第284話 称号取得の再現実験
これからダイクさんも来るという事だし、次のボスの出現まではのんびりペースでいいか。軽くボス情報も確認してみたけど、3時間に1度は自動出現で、それ以外では戦闘が一定時間続けばボスが出てくるって事らしいから、倒していけば問題なさそうではある。
ちなみに戦闘時間の経過によるボスの出現の時間は徐々に短くなっているとの事。それと夜中の人が少ない時には人手不足で結構回復されてしまったらしい。やっぱり大人数で倒す方が楽っぽいね。
「ねぇ、ケイ。再現実験がどうとか言ってたけど、どういう事かな?」
「ん? ダイクさんが来て、さっきのあれを試すんだよ」
「……ダイクさんってどんな人だっけ?」
「あ、サヤとヨッシはご飯食べに行ってたから会ってないんだった!? ケイさん以外に水の昇華を持ってる人だよ!」
「あ、あの時の人かな」
「そっか、時間がちょうど6時で私とサヤはログアウトしてたんだっけ」
「どんな人なのかな?」
「ダイクさんはーー」
「ダイクなら大根だよ。二股に分かれて歩けるようになった時に、蹴り仲間に誘ったけど断られたんだよねー」
レナさんはダイクさんと知り合いなのか。っていうか蹴り仲間って何だろう。……大根が根で蹴りを駆使して前衛で戦うんだろうか。ちょっとシュールだけど見てみたい気もする。というか、ネタでそれをやってる人とかいそうだ。
「敵の出現は通常に戻っていますが、その方の到着を待ちますか?」
「交代で休憩しつつ、到着したら全力再開で良いんじゃねぇか? とりあえずあのウサギを仕留めきるまではやる気だろ?」
「えぇ、そうですね。どうしても真夜中は手が足りなくなって回復されてしまうようなので、今日の内に仕留めておきたいところですね。……ボス戦への参加回数を増やす為にあえて倒さずという手もありますが、それを始めると終わりどころが分からなくもなりますし」
斬雨さんもジェイさんも今日中にウサギを仕留めきるつもりでいるようだ。まぁ倒せるのならサクッと倒した方が良いよな。まだまだボスもいるんだし、そもそもまだ前半戦だしね。
ダイクさんも移動速度は早いから、雑魚戦をやっていても別に遅れるという事もないだろう。まぁ長期戦にはなりそうだから、交代で休憩しつつ雑魚戦の継続だな。
「細かい段取りはダイクさんが来てからって事で、とりあえず交代しながら雑魚討伐! みんな、それで良いか?」
「問題ないぞ」
「頑張ってやるぞー!」
「折角だし、可能な範囲で検証してみたらどうかな?」
「あ、それいいかもね」
「あー、それもありだな」
昇華の有無が条件に必須なのかどうかの条件探りは今いるメンバーでも行えるだろう。この手の条件潰しはダイクさんが来る前にやっていたほうがいいかもしれないね。その過程で雑魚を倒していけば良いんだろう。
「少し検証を行いますが、皆さん構いませんか?」
「おう、問題ないぜ」
「ホホウ、共闘中だからこそ可能な検証でしょうな。問題はありませんので」
それに続いて青の群集の他の人も、灰の群集のみんなも賛同してくれた。うん、ありがたい話だね。とりあえず軽い相談をしていき、1連結PT分のメンバーが検証チームとなった。他の人達は普通に討伐をしながら、検証用の雑魚敵の誘導もしてくれることになっている。協力、感謝です!
