第286話 強蹴ウサギ討伐戦 中


 ボスの隔離はダイクさんから行ってくれている。水流の操作で隔離された中では斬雨さんやスリムさん達、青の群集の人達が瘴気強化種なら仕留めて、半覚醒は水流の外側へと放り出している。よし、大体の排除は完了か。


「ケイさん、効果時間切れ。交代してくれ!」

「了解!」


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 50/51(上限値使用:3): 魔力値 171/174

<行動値を19消費して『水流の操作Lv3』を発動します>  行動値 31/51(上限値使用:3)

<熟練度が規定値に到達したため、スキル『水流の操作Lv3』が『水流の操作Lv4』になりました>


 おっ、水流の操作のLvが上がった! なんだかんだで結構使いまくってたから結構熟練度も稼げてたっぽいね。まぁその辺は後にするとして、とりあえずダイクさんと隔離役を交代だ。


「ケイ、戻ったぞ」

「お、アルおかえり。とりあえず空中で待機しといてもらっていいか?」

「ま、元々その予定だしな。2割切ったところで水流に乗って突撃、攻撃の系統によってはみんなを回収して上空へ退避でいいな?」

「おう、それでいい」

「よし。『空中浮遊』!」


 とりあえず、水のカーペットを出したままなのでそれでアルの上に登っておこう。ハーレさんも定位置の巣に戻り、ヨッシさんも待機に入った。ダイクさんは自前の水のカーペットで飛行中である。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 31/51 → 31/53(上限値使用:1)


 今は不要になったので、水のカーペットは解除。地面から広がっていく系統の攻撃なら上空へ退避、上空からの落下的な攻撃なら突撃しつつ範囲外に出るので良いだろう。全方位攻撃で避けきれず食らった時は食らった時だけど、出来るだけそれは避ける方向で。


「ほい! それ! えいやっ! 『双連蹴・火』!」

「レナさん、少し飛ばし過ぎかな!? 『双爪撃・土』!」


 その間にもサヤとレナさんによる一方的な連撃は次々と決まっていた。レナさんが回避した事で空振ったウサギの脚を蹴り上げ、身体を捻り更にもう1撃で上空へと蹴り上げていく。そして少し勢いが余り過ぎて、飛び過ぎたのをジャンプしたサヤが両手の爪で叩き落とすように地面に叩きつけていた。


「いやね、蹴り過ぎてもフォローしてくれるから思いっきり出来てね?」

「それは別にいいんだけど……このウサギはタフかな!? 『強爪撃・土』!」

「流石にボスだけはあるねー。ほい、『踵落とし・火』!」


 地面に叩きつけられたウサギが反撃を繰り広げるが、サヤにはカウンター的に爪の1撃を加えられ、そこに追撃とばかりにレナさんの踵落としが炸裂する。

 さっきから幾度となくボスのウサギも魔力集中を使った鋭い蹴りを放っているけど、ただの1撃も2人には当たってはいない。何度も空振った蹴りが地面に亀裂を入れていたりするので、当たりさえすれば結構な威力なのだろう。当たりさえすればだけど……。


「いやー、これって防御も俊敏も上がってる自己強化の方が面倒じゃない?」

「それは同感かな? でもやっぱり2人じゃ時間がかかりそうだね。ハーレ、適度に弾き上げるからそこを狙って欲しいかな!」

「その方がいいねー。2人だと通常スキルで削り切るのは厳しい感じー! あー、応用スキルが連発出来れば楽勝なのになー」


 そりゃどう考えても少人数で削り切るのを前提に設定されているとは思えないしね。……何となく物理攻撃の応用スキルに再使用時間が設定されている理由も分かった。あれは使う人が使えばボスでも完封ソロ撃破が出来そうだし……。

 同じ理由で昇華魔法の魔力値の消費量もだな。応用の操作系スキルは攻撃範囲は広いし効果時間は長いけど、単体での威力は物理攻撃の応用スキルには劣ってるしね。操作系スキルでは威力を重視すればするほど操作時間は短くなるというのもある。


「ハーレ、新技の発動準備をお願いかな! レナさん、行くよ!」

「ほいよ! また打ち上げていくね! 『双連蹴・火』」

「いくよー! 『魔力集中』『ウィンドクリエイト』!」

「お、風魔法……?」


 ハーレさんが新技と言うから何かと思ったら、風の生成? 風って弾として投げられるのか? てっきり並列制御で投げたものの手動操作辺りかと思ってたんだけど、ちょっと予想外だった。


「ハーレさん、何やる気だ?」

「ふっふっふ、こうやるのさ! 『操作属性付与』!」

「お、そうきたか」

「そしてこうだー! 『アースクリエイト』『並列制御』『爆散投擲・風』『土の操作』!」

「おー、予想以上にてんこ盛りだった」


 ハーレさんの腕に風を纏いつつ、緑色を帯びた銀光が徐々に強くなっていく。そうか、弾自体は魔法産の小石だけど、今まではスキルそのものに属性が付いてた訳ではないからこういう芸当も可能なのか。……投擲での操作属性付与の追加効果ってどんなのだろう?


