第237話 色々な変化


 もうなんか移動が面倒になったので、エンのところまで桜花さんも俺の水に乗せて上空を飛んでいった。少し小型化してたとはいえ、アルのクジラが平気だったし纏樹状態の不動種を運ぶ事自体はそれ程難しくない。

 ただし桜花さんが乗れるように大きめに作り直したけどね。流石にさっきまでのでは小さ過ぎた。


「うはー!? 木で空を飛べるとは思わなかった!?」

「桜花さん、あんまり動き回らないでくれ。多少は大丈夫だけど、なんだかんだで水だからしっかりとした足場にはならないんだよ」

「あ、すまん。考えてみりゃ、そうだよな」


 少しはしゃぎ気味だった桜花さんも大人しくしてくれた。ハーレさんのリスとか、今のタツノオトシゴのサヤとかなら多少暴れて大丈夫だけど、流石に木が動くと制御が難しくなる。まぁこれが土の操作とかになればもっと足場としては安定するんだろうけどもね。


 あと木とかにぶつけたらダメージ判定がありそうだし、ぶつけないように注意しよう。……後でその辺は確認しとくかな。


「到着だー! 『上限発動指示:登録1』! とう!」

「ハーレ、待った! 『尾伸ばし』『尾巻き』!」

「あう!? く、首が絞まる!?」


 エンのすぐ上まで到着した直後に、即座に飛び降りようとしたハーレさんをサヤが尾で巻き取って捕獲する。……なるほど、上限発動指示に傘展開を登録したんだな。パラシュート化して落下しようとした時に、サヤがクラゲの触手を捕まえた状態になった。クラゲの触手は基本的にリスの首に巻き付いているので、結果的にクラゲの触手で首吊りをしているリスみたいになっている。


「はいはい、苦しくないから大丈夫。先走るのは駄目かな」

「サヤの止め方がヨッシに似てきたよ!? よし、触手の位置移動完了!」

「……ヨッシから、暴走し過ぎないように止めてって頼まれたからね」

「ヨッシから頼まれたの!?」


 ハーレさんはササッと触手の位置を首から肩の方へと移動させ、安定させていた。なんだかハーレさんの突撃にサヤまで手慣れてきた感じがあるね。それにしてもヨッシさんも、ハーレさんの大体の行動は予測済みか。うん、なんだかんだで対応してくれてありがとう、ヨッシさん。


「ケイさん、あれって放っておいて良いのか?」

「あー、いつもの光景みたいなもんだから気にしなくて良いぞ」

「……なら良いけどよ」


 そうか、周りから見たらちょっと乱暴な扱いにも見えるのかもしれないか。まぁあれが俺らのPTの女性陣3人組の関係性だし、問題はないけどね。……ああでもしないとハーレさんの突撃を止められないとも言うけども。


「とりあえず到着したけど、降りていいか?」

「サヤー! 投下をお願いします!」

「もう、仕方ないね。えっと、下に人が居ない方向が良いよね。ケイ、少し離れた位置にお願い出来るかな?」

「ほいよ」


 エンの目の前にはいつもの様に人が沢山集まっているので、そこを少し避けて地面に降りていく。チラホラと視線はあった気はするけども、まぁ昨日のクジラほどは目立ってなかったね。

 まだ他に白いカーソルのプレイヤーはいなさそうだな。まぁ赤の群集からはまだ群集クエストが終わってなくて無理なんだろうし、青の群集なら隣接してるとこに行くだろうからまだ居なくて当然か。桜花さんがここにいるのは変な移動方法をしたからこその話だな。


「よし、この辺で良いな」


 とにかく桜花さんを送り届けるのはここまでだな。桜花さんも水から降りて、エンに向かって気合を入れていた。これから加入クエストとやらをやるんだろうね。どんな内容かは知らんけど。


「ケイさん、サヤさん、ハーレさん! 助かったよ、ありがとう!」

「ま、これくらいはどうって事ないさ」

「また会う事があればよろしくかな?」

「桜花さん、またねー!」

「おう! それじゃ行ってくる!」


 そうして妙な遭遇の仕方をした桜花さんをエンの元へと送り届けるのは完了した。ま、ここで不動種をやるっていうならまた会う事もあるだろう。その時は色々頼りにさせてもらおうかな。


 さてと意外と時間が経ってたようでもうすぐ6時というところである。そろそろサヤが厳しいかな?


