第285話 強蹴ウサギ討伐戦 上
再び地面から吹き出した瘴気の中から、ウサギの姿が現れてくる。何もしていなければ3時間で出現という話だけど、雑魚の討伐をちゃんとしていれば1時間程度で出現ってところのようである。
『……ウッ……』
ウサギは呻き声を少し上げただけですぐに無言になっていく。意識が無くなり、好戦的な状態へとなっているのだろう。纏っている瘴気は密度を増して、より禍々しくなっていた。
HPを3割減らせば逃亡し、再出現の時に1割回復してくるんだったっけ。1回前の時に残り3割まで削ったので、1割回復して残りHP4割か。今回は無理かもしれないけど、次の1戦で倒せそうだ。……いや、状況次第では1割くらいなら削りきれるか?
<ワールドクエスト《地の底にいるモノ》のボス戦に参加しました> 参加回数:3
参加回数のカウントも増えた。さて、再びボス戦の開始だ! って、既にウサギの脚が禍々しく光り始めている。もう既に魔力集中を発動かよ!? ……地味に銀光まで放ち始めているとなるとこれは厄介だな。
「HPを4割を切っているので、攻撃パターンが変わっている筈です! 魔力集中か自己強化のどちらかを常時発動、応用スキルでの攻撃頻度も上がりますので要注意を!」
「青の群集はこれまで通り、周囲の雑魚敵に集中! 途中参加のやつは周りのやつに聞いとけ! ジェイ、ここから未成体が増えてくるんだよな?」
「えぇ、そうなります。成長体の人達は無理をせずに成長体の敵を相手に専念してください! ここからは雑魚敵の攻撃も強烈になります。丈夫な移動種の木の人、盾役を任せますよ!」
「ホホウ! 変化を確認しますので。『識別』!」
「スリム、どうですか!?」
「ホホウ、Lv4に上がり支配度も4になっておりますな」
やっぱりLvも支配度も上がってきたか。となると、極端ではないにしても多少の強化はあるはず。行動パターンの変化も含めて気をつけないとね。
「よっしゃー! 頑張るぜ!」
「木の人は水分吸収での回復忘れんなよ!」
「分かってるって! 樫の木の硬さ、舐めんなよ!」
「投擲持ちは攻撃より回復支援に専念! こっからは強いらしいからな!」
斬雨さんとジェイさんの指揮を始めとして、各PTリーダーが戦法をまとめていく。さっきまで大人数で連携して検証をしていた事も影響しているのか動きがよりスムーズになっている。そして準備が整ったPTから戦闘を開始していた。
俺達の連結PTもボスの足止めに向かっている。素早く戦略を決めて、行動に移さないとね。
「斬雨さん、魔力集中での威力はどんなもんか分かる?」
「……ここのウサギは見てないからわからねぇが、海でのイルカ相手の時は成長体なら即死。未成体で防御が平均的なやつで3割は削られるぜ。応用スキルともなれば、防御が低けりゃ1発で7割は吹っ飛ぶな。ま、対人戦ほど回避は難しくはねぇよ」
「……なるほどね。サヤ、レナさん、行動値は極力控えめで回避に専念して引き付けられるか?」
「……やってみないと分からないかな。でもやってみるよ」
「了解! 行くよ、サヤさん!」
「あ、レナさん、待った! レナさんはチャージの準備をしててくれ。その状態でサヤ、レナさんは上空で待機。ダイクさん、水のカーペットを頼めるか?」
「おう、任せとけ!」
よし、これで半覚醒の意識が戻るまではなんとか時間を稼げるだろう。でも折角の初手、しかもチャージ中となれば狙うしかない。
「ケイさん、何をする気ですか……?」
「まずはあのチャージ中の応用スキルを盛大に妨害するんだよ。ジェイさん、協力頼むぞ」
「……また何か案があるのですね?」
「そういう事。俺とジェイさんであれを潰すから、その後にサヤとレナさんは突撃して時間稼ぎ。ハーレさん、ヨッシさん、アルは遠距離からの支援を頼む」
みんなが頷いて了承したのを確認したし、作戦開始だ。まずはあの危険な攻撃のチャージが終わる前に妨害する!