「ハーレ、投擲だと追撃効果は何になるの?」

「まとめで見たけど、風の場合は弾速アップだよ!」

「そっか。ケイさん、ごめん。ハーレに速度上げられたら合わせられそうにないよ」

「あぅ!? 土で弾速が落ちても威力アップを狙うべきだった!?」

「今更遅いから、チャージが終わったらぶっ放せ!」

「属性選択を失敗したー!? えーい、これでやるだけさー!」


 風属性の付与で弾速アップ自体の効果は良いんだけど、威力アップがあるなら今はそっちの方が良かった気もする。……まぁいいや。ハーレさんの新技、見させてもらおうか。


「アルさん、ハーレの攻撃の直後にポイズンミストを狙いたいけどいける?」

「ケイの昇華の水だと広範囲になり過ぎるか。よし、上から行くぞ」

「うん、お願い」

「アル、その辺で多分2割を切るから用意を頼む」

「おう、任しとけ」


 既に地道に削っているので、もうすぐHPは2割だ。……今回は意識が戻る事が無かったな。まぁ多分回避に専念すべき魔力集中の間に攻撃しまくってるせいなんだろうけど。


 あ、ウサギの脚の禍々しい光が消えていったという事は、魔力集中が切れたっぽいね。そしてすぐに全身から禍々しい光を放ち始める。……即座に自己強化に切り替えたのか。ちっ、少しタイミングが悪かった。


「チャージ完了ー!」

「それじゃ蹴り上げるよ! 『双連蹴・火』!」

「自己強化の方がやっぱり厄介かな!? 『強爪撃・土』!」

「そこだー!」


 自己強化に切り替わったせいか先程と違って蹴り上げきれずに、ウサギは中途半端にバランスを崩した程度の状態になる。そこからサヤが打ち上げるように攻撃をして、それを躱すようにウサギが動いていく。そしてその回避行動の隙を狙って、ハーレさんの爆散投擲は投げ放たれた。って、今までの投擲よりもかなり速いな!?


「アルさん!」

「おう! 『アクアクリエイト』!」

「『ポイズンクリエイト』!」


 それと同時にヨッシさんとアルの複合魔法が放たれる。だがその効果を発揮する前にハーレさんの爆散投擲がウサギの顔面へと直撃した。爆発の指向性も操作していたようで、着弾部分からウサギに向けてのみの爆発となっている。

 そして今の投擲で分かった事がある。ハーレさんの投擲を避ける様に確実に角が自立的に動いて位置が変わった。あの角が支配している本体か。……角っぽい生物ってなると何になるかな? 巻き貝系か? まぁ、正体を確認するのは後からだな。


 運の良い事に本体は避けれても、支配されているウサギの頭に直撃した事で朦朧が入ったようである。そこに追い打ちをかけるように毒の霧が広がり、こちらも麻痺が入ったようだ。そしてHPは2割を切ったところ。良いタイミングで状態異常が入ってくれた!


「ハーレ、ナイス! あ、魔力集中が切れちゃったかー。まぁいいや、『踵落とし』!」

「……2割を切りましたね。皆さん、要警戒を! 瘴気による広範囲攻撃の可能性がありますので!」


 サヤもレナさんも魔力集中が切れたようで、纏っていた火や土が消えていく。まぁそういうスキルだから仕方ないか。

 周囲を確認してみれば、水流での隔離によってボスの周りには人は少ない。さて広範囲攻撃とやらがどんなものかによるけど、操作系の応用スキルか単独での昇華魔法相当って事だしな。予め分かっていれば避けられない事もないだろう。


「アル、水流に乗っとけ。みんなもアルの上に退避!」

「分かったかな!」

「ほいさー!」

「便乗させていただきますね」

「さて、大詰めってとこだな」

「ホホウ、そうなりますな」


 元々アルの上にいたメンバー以外も即座に退避していく。水流も地面に沿ってではなく、上空でドーナツ状にしてその上をアルが流れて泳いでいく。朦朧と麻痺のお陰で安全に退避行動に移れた。