「そういやサヤは進化先はどうなったのー!?」

「そういやそうだった。サヤ、どんな感じだ?」

「あ、そうだったね。えっと、あれ、意外と種類が多いかな? 変異進化で『劣海馬』『劣大海蛇』『劣竜』で、転生進化から『カゼノムチノコ』と『強化カゼノオトシゴ』ってなってるかな」

「タツノオトシゴってそんなに色々と進化するの!?」

「……えーと、よく分からないのもあるけど、変異進化はドラゴンとかシーサーペント?」

「多分そうだと思うかな。合成進化じゃなくてもいけるんだ」

「だよね!? こういう事もあるんだー!?」


 劣大海蛇はいわゆるシーサーペントって海の怪物だよな? 劣竜は多分東洋系のドラゴンか。なんか合成進化とか必要な気もするけど、種族によってはこういうのもあるんだな。

 現実にいるタツノオトシゴ自体がなんか変わった感じだし、そもそも『竜の落し子』だから竜なんだろう。……劣海馬がよく分からないから、後で調べるかアルにでも聞いてみよう。


 カゼノムチノコは、語感だけ残って原型を留めていない感じが凄い。風属性の鞭状のタツノオトシゴって事なんだろうけど、名前だけ見たら何がなんだか意味不明だね。強化カゼノオトシゴは単純な強化版かな。


「サヤ的にはどれがいい?」

「……この中からなら劣竜かカゼノムチノコかな? でも劣竜だと風がなくなってるみたいだよね」

「確かに紅焔さんが劣火龍だった筈だから、条件次第で劣風竜とかありそうだよな」

「あ、それはありそうかな?」


 てか、このオンライン版だと龍が西洋系ドラゴンで、竜が東洋系のドラゴンか。オフライン版には西洋系ドラゴンしか登場してなかったしな。選択肢の幅が増えるのは嬉しいね。悩む範囲も広がるけど。

 名前に劣があるのは進化していけば取れていくんだろう。まぁまだまだ進化はあるから、その辺はそうなってくるよね。


「そういやサヤって風の操作は持ってたっけ!?」

「ううん、ないよ?」

「あ、それなら多分それが原因だ。風の操作を取ってみて、劣風竜を目指してみるか?」

「……うん、そうだね。そうしようかな」

「それで方針決定だー!」

「でも、時間的にはご飯を食べてからかな?」

「んじゃそれで決定。ま、ヨッシさんもアルも駄目とは言わんだろ」

「ヨッシもウニの小型化かハチの大型化で悩んでた! 今日はみんなの進化と強化の日だね!」


 まぁその辺りはみんな揃ってから相談ってところかな。今日はハーレさんの言う通り、時間次第ではあるけど探索なしでそれぞれの強化の日になるかもね。俺も熟練度を稼いで全部の操作系スキルをLv3までは上げておきたい。あとロブスターの物理スキルも強化したいしね。

 次々とスキル取得しまくってて、強化が追いついてないからな。共闘イベントまでに鍛えておきたいところである。まぁ無理に今日全部やる必要もないから、みんなと予定を調整しながらだな。


「それじゃまた後でね」

「いってらっしゃーい!」

「おう、また後で!」


 そしてサヤはログアウトしていった。さてと、俺らは俺らで今のうちに何をしようかな。


「ケイさん! 今のうちに上位変換だよ!」

「あ、それがあったな。今のうちにやっとくか」


 エンのすぐ側まで来ているんだし、やっておいて損はないか。流石に最近は混雑してることが多いエンに直接話しかけるのは無理っぽい。仕方ないのでマップを開いてウィンドウから交換していこう。

 エンで進化の軌跡の上位変換が可能なのは、『火』『水』『土』『樹』『氷』の5種類。えーと、所持個数的に『火の小結晶』1個と『水の小結晶』2個と『樹の小結晶』2個の交換が限界か。他は個数が足りない。ま、ボスの周回をして集めてる訳でもないしこんなもんか。


 それにしても、これは進化の軌跡の入手手段が増えたりするのかな? 流石にこの個数じゃ気軽に使えないもんな。まぁ、共闘イベントも目前だしタイミング的にはそこで追加されるのかもしれないけど。


「あんまり効率よくないねー!?」

「仕方ないんじゃないか? 俺ら周回してる訳じゃないんだし」

「そうなんだけどさー!? あ、そうだ。『灰のサファリ同盟』に投擲の弾を貰いに行ってくるけど、ケイさんはどうするー!?」

「あー、あそこか。ちょっと何か情報ないか聞きに行ってもいいかもな」

「そうこなくっちゃ! それじゃ出発だー!」


 そして駆け出していくハーレさんであった。まぁ2人だけだし、移動速度も上がってるから普通に走って行っても問題ないか。それにハーレさんは昨日盛大に泥団子も小石も使ってたから補充も必要なんだろうしね。


「ところでハーレさん、クラゲとの共生進化はどうよ?」

「んー、まだもう少し共生指示とか上限発動指示とかの枠が欲しいとこだねー! 攻撃よりは空中移動用に強化するよ!」

「確かにそれが向いてそうだよな」


 投擲メインのハーレさんはアルの巣のボーナスは重要ではあるけど、それ以上に接近されないというのも重要になってくるもんな。俺らのPTは回復の要となるアルに近付けさせないのが基本戦術だけど、クジラとの共生の事もあるので場合によっては戦術を変える必要もあるだろう。

 アルの水分吸収での回復も今までの根下ろしとは違ってくるだろうから、色々と対策を考えておく必要もあるな。……毎日の水分吸収での水確保も重要かもね。


「ケイさんは支配進化はどう!?」

「まぁ、まだ色々と未知数だから試していかないといけないけどな。これ、ロブスターって進化出来るのかね?」

「進化項目はー!?」

「今のところは特になし。……そういや進化の輝石との合成進化が出来なくなってるな? これはなんでだ?」

「……あれ? それはなんか聞いたことがある様な気もするよ!?」

「マジか。よし、頑張って思い出せ!」

「うー!? あと少しで出てきそうだけど、微妙に思い出せない!?」

「今日のおかずを少し分けてーー」

「思い出したー!」

「思い出した理由が分かりやす過ぎるわ!?」


 相変わらず食い気の強さが凄まじい物である。食べる物が関われば忘れかけた記憶すらも速やかに蘇ってくるらしい。まぁちょろくて助かるけども、それでいいのかハーレさん。


「で、思い出した内容は?」

「未成体からのアイテムでの合成進化には、進化の輝石が2個必要だって話だったはず!」

「あ、なるほど。そう来たか」

「その代わりに付与スキルがLv4からとかなんとか、そんな感じ!」

「なんかあやふやなのは気にはなるけど、ただ個数が増えた訳じゃないんだな」


 進化階位が上がったら条件そのまま据え置きって訳じゃないのか。……輝石を使った纏属進化そのものは普通に出来るみたいだし、今の情報ポイントが1773もある事を考えれば別に無茶っていう程の条件ではない。別に今後も情報ポイントは手に入るだろうしね。

 まぁこの辺の情報はまとめ機能が使えるようになれば載ってくる情報だろうし、それから裏を取ってもいいかな。


 そうやって話しているうちに元俺らの特訓場であり、現時点では『灰のサファリ同盟』の拠点となっている崖下の池へと辿り着いた。……うん、ちょっと人が増えている気もする。他にも沢山いる灰のサファリ同盟は泥まみれだったり、スクショを見せ合って話し込んでたり、スキルの熟練度稼ぎだったり色々やっているようである。

 少し離れたところでは新規のプレイヤーへのレクチャーもしてるみたいだね。みんな楽しそうだし、それが1番である。


「お、ハーレにケイさん」

「やっほー、ラックさん!」


 そしてリスのラックさんが出迎えてくれたのであった。うん、泥まみれのリスである。 

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