第238話 灰のサファリ同盟の支援体制
ほんの少し走って行けばすぐに灰のサファリ同盟の活動拠点となっている元俺らの特訓場へとやってきた。……なんか人数が増えてる気もするし、何やら草花の栽培もされているような気もする。
「頼まれてた小石と泥団子の補充でいい?」
「そだよー! 受け取りに来ましたさ!」
「はい、これね! いやー2人とも、中継が入り込めないくらいの激戦をやってきたんだってね?」
「中継されてなくても伝わってるんだ?」
「うちのお得意様が参加してたからさ。昨日の夜に武勇伝の様に語ってたよー!」
「ん? 誰から聞いたんだ?」
あの場にいた人は結構限られるはずだ。ベスタが自由に話しまくるとは思わないし、風雷コンビはよく分からない。紅焔さんのPTか、もしくは……。
「あ、レナさんか!?」
「まぁそういう事。あ、情報については心配はいらないよ。他の群集には気軽には喋らないからね。喋るとしたら、相応の見返りを求めるだけさ。ま、現状釣り合う情報があるとも思えないけどね」
「ま、それなら問題ないか」
やっぱり話してたのはレナさんだったみたいである。まぁ同じ群集内に話す事については特に問題はないだろう。レナさんもここのお得意様って事は実はサファリ系だったりするのかな?
「そういや森林エリアで情報泥棒がいるのを目撃したけど大丈夫か?」
「うーん、一応気をつけてはいるけど完全には無理だろうねー。まぁここのは情報共有板のとんでも情報ほどの物はないから大丈夫さ!」
「共闘イベントもあるもんね! ある程度は気をつける必要はあっても完全に遮断して溝を作っても仕方ないし!」
「そういう事。ホントに隠したい情報の検証は占拠エリアでやってるしね」
そりゃそうだよな。初期エリアは他の群集の人も普通に出入りしてるし、問答無用で追い出すような事もしていない。……そんな事をすれば共闘イベントでギスギスして、共闘なんて無理になるしね。進化の為の協力や、昨日の青の群集との総力戦みたいな事も出来なくなるもんな。
適度に敵対しつつも、いざという時に共闘も可能な関係性の維持も大事だよね。
「あ、そうそう。良い情報が2つほどあるけど、聞いていく?」
「そう言われると気になるな」
「もちろん聞くー!」
そんな事を言われて、聞かないという選択肢はない。是非とも聞いておこう。
「そう言うと思ったさ! まずは地形の変化に関する情報だね。初めにケイさん達が作ってた岩風呂あるじゃん?」
「……池のつもりなんだけどな」
「ん? あ、そういやそうだっけ? まぁそこは大して重要じゃないから、スルーさせてもらうよ。端的に言えばそれの経過報告だね。あの後、同じのをもう1個作って時間経過でどうなるか比較検証をしたのさ」
同じのをもう1個……? あ、ホントだ。隣に同じようなのが増えてるね。俺が作ったやつにも、新たに増えたやつにも相変わらず泥まみれになった小動物系のプレイヤーが浸かっている。相変わらず現実じゃあり得ない光景だな。
「結論から言えば、1日くらい手付かずで放置すれば徐々に元の地形に戻っていくね。ま、ゆっくりとだから、この岩風呂だと1週間くらいで元通りじゃないかって推測だよ。ただし、途中で少しでも手を加えれば戻っていくのはキャンセルされるって事も判明したね」
「あ、放置してると戻っていくのか」
「手を加えるのと放置するので比較したからさ。正確な時間まではなんとも言えないけど、放っておくと戻っていくのはほぼ間違いないね」
ふむふむ、これは良い事を聞いた。そうなると常駐している人がいる方が有益に利用できるのか。そういう仕様なら、俺らが占有するよりこうやって大々的に使ってもらった方が良いんだろうな。
ということは昨日の総力戦で破壊した森もそのうち勝手に復活しそうだね。
「この仕様は泥団子の作成や小石の調達にも役立っててね。材料の土を採る場所を定期的に切り替えていけば、材料が尽きる事は無さそうさ!」
