第246話 湿地での景色


 そしてアルの背中の上で熟練度稼ぎをしながら、どんどん先へと進んでいく。そういえば気になってる事がある。


「そういやここの整備クエストの材料って木だよな? どこで調達してるんだ?」

「……そういや木の黒の暴走種が木材を落とすって話だったが、近くには見当たらないな」


 川の近くに木の黒の暴走種も残滓もいる様子がない。周辺の植物は……種類は詳しくないからよく分からないけど、稲の米がないっぽいやつとか、なんかソーセージみたいなのがついてるやつとか、そういうのばかりである。あるといえば川から結構離れた所にある木くらいだけど、それかな?


「どっかに居るはずだよね!?」

「川から結構離れたとこに植わってる木とかじゃないかな?」

「そうかもね。この水じゃ木の方も植われないだろうし」

「川から進むと無縁なのかもな」

「アルがもっと移動がスムーズになったら、陸路を行くのも良いかもな」

「いいね、それ! そうしよう!」

「まぁ、まだ結構掛かりそうだけどな」


 とりあえずアルの空飛ぶクジラ計画がもっと進行しないと厳しいか。……それにしても空飛ぶクジラ計画とクジラの木の牽引計画が自動的に同時に進んでいる気もする。まぁこの辺は進む場所によって使い分けか?


「それはともかく、今は平原エリアまで頑張って移動だよね!」

「……これ、平原エリアでなにかをやる時間が残ってるのか……?」

「……確かにもう微妙な時間かな?」

「今日はアルさんの熟練度稼ぎも兼ねてるから良いけど、本気で移動したい場合はケイさんが運ぶ方が早そうだよね」

「確かにヨッシさんの言う通りか。……まだまだクジラでの地上移動は難ありだな」

「ま、じっくりやろうぜ、アル。着実に進展はしてるしさ」

「まぁな。スキルを上げれば何とかなりそうな可能性も見えてきてるし、成果なしではないからな。それに本当に移動困難なら共生進化を解除すれば済む」

「共生進化の利点だよねー!」


 そしてそれから何度かアルの空中浮遊の時間切れになったり、橋を越える度にアルを浮かせたりして進んでいく。熟練度稼ぎをしながら周囲の様子を見た限りでは、陸地寄りの方に黒の暴走種が多いみたいだった。


 川下りでの移動では時々ワニが襲ってくるけど、基本的には川のほうが敵は少なそうである。……まぁあくまでここは移動の途中の場所なので、水中を覗き込んだ訳でも獲物察知で確認しまくった訳でもないから正確とも言えないけど。

 もしかしたら水中に行けばワニ以外にも色々いるかもしれないけど、目的地はここではなくこの先の平原エリアである。



 しばらく進んでいくと、両岸のどちらからも何やらポツポツと小さな光源が見え始めてきた。……あれはホタル? そっか、プレイヤーにホタルの人もいたからそりゃ存在してるよな。すげぇ量がいるね。


「あー! 大量のホタルだー!?」

「お、ホントだな。あれは一般生物と黒の暴走種のどっちだ?」

「ちょっと待て、今確認するから」


 実に見事なホタルの群れである。これは夜目を切って見てみると綺麗かもしれないけど、その前に判別が先か。

 一般生物か黒の暴走種かどうかの判別はカーソルを見て確認すれば良いんだけど、ちょっと距離もあるしホタル自体が小さめだからね。多分、有効範囲内だからこっちが早い。

 何度かワニに遭遇してからは熟練度稼ぎと敵の迎撃を役割分担していて、今は迎撃役に回っていた俺の行動値は全快しているしね。


<行動値を3消費して『獲物察知Lv3』を発動します>  行動値 46/49(上限値使用:4)


 結構なカーソルの数が出たけど、緑のカーソルも黒のカーソルも混ざってるから両方いるみたいだね。まぁ大半は一般生物で、発見報酬もないから残滓ばっかりか。あ、ホタルと戦闘してるPTがいるみたいだし、あれは俺らが手を出したら駄目なやつだ。横殴りはマナー違反。


「一般生物も黒の暴走種もどっちも混ざってるみたいだけど、あれは放置だな」

「……先客がいるみたいだし、そうなるか」

「でも、スクショのチャンス! 上から撮りたいから、ケイさん、アルさん、浮かせて貰ってもいい!?」

「アル、良いか?」

「……俺ごとじゃなくてハーレさんだけでいいんじゃないか?」

「それもそうだった!?」

「ねぇ、ケイ、アル。私も上から見てみたいんだけど、駄目かな?」

「あ、それなら私も見てみたいね」

「……みんなが見たいなら俺ごとでもいいか。俺も興味ない訳じゃないし、ホタルとかリアルじゃ見る機会もないからな」

「よし、それじゃ決まりだな」

「やったー!」

「それじゃ浮かすぞ」


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 46/49 → 46/47(上限値使用:6)


 アルを大量の水で浮かせて、結構な高さから見下ろすような形でホタルの群れを眺めていく。おー見事なホタルの群れだね。多分リアルでもホタルが見れる場所もあるんだろうけど、旅費とか時間とか色々かかるからな。ましてやこんな上から特等席みたいな場所で見れる機会なんてそうないだろう。

 ゲームの中の仮想的なものとはいえ、普段生活しているだけでは見られない自然の中を安全に動き回れるのは良いものだね。


「わぁ、良い景色かな」

「こういうのもこのゲームの醍醐味だよね」

「たまにはこういう自然の夜景ってのも良いもんだな」

「ケイさん! 灯りも消してー!」

「はいはいっと」


 発光の発動停止をハーレさんから要望されてしまった。折角だし発光と一緒に夜目も切って見てみるか。こういうのは暗い方が楽しめそうだしな。


<『夜目』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 46/47 → 46/48(上限値使用:5)

<『発光Lv3』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 46/48 → 46/51(上限値使用:2)


「ケイさん、ありがとね! スクショ撮りまくるぞー!」


 光源も夜目も無くしてみれば、月明かりだけの暗闇である。まぁゲーム的に真っ暗という訳ではないけど、それでも距離のある場所では相当見通しは悪い。でも、だからこそホタルの光が夜の中に輝いて見えているのだろう。

 まぁ、何かの戦闘音やら火の弾が飛んでいったりしているので、他のプレイヤーに仕留められているっぽいけどね。ゲームだし、その辺は仕方ないか。


 そしてホタルが全滅していくまで、その景色をみんなで眺めていた。戦闘で対決するだけが楽しみ方じゃないというのを改めて感じたよ。ハーレさんはアルの木の上を登ったり降りたり、あちこちに向きを変えたりしてスクショを撮っていたしね。


「さて、移動再開するぞ」

「「「「おー!」」」」


 移動再開にはなったけど、とりあえずアルを川に下ろすのが先だな。いつまでも俺が浮かしていては意味がない。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 51/51 → 51/53


 よし、これで問題なし。次は発光と夜目の再発動である。


<行動値上限を3使用して『発光Lv3』を発動します>  行動値 51/53 → 50/50(上限値使用:3)

<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 50/50 → 49/49(上限値使用:4)


 ホタルの幻想的な風景の見学も終わり、態勢を戻して移動再開である。……ちょっとホタル見学に時間を使い過ぎた気もするけど、たまにはこういう事もあっていいだろう。



 そんな風に移動を再開していけば、やがて湿地の雰囲気が変わり始めてきた。お、見た目に変化が出てきたという事は、そろそろ目的地へ到達か!?


<熟練度が規定値に到達したため、スキル『発光Lv3』が『発光Lv4』になりました>


 メッセージが出たから一瞬、エリア切り替えかと思ったよ!? 発光のLvが上がったことはありがたいけど、タイミングが悪い!


<『スターリー湿原』から『名も無き平原』に移動しました>


 今度こそエリア切り替えだった。シンプルに名も無き平原なんだな。ここは命名クエストはまだ終わってない感じだね。……というか、ここってどういう流れで命名クエストが発生するんだろうか?


「平原到着だー! そして時間切れだー!?」

「あ、ホントだね。そろそろログアウトかな」

「ぐぬぬ……。もう少し探検したかったけど、ホタルが撮れたしなー!?」


 時間はもう11時を過ぎている。明日が休みなら少しくらいは延長したいけど、あいにく平日だからね。今日はここまで。ちょっと実験したい事もあったけど、結果がどうなるか分からないから草木の多い平原では試したくないな。

 ちょっと荒らすモノ系統の称号も取り過ぎな気もするし、少し自重しないとね。……狙って荒らしたい訳じゃないもんな。


「まぁ言っても仕方ないかな。今日はここまでだね」

「だな。後は明日がどうなるか……」

「あ、そっか! 早ければ明日から共闘イベントだもんね!」

「そうだな。ハーレさんに寝坊されて1週間ゲーム禁止は厳しいし」

「共闘イベントが始まりそうなタイミングでゲーム禁止は嫌ー!?」

「だよなー。俺もそれは嫌だし。まだ物足らない部分もあるけど、今日は全員が未成体に到達って事で良いという事にしとこう」

「そだね。明日からはイベントをしながら強化しても良いんだし、焦らないでいこうね」

「という事で、今日は解散!」


 少し物足りない感はあるけども、焦って良い結果になる訳でもないからな。とりあえずアルも含めて森林エリアまで戻って、アル以外はログアウトで解散となった。アルは今日中にもうLv1だけ小型化か、空中浮遊を上げておきたいとの事である。

 もう少し小型化出来れば、サヤの自己強化無しの牽引くらいの速度は出せそうだからそれがかなり重要かもしれない。未成体になっているんだから、地形の制限さえなければ相当な移動速度は出るはずだしね。


 とりあえず俺は風の操作、風魔法、火の操作、火魔法を全部Lv3までは上げられたので満足だ。まぁ纏火のおかげで元々火の操作がLv2からスタートだったのも地味にありがたかったね。あと地味にLv2で止まっていた土魔法もLv3に上げておくことが出来た。

 これで一応、応用スキルを除けば持ってる操作系スキルと魔法スキルは全部Lv3にはなったかな。さてと明日からは近接攻撃と水以外の昇華を狙って育てていこう!



 ◇ ◇ ◇



 そしていったんのいるいつもの場所へやってきた。さてと、赤の群集はどうなったかな? とりあえず胴体の部分を見てみよう。えーと、『共闘イベント、開催日時が決定! そして明日は定期メンテナンス!』となっている。

 お、日程が決定という事は赤の群集が頑張って終わらせたんだな。……まだ見ぬ表に出てきていない強者がいる確率は高そうだ。まぁ次は共闘イベントだし、そこは不安がる必要もないか。


「いったん、開催日時はいつに決まったんだ?」

「思いの外、進展が早くてね〜。明日の17時から開始に決定したよ〜」

「お、明日なんだ?」

「うん、そうだよ〜。ちなみに共闘イベントは終了日時も決まってるからね〜」

「へぇ、今までのクエストとは違うんだ?」


 今までのは突発的に始まって、終了時刻も決まってはいなかった。……共闘イベントは今までとは勝手が違いそうだな。


「期間は1週間で、前半と後半に分かれてるよ〜。前半と後半の切り替えはイベントの進行具合によって変わるけどね〜」

「へぇ? 共闘イベントって前後編なんだな」

「内容はやってみてのお楽しみだね〜。あ、既存の一部エリアは共闘イベントのエリアになるけど、それ以外のエリアは大体普段通りに出来るから、イベントに参加しないというのもありだよ〜」

「……なるほど、別に共闘イベントの参加も強制ではないんだな」

「どうしてもちょっと不便になる点が出るけどね〜。その辺は理解をお願いします〜」

「ほいよ、了解」


 あくまでも共闘イベントは自発的な参加という事になるんだな。一部エリアが共闘イベントのエリアになるというのは気になるけど、まぁそれは始まってからのお楽しみか。

 これは今までの中で最大規模のイベントの予感がするね。今から開催が楽しみだ。……ちょっとまだ赤の群集が不安だから、明日学校で慎也から情報を仕入れておこう。


「あ、後は既にお知らせ済みだけど、明日は定期メンテナンスとまとめ機能の実装があるからね〜」

「おう、分かってる」

「そっか〜。それとスクリーンショットの承諾をお願いします〜」

「ほいほい」


 スクショの一覧を軽く見てみたけど、これといって目を引くものは無いな。まだハーレさんの撮った月夜を跳ぶロブスターのスクショがないな。これならいつも通りの処理でいいや。


「そんじゃいつも通りで」

「はいはい〜。いつも通りだね〜」

「んじゃ、また明日ログインするわ」

「はいはい〜。毎日ありがとね〜。お疲れ様〜」

「おう!」


 それだけ終わらせれば今日は終わりである。さてと、風呂入って色々片付けてから寝ようっと。

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