第280話 青の群集との共闘


 ボス戦が始まってからしばらくの間、攻防が続いていく。今はレナさんとヨッシさんの2人がかりで挑んでいる。ボスのウサギの大きさが大きさなので同時に何人もは挑みかかれないというのが少し難点か。まぁ敵の数自体が多いからそれほど困りはしないんだけどさ。うーん、これなら地味にティラノの方が戦いやすそう。


「あ、ハチが全部倒されちゃったね。それじゃ『並列制御』『アイスボム』『氷の操作』!」

「良い具合に凍結が入ったね! 追撃の『強蹴り』と、もう1発『踵落とし』!」

「やるね、レナさん」

「ヨッシさんこそ、状態異常がえげつないねー!」


 ヨッシさんの生成したハチを盾代わりに使いながら何度も状態異常を叩き込んでいく。1発辺りの効果時間は数秒という短時間ではあるけども状態異常の成功確率は3回に1回は決まっている。

 敵によって効き方は変わってくるんだろうけど、とりあえずこのウサギには麻痺と凍結は有効なようだ。他の毒も試していたみたいだけど、微毒、毒、腐食毒は一切効果なしだったらしいしね。


「そろそろ行動値が危ないから交代お願い」

「あ、そだね。気付いたら底付きかけてるよ」

「ほいよ。それじゃサヤ、行くか」

「うん、そうだね」

「そんじゃ交代よろしくー!」

「ケイさん、サヤ、よろしくね」


 とりあえず、行動値が尽き始めていたヨッシさんとレナさんと交代で俺とサヤが出る。他のPTとも連携しながら行動値を回復させつつの攻撃だ。当たり前だけど雑魚敵とは違って明らかにボスはHPが多いもんな。


「ホホウ。支援しますので、素早い交代を! 『羽飛ばし』!」

「邪魔はさせねぇってんだ! くたばれ、雑魚共! 『連閃』!」

「……まったく、今日はいつになく気合が入っていますね。『アースクリエイト』『砂の操作』!」

「そういうジェイこそ、盛大に使いまくってんじゃねぇか!」

「こ、これは必要があるからですよ! 早く交代を!」


 単純に攻撃役を交代をしようとしても戦っている相手を素直に逃してくれる訳もなく、ボスや雑魚敵が襲いかかってくるのでそのタイミングでの足止め役が必要となってくる。そんな雑魚敵をジェイさん達が盛大に蹴散らしていく。

 おー、斬雨さんの連続斬りが見事に次々と雑魚敵を両断していく。1体倒す毎に強まっていく銀光が応用スキルの強力さを示しているね。連撃系の応用スキルはこういう乱戦では猛威を振るうんだな。……前に戦った時よりも動きに無駄が少なくなってる気もするし侮れないね。

 ジェイさんはジェイさんで地面に砂を敷き詰め、足場を悪くして敵の行動の阻害をしている。味方には影響が出ないように調整しているのは流石だ。カニでの位置取りも上手い感じだしね。このコンビ、前に見た時よりも相当凶悪になってるな。


「まったく、ボスともなると足止めも簡単じゃないな。『並列制御』『アクアクリエイト』『コイルルート』!」

「まったくさー! 泥団子の『強投擲』!」

「よし、ハーレさんナイス!」

「えっへん!」


 そして攻撃役交代時の肝心のボスの足止めはアルとハーレさんが専任で行っている。アルが並列制御で複合魔法のルートレストレイントを発動して根で捕縛して移動を阻害、そこにウサギの顔を狙ってハーレさんが泥団子を投げていくという戦法である。

 ハーレさんの泥団子は、ちゃんと当たりさえすれば妨害効果がかなり高い事が判明した。まぁ足止めをしてからでないと命中させるのが難しいらしいけども。とにかくこれで完全に隙が出来た!


「行くぞ、サヤ!」

「分かったかな!」


 サヤは四足歩行に切り替えて一気に駆けていく。よし、俺も行かないとな。一気に距離を詰めるなら、あの手段に限る! 視界をコケに切り替えて、ロブスターの方向転換も良し。


<行動値1と魔力値4消費して『風魔法Lv1:ウィンドクリエイト』を発動します> 行動値 49/50(上限値使用:4): 魔力値 110/114


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を4消費して『風の操作Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 45/50(上限値使用:4)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を4消費して『体当たりLv2・土』は並列発動の待機になります>  行動値 41/50(上限値使用:4)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 前に試した時は勢いがつき過ぎて跳び過ぎたけども、今回はこのままぶつかっていくのが目的だから問題ない。風の操作で勢いをつけた上で、ロブスター発射!


「ケイ、速すぎかな!? あっ!」

「すみません、サヤさん! 少し制御を誤りました……」

「うん、大丈夫かな!」


 思った以上に勢いでサヤを追い抜いたけど、攻撃を兼ねているからむしろ好都合! よし、ウサギへと直撃した。あ、運良く朦朧も入ったっぽいね。

 サヤは声から察するにジェイさんの砂に足を取られてしまったようである。まぁ、転けたような様子もないので問題ないのだろう。すぐに隣まで追いついて来たしね。


「……それにしても少し見ない間に相変わらず手の内が増えていますね」

「ホホウ、そのようで……」

「だけど、味方だと頼もしいもんだな」

「えぇ、そうですね。雑魚敵の殲滅に戻りますよ!」

「おう、やってやらぁ!」


 こっちとしてもジェイさんや斬雨さんが味方で雑魚敵の露払いをしてくれるというのは頼もしいものである。それに手の内が増えてるのはジェイさん達だって同じだろう。土の昇華と思わしきものはいくらか見せてもらったしね。


「ヨッシ、レナさん! ほいほいっと!」

「ハーレ、ありがと」

「果物、ありがとねー! HP減ってないけど」


 そして行動値の回復に退避したレナさんとヨッシさんに向けて蜜柑が投げ渡される。そんなに攻撃を受けまくる事はないにしても全くの無傷という訳ではない。……ただし、レナさんは除く。ま、どうしてもヤバい時にはハーレさんが口元めがけて狙撃しているので今のところ死亡者はなしである。

 さてと、さっきの体当たりでHP5割まで減ってきた。あと2割削ればこのボス戦は一旦終了のはず。


『……ウッ、……アバレ……サセ……ナイ……!』


 お、ウサギのうめき声が聞こえてきた。それと同時に全身の禍々しい光が少し収まっていく。どうやら意識が戻った事で自己強化の発動をキャンセルしたようだ。……あれ、気のせいかな? 角が少し動いたような気もするようなしないような……?

 うーん、とにかく今は半覚醒の意識が戻っているから攻撃のチャンスタイムだ。考えるのは後回し! よし、まだ魔力集中もちょっと効果時間は残っている。水流の操作からの殴打重衝撃を叩き込むとすると……並列制御で行動値はぎりぎり足りるか?


「チャンスですね。灰の群集の皆さん、総攻撃の用意を!」

「遠距離攻撃をぶっ放した後に、近距離攻撃を叩き込んでいけ! 雑魚の半覚醒は青の群集で受け持つから無視でいい!」

「ホホウ、全力でお願いします。一気に削るチャンスですので」


 最大の攻撃チャンスが到来である。それに呼応して、他の灰の群集メンバーでチャージ系の応用スキルを持っている人が次々とチャージを開始していく。

 結構な人数がいるし、みんなが叩き込んでから水流の操作でアルを突っ込ませて、その後に俺とレナさんとサヤで近接を叩き込むのでいいかな。あ、でもレナさんは行動値の回復が必要か。


「あ、ケイさん、ハーレを飛ばしてたあれって私にも出来る? ハーレのただの蹴りが出来るなら、わたしの重脚撃なら多分結構な威力になるよね」

「出来るけど行動値は足りるか?」

「最低10あればなんとかなるから、他の人の攻撃が済んでからね。この人数じゃ同時に攻撃は出来ないし」

「確かにどうしても順番にやる必要があるから、無駄な時間も……あっ!」

「え、何? その『あっ!』って!?」


 どうしてもウサギの大きさ的に大人数での同時攻撃が出来ないから、順番に攻撃していく必要がある。まぁ間抜けな感じだけど攻撃の為の順番待ちだよな。……それを流れ作業的に一気に流していけば、早くなるよな。まぁ物理的に水流の操作で流して、勢いもつければ威力増強も狙えるんじゃないだろうか?

 よし、流石に無断でやると不味いだろうから事情説明をしてからだな。その間にハーレさんとヨッシさんに遠距離攻撃をしていてもらおう。アルは……よし、可能であればだけど、最後の1撃を任そうか。


「チャージ系の応用スキルを持ってる人、聞いてくれ! さっきのレナさんの一言で作戦を思いついた」

「え、わたしの一言!? ケイさん、何やる気になったの!?」

「それは今から説明する! 先に魔法や投擲系の遠距離攻撃を持ってる人は、撃ち込んでてくれ!」

「わかった、先にやってるね! ヨッシ、やるよー! 『アースクリエイト』『爆散投擲』!」

「何かとんでもない事を思いついてそうだけど、まぁ大丈夫だよね。『並列制御』『アイスボム』『ポイズンボム』!」


『……イ……マ……ノウチ……ニ……!』


 よし、ヨッシさんやハーレさんを筆頭に先に次々と攻撃を叩き込んでいっている。さて時間的猶予がどのくらいあるのか知らないから、急いで用意をしていかないと。半覚醒も意識を取り戻している間に急かしてきてるしね。


「ジェイさん、確認! 意識が戻ってる時間は!?」

「今は支配度3ですから、2〜3分といったところですね。まだ未確定な範囲の情報ではありますが、支配度が上がればどんどん短くなっていくようですよ」

「なるほどね。とりあえず今は2〜3分か。それだけあれば充分だ!」

「……一体何をする気ですか?」 


「おい、コケの人の作戦だってよ?」

「お、良いじゃん。俺、実物に関わるのは初めてだ」

「今度は『ビックリ情報箱』からは何が出てくるかな?」

「え、何、その呼び名?」

「コケの人……ケイさんの灰の群集でのあだ名。まぁ多分見てれば意味は分かると思う」

「……私としては、そのあだ名に納得しましたよ。なるほど、灰の群集ではあれは日常なのですね」

「そういう事だね。で、具体的に何すれば良いのかな?」


 何か変な風にざわめきが起きてるけど、そこは気にしないでおこう。本音を言うならばそのあだ名を他の群集へと広めないでもらいたい。まぁ、多分この要望は言うだけ無駄なんだろうけどなー。まぁいいや、さっさと話を進めよう。


「とりあえず、簡単に説明するぞ! まずは俺が水流の操作で大きな水流を作るから、みんなはその中に飛び込んでくれ! あ、チャージ終わった状態でな! そのまま勢いを乗せて、それぞれ順番にウサギに突撃!」

「……アッハッハハハハ! 相変わらずぶっ飛んだ発想が出てくるな、おい!」

「なるほど、そういう手があるか。効率重視かつ威力増強も狙うなら悪くない」

「コケの人、質問!」

「はい、そこのネズミの人!」

「要はウォータースライダーみたいな感じってイメージで良い? あれに次々と流されていって、出口をウサギに設定するって感じ?」

「お、良い例え! そう、そんな感じ! あ、そういうのが苦手って人は無理しなくて良いぞ」


 流石に苦手な人に無理強いする気はないからね。さてと、反応はいい感じだけどどうだろう? 誰か1人を流すよりこっちの方がダメージは出せると思うんだけど。


「よし、俺はその案に乗ったぜ。普通にやるより一気に削れそうだ」

「わたしも乗った! でも、ぶつかった後はどうするの? 邪魔にならない?」

「ホホウ、それでしたら攻撃後の方は同じ連結PTの青の群集の方で回収を行いましょう。その後は周囲の雑魚敵の相手というのでどうですかな?」

「まったく、とんでもない事を考えてくれますね。えぇ、その役目は青の群集が引き受けましょう。皆さんいいですね?」

「はっ、こんな面白そうなもん見逃す手はねぇ! 異論はねぇぜ!」


 次々と灰の群集、青の群集の両方から賛同の声が上がってくる。よし、これなら問題ないな。なんだかんだで共闘している内に連帯感も強まってる感じだしね。


「それじゃ作戦開始! ウサギが吹き飛ばないように、木の人達で拘束を維持してくれ! アル、その辺の指揮任せていいか?」

「もう決まってんのに、今更、嫌も何もねぇよ! 任せとけ!」


 さてと攻撃のチャンス時間はそれほど長くはない。ここで一気に削りきりたいとこだな。チャージが終わり始めている人もいるし、早く始めよう。


「……ハヤ……ク……!」


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 40/50(上限値使用:4): 魔力値 107/114

<行動値を19消費して『水流の操作Lv3』を発動します>  行動値 21/50(上限値使用:4)


 あまりやり過ぎてもあれなので、大きめにした螺旋状に3回転くらいの水流を作り出す。一応今は水流を循環するように上へと戻しているけど、撃ち出すときには切って勢いを殺さないようにしよう。そこからは水の追加生成をしながらだな。


「……少し開始位置が高いですね。では、ここは少しお手伝いしましょうか。『アースクリエイト』『岩の操作』!」

「おぉ、石の階段が出来た!? ジェイさん、ナイス!」

「いえ、共闘ですしね。ここから先はお願いしますよ」

「おうよ! それじゃ攻撃開始!」


 その宣言を行えば、チャージを終えた人から次々とジェイさんの用意した岩の階段を登り、水流の上部へと向かっていく。出口付近では雑魚の迎撃を行いながらも、回収の為に青の群集の人達が待機していた。


「よっしゃ、一番乗り!」

「おら、行くぜー!」

「みんなでボスをぶっ飛ばせー!」

「今日はここに来てて良かったよ!」


 そして次々と水流に流され、勢いを増してウサギへと様々な応用スキルを叩き込んでいく。まぁこう見てみると爪や牙、頭突きに体当たりなど、色んな種類があるようだ。……凝縮破壊を持ってる人はほんの一握りっぽいけどね。あれを持ってるらしき人は露骨に銀光の輝きが強いようで見ればすぐ分かった。

 それでも応用スキルというだけで結構な威力もあるので、次々と攻撃が直撃していきみるみる内にHPが削られていく。ウサギを拘束している木の人も、攻撃を終えた人を回収してくれている青の群集の人も、その後の雑魚迎撃もみんなで結束して行えている。


「いやー、ケイさんは相変わらずとんでもない事を考えるね?」

「単なる思いつきだけどな」

「それが怖いとこだよねー。さてと、それじゃ私も行ってくるよ。『重脚撃』!」


 それだけ言い残して、チャージしながらレナさんも攻撃をしにいった。順番的には最後の方かな。


「サヤは行かないのか……?」

「……まだ応用スキルは無いし、単発系はそれほど強くないからね。ケイみたいに一応ポイントで取るだけ取っておこうかな?」

「それがいいと思うぞ。凝縮破壊がなくても威力は充分あるし、サヤのクマなら進化ポイント有り余ってるんじゃないか?」

「うん、まぁね。後で取っておくよ」


 何だかんだで、サヤは連撃の方が強いからね。チャージ系の方を自力取得するならば時間もかかるだろうから、ここはケチらずに取っておくべきだろう。

 あ、そろそろこの戦闘が始まってから合計3割は削れそうだ。最後はレナさんの重脚撃になりそうである。


「どうせ今回は逃げられるんだろうけど、くたばれー!」


『グゥ……ア……ァァ……!?』


 そのレナさんの1撃を受け、ウサギは断末魔の悲鳴の様な声を上げる。よし、この段階でのHPの削り量は達成だ。……ん? ウサギの脚が禍々しい色に光り始めていく……? あ、また無言になったって事は意識が無くなったのか。


「ちっ、拘束が破られたか!」

「逃亡体勢に入ったようですね。ここからは足止めの雑魚敵の大量出現になるので、現時点では深追いは不要でしょう。各自、迎撃用意お願いしますよ!」

「はっ、さっさとぶっ倒して今回は終わりにしてやるぜ!」


 そうしてウサギは脱兎の如く、凄まじい勢いで逃げ出していった。……まぁやろうと思えば追撃も出来るんだけど、昨日の夜に割に合わないという検証結果は出ている。無理に追撃していく必要もないだろう。

 さぁ、次はボスを逃がす為の足止めの行動パターンに変化した雑魚敵の一掃と行こうじゃないか! それでこのボス戦は終了だ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る