第239話 広がる手段


 晩飯なのでログアウトをしてきた。やってきたのはいつものいったんの場所である。胴体を見てみれば『明日は定期メンテナンスの日!』となっている。まぁ学校に行ってる間だし、特に問題はない。


「お疲れ様〜。晩御飯かな〜?」

「まぁな。共闘イベントの方は?」

「まだなんとも微妙なとこだね〜。うまく行けば今日の夜辺りには開催決定に出来るかもしれないかな〜?」

「その場合だと開始は明日から?」

「うーん、今日の9時までに終われば明日開催かな〜? それ以降なら明後日より先だね〜」

「なるほど……」


 青の群集からの移籍は桜花さんがいたから、青の群集が群集クエストを終わらせてるのは確定。となれば後は赤の群集のクエスト終了を待つだけか。ま、これは待つしかないからどうしようもないな。


 とりあえず軽くスクショをいつも通りの処理にしておいて、ログアウト。さて、今日の晩飯は何だろう。



 ◇ ◇ ◇



 そして本日の晩飯はトンカツであった。うーむ、俺の結構な好物なんだけど、これは早まった真似をしてしまったか……?


「おいこら、晴香!? いくら何でも取り過ぎだ!」

「ふっふっふ、兄貴が分けてくれるって言ったからさ!」

「だからって加減は考えろ!?」


「圭ちゃんも晴ちゃんも食事中は程々にね?」

「「……はい」」


 そして騒ぎ過ぎて母さんに目が笑っていない笑顔で注意されて、2人して固まってしまっていた。……笑顔で怒る時は怖いんだよ、母さんは!? なんか父さんは居心地が悪そうにしてるって事は、父さんがなんか怒らせたな!?

 こういう風に母さんが怒る時は何か不機嫌の原因があるけど、俺には心当たりはない!


 その後に食器の片付けをしていた時に気付いたけど、母さんのお気に入りのマグカップが無くなっていたから、多分それが原因だろう。確かあれは何年か前に俺と晴香で母の日にプレゼントしたやつだったっけ。……大事にしてくれてたんだな。



 ◇ ◇ ◇



 とりあえず再ログインしたけども、今日の晩飯は精神的に少し疲れたぞ……。迂闊におかずを分けるなんて発言はするもんじゃないな。まぁ今日は間が悪かったというのもあるだろう。……まぁ半分取られたけどな!

 

 気を取り直して、ゲームの続きをやっていこう。先にハーレさんがログインしている筈だけど、さてどこにいるかな。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 52/52 → 51/51(上限値使用:1)

<行動値上限を3使用して『発光Lv3』を発動します>  行動値 51/51 → 48/48(上限値使用:4)


 とりあえず夜の日用のスキルを発動しておいてっと。そろそろ発光もLv上がっても良さそうな気もするけど、まだかかるかな?

 周りを見回してみれば、ハーレさんを発見。……手招きするならクラゲの触手じゃなくて、リスの手にしてほしい。


「ケイさん、ヨッシ達はミヤ・マサの森林で待ってるってさ!」

「今日はあっちか。了解……って、アルもか? いや、アルがいるからこそか」

「そうみたいだね!」


 未成体に進化させるとは言っていたけども、まだ自力での森林深部の移動は無理かな? まぁミヤ・マサの森林なら昨日行ってるし、転移も可能だからアルでも大丈夫なのだろう。アルのクジラはまだミズキの森林に持っていった事がないから、あそこには転移は無理だもんな。


「とりあえず急ご!」

「だな。さっさと行くか」

「ここからならエンからの転移が早いよね!」


 さてとアルは昨日の夜の内に未成体へと進化させておくという話だった。どんな風に変わっているのかが少し楽しみだ。エンのとこまで移動して、ミヤ・マサの森林まで転移していこう!


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『始まりの森林・灰の群集エリア1』に移動しました>


 一旦、森林エリアに移動してっと。ここの帰還の実は昨日使ったから新しいのを貰っておこう。えーと、ここの群集拠点種の名前はなんだっけな。って見れば良いだけだよ!? えっと、エニシだな。よし、エニシから帰還の実と追憶の実を貰っておこう。


「ね、ケイさん!」

「ん? どした?」

「白いカーソルの人が結構いるよ?」

「うお!? マジだな!?」


 周辺を気にせずにすぐに帰還の実を貰おうとしたからハーレさんに言われるまで気付かなかった。改めて周囲を見てみれば色んな種族の白いカーソルの人が集まっている。これ、全部青の群集からの移籍希望者か。パッと見では大小様々で分かりにくいけど、15〜20人くらい?


「元青の群集の人! ここが灰の森林の群集拠点種のエニシだ! 同時に6人まで受注可能になってるから加入希望者は並んでくれ」

「多少順番待ちはあるけど、我慢してね!」

「郷に入っては郷に従えだ! 灰の群集の所属になる以上は元青の群集だからって好き勝手すんなよ!」

「そりゃお前もだ! いきなり仕切るなー!」

「はいはい、そういうのは無し! みんなで仲良く!」

「そうだよ。いきなり大騒ぎしない事! 終わったから次の人どうぞー」

「おっしゃ! 次は俺の番だな」

「なぁ、加入クエストって具体的に何やるんだ?」

「んー単なる登録確認と、注意事項の説明だね。移籍してから1週間で問題行動があれば問答無用で群集を追放だってさ」

「え、マジで? 問題行動ってどんな?」

「元の群集エリアにばっかり居座って、灰の群集エリアに全然いないとかそういう感じ。多少なら問題ないみたいだけど」

「あー移ってきたのに元のとこに居座るなってのは当たり前だよな」

「あ、それと前の群集での運営から受けた警告回数に応じてこの日数が伸びるってさ」

「……赤の群集であれだけ騒動が起きてたタイミングならそうなるか。で、具体的に何日伸びるの?」

「さぁ? 警告は受けた事ないから知らない」

「……まぁ問題を起こさなきゃそもそも無縁な話か」


 漏れ聞こえてくる会話の内容としては、とりあえず灰の群集になったからには灰の群集として動けって事かな。後は問題行動にもペナルティ有りなのか。当たり前と言えば当たり前の事だけどね。それが嫌なら、そもそも迷惑行為を起こすなという話である。

 そして軽く見た感じでは、どうやら移籍者の灰色のカーソルの真ん中に少し白い線が入っている。1週間この線があるって感じか。ま、元々から灰の群集なのか、移籍組かの判別の為のものかな。新入りの証という事なのだろう。


「移籍してきた人の見分けがつくんだね!?」

「ま、その方がトラブル防止にはいいだろ」

「一長一短って気もするけどね!」

「確かにそれもあるけどな。今は赤の群集があれだし、あった方が多分いいだろ」


 でも、灰の群集の雰囲気的にはそれでトラブルが起こるとは考えにくいかな。どちらかというと移籍してきた人が我が物顔で横暴さを振りまくのを防止する役割だろう。っていつまでも見てる場合じゃないね。


<『帰還の実:始まりの森林・灰の群集エリア1』を獲得しました>

<『追憶の実:始まりの森林・灰の群集エリア1』を獲得しました>


 さて帰還の実と追憶の実も手に入ったのでそろそろ移動しよう。サヤ達が待ってるしな。エニシからミヤビへと転移だ。転移が使えるとこは楽でいいね。


<『始まりの森林・灰の群集エリア1』から『ミヤ・マサの森林』に移動しました>


 ミヤ・マサの森林にはコケもロブスターも既に途中の妨害ボスは倒しているので、制約もなくサクッと転移で移動完了。さてとみんなは何処かな? お、何か人が集まってる中心にいるのがアルっぽいな。


「ほう、これがクジラと木の共生進化か。背中に生えてる感じだけど、少し移動させれば夕方のあれが応用出来るんじゃねぇか?」

「あ、確かにいけるかも。やってみる価値はある」

「アルマースさん、クジラから離すような感じで木の移動は出来るか?」

「……離すように? こんな感じか?」

「あーもうちょっと切り離すつもりでだ。アルマースさんなら、あの森林での大暴走のあれをイメージでやれば良い」

「あれか。そこまでいくならこっちが必要だな。『根脚移動』! お? なるほど、こうなるのか」

「お、いい感じだな。でもまだクジラがでか過ぎるか」

「まだ小型化のLv上げが足りてないからなー」

「まだまだクジラで浮くのは大変ってか!」

「まぁな。これでも共生進化状態で小型化と空中浮遊を同時に使えるようになっただけ進歩してんだぜ?」


 何やらアルを中心に色々と試している最中のようである。背中にあった木が昨日より少し小型化したクジラの胴体に根で巻き付くような形で牽引されている様な形になっていた。あー、これは夕方にあった木とライオンの共生進化での実験の結果を応用してるのか。


「あ、ケイ、ハーレ、来たんだね」

「夕方はログイン出来なくてごめんね」

「やっほー、サヤ! ヨッシ、それは大丈夫だよー!」

「サヤはさっきぶり。お、ヨッシさんはウニの小型化にしたのか」

「今日のログインボーナスでポイントが足りたから、上限発動制御を取得して小型化を登録して発動中だよ。そっちの方が動きやすそうだしね」


 サヤはタツノオトシゴでログインしており、ヨッシさんはハチの針の先に小さくなったウニをぶら下げている。ログインしているのはハチ側だね。まだハチに比べると結構大きなウニだけど、バランスは昨日よりはかなり良くなった。っていうか、ウニの小型化も可能なんだな。


「ヨッシを嵌らせるのに苦労したかな。取得出来たのはついさっきなんだよ」

「……棘を全部最大限まで縮ませた上で更に嵌まれる場所を探す必要があったしね」

「大変だったんだね!?」

「条件が分かってても、達成するのに苦労した訳か」


 とはいえ、実際に小型化しているので成功したって事で良いんだろう。……実際どんな風にやったのかは気になるとこだけど、聞いてもいいのかな。


「お、ケイ達が来てるな。すまん、メンバーが揃ったからこの辺で」

「おう、またな!」

「色々と有意義だったぞー!」

「で、アル? どういう状況?」

「あー、なんか色々試してた?」


 うん、それは見た感じで分かってた。まぁクジラと木の組み合わせを見た人達が夕方の件を応用した検証をしていたのだろう。まだ途中って感じではあるけど、中々有用そうではある。

 今アルがログインしているのは木の方みたいだけど、クジラが浮くのと小型化の両方が成立しているから少し進歩ありかな? 昨日より浮く高さが高くなって50〜60センチくらいになってるし。


「大体の予想はつくけど、進歩はあったみたいだな。どんな様子?」

「あーそれはだな、まずは上限発動制御がLv2で登録枠が2つになって、それぞれで小型化と空中浮遊を登録して上限発動指示から発動中だ。空中浮遊がLv3だから効果時間は15分か」

「時間はそんなもんか。それでさっきの検証になってた訳なんだな」

「そういう事だ。このサイズならまだ木は背中に普通に乗っていられるけど、そろそろバランスが怪しくなってきたとこだったからな。あれは盲点だったぜ」

「さっきのあれならアルさんだけで、あの移動が出来る!?」

「可能性はあるな。木の方もちょっと手を加える必要はありそうだが、ケイ、何か良い案ないか?」

「いきなり無茶振りだな!?」


 まぁ考えてはみるけどさ。課題としては木の方のバランス確保か。アル1人でコケ式滑水移動を成立させるとすると……。ふむ、可能性としては不可能でもないか。


「アル、軽くで良いから木の方も一緒に浮かす事って出来るか? ほんの少しでいいんだけど」

「ほんの少しでいいなら多分大丈夫だな。……何か思いついたか?」

「まぁな。コケが使えないからほんの少しだけ木を浮かせる事を前提として、根の操作と水の操作の同時発動で滑らせるってのはどうだ?」

「……なるほど、並列制御だな?」

「おうよ。纏氷の氷化で根の先を氷にしてスケートみたいにしても、風の操作でホバークラフトみたいにしても良いけど、今の手持ちである方が良いだろ?」

「まぁな。よし、まずは並列制御を取っておくか」


 空飛ぶクジラ計画には空中浮遊のLv上げも必須だしね。こうやって……あれ? そういや共生指示とか上限使用指示で呼び出したスキルって熟練度はどうなるんだ?


「なぁ、アル? 共生指示とかでの発動で熟練度って貯まるのか?」

「あーそれか。俺も気になってたけど、ちゃんと貯まるって話だぞ」

「あ、それ事実だよ! 私の傘展開のLvはちゃんと上がったもん!」

「実例が目の前にいるなら事実っぽいな」

「みたいだな」


 その時に報告して欲しかった気もするけど、まぁ確認が取れたという事で良しにしよう。これから試してみる必要も無くなった訳だし。


「ところで、アルさん!」

「ん? どうした、ハーレさん?」

「並列制御を取ろうとして、共生進化もしてるって事はどっちも未成体だよね!?」

「あ、そういやそっちの説明がまだだったか」


 そういえば未成体に進化させておくという話だったもんな。当たり前のように並列制御の話をしてたけど、まずはそっちの情報の確認が先だった。さて、アルはどんな進化になってるんだろうか。……見た目は頭が白くなっている以外は大して変わってない気もするけど、大きさは変化させているからなんとも言えないね。

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