第279話 到着してすぐに


 <『始まりの森林深部・青の群集エリア2』から『リリーフ高原』に移動しました>


 さて到着しました、青の群集の共闘イベントエリア! 昼の日ほどハッキリは分からないけど、それでも暗く淀み、禍々しい雰囲気はここでも変わらないらしい。これは何処のイベントエリアに行っても同じなのだろう。

 ここも赤の群集のフレッシュ平原と同じで結構な人数が集まって、激戦を……してないな。あれ、妙に敵の数が少ない? あ、フクロウの濡れたらスリムさんが飛んできた。


「ホホウ、皆さん来ましたので?」

「見りゃ分かるだろ、スリム」

「ホホウ、それはもちろん。それに実に良いタイミングですな」

「……ちょうどボスの出現ですか」


 みんなで軽く挨拶を交わしてから周囲の様子を改めて観察していく。そういえばこの敵が少なくなっているという状態はまさしくティラノが現れた時に似ているな。という事は、これがボスの現れる前兆か。凄いタイミングで来たもんだ。


「お、コケの人達が来たか。それじゃスリムさん、PT編成を元に戻すぞ?」

「ホホウ、無理を言ってすみませんので。助かりました」

「良いって。共闘中だしな! コケの人のPTも宜しく頼むぜ!」

「おう、任せとけ!」

「よし、強力な増援も来たしボス戦やるぜ!」

「「おう!」」


 俺達が今連結しているPTにいた3人の灰の群集の人はやっぱり他のPTを分割して調整をしていたらしい。灰の群集の3人が抜けて他の集団へと向かって、入れ替わりで3人の青の群集の人がPTに入ってきた。



 ほどほどに挨拶をしている内に、大量の瘴気が地面から吹き出してくる。さて、ここから本格的にボス戦の開始である。そういや2度目以降のボスの出現ってどうなってるんだろうか。


「……マタ……ココニ……テンイ……!?」


 そして吹き出している瘴気の中から苦しげな声が聞こえてきた。瘴気の中からボスが突然現れたようである。なるほど、ボスの再出現は何処かから歩いてくるとかいう訳ではなく吹き出した瘴気の中へと転移してくるのか。


「……ニ……ゲ……」


<ワールドクエスト《地の底にいるモノ》のボス戦に参加しました> 参加回数:2


 その言葉と共に吹き出している瘴気はボスに吸い込まれる様に薄れていく。そして徐々にここのボスの正体が見えてきた。禍々しく黒い体毛に、脈打つ様に纏う瘴気、特徴的なのはリアルにいるものよりも明らかに強力そうな脚と額に生えているネジのように渦巻いている一本角だろう。

 なるほど、ここのボスは70センチくらいはありそうな角ありウサギか。……普通のウサギよりは大きいし、俺のPTでこれ以上の大きさはサヤとアルくらいなもんだけど、この大きさだとティラノよりも戦いにくそうだね。


<行動値を3消費して『識別Lv3』を発動します>  行動値 50/53(上限値使用:1)


『強蹴ウサギ・纏瘴』Lv3

 種族:黒の暴走種

 進化階位:未成体・黒の暴走種

 属性:瘴気

 特性:蹴撃、半覚醒、傀儡(支配度:3)


 角要素に関しては特に何もなし。基本的にはティラノと大きくは変わらなくて、HPは残り6割ほど。違う所といえばLvと支配度がこちらの方が高い。ティラノってLv1だったけど、これってボスによってLvが変わるのか?  


「ジェイさん、少し確認」

「なんですか、ケイさん?」

「……Lvってどうなってんの? ボスによってLvが違うのか。あと角要素はどこいった?」

「角については不明ですね。……質問に質問で返すのはどうかと思いますが、最後にまとめを確認したのはいつでしょうか?」

「えーと、晩飯食う前だから6時頃?」

「……そのタイミングだと更新の直前でしたか。Lvに関しては新情報が上がってるはずなので確認を……と言いたいですが、そうも言ってられませんね。来ますよ! みなさん、迎撃開始!」

「みたいだな!?」


 そういう言い方をするという事は俺が見た後に最新情報が追加されているのか。その中にLvに関する情報があるんだな。……この辺はどうしてもタイミングが関わってくるもんだね。角要素については戦ってみれば分かるかな?


 ボス戦の参加した回数がカウントされた後から無言になったウサギは、瘴気の絡まりを大量に吐き出しそこから大量の瘴気強化種が出現していき、どこからともなく半覚醒らしき黒の暴走種も現れていく。再出現したボスは意識が無くなった状態で大量の雑魚敵の生成から始まるようである。


「識別持ちは半覚醒と進化階位の確認して下さい! 各PTリーダーはその情報に合わせて割り振りを!」

「おうよ、ジェイ! 『識別』! このカマキリは成長体の瘴気強化種だ!」

「こっちは半覚醒の未成体! このイタチは灰の群集のPTに任せた!」

「任せて! こっちのイノシシは未成体の瘴気強化種だね。こっちは任せるよ!」


 うっわ、数多いな。でも、昨日の赤の群集との共闘より戦力バランスは良さそうだ。識別を持っている人が即座に判断していき、各PTのリーダーがそれを取りまとめ戦力を適切に振り分けていく。

 ……少し出遅れた感があるから、このスムーズさは凄く見える。さて俺らもしっかり動かないと。


「ハーレさん、新情報の確認を頼めるか?」

「はーい! 了解です!」

「情報はそれで良いとして、ジェイさん、俺らはどう動けば良い?」

「ケイさん達はボスへの攻撃に専念してください。おそらくこの中では最大戦力でしょうし」

「ボスの相手をすればいいんだな?」

「えぇ、お願いします。私達はその露払いですね。斬雨、行きますよ! 『アースクリエイト』『砂の操作』!」

「おうよ! 雑魚共は俺らに任せとけ! 『魔力集中』『乱斬り』!」


 ジェイさんは大量の砂を生成して雑魚敵に叩きつけるようにして操作をし、ボスへの道をこじ開ける様にした後に大量の砂を絡みつかせる事で動きを制限していく。そこに斬雨さんが突撃していき、それに呼応する様にその敵達の相手を割り振られた他の青の群集の人達が突っ込んで行った。

 攻略手順は大体決まっているようである。さて、全体の3割削ればとりあえずこの1戦は終わりって話だし、時間をかけると面倒だという話でもある。サッサとやりますか。


「『強爪撃』! くそっ、このウサギは前回の時よりちょっと素早いぞ!?」

「支配度3ともなるとそうなるか! おーい、コケの人のPT頼む!」

「ホホウ、時間は稼ぎますぞ。『コイルウィンド』!」


 割り振りを行ったとはいえ確実にその通りになる訳でもなく、灰の群集のPTがウサギの標的になっているようで、キツネの人が右往左往しながらも迎撃に当たっている。これって割り込んでも大丈夫なやつかな?


「ジェイさん、これPT連結してないとこに突っ込んでも大丈夫か?」

「ボス戦の最中であれば割り込んでの攻撃も通常状態として判定されるのでそれは問題ありません! ただしフレンドリーファイアだけにはご注意を! ……色々知ってるかと思えば、微妙なとこで細々と情報が抜けてますね!?」


 なんか盛大にツッコまれたけども、色々あったんだし仕方ないと言い訳させてもらおうか。……まぁ移動中に確認すべきだったとは思ってるけどさ。


<行動値上限を2使用と魔力値4消費して『魔力集中Lv2』を発動します>  行動値 53/53 → 51/51(上限値使用:3): 魔力値 110/114 :効果時間 12分

<行動値を2消費して『鋏強打Lv2』を発動します>  行動値 49/51(上限値使用:3)


 とりあえず、こっちにふっ飛ばされてきた黒の瘴気支配種のカブトムシを叩き落として仕留めていく。……獲得進化ポイントは後でまとめて確認しよう。いちいち見てたらきりが無い。


 みんなもそれぞれに近付いてくる敵を撃破していく。斬雨さんを筆頭に青の群集も灰の群集もボスへの道を空けてくれているが、中々に敵の数が多い。それにどうやら昨日のティラノの時よりも雑魚も強くなってる気がするね。こりゃ、ボスのHPが減れば減るほど激戦化か?


「最新情報の確認完了です! HPが2割減るごとに支配度が1上がって、その後に逃亡して再出現した時にLvが1上がってるんだって! HPの割合は変わらないけどHP自体がLvが上がって総量自体は増えてるみたいだってさ! あと全体的にステータスも上がってる可能性があるそうです!」

「その辺はプレイヤーと同じだね! それじゃ蹴り勝負では負けられないから先に行くよ! 『魔力集中』!」


 それを聞いただけでレナさんは即座にボスに向かって駆けて行った。どうやら同じ蹴り主体の敵という事で何か思う所があるみたいだし、ハーレさんが情報の確認を終えてくるのを待っていたようだ。素早く敵の隙間をくぐり抜けていきウサギへと接敵していく。ま、レナさんなら苦戦するような事はないだろう。

 Lvが上がればステータスもHPも増えるからその分だけ少し強くなる訳か。そしてLvが上がるタイミングは逃亡して再登場するまでの間。支配度はHPを減らせばそれだけでその場で上がるんだな。


 レナさんに少し遅れて、俺達も本格的なボス戦への参戦開始である。……中々ボスまで辿り着けそうになかったので、アルを飛ばして上から移動した。うん、みんな雑魚敵を仕留めて道を作ろうとしてくれてたのになんか申し訳ない。……流石に連結していない青の群集の人達ごと吹き飛ばしたくなかったんだ。


 それにしてもこの乱戦状態かつ敵があの大きさだとアルの巨体は活かせそうにないな。……よし、どうも軽く見た感じでは動きが素早い感じだからアルには動きを制限してもらって、ヨッシさんにも状態異常を狙ってもらおうか。


「アルは根の操作で行動方向を制限、ヨッシさんは麻痺毒か凍結狙い、ハーレさんはアルとヨッシさんの援護、サヤは俺と突っ込むぞ!」

「おう、任せとけ」

「状態異常だね、任せて。『並列制御』『ポイズンクリエイト』『アイスクリエイト』『同族統率・氷毒』。やった、成功! 行け、ハチ1〜3号!」

「邪魔するように狙撃すればいいんだよね!? 頑張るよ!」

「うん、分かったかな!」

「それじゃ行動開始!」


 それと同時にみんなが動き出す。アルは地面に一旦降り、クジラではなく木の操作をメインに切り替えていく。そしてアルの木から狙い撃つのがハーレさんとヨッシさんである。っていうか、ヨッシさんが生成したハチは見た目が本体のハチにそっくりである。そうか、並列制御を使えば同時に2つの属性を持たせられるのか。


 生成されたハチが俺達よりも先行していくが、既にレナさんはウサギと蹴り合っていた。キツネの人も一緒に戦っている感じだね。


「甘い甘い甘い! ボスと言ってもこの程度? 『双連蹴』! ほら、そっち行ったよ!」

「おっと、こりゃがら空きだ。『強爪撃』!」

「……これはレナさんの独壇場かな?」

「やっぱり強いよな、レナさん」


 既に結構一方的な展開にはなっているけども、ウサギのHP自体はそれほど減ってはいない。……というか、HP自体が普通より多そうだ。って、全身がなんか禍々しい感じに光り出した。そういえば魔力集中や自己強化を使ってくるってあったっけ。

 全身が光っているという事はこれは自己強化の方か。それならば全体的に強化されていると見たほうがいいな。……移動速度も上がっているみたいだね。


「おっと、素早くなったね。でも、この程度なら! 『踵落とし』! って、およ?」

「レナさん!? 『根の操作』!」


 意外と大丈夫かと思ったら、飛び上がって叩きつけるように放たれたレナさんの踵落としに合わせてウサギが地を蹴って、レナさんの攻撃を迎撃する様に回し蹴りを放っていた。そして力負けするようにレナさんが弾き飛ばされていく。……ボスなだけあってプレイヤーよりも自己強化の効果は強力なようである。

 吹き飛ばされそうになったレナさんをアルが根で絡み取り、元の位置へと戻していく。地味に飛び跳ねる脚力が凄まじいみたいだな、あのウサギ。


「おぉ、アルさん、ありがとね。ちょーっと、甘く見てたかな? あれ、多分だけど蹴りのカウンタースキルだね。あれ、私は持ってないんだよねー」

「レナさん、気を付けろよ。ボス相手に単独は流石に舐め過ぎだぞ」

「あはは、アルさんに怒られた。ま、ごもっともで」


 レナさんの蹴りに力押しで勝つとは意外と強敵かもしれないね。今の段階では自己強化や魔力集中は稀に発動ってなってたけど、次の段階ではこれが標準と思っても良いのだろう。それにしても稀にしては発動早かったなぁ……。

 これは周囲の雑魚敵の数も含めて結構ハードになりそうだ。でもこの段階が倒せるなら、基本的には問題もないだろうね。頻度が上がるだけで強化幅はここまでって事だろうし。


「さてと、これは昨日のティラノと同じレベルと考えると痛い目を見そうだな。まずは足止めか」

「ホホウ、支援しますので。『コイルウィンド』!」

「それらは私達の役目ですからね!」

「アル、ヨッシさん、ハーレさん!」

「おうよ! 『並列制御』『スタブルート』『スタブルート』!」

「了解! 『並列制御』『ポイズンボール』『毒の操作』!」

「いっくよー! 『魔力集中』『アースクリエイト』『散弾投擲』!」


 ジェイさんが砂の操作で地面を砂で覆っていき、それから逃げようとしたウサギが砂に脚を取られバランスを崩していく。そこにスリムさんの風の拘束魔法を狙っていくが、バランスを崩した状態で地面を蹴り飛ばして回避していく。

 流石に回避に無理があったのかアルの根の串刺し攻撃を直撃は避けながらも受けていき、毒の操作で制御されたヨッシさんの麻痺毒の毒弾と、ハーレさんの砂の散弾も命中した。お、麻痺毒が入ったみたいだね。


「麻痺は有効なようですね。まだ麻痺に関しては確認が取れていなかったのでありがたいですが、効果時間はどうでしょうか」

「分からないなら、今のうちかな。『魔力集中』『アースクリエイト』『操作属性付与』『爪刃乱舞・土』!」

「ま、効いてるうちにやるよな」


 麻痺が効いている内にHPを出来るだけ削っておきたい。……効きはしてもボス相手となると長時間効き続けるとも思えないからな。殴打重衝撃のチャージでぶん殴りたいとこだけど、チャージ中に麻痺が切れても厄介だ。

 ここは手堅くいって、意識を取り戻した時に応用スキルの大盤振る舞いといくか。おそらく正攻法だと思われる攻略方法は試しておきたいしね。


<行動値1と魔力値4消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 48/51(上限値使用:3): 魔力値 106/114

<行動値上限1を使用と魔力値2消費して『操作属性付与Lv1』を発動します>  行動値 48/51 → 48/50(上限値使用:4): 魔力値 104/114


 あ、やば。もう麻痺が切れた。思った以上に効果が切れるのが早い。これはヨッシさんが異常付与の特性があるからぎりぎり麻痺が入った程度のもんか。……短時間とはいえボスにも効くとは地味にすげぇな、ヨッシさんの毒。

 麻痺毒が切れたけども今はサヤの連撃が上手く決まっている最中である。よし、サヤの攻撃が終わりそうな位置に移動して、追撃を狙おう。……よし、サヤの攻撃がもう終わる直前だ。狙うなら、今!


<行動値を2消費して『鋏強打Lv2・土』を発動します>  行動値 46/50(上限値使用:4)


 そしてサヤの連撃に繋げるように、ウサギに向かって下から顎に向かって振り上げる様に叩きつける。鋏強打の攻撃の向き指定は多少角度は変えれるけど上から下へか、下から上に限られるからね。……朦朧を狙ったけど、流石に駄目か。


「意外とタフだねー? 自己強化で防御も上がってるからかな?」

「まだ1割も削れてないよね!?」

「流石はボスって事か」


 さてと無茶苦茶強いという感じはしないけど、意外とタフだとは思うね。初期の登場したばっかなら簡単にHPは削れるけど、強化されてきたらそれほど簡単ではないらしい。ま、これで1撃で終わる方が拍子抜けではある。

 まぁ今は自己強化も発動中で、半覚醒の意識もない。多分だけどダメージの与えにくい状態なんだろうね。周囲では雑魚敵の掃討も進められているし、これは少人数じゃきついだろうな。PT連結があって大人数での戦闘が前提って事か。さぁ、半覚醒の意識が出てくるまではボチボチHPを削りつつ、この状況で粘ろうかな!

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