「ゲームならではの仕様か」
「それはリアルじゃ無理だよね!?」
使った土が回復するなんて事はまず現実じゃあり得ないもんな。ふむふむ、そうなるとここの泥団子の生産はかなり良い感じなんだろう。
「もう1つの良い情報はー!?」
「お、やっぱり聞くよね? そりゃ聞くよね?」
「もちろんさー!」
「まだ実験段階だけど、毒草の育成が出来そうな感じになってるよ。うまく行けば毒の操作の取得に使えるんじゃない?」
「え、マジで!?」
「マジもマジ。毒の弾も試作中だよ。どの程度の効果があるかはまだ未知数だけどね」
「おー!? 試し撃ちなら私がやるよ!」
「試作品が完成したら、お願いするねー」
これは思わぬ情報である。やるな、灰のサファリ同盟! 効果のほどは実際に完成してみないと分からないけど、もしかしたら便利かもしれない。……一般生物の植物の毒性がどこまで有効かというのが少し難点な気もするけども。
「あ、そうだ。ダメ元で聞いてみるけど、ケイさん癒水草って水棲植物は持ってない?」
「ん? それなら持ってるぞ」
「おぉ! 聞いてみるもんだね」
「何に使うアイテムなの!?」
「果物と一緒に使えば回復量が増えるんだよ。ま、不動種に合成してもらう必要はあるんだけどね」
「え、これってそんなに優れものなのか!?」
「そうだよー。他にもどんな風に使えるのか検証したいんだけど、とにかく数が少なくてさ」
「……割とあっさり手に入ったけど?」
ただミズキの森林の湖に潜った時に手に入れただけで、使い道も分からずに死蔵してただけの草なんだけどな。そうか、これはそんな効果があったのか。
「今のところ、かなりのレアアイテムだよ。ただ珍しいっていうよりは復活にかかる時間が長めって感じかな? そこに作った池で栽培してみようかとも思ったんだけど、使用前のが手に入らなくてね」
「なるほど、栽培ね。ところで不動種でまとめるってのは?」
「あれ、知らない? そっか、そういや見つかってそんなに経ってなかったっけ。果物か木の実が収穫出来る不動種の固有スキルに『果実合成』ってのがあるんだけどね、その時に混ぜて、新しい果実や木の実が作れるんだよ」
「……もしかしてさっきの毒の弾ってのも、それ絡み?」
「大正解! 毒草を合成した木の実がまさにそれ! それでそこの崖上が毒草畑になってるよ」
「ほー、色々とやってるんだな」
「そりゃね! 色々なとこ行って、色んな物を採集して試してますから!」
魔改造されまくってるな、俺らの元特訓場。毒草畑に泥団子か。そして不動種のスキルで素材の合成をした果実の生成か。攻撃スキルとはまた違った方向性でも色々と進展があるようだね。この辺は手付かずだからな。
「赤の群集の人は大丈夫ー?」
「んー、愚痴を言ってる人は昨日まで結構いたけど、今日になってからはなんかスッキリした様子だね。あ、何人か移籍希望ってのはいるよ。まだ群集クエストが終わってなくて無理みたいだけど」
「やっぱり移籍希望者っているんだな」
「可能になり次第、それなりの数が来るんじゃないかな?」
「やっぱりそうなるよな」
「あの状況を聞いてたらそうなるよね!」
まぁある程度は予想出来てた事だしな。流石に改善に向かってるとはいえ赤の群集から移ってきたくなる気持ちは分かる。それでこっちに騒動とかが起きなきゃ良いけども。
「ま、赤の群集は良いとして……。とりあえずコツコツとアイテム関係は試していってるから、成果があったら情報と実物は流すからね。で、どう?」
「あ、癒水草だな。これってアイテムとして手に入れてからでも栽培出来るのか?」
「それに関してはまだ未検証なのさ。毒草に関しては大丈夫だったけどね」
「検証する為に実物が欲しいって事か」
「そうそう! だからトレードしてもらえない? 可能な範囲なら希望通りの物と交換でいいよ。うちには不動種もいるからその辺のトレード体制もそこそこ整ってるからね」
「お、良いのか?」
「うまく行けば、かなり良いものになりそうだからね」
確かに聞いてる限りではかなり有用そうだし、湖の中に植わっていた水草だけどここには池があるから栽培も可能かもね。……まさかあの熟練度上げの為だけの池作りがこういう形になるとは思ってなかったけど。
それにしても欲しいものか。んー、雷の進化の軌跡も使ってみたいし、まだ見た事すらないけど多分あるだろう闇の進化の軌跡も気になるところではある。よし、ダメ元で聞いてみるか。
「進化の軌跡・闇の小結晶とかってあったりしない?」
「あら? 随分変わったものを希望してくるね?」
「あーどんなものか興味本位なだけでもある」
「あれは珍しいけどちょっと微妙だよ。付与スキルは『闇纏い』『暗闇空間』『暗視』の3つだしね」
「あ、付与スキルの種類は分かってるんだ?」
「数は少ないけどトレードで持ち込んでくる人もいるからね。『闇纏い』は暗い場所で相手から姿を視認されにくくなるって効果だね。『暗闇空間』は煙幕の強化版って感じかな。『暗視』は説明の必要は無いよね?」
「なんか妨害に特化した感じだね!?」
ふむふむ、今までまだ内容を知らなかった闇の付与スキルはそんな内容なのか。自身の姿を隠すのと、相手の視界妨害か。……使い方次第では便利そうではあるけど、光も闇もちょっと変わった感じの性能だな。
闇の操作ももしかしたらこんな風に妨害系の性能なのかもしれないね。……光の操作も使い方次第では目くらましにも使えるのか? いや、それなら閃光で充分……あ、良い事を思いついた! 出来るか分からないけど、試す価値はありそうだ。
「それなら雷の小結晶があれば、そっちにするよ」
「雷の小結晶だね。それなら在庫はあるから大丈夫さ。おーい! 雷の小結晶をあるだけ持ってきておくれ」
「ほいよ、ラック! 小結晶なら今あるのは3個だな」
「ありがと! ケイさんには3個の雷の小結晶を進呈だ!」
「え、良いのか?」
「周回で手に入るそれと違って、癒水草はレアだからね! これくらいは当然さ」
「それなら遠慮なく」
元々アルが植わっていた辺りにカンキツという不動種の蜜柑のプレイヤーがいるようだ。そこから小結晶を持ってきてくれていた。不動種って倉庫代わりにもなるんだね。
よし、これで試しに纏雷を使ってみる事が出来るな。使ってみて良さそうなら雷の進化の輝石の入手も視野に入れよう。
「あ、それとちょっと数が足りないんだけど光の欠片と他の欠片と合わせて、光の小結晶と交換って出来るか?」
「んー、普段ならちょっと悩むとこだけど、今回は良いよ。在庫はあるからね」
「それじゃ交換を頼んでいいか?」
「まぁいいけど、現在進行形で光りっぱなしのケイさんに必要あるのかな? あ、余ってれば足りない分は樹の欠片でお願い出来る?」
「樹の欠片なら数はあるから問題ないな。まぁ、ちょっと実験したい事を思いついてね?」
「お、気になるね? 後で情報を楽しみにしてるよ!」
「おう、それじゃな!」
そしてラックさんから癒水草とトレードで雷の小結晶3個、そして欠片を交換して実験用の光の小結晶を1個手に入れた。
「ケイさん、思い付いた実験って何やるのー!?」
「並列制御の実験その3」
「まだ他にも思いついてたの!?」
「薄々考えてたけど、やってみないと分からないからな。さてと実験するなら荒野エリアくらいが被害がなくて良いか?」
「ケイさん、本当に何をやる気!?」
「それは見てのお楽しみって事で」
すぐに試してみたいとこではあるけど、結構話し込んでたからそれほど晩飯まで時間がないか。……これは試すのは晩飯後か目的地次第では明日だな。とりあえず食べる為に一旦ログアウト。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます