第287話 強蹴ウサギ討伐戦 下


 アルの突撃を受けて、ウサギは盛大にふっ飛ばされた。とはいえ、ダメージはそれほどではない。


「アル、とりあえず根で拘束ーー」

「今はクジラでログイン中だから無理だな。登録してねぇ」

「……あ、そうなのか。ヨッシさん、お願い」

「はいはい。サヤ、複合魔法で行くよ。『アイスプリズン』!」

「分かったかな。『共生指示:登録3』!」

「サヤ、ヨッシ! それ、なんて複合魔法!?」

「これは『エレクトロケージ』かな。エレクトロプリズンとで発動だね」

「触れたら確率で凍結と麻痺の効果があるみたいだから、しばらくは大丈夫だと思うよ」


 電気を帯びた氷製の檻が生成されていく。これって前にも使ってたっけ。とにかくこれでウサギの捕縛は完了。ま、ボス相手にそんなに長くは持たないのはここまでの戦闘で見てきたので、手早く本体についての情報共有と正体の推測をしておこうか。


「ちょい情報確認。みんな集合!」

「……あの角の事ですね?」

「そうそれ。あれが本体だと思うんだけど、どう思う?」

「ケイさんに同意です! 新技はあの角を狙ったのに避けられたよー!?」

「……そういえば今まであの角を使った攻撃は無かったかな?」

「そういやそだね。あれ? そもそもあれに攻撃が当たった覚え自体がないよ?」

「ちっ、あの戦闘中でそんな真似をしてやがったのか、あのウサギの角!」


 まさかサヤとレナさんでも1撃も与えられていなかったとはね。斬雨さんが悪態をつく気持ちも分からなくはない。本体がいるのはほぼ確実だし、俺自身もあの角が回避に動いたのは見たし、レナさんが知らないうちに攻撃を当てられずサヤも攻撃を受けていないのならほぼ確定か。


「サヤとレナさんの攻撃は意図的に避けられてた?」

「……なるほどな。つまり本体は狙われたくないけど、それに気付かれたくもないって事か。大概ここまでの戦闘でかなり正攻法からズレたと思ってたが、まだ甘かった訳だな」

「なんですと、アルさん!? ぐぬぬ、あのウサギめー!」


 どうやら戦闘中に気付けなかったのがレナさん的には悔しかったらしい。それにしても明確に狙わなきゃ戦闘中にそれを気付かせないとなると、アルの言う通り角を狙うのは正攻法の手段ではなさそうだね。こうなると意地でも1撃加えてみたくなってくる。……当てればどうなるのか、気になるしね。


「高原であの形状の生物となると……カタツムリ辺りか」

「カタツムリって、あんな細長いのいるのかな?」

「ゲーム的のならいてもおかしくはないんじゃ?」

「いやいや、ケイさん甘いよー! 細長いカタツムリって実在するからねー」

「え、レナさん、それはマジで?」

「マジマジ! オフライン版には普通の一般的なイメージのしか居なかったけど、オンライン版には追加されたんだねー」


 なるほどね、こいつもオンライン版からの追加種族か。カタツムリ自体は敵でいたけど、進化の幅も増えた状態でか。……まぁまだ識別が出来ていないから推測段階でしかないんだけどね。支配状態だと本体のは分からないんだよな。


「……もう時間切れですね。檻が破壊されますよ!」

「よし、サヤ、レナさん! 引き続き、抑え込みを頼んだ!」

「分かったかな。行こう、レナさん! 『自己強化』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」

「今度はその角っぽい殻を蹴り飛ばしてやるー! 『自己強化』!」


 さっき魔力集中が切れたばっかりなので自己強化を発動して即座にアルの背から飛び降りて駆け出していくサヤとレナさん。あ、風の属性付与でサヤの移動速度が上がってるね。うーん、なんだかんだで操作属性付与って便利である。


 さてと残り1割まで削るのはこれで問題ないはず。そこから倒し切るまでにどれだけ攻撃を叩き込めるかだな。出来れば半覚醒に意識を取り戻してもらいたいとこだけど、こっちから狙って……いや待てよ?

 ここまでの流れからして、先に倒すべきはウサギだ。そして本体の角っぽい何かは攻撃を受ける事を避けている。……そのまま倒せるとも思えないので、そうなると何らかの弱体化の誘発? そうだとするなら、もしかしたら……?


「ハーレさん、土の付与状態で魔法産の砂の散弾投擲に指向性を持たせて投げるのは可能?」

「えーと!? う、うん! 多分できる!」

「よし、それで面制圧だ。ダイクさん、水流の操作をすぐに行えるように待機しててくれ」

「おし、任せとけ! 灰の群集、攻撃の出番があるぜ! いつでもチャージ開始出来るようにしとけよ!」

「「「「「おう!」」」」」


 よしよし、ダイクさんも意図は察してくれたらしい。同じ手札を使える人がいるのはありがたいね。次は青の群集への行動指示。まぁこっちのやる事は特に変わりはしない。


「青の群集の人達は1割を切った段階での雑魚の対処を頼む!」

「いいぜ、全力で暴れてやらぁ! 気合入れろよ、野郎ども! 追撃の邪魔をさせんじゃねぇぞ!」

「ホホウ、ここからが今日の正念場ですぞ!」

「「「「「おー!」」」」」


 青の群集の人達も気合充分といった感じだね。……なんかジェイさんの代わりに俺が指揮してるけど、良いのかな? 今更って気もするけど、一応確認しておいた方がいいだろう。


「あー、ジェイさん?」

「……何となく言いたい事は察しました。えぇ、思うところが無いとは言いません。ですが発想力と適応力ではケイさんの方が遥かに上のようですし、今回はお任せしますよ」

「なんかすまん……」

「謝らなくて結構です。それにあくまでも今回だけですからね! さっさと仕留めますよ!」


 次の機会にはそう簡単には指揮権は手放さないって事だろう。やっぱりジェイさんってなんだかんだで負けず嫌いだね。まぁ今回は事後承諾みたいにはなったけど、完全に請け負ったからには勝利でおわらせよう。


「ケイ、こっちはいつでも良いかな! 『強爪撃』!」

「この! えい! ちょこまかと逃げまくるなー!? 『双連蹴』!」


 どうやらサヤとレナさんの攻撃でも角の動きは捉えきれないらしい。っていうか、角の形のまま動きまくって若干動きが気持ち悪い。

 ウサギも反撃を繰り出してきて、その対処もあるから攻撃のみに意識を割ける訳じゃないのが原因かな。ウサギもレナさんもサヤも自己強化中とはいえ、2人で抑え込む以上は極力被弾は避けて回避の必要があるからね。気軽にこのレベルの近接が交代要員としていればもっと攻め一辺倒に出来るけど、いないものは仕方ない。ボス戦はここだけじゃないしね。


 さて、そろそろ仕掛けるか。ハーレさんの魔力集中もいつまでも効果時間が続く訳でもないし、そろそろ切れる時間も近いはず。


「ハーレさん、合図したらさっきの通りに!」

「了解です! 下準備だー! 『アースクリエイト』『操作属性付与』!」


 ハーレさんの腕が今度は土に覆われて、なんだかゴツい感じになっている。確かにこれは威力は上がりそうだけど、弾速が落ちるのはなんでだ? まぁ、実際に使ったところを見れば分かるか。

 俺は俺で自分の準備に移ろう。狙うのは角への1撃である。ただし単純に狙っただけなら避けられる可能性がある為、連続攻撃を叩き込む!


<行動値上限を2使用と魔力値4消費して『魔力集中Lv2』を発動します>  行動値 53/53 → 51/51(上限値使用:3): 魔力値 170/174 :効果時間 12分

<行動値1と魔力値4消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 50/51(上限値使用:3): 魔力値 166/174

<行動値上限を1使用と魔力値2消費して『操作属性付与Lv1』を発動します>  行動値 50/51 → 50/50(上限値使用:4): 魔力値 164/174


 これで下拵えは完了と言いたいとこだけど、まだ少し早い。まだやるべき事はある。……少し博打にはなるけど、灰の群集のみんなには先に仕込んでおいてもらうかな。


「ダイクさん、灰の群集のみんな、攻撃の用意開始!」

「おうよ! 『アクアクリエイト』『水流の操作』!」

「まだなんか早い気もするけど、なんかあるんだろうな!」

「行くぜ、野郎共ー!」

「あはは、今日は楽しいね!」


 よし、チャージ系の応用スキルを持ってる人達はチャージを開始し始めた。……ちょっと俺の方がタイミング的に間に合うか怪しいけど、威力は勢いで誤魔化す!


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 49/50(上限値使用:4): 魔力値 161/174

<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を19消費して『水流の操作Lv4』は並列発動の待機になります>  行動値 30/50(上限値使用:4)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を20消費して『殴打重衝撃Lv1・土』は並列発動の待機になります>  行動値 10/50(上限値使用:4)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>

<『殴打重衝撃Lv1・土』のチャージを開始します>


 今度こそ準備完了だ。即座に水流に乗りながらチャージを進めていく。……みんなのチャージを待つ必要もあるからまだだ。サヤとレナさんは俺の様子を伺いながら、回避しつつ攻撃を仕掛けている。

 残りHPは1.5割ってとこか。……よし、チャージが完了したっぽい人が見えた。もういいだろう。水流をウサギに向けて動かしていく。俺の狙いはウサギの角。ハーレさんの攻撃から繋げる様に上部からの水流で押し潰し、殴打重衝撃をあそこに叩きつけてやる。


「ハーレさん、やれ!」

「了解です! 『アースクリエイト』『並列制御』『散弾投擲・土』『土の操作』!」

「隙あり! 『強蹴り』!」

「ナイス、レナさん! 『共生指示:登録1』!」


 レナさんが足払いをする様に蹴りを放ち複数の同時攻撃に反応が遅れたウサギはバランスを崩し、サヤが竜の電気の拘束魔法が決まった。そこに角を含めた顔面狙いに向きが絞られた砂の散弾投擲が襲いかかる。あ、弾速が遅いというよりは投げるまでに少しタメがあって時間がかかる感じか。


 本体の角は咄嗟に頭の上に移動し回避するが、それこそ俺の狙いである。上部から水流で押し潰し、体勢を盛大に崩す。

 さて、これでもう逃さないぞ。この動きを制限した状態かつ、至近距離でなら外さないし避けさせない。銀光を纏ったハサミを角に向けて叩きつけてやる。チャージは終わってないけど、まぁ大丈夫だろう。


『……ウッ……? ……ナ……ナニ……ガ……?』


 チャージは完了していないがそこそこな威力の殴打重衝撃が逃げられない角に衝突し、半覚醒の意識が戻ってくる。よし、予想通り! やっぱり本体への攻撃は半覚醒の意識回復の鍵か。意識が戻るとともにウサギの禍々しく光を放つ自己強化の効果が切れていく。でもそう長時間持つとは思えない。即座に攻撃へ移ろう。

 俺の水流の操作は邪魔だから即座に解除して、少し距離を離しておくか。さぁ最後の総攻撃を始めよう。


「総攻撃開始!」

「ぶっ倒せー!」

「行くぜ!」

「ウサギを仕留めろー!」


 次々とアルの背中の上からチャージを終えた人が水流の中へと飛び込んでいく。あ、地味にアルの上に乗ってたんだ。……ダイクさんの水のカーペットでアルの背の上に乗れるように昇降機みたいな事をしてるようである。

 そして攻撃を終えた人の回収役もちゃんと待機に入っていた。次々と叩き込まれる応用スキルでどんどんとHPが削られていき、とうとう1割を切った。


『……クッ……ウァアアァアァ!』


 1割を切った瞬間、ウサギは意識があるにも関わらず瘴気の塊を次々と吐き出していき、雑魚敵が次々と現れてくる。さて、ここが最後の正念場だ。


「野郎共、出番だ! 『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『大型化』『連閃・風』!」

「斬雨、巻き込みすぎない様に気を付けてくださいよ! 『アースクリエイト』『岩の操作』!」

「はっ、ジェイが言えたもんじゃねぇだろ!」

「ホホウ、2人とも気合があるのは充分ですが味方を斬ったり潰さないように」


 盛大に大暴れを始めた青の群集だけど、なんだかんだでしっかりと巻き込まないように上手く立ち回っていた。さて、追撃の突破口も開いて貰ったしぶっ倒しに行くか!