「よし、ジェイさん。可能な範囲で検証していくか」
「そうしましょう。まずはどのような内容でやりますか?」
「えーと、そうだな。昇華のない魔法と、昇華ありの魔法の組み合わせはどうだ?」
「そうですね。まずはその組み合わせから行きましょうか」
殲滅となっているので数を倒す必要はあるだろうという推測から、木の人が樹液分泌で虫系の敵を1ヶ所に集めた後にみんなで協力して木の人を回収。そして俺の水流の操作で周囲を覆って15体程の敵を隔離した。
まずはヨッシさんの毒魔法Lv1とジェイさんの土魔法Lv1の組み合わせでマッドポイズンを発動して毒の泥を浴びせてみたけれど、倒しきれずに失敗に終わっていた。……泥の量は多くなっていたけどこれだと威力不足だ。
「……これは妨害には効果的ではありますが、威力がいまいちですね」
「広範囲に毒を撒くにはいいけど、倒し切るのは無理みたい」
「なるほど、これじゃ殲滅にはならないんだな。よし、次!」
「昇華なしの複合魔法だとどうなのかな?」
「ホホウ、普通の複合魔法ではこの数の殲滅は無理ですな。……連発すれば可能性もあるにはありますが」
「ダメ元で連発でやってみるか?」
「えぇ、やってみましょうか」
威力のある複合魔法が必要そうなので、魔法Lv4同士の組み合わせを試す事になった。風魔法Lv4と火魔法Lv4で『フレアボム』という比較的広範囲の爆発魔法になるらしい。スリムさんが風魔法Lv4を、相性が良さそうな火魔法Lv4を持っている人が俺らの中にはいなかったのでここに来ている灰の群集の人が協力を申し出てくれた。
PTが同じになるようにメンバーの微調整した後に複合魔法の『フレアボム』を数発叩き込んで大量に倒したものの、『高原を荒らすモノ』は取れても『共闘殲滅を行うモノ』は得られなかったそうである。どうやら複合魔法では駄目で、称号の同時取得は条件ではない可能性もありそうだ。……多少の条件は絞れてきたか。
「これは思った以上に条件は厳しそうですね」
「やっぱり昇華魔法が前提になってそうだな」
「その可能性は高くなってきましたね。あの称号は昇華魔法の威力増大にも繋がりますので気軽には取らせてはもらえませんか」
「ところで、ちょっと気になったんだがよ。その称号で『魔力値増加Ⅱ』が手に入るって事は、『魔力値増加Ⅰ』が手に入る称号もあるんじゃねぇの? そっちは探らねぇのか?」
「……それもそうですね。そちらも気になるーー」
あ、斬雨さんの発言からしてマッチポンプの存在は知らないな。……え、そこでなんでいきなり無言になってこっちを見てくるの、ジェイさん? コケの視点移動でどうとでもなるのに、何故わざわざカニを操作してこっちを向いた?
「……妙ですね? 斬雨が気付く内容にあなたが反応しないというのも妙な話です」
「いや、俺だって見落とす事はあるからね!?」
「……いえ、灰の群集の皆さんが反応しないという事そのものが……さては、その情報は知っていますね!?」
げっ、反応が薄いってだけで勘付かれた!? うーん、教えるには俺の独断って訳にもいかないし、代わりになる情報でもあれば別なんだけどな……。よし、ここは知らぬ存ぜぬで通そう。って、おい!? 灰の群集のみんな、こっち見るな!? その反応は確信を深めさせるだけだって!
「どうやら知っているようですね」
「……心当たりはないんだけどなー?」
一応無駄な気はするけど、恍けるだけ恍けてみよう。……もうほぼ確信になってる気はするけどさ。
「恍けなくても構いませんよ。あると分かれば、自分達で探しますのでそれだけで充分です」
「あ、そう?」
「まぁ教えてくれるのであれば、聞きますが?」
「…………黙秘で」
やっぱりジェイさんは油断ならない!? 聞き出す気は無くても、隙あらばヒントとなる情報を狙ってくる気だ!? うーん、こっちも青の群集の情報を何か狙いたいところである。
お、そうしている内に水のカーペットの上で仁王立ちしている大根のダイクさんが到着したみたいだ。少し高度を下げて、俺達の目の前に飛び降りてきた。良いタイミングで来たね、ダイクさん!
「よし、到着っと! ん? ケイさん達、何やってんの?」
「主役が来たし、本命の実験の開始だ!」
「ちょ、ケイさん!? 何をそんなに慌ててんだよ」
うーん、事情の説明がし辛い。迂闊に話すとバレる危険性もあるしな。ほどほど情報管理では良いとはなってても、流石にこれはちょっとやりにくい。ジェイさんに乗せられると思っている以上に情報を持っていかれそうだしな。
「……ジェイ、ストップだ。折角の検証を棒に振る気か?」
「っ!? ……まさか斬雨に注意されるとは思いませんでした。いえ、これは私が悪いですね」
「だと思うぜ」
「ケイさん、申し訳ありませんでした。流石に先程のはやり過ぎです」
「謝ってくれるなら問題ないさー!」
何故そこでハーレさんが答える? いや、別に良いけどさ。それにしても斬雨さんが注意してくれるというのは意外だったね。てっきり暴走しがちな斬雨さんをジェイさんが抑えてる感じかと思ってたけど、今回は立場が逆だ。
「悪いな、ケイさん。盛大に興味を持つと少し配慮が足らなくなるとこがジェイの欠点でな」
「……いつも突っ走る斬雨に言われるのも癪ではありますが……」
「あー、まぁ気にすんな。暴走するのなら、うちのPTにもいるからな」
アルがフォローを入れてるね。うんうん、ハーレさんとかよく暴走して突っ込んでいって、サヤとヨッシさんに止められてるもんな。アルも物理的に暴走する時もあるし、ジェイさんが自分で抑えてくれるのであれば問題はないだろう。
「なんだかケイさんが盛大に自分の事を棚上げしてるような気がするよ!?」
ハーレさんの言葉は聞かなかった事にして、そろそろ話を進めよう。ダイクさんもやってきた事だし、本命の再現実験がこれで行える。
「……何がなんだかよく分からないんだが、再現実験はするんでいいんだよな?」
「えぇ、その通りです。初めまして。私は、青の群集のコケのジェイと申します。今回はよろしくお願いします」
「おう! 俺は見ての通り、大根のダイクだ。よろしくな! それにしても聞いてはいたが、カニとの共生ってのはケイさんと構成が似てるんだな」
「それに関しては私も驚きましたね」
他の人とも軽く自己紹介も進んでいく。まぁジェイさんと構成が似ていたのは俺も驚いたもんだ。まぁ同じ甲殻類でもカニとロブスターでは結構違うみたいだし、今は進化構成も主力スキルも違うけどね。あ、なんかレナさんがダイクさんの背後からにじり寄っていっている。
「ダイクー! 方向性変えて、蹴り大根に移行しない?」
「げっ!? レナさんもいたのかよ!?」
「『げっ!?』て何さー!? 少しの間だけど魔法を覚えるまでLv上げ付き合ったのにさー」
「そりゃ感謝してるけど、魔法にするから物理方向はパスって言ったじゃねぇか」
「まー分かってるって! 言ってみただけさー!」
ダイクさんとレナさんも、やっぱりお互いに知り合いなんだな。蹴り仲間に誘ったとか言ってたし、今の会話も含めて考えると一緒に活動してた時期があるみたいだね。まぁそれぞれに色々やってるんだから、どこでどういう接点があっても不思議じゃないか。
「さて、それでは再現実験を始めましょうか」
「そうだな。早速やるか」
「ダイクさん、そこそこ検証はしといたけど、昇華は必須な感じだぞ。あと荒らすモノの称号は関係なしの可能性が高い」
「お、それなりに検証済みか。まだ未確認の条件はあるか?」
「後は同時撃破数が最低何体かだな」
「なるほどな。なら、それを調べていくか。ジェイさん、それでいいか?」
「えぇ、構いませんよ」
そうしてダイクさんを含めたPT編成に変えてから検証を始めていく。1体ずつ同時撃破数を増やしていき、最終的には同時に10体撃破という事が判明した。……地味に何度も敵を1ヶ所に固めるのに手間取ったけども、肝心の討伐は半覚醒以外は1撃なのでトータルでの討伐時間はそれほど変わっていなかったようである。……いや魔力値の回復時間の分だけ長かったかな。
結局のところ、出し惜しんで隠し通そうとすれば入手出来ないような条件になっていたようだ。逆にちゃんと連携して、出し惜しまずに昇華を互いの群集で使えば条件的には簡単に手に入るようになっている。……こりゃ次に赤の群集に行った時にも使っとくべきかな。
「これで条件は『他の群集の人と昇華魔法を使い、同時に10体以上の敵を倒す事』で確定ですね」
「みたいだなー。検証、お疲れさん」
「あっ! みんな、あれ!」
「サヤ、どうした? って、ボス戦か!」
「へぇ、丁度いいや。参加していくか」
「みんなでぶっ倒すぞー!」
「よし、今日2度目のボス戦だ! 気合入れていくぞー!」
「「「「「おー!」」」」」
そして、検証が終わった頃に敵の数が減少し、再び地面から瘴気が溢れ出てきていた。本日2度目のボス戦がこれから始まるようである。さぁ、全力でぶっ倒そうか。ダイクさんもいるから、効率アップで行けるかもね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます