第251話 共闘の必要性


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ハイルング高原』に移動しました>


 高原に辿り着いたけど、昨日の澄んだ様子はなく空気が淀みきっていて薄暗い……。これは精神生命体達の故郷が滅んでいく途中の空模様に似ている気がする。……嫌な雰囲気だな、これ。


「……さっき来た時とは全然違うかな」

「うー! ここ、もっと清々しい場所だったのにー!」

「はいはい、そういうイベントだからね」

「イベントが終われば元に戻るだろ。さてと……」


 周囲を見てみれば、既にあちこちで戦闘が始まっていた。その中に見覚えのある姿が飛んでいる。あれは紅焔さんとソラさんか! 何かと戦っている様子だけど、あんまり良い状態ではなさそうだ。


「紅焔さん達がいるから、あそこに行くぞ」

「うん、それが良さそうかな」


 軽く見た感じではどこの戦闘でも芳しい様子とは言えなさそうだ。敵の数は多いみたいだけど、苦戦しているというよりは戦いにくそうにしてる……?


<ケイが成長体・暴走種を発見しました>

<成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>

<ケイ2ndが成長体・暴走種を発見しました>

<成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>


 ん……? 黒の暴走種の発見がなんで今出てくる? 敵は黒の瘴気強化種じゃないのか? 状況が良く分からないな。よし、とりあえず紅焔さん達のとこに辿り着いた。まずは色々と確認していかないと。


「紅焔さん、ソラさん、どんな様子だ?」

「お、ケイさん達か。こいつら、半覚醒が混じってやがるぞ」

「これは結構厄介な感じだね」

「……半覚醒ってマジか」


 今、紅焔さん達が戦っているのは……これはイタチかオコジョかそんな感じか。普通に空中を飛び回ってるけども、まぁ普通飛ばないモノが飛ぶのは最早当たり前ではある。俺自身が人の事を言えないし。

 とりあえず識別して状況を把握しておこう。情報の確認は大切である。


<行動値を3消費して『識別Lv3』を発動します>  行動値 48/51(上限値使用:2)


『鎌イタチ』Lv18

 種族:黒の暴走種

 進化階位:成長体・暴走種

 属性:風

 特性:斬撃、半覚醒、傀儡(寄生)


 なるほど、特性に傀儡(寄生)ときたか。……これは荒野の隣の草原エリアで見たやつに似ている。あの時は確か傀儡(?)だったっけ。そして半覚醒ってのが厄介なところか。でも、紅焔さんがいて相手が格下の成長体なら……。


「ケイ! イタチの首筋に何かいるかな!」

「だろうね! こいつら、多分だけど黒の暴走種と黒の瘴気強化種の共生進化みたいなもんだろうな。いや、この場合は支配進化か?」

「……そういやそんな情報もあったな。なんで半覚醒になってるかは知らんが、本体は首筋にいるやつか!」

「紅焔さんとソラさんは今は2人か!?」

「おう! って、そういう事か。ソラ、一旦PT解散するぞ」

「そういう事だね。了解だよ」


 人数的には問題ないから、1つのPTにしてしまおう。2人にPT申請を送ってっと。


<紅焔様がPTに加入しました>

<ソラ様がPTに加入しました>


 よし、これでいい。さてここからどう動くか。って、作戦考えてる時に攻撃仕掛けてくるんじゃねぇよ!


<行動値2と魔力値6消費して『水魔法Lv2:アクアボール』を発動します> 行動値 46/51(上限値使用:2): 魔力値 106/112


 イタチの仕掛けてきた風の刃を叩き落とし、ついでに本体へも1撃加えておく。……うーん、ダメージの減衰量が競争クエストの時より上がってないか? 朦朧の状態異常は入ったけど思った以上にダメージが効いてないぞ。しかも今の攻撃、腕が緑色に光って風が纏わりついているところを見ると、地味に魔力集中と操作属性付与ありっぽいな。こいつ、ホントに雑魚敵か……?


「それでケイさん、どうする? まともにやっても全然HP減らないぜ?」

「一気に昇華魔法の力技で押し切るって手もあるけど……」

「おいおい、それじゃ情報収集にならんぞ?」

「流石にそれは冗談。……半覚醒になった理由はほぼ間違いなく寄生している黒の瘴気強化種だよな」

「だろうな。となれば、まずはそいつの正体を炙り出すか」

「それが良さそうだと思う。ソラさんと紅焔さんで撹乱を頼めるか?」

「おう、任せとけ」

「撹乱だね。それは任されようじゃないか」


 さて、イタチは結構素早いみたいだし確実に動きを封じたいところである。空中戦での近接は出来なくはないけど、この初戦で色々と調べておきたいところ。……よし、寄生してるやつを引き剥がしてハーレさんに狙ってもらうか。


「サヤとヨッシさんで、撹乱で出来た隙を狙ってイタチの動きを封じてくれ。ハーレさんは寄生の黒の瘴気強化種が離れたところを狙撃。その後の移動封じは俺がやる」

「分かったよ!」

「まだ自信はないけど、頑張るね」

「サヤ、頑張ってね。ケイさん、氷と毒はどっちがいい?」

「氷で動きを制限した上で、サヤが確実に当てる感じで!」

「了解!」

「分かったかな!」


 おそらく寄生している黒の瘴気強化種はサイズが小さいから、確実に狙って動きを封じないと駄目だろう。纏雷の性能実験も含めてここは麻痺を使いたい。……まだサヤには厳しいだろうしね。


<『進化の軌跡・雷の小結晶』を使用して、纏属進化を行います>


 さてとコケとロブスターで進化の選択肢が出たけど、コケだと相性が悪そうな気もするし、ここはロブスターにしておくか。ロブスターに選択をすれば、ロブスターの表面が電気の膜に覆われていき、それが砕け散る事で進化が完了した。


<『傀儡ロブスター』から『傀儡ロブスター・纏雷』へと纏属進化しました>

<『雷纏い』『電気の操作』『電気魔法』が一時スキルとして付与されます>


 おー、ロブスターの鋏の表面を軽く電気が流れていく。これはエフェクト的なもので、効果自体は特に無さそうかな? とりあえず準備はこれでいい。


「よし、それじゃ作戦開始!」

「行くぜ! 『並列制御』『ファイアボール』『ファイアボール』!」

「そこ! 『羽飛ばし』!」


 おぉ、紅焔さんが火の弾を同時に6発撃ち出した。ちょっとずつ狙いの位置をズラし、イタチの回避先を誘導していく。やるね、紅焔さん。並列制御はそういう使い方も出来るのか。……そういや同じ物理攻撃を並列制御で使うとどうなるんだろ? あとでまとめにないか見ていこうかな。なければ自分で試してみればいい。


 そして回避先を誘導した先にソラさんが羽を飛ばし、イタチのバランスを崩す。良い連携プレイだ!


「そこ! 『アイスプリズン』! サヤ!」

「うん。『エレクトロプリズン』!」


 そしてその隙を狙い、ヨッシさんとサヤが魔法で拘束を狙っていく。お、これも複合魔法になったのか? 氷の檻の表面に電気が流れているようになっている。とりあえずこれでイタチの確保は完了。半覚醒でダメージが減衰していても、拘束攻撃は通用するみたいだな。

 あ、首筋から何かが離れて飛んでいく。これはやっぱり前兆は攻略のヒントみたいな感じか。


「ケイさん、本体が逃げたよ!」

「分かってる。逃がすかよ!」


 やっぱり寄生しているやつの行動パターンは不利になると寄生先を切り捨てての逃亡だな。させるか!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値2と魔力値10消費して『電気魔法Lv2:エレクトロボール』は並列発動の待機になります> 行動値 44/51(上限値使用:2): 魔力値 96/112

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を10消費して『電気の操作Lv2』を発動します>  行動値 34/51(上限値使用:2)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 あ、指定の順番間違えて無駄に行動値の消費が……。既に指定した後だしそんな事を言ってる場合でもないし、即座に電気の弾を撃ち出すしかないか。電気の操作はLv2だからちょっと操作精度は低いけど、何度もLv1やLv2の操作系スキルは使ってきたから多少慣れてきた!

 よし、命中して麻痺が入った! こっちには結構なダメージになった。半覚醒でさえなければ問題はなさそうだけど、とりあえず捕まえよう。


<行動値3と魔力値9消費して『水魔法Lv3:アクアプリズン』を発動します> 行動値 31/51(上限値使用:2): 魔力値 87/112


 よし、水球の中に閉じ込めて捕獲も完了。さてと、これは何だったんだ……? ほほう、こういうのもいるのか。水の中にいるのはヨッシさんのハチよりかなり小さなハチであった。


「わっ!? これってハチかな!?」

「うーん、同じハチとして微妙な気分……」

「多分な。今は俺は使えないから、誰か識別を頼む」

「任せて。『識別』!」

「サヤさん、どうだい?」

「『寄生バチ』で成長体の『黒の瘴気強化種』だね。属性は『なし』、特性が『寄生』と『逃走』と『瘴気吸収』かな」

「なるほどな。特性がそのまま寄生している時と不利になった状況の行動を示してるのか」

「『瘴気吸収』って特性が気になるね?」

「黒の暴走種自体が瘴気の影響だって事だから、寄生されて瘴気を吸収された事で半覚醒化したとか……?」

「有り得そうな話だね。とりあえずこれは貴重なサンプルにはなるかな。次はどうするんだい?」


 とりあえず半覚醒の原因となるもののサンプル情報は手に入った。この寄生と瘴気吸収の特性を持つ『黒の瘴気強化種』の情報は重要だろう。どうもパッと見た感じでも黒の暴走種自体も増えているみたいだしね。

 半覚醒の正常化を自力でやると暴発を使うか力技で押し切るしかないけど、こうも数が多いとなると他の群集のプレイヤーに倒してもらうのが早いだろうな。この辺が共闘イベントの重要な要素か。


 とりあえず現状で分かる範囲では群集同士で協力し合い、半覚醒の黒の暴走種と黒の瘴気強化種を仕留めていけって事なんだろう。


「……とりあえず討伐称号が勿体無いから、こいつは逃して情報の報告にいくか。他の人の様子も気になるし」

「え、逃がすのか!?」

「紅焔さん、折角の初回討伐称号があるんだぞ。スキル取得に使わなくてどうするよ?」

「う、確かに……」

「僕はケイさんに賛成だね。ここで逃したとしても数は沢山いそうだし、損をする必要はないさ」

「私も賛成ー! リスで風の操作を取りたいです!」

「私も竜で風の操作を取りたいかな?」

「私はどっちでもいいよ?」

「あー分かった! 逃がすのでいいよ!」

「すまんな、無理言って」

「まぁ良いだろ。情報自体は手に入ったしな」


 という事で寄生バチは逃がす事に決定である。まぁ鎌イタチは称号関係ないし、威力実験をさせてもらうとしようか。


「紅焔さん、もう1つ実験な」

「……何するんだ?」

「半覚醒を昇華魔法で倒せるかの実験」

「称号関係ないなら容赦ないのな!?」

「いや、でもこれも必要じゃないか?」

「いや、確かにそうだけど……。えぇい、んじゃ早速やるぞ!」

「あ、それじゃ拘束解除するね」


 ヨッシさんが拘束魔法を解除して、鎌イタチが自由になった。そして、こちらを見つめてきている。……半覚醒って事だし、もしかして?


『……ワタシヲ……タオシテ……』


 あ、やっぱりか。半覚醒状態だと意識があるんだよな。


「あーもう!? そういう事を言われると余計にやるしかねぇじゃねぇか! 『ファイアクリエイト』!」


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 33/51(上限値使用:2): 魔力値 84/112


<『昇華魔法:スチームエクスプロージョン』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/112


 そして轟音と共に発生した水蒸気爆発で、鎌イタチのHPを半分まで削った。使用した魔力値が前より少ないからか少し威力が落ちた気はする。それでも凄まじい威力だけど、ダメージ減衰では半分が限界か。……やっぱり減衰量が前より大きいな。


「こうなったら暴発だー! 『魔力集中』『アースクリエイト』『暴発』『爆散投擲』! やった、1発で暴発状態だよ!」

「みんな距離を……って既に距離を取ってたんかい!?」


 どうやら昇華魔法の段階でみんな退避していたらしい。まぁダメージなくても吹き飛ばされそうだし仕方ないか。っていうか、俺も退避しないと無差別ダメージがやばい!?


「チャージ完了! いっくよー!」


 とりあえず水のカーペットから飛び降りて、距離を取っていく。よし、安全圏で大丈夫だった。鎌イタチは残りHPは僅かである。これなら削り切れるか?


「トドメは私が! 『魔力集中』『爪刃乱舞』!」

『……アリ……ガトウ……』


<ケイが成長体・暴走種を討伐しました>

<成長体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>

<ケイ2ndが成長体・暴走種を討伐しました>

<成長体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>


 そしてハーレさんの暴発での爆散投擲の無差別ダメージと残ったHP1をサヤが削り取っていく。鎌イタチのHPは無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていった。……倒せなくはないけど、これは効率が悪過ぎるな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る