「んじゃ、行くぜ。『移動操作制御Ⅰ』! サヤさん、レナさん乗ってくれ」
「お邪魔しますかな」
「おー、来たときにも乗ってたけどケイさんのあれと同じだね。ダイク、いつの間に完成させたのさ?」
「そんなのは後。さっさと乗ってくれ」
「はいはいっと。それじゃ準備してようかな。『魔力集中』『ファイアクリエイト』『操作属性付与』『重脚撃・火』!」
「それじゃ私もかな。『魔力集中』『アースクリエイト』『操作属性付与』『重硬爪撃・土』!」
「およ? サヤさん、応用スキル持ってたっけ?」
「さっきポイントで取ったかな。凝縮破壊はないけどね」
「あ、なるほどねー」
そういやサヤは休憩中に何かしてたっぽかったけど、言ってた通りにポイントで取得したんだな。ポイントが余ってる状態ならポイントで取っておいた方が間違いなく便利だろう。それにサヤの育成状態なら、おそらく連撃系の連鎖増強の方が先になるだろうしね。
それにしても明確にサヤとレナさんの銀光の強まり方が違うから、レナさんは凝縮破壊持ちだな。って、悠長にしてる場合じゃない。チャージが完了する前に仕掛けないと。
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 53/53 → 51/51(上限値使用:3)
よし、水のカーペットの生成完了。さてウサギの禍々しい銀光も強まってきているから急がないと攻撃が始まってしまう。
「ジェイさん、乗ってくれ!」
「わかりました。それで、何をすればよろしいので?」
「俺が水流の操作を使ってウサギに狙いをつけるから、岩の操作で流れに乗せて盛大にぶつけてくれ」
「……なるほど、了解しました。『アースクリエイト』『岩の操作』!」
即座に狙いを理解してくれたみたいだね。これで流すのはプレイヤーではなく破壊されても問題ない魔法産の岩のほうが良いからな。流石にぶっ倒される可能性もあるけど突撃してこいとは言えないし。
操作済みであれば昇華魔法にはならないと思うけど、もしこれで昇華魔法になったら周囲を巻き込む可能性もあるけどそうなったらごめんなさい!
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 50/51(上限値使用:3): 魔力値 171/174
<行動値を19消費して『水流の操作Lv3』を発動します> 行動値 31/51(上限値使用:3)
即座に上空でドーナツ状の水流を作り出し、そこにジェイさんが操作した岩を放り込み流れに乗せて勢いをつけていく。よし、昇華魔法にはならなかった。
お、ジェイさんも流石に昇華に辿り着いているだけはあるね。操作された岩は無駄に流れに抗うこともなく、どんどんと加速していく。ジェイさんの操作スキルの制御は高水準だな。これは期待以上だ。
「くっ!? ケイさん、これ以上は操作し切れるか怪しいですよ!?」
「もうこれだけ勢いがあれば充分! 行くぞ!」
「えぇ!」
狙いはもうチャージを終えたばかりのウサギである。上空の水流の流れをウサギの方へ向けて、岩を流していく。さてウサギが回避を選ぶなら流れを変えて追撃、迎撃を選ぶならこれでチャージの終わった応用スキルを相殺して、サヤとレナさんによる奇襲からの足止めへの連携だ。
俺達の攻撃に対してウサギが取った行動は岩を蹴り砕くという選択肢であった。やっぱりそう来たか。レナさんの踵落としにカウンターを仕掛けた時点で逃げより、迎撃をする可能性が高い事は予想していた。
そして岩は砕け散ったものの、水流は相殺されていない。水を追加生成して、このまま押し潰してやる! まだサヤもレナさんもチャージが終わってないみたいだから、少しだけ時間を稼がないと。
「サヤ、レナさん! チャージが終わり次第、攻撃で!」
「ほいさ! ダイク、水流の操作! ウサギのとこまで!」
「え、あれをやるのかな!?」
「普通に飛び降りるのでも良い気もするが、それもいいか。『アクアクリエイト』『水流の操作』!」
「行くよ、サヤさん! 挟み撃ちで!」
「そっか! うん、分かったかな!」
早速まとめに上げたあれをやるんだね。サヤとレナさんがダイクさんの作り出した水流に乗って勢いをつけていく。それほど勢いをつける時間の余裕もないので真っ直ぐな水流だ。……なんかサヤは竜に乗って、サーフィンみたいな事をしてるから何か違うけどまぁいいか。
あ、サヤが途中で水流から弾き出され……いや、わざとか!? サヤはあえて飛び出して勢いを利用しながら竜で飛び、ウサギを少し飛び越えた位置に着地していく。……通り過ぎてどうすんの? あ、そういう事か。これは俺の水流は邪魔になるな。即座に解除っと。
「チャージ完了、サヤさん行くよ! えいや!」
「レナさん、ナイス! これでどうかな!」
そして俺が水流を解除して解放されたウサギは、ダイクさんの水流で勢いをつけ魔力集中の効果のかかっているレナさんの重脚撃によって盛大に吹き飛ばされていく。その先にはウサギを飛び越えて待ち構えていたサヤが重硬爪撃を振り下ろしてウサギを地面に叩きつけていた。うっわ、地面が少し陥没してるし……。
多少のダメージは期待してたけど、既に1割近く削れているって思った以上にダメージがあるぞ。サヤとレナさんの連携攻撃は凄まじいものがあったね。
これでHPは3割か。2割までは行動パターンは同じらしいし、このメンバーなら迂闊に魔力集中ありの応用スキルでの攻撃を受ける事はないだろう。防御が強化されない分、自己強化よりも魔力集中の方が戦いやすいかもね。
「サヤ、レナさん、予定変更! 攻撃に注意しつつ、盛大に攻撃を叩き込め!」
「おっけー! 行くよ、サヤさん!」
「うん、分かったかな!」
とんでもない近接でのプレイヤースキルを持つこの2人なら、下手な小細工も要らなかったか。とはいえ、時間稼ぎではなく攻撃主体に切り替えたなら戦略の変更も必要だな。……よし、ここは2人の邪魔をさせないのが重要か。
「ダイクさん、俺と交互で水流の操作でボスの隔離! ジェイさん、斬雨さん達は雑魚を仕留めるか水流の外に追い出してくれ」
「あの2人の様子だと迂闊な手出しはむしろ邪魔ってか」
「……そうですね。了解しました。皆さん、そのように動いてください!」
「ホホウ、了解しましたので」
よし、これで雑魚の排除は問題ない。次はハーレさんとヨッシさんだな。……少し気になってる事もあるから、そっちの確認といこうか。
「ハーレさん、2人の邪魔にならないように狙撃は出来るか?」
「ふっふっふ! 私の新技を出す時が来たね!」
「よし、出来るんだな。そんじゃ狙いは、角を含めた顔面で任せた」
「ケイさん、反応が薄い!? 了解さー!」
出来ると思って聞いているから別に驚くほどでもないんだよな。当たってるかどうかは分からないけど、邪魔にならないように狙い撃つ手段なら思いつくものもあるしね。さて、これでウサギがどう出るかが問題だ。
「ヨッシさんは、状態異常を狙えるか?」
「んー、何度もは流石に無理だけどハーレの投擲に合わせていけば多分大丈夫だと思う」
「よし、それで充分だ」
「それじゃそれでいくね」
とりあえずこれで自己強化に切り替わるまでは削っていけるだろう。さて、アルには最重要な事を頼もうかな。
「……で、俺は何をすりゃいいんだ? 今のとこ、退避場所としての役目しかないんだが」
「……この乱戦じゃ流石にそれは仕方ないだろ」
「まぁな。で、俺を水流の外に配置しなかったのには理由があるんだろ?」
「お、流石に気付くか」
「当たり前だ。で、何をすればいい?」
「HPが2割を切った時の吹き飛ばし役。広範囲の未知の攻撃があるって話だしな」
「……なるほど、隔離もその為か。となると、クジラに切り替えた方が良いか?」
「そっちの方が良いと思うから、出来るだけ早めに頼む。具体的な攻撃を見ないとなんとも言えないけど、未成体ばっかの俺らだけなら耐えられる可能性はあるだろ。その後の回復のための退避場所の確保もよろしく」
「ま、仕方ないか。攻撃の性質がまだ分からんから、失敗しても文句言うなよ?」
「言わない、言わない」
「んじゃ切り替えてくるから、待ってろ。その間に死ぬんじゃねぇぞ?」
「それは心配いらないって」
よし、これでボス戦の攻略手順は完了。うまく行くかは実際やってみてだけど、即死する可能性があるのは成長体という話。HPさえ減らし過ぎていなければ、おそらくは大丈夫なはず。
さてと今回のボス戦の後半戦も頑張っていきますか! ま、アルが切り替えて戻ってきてからになるけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます