第250話 黒の瘴気強化種


 即座に移動は開始したものの、共闘イベントと言うからには灰の群集のメンバーだけでは何も出来ない可能性もある。とはいえ何が出来て何が出来ないのかを把握しておく必要もあるので、様子見がてら情報収集だな。

 まず共闘の為に何が必要なのかを確定させないと話にならないしね。共闘の算段をつけるのはそれからでも良いだろう。


「俺は移動に専念するから、ハーレさんは情報収集を頼む」

「情報共有板だね! 了解です!」

「サヤとヨッシさんは、周囲の警戒を頼んだ」

「分かったかな」

「了解!」


 まだ初期エリア内だから大丈夫とは思うけど、まだ何が相手か明確に分かってないからな。万が一にも備えておこう。とりあえず飛びながら移動していくぜー!



 少し進んで行けば、桜の木が植わっているのが見えてきた。……こんなとこに桜の木ってあったっけ? ここには確か通りすがりに何度か挨拶をした程度だけど杉の木の不動種の人がいたはず。場所を移して誰かがそこにやってきたのかな?


「お、ケイさん達じゃねぇか! 昨日ぶり!」

「あ、桜花さんか。無事に移籍出来たんだな」

「おうともよ! お陰さまで色々助かったぜ!」


 誰かと思ったら、青の群集から移籍してきた桜花さんだったようだ。カーソルも灰色に白い線が入っている状態なので、昨日のあの後に無事に移籍は完了したみたいだね。無計画さが少し気にはなってたから、無事に移籍出来たようで良かった。


「あ、もしかしてこの人が話してた桜の人?」

「ヨッシは会ってないもんね! そうだよー、不動種の桜花さん!」

「あ、やっぱりそうなんだ。私はヨッシって言います。よろしくね、桜花さん」

「おう、新入だけどよろしく頼むぜ、ヨッシさん!」


 初対面のヨッシさんと桜花さんが挨拶を交わしている。挨拶って大事だよね。でも、それほどのんびりしている訳にもいかない。……まぁ多少出遅れても問題ないと言えば問題ないんだけど。不動種でなければ枠も空いてるし、PTに誘っても良かったんだけどな。


「桜花さん、すまん。今はイベント始まったばかりだから、また後で!」

「お、そういやそうだった! 陰ながら応援してるぜ!」

「また今度時間がある時にねー!」

「おう、その時に昨日の礼をさせてもらうわ!」

「おうよ!」


 桜花さんは特に用事があった訳でもなく、ただ横を俺達が通ったから声をかけてきただけみたいだね。ま、無事に移籍出来て良かったよ。群集拠点種に近い場所とは中々不動種としては良い場所を確保出来たみたいだしね。杉の木の人はどっかに拠点を移したのかな。



 桜花さんとの軽い遭遇もありながら、高原へと向けて飛んでいく。うん、この移動は快適だね。でも俺自身の注意力を移動に集中させておく必要があるから、単純な移動向けだな。アルがいる時ならアルに移動を任せた方が他に集中出来て良いんだけどね。


 さて、そろそろ高原まであと少しだな。ここはみんな倒してるから素通り出来……ねぇや。ヨッシさんのウニがまだだったっけ。


「あ、ケイ! あれ!」

「氷狼……か?」

「何か瘴気が凄いね!?」

「少し様子が変だし、見に行ってみる?」

「そうだな。ヨッシさんのウニが通れないし、倒す必要もあるか」

「あ、それならもう終わってるよ」

「え、いつの間に!?」

「ケイさんが常闇の洞窟にいる間にね」

「サヤの竜に乗って高原の観光してたんだよ!」

「うん、少しだけ飛行練習も兼ねてだけどね。ケイの邪魔しないようにしてたんだけどまずかったかな?」

「あ、いや、問題ないぞ」


 いつの間にやら終わらせていたらしい。まぁみんながまだログインしてなかったから1人で実験の為に常闇の洞窟に突入してたからな。俺が実験している間にサヤ達は竜に乗って高原を飛びに行ってたのか。まぁ、氷狼の討伐の手間が省けたと思ったらいいかな。

 後方から迫りくる沢山の足音や声を聞いた感じではこの後すぐにでも混雑しそうだし、素通りできるならその方がいい。


「とりあえず様子の確認だけな」

「うん、それが良いと思うかな」

「明らかにおかしいもんね!」

「瘴気だよね、あれ」


 変化が無ければ完全に素通りしたいけど、何やら様子が変なんだよな。多分、異常個体……じゃなくて『黒の瘴気強化種』か。それになった氷狼なんだろうけど、身に纏っている瘴気の量が尋常でなく増えている。そして青白い毛並みの半分以上が瘴気によってどす黒く変色している。……禍々しいにも程があるだろ。

 一応周回PTが相手をしているようだけど、倒そうとはしていない様子だ。どうしたんだろ? 高度を下げて、会話のしやすい位置へと移動させてっと。


「おーい、これどういう状況?」

「お、『ビックリ情報箱』PTか。これが『黒の瘴気強化種』ってやつみたいだぞ」

「おー!? これがそうなんだ!」

「……なんか凶悪な感じになったかな?」

「サヤと同感だね」


 とりあえず戦闘中の周回PTっぽい松の木の人に聞いてみたけど、やっぱりそうか。それにしても苦戦はしてないみたいだし、7割近くまで削っているのに倒してないのはなんでだ?


「倒さないのか?」

「あー、混み出す前にちょっと色々と確認中なんだよ」

「推測通りだ! こいつ、オリジナルと同じ攻撃パターンだぞ!」

「やっぱりか! 次は出現頻度を探るぞ!」

「おし、仕留めるぞ!」

「……なるほどね」


 あ、そういえば氷狼の爪が氷製のものになっている。瘴気が混ざって禍々しい色合いになってるけど。そっか、オリジナルそのものは復活しないけど、『黒の瘴気強化種』として同等のものが再出現って事になるんだな。

 軽くだけど大体の事情は分かった。これが今回のワールドクエストでの敵の変化って事なのだろう。


「あー、通る分には今まで倒してたら問題ないみたいだぜ?」

「そうなのか。んじゃ高原に行ってくるわ」

「おう、攻略は任せたぞ! 適度に進めば俺らも参戦するしな!」

「そっか。そっちも検証頑張ってくれ!」


 とりあえず周回PTは周回PTで色々と変化の検証中か。まぁイベントエリアの手前のボスだから今のうちにやらないと検証も不可能になりそうだしね。討伐PT優先だし、先に進みたい人達ばっかりになるから検証しながらではなくおそらく瞬殺になるだろう。

 あ、そうこうしている内に森の中を走ってきた人達が集まり始めたね。


「あー!? この先行くには氷狼の討伐が必要だった!?」

「くっそ! 先に倒しとくべきだったか!」

「おーい、周回PT! 討伐やらせてくれー!」

「あーやっぱりそうなるよな。おい、討伐は問題ないがちゃんと順番決めろよ!」

「ほいよ。先着順で行くぞ。PTのリーダーが並べー!」

「ま、順番待ちはしゃーないか。2人空きあるから、ソロの奴は入るか?」

「……おいこら、そこの新入り。何、順番抜かして突撃しようとしてんだ?」

「移籍組! 灰の群集ではボスは討伐PTが最優先だからな!」

「ちっ、分かったよ」


 そして集まってきた人達でまだ氷狼の討伐が終わっていない人達が順番待ちになっていく。……地味に新規の移籍組のイノシシが順番を無視しようとしていたみたいだけど、周りがしっかりと止めていた。移籍してくるのはいいけど、この辺のマナーは移籍先に合わせてもらわないとね。

 それにしても桜花さんは青の群集はこの辺のマナーは整備されてたって言ってたから、順番無視は元赤の群集か……? うーん、まぁ徐々に慣れていってもらうしかないかな?


「……今の人、赤の群集から来た人かな?」

「かもね。トラブルを起こさないといいけど……」

「うー、ちょっと不安だよね!?」

「ま、なるようにしかならないだろ。問題が起きたら、その時に考えようぜ」

「確かにそれもそうかな。うん、警戒し過ぎても逆に印象悪くしかねないもんね」


 気にはなるけど気にし過ぎて口煩く言い過ぎれば、逆に移籍してきた人との溝を作りかねないからその辺は慎重にいかないと。何か問題があったとしてもそれは移籍してきた人達ではなく、その人個人の問題だ。それを忘れたら状況が悪化するから気をつけないとね。

 

 さてとそろそろ高原へと突入したいとこだけど、その前に情報を確認しとくか。可能なら自分で確認したいとこだけど、飛びながら情報共有板を見るのは難しそうだしな……。移動操作制御を使っているのに、よそ見してて激突してダメージ判定出てしばらく使用不可になるのは流石に笑えない。

 うーん、アルの移動のありがたみを痛感するね。まだ障害物が多いと難ありだけど、早く実用段階に育ってほしいものである。……それはそうとして、今はイベントを優先しよう。


「ハーレさん、何か情報は出てるか?」

「ケイさんの閃光と光の操作の並列制御が話題になってたよ! あと単独での昇華魔法の発動も!」

「お、役立ってたか?」

「マグロの人だったから、多分ソウさんのテンションが盛大に上がってた!」

「そりゃ良かった」


 ソウさんに進化の輝石・光と合成進化を勧めたのもあるからね。応用方法が伝わったのであれば良かったよ。それにしても20分も経ってないくらいだけど、話題になってたんだね。やっぱり便利だ、まとめ機能! ……それはいいとして、知りたいのはその情報ではない。いや、それはそれで大事なんだけどね。


「共闘イベントについては何か出てる?」

「もちろんあるよー! それぞれの初期エリアの隣の調査クエストのエリアで異常発生みたい! 今、私達と同じで現地に向かって確認に行ってる人が多数出てるとこ!」

「なるほどね。とりあえず現地に行ってみようってとこか」

「うん! それとクエスト詳細欄はとりあえず黒の瘴気強化種を倒せって出てるよ! まだそれだけだけど!」

「……倒せば詳しい内容が出てくるパターン?」

「かもしれないね! しばらくは各自で情報を探った後に、手に入れた情報を持ち寄って方針決めるってさ!」

「了解っと。それじゃ予定通り、このまま高原に突っ込んで行って問題なさそうだな」


 他の初期エリアの方もこっちの高原と同じ感じか。共闘イベントの対象エリアは各地の調査クエストがあった場所って事なんだろう。

 指揮をしているのは、多分ベスタだろうね。情報と言っても得る人によって捉え方も違ってくる。精度も大事だけど、数も重要にはなってくるだろう。


「そろそろエリア切り替えだ! 何があるかわからないから要警戒!」

「「「おー!」」」


 さて、どんな状況になっているのやら。とにかくハイルング高原へと突入だ!

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