 そのすぐ後にウサギの状態異常が回復し、その様子が変貌していく。周囲に纏っていた瘴気密度が増して表面で結晶化していき、禍々しく黒光りする瘴気で作られた何かに覆われていった。特に角に集まる瘴気の濃度が酷い。そしてそれ以上の異変が始まっていく。


「うおっ!? なんだ!?」

「瘴気強化種が……吸い込まれていく……?」

「ちょ!? あれが広範囲攻撃ってやつかよ!?」

「あれはヤバそう!? 成長体のやつは逃げろ! 確実に死ぬぞ!」

「うおー!? ここまできて死んでたまるかー」


 周囲のみんなが戦っている最中だった瘴気強化種は、ボスのウサギの角に引き寄せられるようにして集まっていく。そしてウサギの角の先に現れた瘴気の塊にどんどん取り込まれていき、巨大化していた。……こりゃヤバそうな感じだな。

 どこにどう向けて、その攻撃を放つ気だ? 角を地面に向け始めているってことは攻撃の向きは地面か!? しかもこれは多分ウサギ側でなく、本体側の攻撃の可能性が高い。


「アル、突撃は中止! 上空へ退避!」

「おう! 『高速遊泳』!」

「こりゃやべぇ!? 『アクアクリエイト』『水流の操作』!」


 即座に上空へと水流の方向を変え、アルが勢いよくそれを泳いでいく。その直後に瘴気の塊が地面へと打ち付けられた。その攻撃に即座に対応して、ダイクさんが水流を作り出し攻撃を受けそうになった人への防御を行っていた。

 これは見た目の色は全然違うけど、攻撃の性質は水と土の昇華魔法のデブリスフロウに近い感じだ。広範囲ではあるけど、予め隔離していたのと一部危なかったのはダイクさんの防御が間に合って、被害者は出てないな。……アルの突撃では範囲的に相殺は無理そうだけど、昇華魔法ならあるいは……?

 いや、それは後で考えよう。……それにしてもあの攻撃の後は大きな隙が出来るようである。壊滅的な大ダメージを受ける可能性すらあるから、その立て直しの猶予期間?


「ジェイさん、この攻撃の使用頻度は!?」

「それほど多くはないはずです! あってもあと1度か2度程度かと!」

「了解。そんじゃあと1割……いや、それで1割残るならそのまま削りきってぶっ倒すぞ!」

「え、倒すのかな!?」

「良いんじゃない? これで逃げる時って残り1割だよね」

「次のボスもいるしねー!」

「わたしは賛成!」

「俺も賛成だ。斬雨さんやジェイさんも雑魚ばっかで物足りないとこじゃないのか?」


 俺らのPTはみんな賛成だね。後は青の群集と他の灰の群集のみんながどう言うかだけども……。勝手に俺らだけで決めるわけにもいかないしね。


「ははっ! バレてんじゃ仕方ねぇな、ジェイ!」

「……えぇ、そうですね。もう雑魚敵の方もほぼ終盤でしょうし、このタイミングなら頃合いでしょう。よろしいですか、皆さん!?」

「ホホウ、そろそろ全力で戦いたいものですので、異論はありませんな」


「ケイさんといたら予定通りなんて事は存在しないか。灰の群集も良いか?」

「なんでダイクが仕切ってんのさー?」

「ちょ!? レナさん、今は邪魔しないでくれ!?」

「邪魔って何さー? みんな、今回でぶっ倒すよー! いいねー!」

「おうよ、やってやらぁ!」

「『ビックリ情報箱』と一緒に戦って、予想外を想定してないやつはいないって」

「ボスをぶっ倒せー! そして次のボスもぶっ倒せー!」


 どうやら問題はなさそうだね。それじゃ、このウサギは今回で仕留めきるって事でやりますか。逃しはしないから、覚悟しろ! 特に本体の角、お前の出番を早めてやるよ!


「とりあえず隙だらけだし1発いっとくか。アル!」

「おうよ! 『魔力集中』『強頭突き』!」


 アルを水流で全力で流して、ウサギに頭突きを食らわせて吹っ飛ばす。自己強化は掛かっているし、この攻撃ではちょっとHPが減った程度。まぁ応用スキルじゃなければこんなもんか。

 そしてウサギも動きが元に戻ってきた。さぁ、このウサギとの最終戦の始まりだ!

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