第244話 それぞれの目指すもの


 そして飛鱒の出現地域へと辿り着いた。っていうか、位置的に川の中なんだな。そして河原には周回PTがいるようである。……でもボスは出現してるっぽいけど、戦わないのかな?


「おう!? なんかクジラが流れてきたぞ!?」

「いや、微妙に浮いてないか?」

「最近クジラの陸地進出も増えてきたって話だけど、実物を見ると予想以上にびっくりするな」

「あーボス戦やるなら好きにやっていいぞー!」

「今、未討伐プレイヤーがいなくて挑戦不可だしな」

「分かりましたー! それじゃ討伐させてもらいます!」


 どうやら倒そうにも倒せないだけらしい。まぁ未討伐の人がいないと無理な仕様だから、こういう事も時にはあるって事なのだろう。とりあえず特訓で尽きていた行動値の回復を待ってからだな。……よし、全快した!


「よし、瞬殺するぞ!」

「「「「おー!」」」」

「ハーレさん、先制攻撃をぶちかませ! まずは水の中から引っ張り出す!」

「分かった! 『魔力集中』『アースクリエイト』『散弾投擲』! わっ!?」

「異常個体かな!?」

「そりゃ出現量が増えてるって話だったしな!」


 瞬殺しようと思ったけど、川の中から飛び出てきた飛鱒の姿を見てみれば瘴気を纏っていた。……こいつは今増えてる異常個体か。アルの言う通り、増えているんだから遭遇する可能性が高くなっていて当たり前か。


<行動値を3消費して『識別Lv3』を発動します>  行動値 45/48(上限値使用:4)


『飛鱒』Lv3

 種族:黒の暴走種の残滓(?)

 進化階位:成長体

 属性:風

 特性:空中遊泳


 元がもう雑魚でしかないから異常個体でも特に問題ない。さてと、サクッと終わらせよう。


「サヤ、新技の電気魔法Lv3! ハーレさん、チャージでの今の最大威力を叩き込め!」

「うん! 『エレクトロプリズン』!」

「分かったー! 『アースクリエイト』!」

「あっ……」


 サヤの電気魔法が飛鱒に絡みついて動きを封じたのは良いけど川へと落ちていってるし。ちっ、空中で身動き取れなくなっててくれよ。……うーむ、電気の拘束魔法はこれが欠点か。

 ハーレさんはアルの巣の中で魔法産の小石を用意し、チャージ体勢に入っていく。時間が経つに連れてその手の銀光は輝きを増していく。……このままだとチャージが終わる前に水中に飛鱒が戻ってしまうな。川ごと吹き飛ばしてもいいけど、直接威力も見たいから空中にいてもらわないと困る。


<行動値1と魔力値5消費して『風魔法Lv2:ウィンドボール』を発動します> 行動値 44/48(上限値使用:4): 魔力値 105/110


 あ、落ちないように下から軽く打ち上げただけなのに、7割くらいHPが削れた。……瞬殺狙いとはいえ、ハーレさんの現状での全力って絶対にオーバーキルだな。まぁ、一度確認しておきたかったし別に良いか。


「チャージ完了、いっくよー! 『爆散投擲』!」

「お、ハーレさんの新技か」

「ハーレ、これってチャージ系の応用スキル?」

「うん、そうだよ! 結構な威力はあるけど、まだ少し理想に届いてないー!」

「これでなの? あ、でも昨日のあれを見たら少し劣るね」


<『進化の軌跡・風の欠片』を2個獲得しました>


 そんな会話の背後では、その爆発する小石の投擲を受けた飛鱒が明らかにオーバーキルで仕留められ、ポリゴンとなって砕け散っていった。うん、確実にここまでする必要はなかったね。

 やはり見た感じの様子では斬雨さんの断刀には若干劣る気はする。いや、充分な火力はあるんだけどさ。やっぱり『凝縮破壊Ⅰ』か……?


「アル、『凝縮破壊Ⅰ』の条件って知ってるか?」

「あーあれか。あれはまだ正確な条件が確定出来ていないって話だったぞ」

「なるほど、まだ確定出来てないのか」

「うーん? 昇華と合わせて考えたら、スキルLvが条件かな? でも単発系のスキルって結構あるよね」

「……1つをLv6じゃなくて、複数を一定以上のLvとかかもよ?」

「あ、それはあるかもしれないかな」


 ちょっとこの辺は検証待ちか。単発系がチャージ系の応用スキルになるなら、連撃系も別の応用スキルになるとかもあるかもしれないね。斬雨さんが使ってた連閃だったっけ? あれはチャージ系ではない雰囲気の連撃だったし。ふむ、ちょっと検証してみるか?


「……ハーレさん、質問なんだけど投擲スキルって投擲と狙撃以外に何かある?」

「えっと、確かいくつかあった気がする! ちょっと確認してみるね!」


 なんとなくの傾向なんだけど、派生スキルを取得する時って連撃か単発かに分かれてる気がするんだよな。ハーレさんの投擲は散弾投擲に派生したはず。あれは多段攻撃だから、連撃と考えていいのかな。予想ではあるけど単発系の投擲の上位がありそうな気がするんだよね。

 

「あ、あったよ! 『強投擲』と『連投擲』だって!」

「名前からして高威力の単発攻撃と連発攻撃か。狙撃って進化ポイントいくつだ?」

「狙撃は変異で手に入れたから分かりません!」

「……そういやそうだっけ」


 変異の条件ってのもいまいち分かってないからな。多分上位のスキルに変化しているのは間違いないんだけど、確率が低過ぎてサンプルがなさ過ぎる。流石に検証しようにも件数を増やさないとどうにもならないから、その辺の情報集めはまとめ機能に期待かな。


「ちなみに応用スキルは?」

「えっとね、『貫通狙撃』と『拡散投擲』と『連速投擲』!」

「……地味に種類があるんだな」

「1撃の威力を重視して『爆散投擲』にしました!」


 思ってた以上の種類だったね。……とはいえ、応用スキルは必要な進化ポイント数が跳ね上がってるから気軽に何個もは取れないな。予測としては『貫通狙撃』と『爆散投擲』がチャージ系で、『拡散投擲』と『連速投擲』が連撃系かな?

 まだ選択肢に出てないだけで他にもある可能性はあるけど、とりあえず今の段階でない情報は除外しておこう。さてと、そうなれば……。

 

「ハーレさん、投擲、強投擲、狙撃のLvを上げてみるのはいけるか? とりあえず全部Lv5を目安で」

「投擲は既にLv5だし、狙撃もLv4だから問題ないよー! 強投擲はこれから取得だね!」

「そのLvなら、先に狙撃Lv5だな。その後にLv5のスキルの数を増やしていくか」

「条件探りだね! 了解です!」


 よし、これでうまく条件を満たすかは分からないけど、やるだけやってみよう。派生前の投擲も操作系の昇華の事を考えたら無意味とは思えないしね。


「ケイの条件の推測は、Lv5以上の同系統のスキル3つってとこか」

「とりあえずはな? 複数スキルが条件なら後はどういう組み合わせかになるし、Lv6が条件じゃないならスキル1個ずつの難易度そのものは下がるはず」

「ま、その辺は情報共有板で出てた結論と同じだな。後は試してみて実際の条件の確定か」

「同じ結論なのか。……なんで確定出来てないんだ?」

「あー、あれって初めに見つけたのはベスタなんだが、Lv6は無かったけど単発系にも連撃系にもLv5がいくつかあって条件の明確な切り分けが出来なかったらしい」

「育て過ぎての条件不明かよ!?」

「とはいえその条件でほぼ確定だろうって事で、今は確認作業中ってとこらしいぞ」


 というか、そもそも『凝縮破壊Ⅰ』を持ってたのはベスタか。いや納得ではあるけどさ。……ベスタめ、総力戦の最後は自分の切り札を温存したんだな。まぁ別に良いけど。

 もう既に確認作業に入ってるって事は、先に他の人からの結果が出る可能性の方が高そうだ。まぁ、その辺は確認しながら色々と試していくか。


「っていうか、そこまで知ってるなら教えてくれても良かったんじゃ?」

「いや、言い出しにくいだろ。今の流れだと……」

「うっ、確かに……」


 そう言われると確かに必死に条件を考えているとこに、それ知ってるぞとは言い出しにくいかもしれない。うーん、ここまで条件が出揃ってるなら無理に自分達でやる必要もないか?


「ハーレさん、条件判明するまで待つか?」

「ふっふっふ、それでも私はやるさー!」

「うん、私もやってみる価値はあると思うかな」

「やって損もないだろうしね」

「そっか、ハーレさんが良いなら別に良いか」

「問題なしさー!」


 ハーレさんが良いならそれでもいいか。それにヨッシさんの言うように育てたからといって無駄にはならないだろうし、条件が確定に近いなら尚更である。……単発系以外にも他にも似たような条件もあったりする? いや、無いはずがないよな。操作系に昇華があり、チャージ系に凝縮破壊があるなら、連撃系にも何かあるはず。


「サヤ、連撃系の条件探りを試してみない?」

「……まぁ、連撃系にも確実に何かあるだろうな」

「うん、そうだよね。それはいいけど、爪連撃と爪刃乱舞は連撃で良いとして、双爪撃は連撃なのかな?」

「……多分連撃じゃないか? 同時とはいえ2連攻撃だしな」

「……なら試すとしたら双爪撃は最後かな? とりあえず今日は竜を鍛えたいから、今度試してみるよ」

「急ぐ訳でもないから、それでいいぞ」


 よし、これでPT内の検証を試してみることが……あ、そういやアルもあるんじゃないか? 根の操作は操作系としては特殊みたいだからそのまま当てはめて良いのかちょっと悩むけども。


「アルは根の操作はLvいくつ?」

「……そうか、俺も昇華の可能性があるんだな。今はLv5だ」

「Lv5か。それじゃ、様子見て検証を頼む。正直どう変わるのか想像つかないけど」

「……確かにな。まぁやるだけやってみるさ」


 よし、これでアルも方針決定。……正直どうなるのかが非常に気になるところではある。木の応用スキルって何になるんだろうね?


「私だけ何もないってのもなんだし、氷か毒で狙ってみようかと思うけどどっちがいいと思う?」

「あー、微妙に悩みどころだな」

「氷が良いんじゃないか? ケイとの昇華魔法の相性は良さそうな気がするぞ。毒は毒で相性は良さそうな気もするが」

「毒も良いんじゃないかな? 昇華させたら威力が上がりそうな気もするよ?」

「はい! どっちも上げれば良いと思います!」

「あはは、それは確かにね。最終的には両方目指すとして、とりあえずは毒の種類も増えそうな気がするから毒にしようかな?」

「あ、確かに昇華で毒の種類の増加は有り得そうだな」


 氷も毒も有用そうだから、ヨッシさんが悩むのは分かる。まぁ最終的にはハーレさんの言うように両方取るというのもありだろう。あまり鍛えるものを散らし過ぎるのも問題だが、主力は2つくらいあった方が良いのは間違いない。


「うん、決めた。私はまずは毒の昇華を目指すよ」

「了解。確実に取得出来るかは分からないけど、これでみんなの目標は設定出来たな」

「おいおい、ちょっと待った。ケイがまだだろ」

「ん? 俺は遠距離の水はあるからやるならロブスターで近距離用を鍛えるぞ」

「とっくに決まってんのかよ」

「そりゃね? まぁ条件確定になってからにするけどな。まずは持ってる操作系は全部Lv3までは上げときたいし」


 器用貧乏にはしないと決めてはいるけども、分散させ過ぎるのも危険だからね。まずは手札を増やしてから、それを切り札に変えていくまでだ。育成状況に合わせて他の操作系の昇華も狙うつもりではあるけども。


「……おい、聞いたか」

「全員、応用スキルの昇華系狙いか。流石『ビックリ情報箱』のPTだな」

「あ、あれが例のコケの人のPTか」

「……あれだけ目立つクジラとザリガニは他にいないだろ」

「確かにそりゃそうだ」


 何か聞かれていたみたいだけど、そういやボスを倒したままそのまま話し込んでたんだった!? なんか恥ずかしいのでササッと移動しよう!


「アル、出発!」

「おうよ! あ、すまん。空中浮遊が効果時間切れだから、しばらく泳いでいくぞ」

「あ、そうなるのか。アル、空中浮遊のLvは?」

「今はLv3だな。だから上限発動指示で呼び出すと15分か」


 上限発動制御は時間制限ありだったな。えっと、使用する行動値の5倍の分数で、再使用までは5分だった筈。……5分は浮かずに移動しなきゃいけない訳か。うーん、便利なようでいて地味に不便。まぁ下が川だしアルは泳げば良いだけか。


「それじゃ湿地エリアに突入だー!」

「湿地の上を歩かなくて良いのはありがたいかな」

「そういや湿地は大型動物系は足が沈むんだったっけ。川の上を行けるなら楽じゃない?」

「ま、その辺は実際に行ってみてからだな」


 実際に見てみないとなんとも言えないからね。ちょっと話し合う場所を考えるべきだったけど、みんなの当面の目標設定も出来たし、改めて出発だ! まぁ共闘イベントもあるから、育成ばっかり出来るかは分からないけど。

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