第241話 タツノオトシゴ、未成体へ


 アルの進化の様子も分かったので、サクサクと次へ行ってみよう! 競争クエストは終わったけど、共闘イベントもあるし、レベル上げ重視にするか、それとも熟練度稼ぎか、もしくは並行しながらやるかを決めていかないとね。


「それで今日はどうするよ?」

「はい! まだ行ってないエリアに行きたいです!」

「ハーレ、待った! 先にやる事があるよ」

「私の進化をさせてもらってもいいかな?」

「あぁ、そういやサヤのタツノオトシゴがまだ成長体だったか。進化先は選びたいのが出てるのか?」

「ううん、まだ。でも風の操作か風魔法を少し鍛えれば出そうな気もするかな?」

「ほう? どんなやつだ?」

「紅焔さんの劣火龍から推測になるんだけど、劣風竜が出ないかなって思ってる。劣竜ってのは出てるんだよね」

「なるほどな。そういやサヤのタツノオトシゴは風属性か」


 そういやそれがあったな。危ない危ない、つい忘れるところだったよ。あるかどうかは試してみないと分からないけど、劣風竜があるのなら狙ってみたいというのがサヤの希望だったね。そうなると方針は熟練度稼ぎかな。


「だったら先に熟練度稼ぎだな。あ、その前に風の操作の取得か?」

「うん、まだ取れてないからそのつもり」

「……操作系が苦手なのは大丈夫か?」

「……頑張るつもりかな?」


 サヤも苦手だからといってそのままというつもりもないようである。さてと、それならそれでちょっと参考情報を聞いてみようか。


「特訓の前に、ちょっと紅焔さんに条件を聞いてみるわ」

「確かにそれもありだねー!」

「ケイ、お願いしてもいいかな?」

「おう、任せとけ」


 フレンド一覧を見てみれば紅焔さんはログインしてるし、新森林部にいるみたいなのでフレンドコールしても多分問題ないだろう。こういう事は近い条件を知ってそうな人に聞いてみるのが近道である。お、紅焔さんがフレンドコールにすぐに出てくれた。


「お、ケイさんこんばんは! どうかしたか?」

「紅焔さん、こんばんは。いや、ちょっと進化関係で教えてもらいたい事があってさ」

「……進化で? ケイさん、もう未成体だろ?」

「あー、俺じゃなくてサヤのタツノオトシゴの進化先」

「あ、サヤさんのか。……俺に聞いてくるって事は東洋系のドラゴンでも条件に出たか?」

「察しが良いな。劣竜ってのが出てる」

「やっぱりなー! そうか、やっぱりタツノオトシゴからの進化先にもドラゴンはあったか!」


 やっぱりって事は、紅焔さんも可能性としては考えていたんだな。まぁ『竜の落とし子』だし、推測としてはありがちなパターンって事にはなるんだろう。


「それで俺に聞いてくるって事は属性の条件ってとこか!」

「お、大正解。察しが早くて有り難いね」

「まぁ、俺も合成進化した後は劣龍と劣火龍の選択肢は出てたからな。あ、字の難しい方の龍だぞ」

「……読みが同じだからこういう時はややこしいな」

「ちなみに合成進化前の段階で劣竜と劣火竜も出てたぜ。こっちは簡単な方の竜」

「ほう、そうなんだ?」


 なるほど、劣竜はトカゲからでもいけるのか。それなら意外とドラゴン系に進化する種族はいるのか。リアルでも羽はないけど飛ばない感じのドラゴンっぽいトカゲはいるから、そっち系統なのかもしれないね。……この辺の竜と龍の違いって具体的に何が基準なんだろ? 翼の有無か?


「サヤさんのタツノオトシゴの条件が同じとは限らないけど、俺の場合はトカゲの時のは火の操作Lv3以上と火魔法Lv3以上だ」

「……意外と厳しくないんだな?」

「ま、未成体への進化はこんなもんだろ」

「それもそうか」


 もっと厳しい条件のサヤの魔爪グマやヨッシさんの氷王毒バチとかもいるけど、あっちが厳しすぎるだけなのかもね。……あのレベルまでの条件を探っていけば他の進化先もありそうだけど、そこまで無理にする必要もないか。条件が明確にわかっていれば良いけど、手探りでこれから見つけるとなると大変だしね。


「情報ありがとな、紅焔さん!」

「こっちもケイさん達の情報にはいつもお世話になってるから、これくらいはどうってことないさ。さてと、こっちもメンバー揃ったからそろそろ良いか?」

「あ、待ち合わせ中だったのか。聞きたい事は分かったから大丈夫だ」

「そりゃ良かった。そんじゃ、ケイさんまたな! サヤさん達によろしく言っといてくれ!」

「おう、またな!」


 そしてフレンドコールを切って、紅焔さんからの情報は貰い終えた。よし、これならサヤの進化も早いかもしれない。Lv3までならすぐにどうとでもなる。まぁサヤ次第ではあるけども。


「ケイ、どうだったかな?」

「かなり有益な情報だったぞ。絶対に進化先が出るとは言い切れないけど、条件的にはすぐにでも可能だな」

「……もしかして進化の輝石かな?」

「まぁ、そうなるな。紅焔さんの場合だと火の操作と火魔法両方Lv3が条件だったってさ」

「サヤ、それなら進化の輝石の合成進化で良いんじゃない?」

「そうだね! 苦手な特訓の必要もなくなるよ!?」

「……結構気合入れてたんだけどなー」

「よーし、それならサヤは特訓開始だね! ヨッシ、サヤの特訓はスパルタで行くよー!」

「そうだね。サヤが気合充分ならそうしようか」

「あれ!? 合成進化じゃなくて、自力で強化になるのかな!?」


 ヨッシさんとハーレさんがサヤの気合という言葉に反応してにじり寄っていく。……苦手なら苦手でも良いんだから、そこは素直に進化の輝石に頼っておく方が良いと思うけどな。


「サヤ、ここは素直に進化の輝石に頼った方がいいぞ? 苦手ならLv1〜2は飛ばして扱いやすくなる操作のLv3から練習した方が多分扱いに慣れやすいかもしれない」

「……確かにケイの言う通りかもな。操作系スキルで1番扱いにくいのはLv1だから、あえてそこを飛ばして使用感を先に掴んで馴染ませるのもありか」

「そういう事は先に言ってほしいかな!?」

「さぁ、サヤ! スパルタ特訓を始めるから、早くポイントで風の操作の取得だよ!」

「サヤ、情報ポイントには余裕あるんだから、ここはケイさんとアルさんの提案に乗る方が良いと思うよ? 節約したいのは分かるけどね」


 ハーレさん、帽子になってるクラゲの触手をウネウネ動かしながらサヤににじり寄っていくのはやめなさい。リスの頭の横で何本もの触手が蠢くのは地味に不気味だぞ。……サヤも苦手な感じなのか距離を取ろうとしているけども、ヨッシさんが今回は止めてないから完全に悪ノリ状態になってるね。


「進化の輝石にするから、分かったから! ハーレを止めて欲しいかな!?」

「はい、ハーレ、ストップね」

「はーい! ふっふっふ、地味に今の動きはサヤは苦手と見たよ!」

「ヨッシ、明日辺りに学校でハーレの苦手なものを色々と教えてもらっても良いかな?」

「……うん、そうだね。ここは公平に行こうかな」

「あれ!? ヨッシはそっちに行っちゃった!?」


 この3人のやりとりは仲がいいからこそなんだろうな。下手な相手にやれば、ただ喧嘩になるだけな気もする。まぁハーレさんは多分明日辺りに何かしらのしっぺ返しがありそうだね。……そろそろ脱線し過ぎだし、止めるか。


「とりあえず3人ともそこまで! サヤは進化の輝石で合成進化して新しい進化先を出すって事で良いんだな?」

「あ、うん、そうするよ」

「属性は選べそうだけど、風で良いのか?」

「そういえばそうなんだよね。折角だし、別の属性にしてみようかな?」

「どうせなら、みんなが持ってない属性が良いんじゃない?」

「サヤ、雷属性とかはどう!?」

「あ、それいいかも!」


 お、サヤのタツノオトシゴは雷属性にするのか。もし出るとしたら劣雷竜って事になるのかな? あくまで推測にはなるけども。風雷コンビの雷属性でも麻痺効果とかあったみたいだし、近接で敵の不意をついて動きを阻害させるには案外良い組み合わせかもしれない。


「それなら草原エリアだねー!」

「でも、サヤ良いの? 進化先が出てくるかは結構賭けだよ?」

「選択を迫っておいてそれを言うのかな!?」

「あはは……。ごめん、ついね?」

「……悩んでたから良いけどね。もし駄目でも操作系スキルの練習は出来そうだし、別に良いかな」

「それじゃ決定だねー! 草原エリアに出ーー」

「あ、交換したらすぐに戻ってくるから、みんな熟練度上げでもしててくれるかな?」

「あぅ、遮られた!? サヤ、もしかしてさっきの反撃!?」

「どうかな? それじゃちょっと行ってくるね」

「おう、いってらしゃい」


 まぁ進化の輝石を交換するだけなら全員で行く必要もないのは確かだな。そしてサヤは進化の輝石交換へと草原エリアへと向かっていった。転移が可能になって選択肢が増えるというのは良いことだね。

 あ、そうだ。今のうちにアルに確認しておこう。


「あ、そういやアル」

「ん? どうした?」

「アルの今のリスポーン位置って何処になってんの?」

「あー、そういやさっき共生進化の時のリスポーン位置がどうこうって話は聞いたな。伝わってるもんと思ってたが、案外知られてなかったんだな。今はミズキの森林の湖から少し離れた位置に設置してるぞ」

「だって、俺らよりアルの方がログアウト後だから見る機会ないんだよ」

「あー言われてみりゃ、確かにそうだな。説明すんのを失念してたぜ」


 意外と知らない人が多かったのはこの辺のタイミングのズレとかが原因かな? リスポーン位置のすぐ近くでログアウトをしなければ分からない話だし、誰かがログアウトして目の前で急激に木が成長するのを目撃しなければ意外と気付かないのかもしれない。

 それにしてもアルの設置場所はミズキの森林の湖から少し離れた場所か。中々良い場所にリスポーン位置があるね。アルがログアウト中ならリスポーン位置でミズキの森林が選べるって事になる。


「あんまり頻繁に位置を変える気はないんだが、流石に初期の場所はな?」

「今は灰のサファリ同盟の本拠地になってるもんな」

「別にそのままでも問題ないんだよー!?」

「いや、流石にログイン、ログアウトの度に人が多いとこで木の成長をさせるわけにもいかんだろ。俺は驚かせないように人目につきにくい場所に設置してるからな。他の共生進化の木の奴も多分そうじゃねぇか?」

「あー確かに」


 だから、情報共有板で地味に目撃者がいなかったのか。……時間帯によってログインしている人のズレも一因なのかもしれないね。この辺は深夜帯にやってる人の方が詳しそうだ。やっぱり早くまとめ機能が欲しいね。


「みんな、ただいま」

「サヤ、おかえりー!」

「おかえり、サヤ。早速進化する?」

「お、早速行きますか!」

「どうなるか、少し期待だな」

「うん。時間も勿体無いから、もう進化していくよ。『合成進化』!」


 サヤはインベントリから取り出した電気の白っぽい黄色の光を放つ『進化の輝石・雷』を使い、合成進化を始めていく。以前見たヨッシさんの氷属性への進化の時と同じ様に『進化の輝石・雷』が強烈な光を放ちながら砕け散っていき、タツノオトシゴの周囲へと漂っていく。

 破片同士を繋ぐ光の線が生まれ、黄白色の膜が形成されていく。そして少しの間を空けて、その膜が吸収されていくように消滅していった。これで合成進化は完了か。


「『尾長ライノオトシゴ』になったかな。あ、やった! ちゃんと『劣雷竜』が進化先に出たよ!」

「おー! 雷属性っぽい!」

「うん、良さそうな感じ」

「ドラゴンかー。まだ3枠目もあるんだよな……」

「確かに少し作りたくなってくるな」


 タツノオトシゴの大きさは今までとは大して変わらないけど、色は黄色っぽくなり、軽くバチバチと表面に電気が走っている。

 紅焔さんの翼のある西洋系のドラゴンは2枠必要そうだからちょっと厳しそうだけど、1枠で成立する東洋系のドラゴンはちょっと憧れるものがなくもない。うん、今なら紅焔さんの気持ちも結構分かる。いや、まだタツノオトシゴの表面に電気が走るようになっただけで本命の未成体への進化はこれからなんだけどね。


「『劣雷竜』は変異進化だから……あ、ポイントぎりぎりだけど、なんとかいけるかな。続けていくよ。『変異進化』!」


 そして次は先程と同じ色合いの膜によって卵状に覆われていく。少しの間を空けて、卵状の膜が砕け散って進化完了である。その姿は竜としては60〜70センチくらいとかなりの小型ではあるが、間違いなく竜と呼べるものであり、タツノオトシゴには無かった手足も生えていた。東洋系のドラゴンと言われてイメージするものに、電気を纏わせたような感じである。


「よし、3枠目はドラゴンを作るか」

「あ、ズルいぞ、ケイ!?」

「あはは、ケイもアルもこれ気に入ったのかな?」

「そりゃ、まぁ憧れる気持ちはある」

「まぁな。純粋にゲームの進行に関係なく作ってみたいとこではあるな」


 思ってた以上に格好良かったってのもあるんだよな。西洋系のドラゴンはオフライン版で散々やったからある程度満足はしてるけど、東洋系のドラゴンは居なかったからこういざ実物を見てみるとやってみたい感が凄いある。……まぁこの辺はそのうち解放される3枠目が使えるようになった時に考えようか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る