めてたから嘘ではないし、今の状況の下では混雑して話し合いをするのが難しくなってくるのも間違いではない。

 作戦会議はクエスト内容が判明してから実際にやる必要もあるもんな。


「この後は、とりあえずこのエリアにいるメンバーの確認かな?」

「そうだね。あと紅焔さんにも状況を聞かないと……」

「……とりあえず、一度外に出て見るか」

「誰がこっちに来てるかは重要だしな」


 話も一段落ついたので、みんなも異論はないようだ。さてとベスタがここにいればリーダーは任せるけども、絶対にいるとは限らないしね。

 とにかく現状把握という事でみんなで樹洞から出ていっていく。ん? 紅焔さんが何かを避けるように盛大に飛び上がってきてるね。どうしたんだろ?


「ソラ、仲間の呼び声を頼む!」

「紅焔さん、どうしたんだ?」

「例のキツネが居たから、俺はここはパス! あ、そうだ。期間限定版の仲間の呼び声がもう1人の方の群集支援種のほうで情報ポイントを使って交換出来るらしいぞ! そんじゃな!」


 そして慌ただしく紅焔さんの姿が掻き消えていった。多分、ソラさんが仲間の呼び声で紅焔さんを呼び出して転移して行ったのだろう。もう1人の群集支援種って事は、ミズキの森林ならヤナギさんとかで交換出来るって事かな?


「なんだよ、紅焔のヤツ。久々に会ったと思えば、すぐにいなくなりやがった」


 そしてそれだけ呟いて、すぐに立ち去って行った2本の尾を持つキツネの人がいた。赤いカーソルに白い線があったので、あのキツネの人が紅焔さんが初期にPTを組んでいた人なのだろう。見た感じでは1人っぽいけど、まぁ聞いている限りではPTを組むタイプでもないか。


「話はついたようですね。私のPT加入は構わないでしょうか?」

「あー、それは問題なくなったけど、クエストの内容次第って事で良い?」

「えぇ、それは構いませんよ。赤の群集の方でも、灰の群集の方でもイベント特有の貴重なスクショは撮れそうですしね」


 強い人ではあっても、基準はやはり珍光景や綺麗な景色とかであるらしい。うーん、こりゃウィルさんが引っ張り出そうとしてもうまく行くはずがないな。そもそもの目的意識が違い過ぎる。

 そんな事を考えているとハーレさんがルストさんの元に向かって移動していった。まぁ何が目的かは予想がつくね。


「ねぇねぇ、ルストさん!」

「はい、何でしょうか? えーと、ハーレさんですね」

「はい、そうです! 私もサファリ系なんだけど、スクショの見せ合いしない!?」

「おぉ、そうなのですか。興味深いPTの方の持つスクショとなれば興味はありますね」

「ふっふっふ、自慢の一品もあるからねー!」

「期待させて頂きますよ」


 そしてサファリ系プレイヤー同士の交流が始まっていた。まぁ少し時間はあるだろうし、これくらいは問題ないだろう。


<規定条件を達成しましたので、ワールドクエスト《この地で共に》が次の段階に移行します>


 ルストさんとハーレさんがスクショを見せ合い、盛り上がっているところでクエストの次の段階への移行メッセージが表示された。ある程度のアイテムの数が行き渡ったのだろう。さて、どんな内容のクエストになるのかな。

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