「ダイクさん、俺とサヤとレナさんを流してくれ! その後、ダイクさんも一緒に来てくれ!」

「おう、了解だ!」

「魔力集中じゃないのがちょっと不満だけど仕方ないね。『重脚撃』!」

「時間切れは仕方ないかな? 『重硬爪撃』!」

「アル、ヨッシさん、ハーレさんは俺らが突っ込んだ後の背後からの攻撃を食い止めてくれ!」

「了解!」

「よーし、やるぞー!」

「おう、任しとけ!」


 俺達を回収したダイクさんの水流に乗って逃げていくウサギを追撃していく。ダイクさん自身も水流に乗って来ているね。

 さぁ、まだ試していない最大級の威力を試そうじゃないか。……それにしても半覚醒の意識が戻った影響なのか逃げるのが思ったより遅い。すぐに追いついて水流で前方に回り込めた。


「ふっふっふ、チャージ完了さ! 今度こそ終わりだよ!」

「私もかな! これで終わって!」


 そしてレナさんが蹴り飛ばしたウサギにサヤの巨大な爪の1撃が炸裂した。……しかし、僅かにHPが残っている。魔力集中だったなら倒しきれたかもしれないけど、それは言っても仕方ないだろう。


「うー!? 倒しきれなかったー!?」

「もう行動値が無いかな……」

「ま、心配すんな。ダイクさん、昇華魔法を行くぞ!」

「俺を連れてきたのはその為か。いいぜ! 『アクアクリエイト』!」


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 9/50(上限値使用:4): 魔力値 161/174


<『昇華魔法:ウォーターフォール』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/174


 ダイクさんは即座に水流の操作を解除し、俺と共に昇華魔法を発動する。轟音と共に生成された以前よりも巨大な滝がウサギを押し潰し、そのHPの残り全てを削り取っていく。魔力値の総量が増えているから昇華魔法も威力は上がってるとは思ったけど、その威力は相当上がっているようだった。……使いどころが余計難しくなった気もする。


<ワールドクエスト《地の底にいるモノ》のボスを1体撃破しました> 7/30


<ケイがLv6に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>

<ケイ2ndがLv6に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>


 ボスの討伐アナウンスが出て、結構な経験値が貰えた。7体目って事は結構倒されてきてるね。それにしても他のボス討伐のアナウンスはいつの間にあったんだろ。色々集中してたから見落としたのかもしれ……あれ? 討伐になったのに、ウサギがまだポリゴンになって砕け散っていないような……?


 力なく倒れたウサギを覆っていた瘴気が角へと吸収されるように消えていき、ウサギの表面には瘴気が無くなっていった。……そしてその直後にウサギはポリゴンとなって砕け散っていった。そういやどっかに消えるとかあったっけ。これはリスポーンしただけって気もするけど、どうなんだろ?


 そしてその場に残った角っぽい奴は、禍々しく瘴気を身に纏ってその正体を表していく。角の中から柔らかそうな身体が現れてきて、その姿が巨大化していく。

 やっぱり予想通りの細長い殻を持ったカタツムリのようである。……正直貝も柔らかそうな身体してるからなんとも言えないけど、陸地だし貝じゃなくてカタツムリだよね?


<ワールドクエスト《地の底にいるモノ》のボス戦に参加しました> 参加回数:4


 さぁ、次のボス戦の始まりだ! とはいえまだ雑魚は残っているし、それほど簡単ではないだろうけどね。




【ステータス】


 名前:ケイ

 種族:支配ゴケ

 所属:灰の群集


 レベル 5 → 6

 進化階位:未成体・支配種

 属性:水、土

 特性:複合適応、支配


 群体数 150/4600 → 150/4750

 魔力値 0/174 → 0/176

 行動値 10/54 → 10/55


 攻撃 58 → 60

 防御 80 → 83

 俊敏 62 → 64

 知識 112 → 117

 器用 116 → 122

 魔力 156 → 163




 名前:ケイ2nd(ログイン不可)

 種族:傀儡ロブスター

 所属:灰の群集

 

 レベル 5 → 6

 進化階位:未成体・傀儡種

 属性:なし

 特性:打撃、堅牢、傀儡


 HP 3675/4550 → 3675/4750

 魔力値 71/71 → 71/72

 行動値 43/43 → 43/43


 攻撃 127 → 134

 防御 120 → 127

 俊敏 94 → 100

 知識 48 → 50

 器用 48 → 50

 魔力 25 → 26

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