第236話 群集の移籍希望者


 とりあえず群集に所属していないと白いカーソルになるという事と、青の群集も群集拠点種の強化が完了したのは確定した。他にも色々事情を聞いていこうかな。


「移籍希望なのは分かったけど、移動種じゃなくて不動種?」

「おう。今は纏樹を使って根脚移動で無理矢理移動してるだけなんだよ。いやー、群集の移籍が解放された瞬間に飛び出してきたけど見込みが甘かったわ」

「どういう事かな?」

「いやな? 青の群集を脱退して、常闇の洞窟のマップから大体の方向に当たりをつけて出発したまでは良かったんだよ。まぁ脱退したら今まで自分で踏破した以外に貰ったマップは無くなるし、不動種だったから自前のマップはほぼないし。それに纏属進化って死ねば自動解除なのな? 知らなくて無駄に使いまくっちまったぜ」


 いやいや、それでよく脱退しようと思ったね。っていうか、貰ったマップって脱退したら無くなるんだ。……群集に所属してるからこその恩恵って事なんだろうな。脱退すれば共有情報は全て取り上げって訳か。そもそもマップを貰うのはタダだしね。

 そして纏属進化の最中って死ねば自動解除なのか。試した事も誰かに確認した事も無かったから、地味に初めて知ったよ。


「そんで、もう後戻り出来ないからとにかく纏樹を使って大雑把な方向を頼りに進んでいくじゃん? んで、未成体に遭遇して殺されて、ランダムリスポーンを繰り返してさ? 帰還の実も使えねぇから大変だったんだぜ?」

「それって心が途中で折れそうだよ!?」

「いやー、俺も何度か折れかけたね。せめて2ndを作って動物系にしてそれでやるべきだった」

「……なんでそうしなかったんだよ!?」

「いやいや、思い立ったら吉日って言うじゃん? いやー、昨日の総力戦を見てたらもう灰の群集に行くしかないって。俺、戦闘はからっきしだけど、あそこならもっと楽しめるんじゃねぇかってな! 青の群集も嫌って訳じゃないんだけどなー」


 あ、こいつはかなり無鉄砲なやつだな。無計画ともいう。まぁゲームだし、周りに迷惑をかけない限りはそれでも良いとは思うけど。


「予想以上にかなりの無計画さだったよ!?」

「それでな、纏樹が今使ってるのが最後の1個だったりで。これで辿り着けないとこのエリアで不動種やるしかねぇのよ。いや、ここも良い景色だけどな?」

「……それはかなりの崖っぷちかな?」

「いやまぁ確かに良い景色だけどな」


 うーん、流石にここは不動種には向いてないんじゃないか? 不動種をやるなら初期エリアか、せめて占拠エリアの方が良いだろう。まぁ無尽蔵に初期エリアに増え続ける訳にはいかないだろうから、そのうち場所を移転する不動種の人もいるだろうけどさ。

 どっちにしても桜花さんは初期エリアに辿り着いて加入クエストを受けないと灰の群集に移籍は出来ないんだよな。


「いやー、そんな理由で間違って虫を集めた時は焦ったもんよ。必死で水分吸収して耐えまくっててさ。実際灰の群集のエリアって後どのくらいなんだ?」

「それならここから北の木が増えてきてるとこがエリア切り替えだ。その先が灰の群集の森林深部だぞ」

「おう!? もう目前だったのか! そりゃありがてぇ! それじゃ早速……あっ?」

「「「あっ……」」」


 そして目の前で纏樹の効果が切れて、移動に使っていた根が自動的に地面の中へと埋まっていく。なんて微妙な距離での効果切れ……。


「……後で数倍にして返すから、進化の軌跡の樹の欠片を持ってたら譲ってくれないか?」

「やっぱりそうなった!?」

「……これは仕方ないかな」

「流石に見捨てて行く気にもなれないか。しゃーない、貸しだからな」

「助かるぜ、ザリガニの旦那!」

「いや、旦那はやめてくれ……」


 アーサーのアニキ呼びに続き、旦那呼びまで増えるのは勘弁願いたい。それにしてもこの展開は予想してなかったな。まさか昨日の総力戦に影響されて、もう既に移籍にやってくる人がいるとはな。青の群集に不満があったというよりは、灰の群集に参加したいって感じではあるからちょっと嬉しくはあるけども。


「了解だ! それじゃケイさんでいいか?」

「それなら良いぞ。ほれ、樹の欠片」

「感謝する! サヤさんもハーレさんもありがとう!」

「おう、気を付けろよ」

「問題ないさ、それじゃラストスパートだ! 『纏属進化・纏樹』『根脚移動』! また会おうぜ!」


 そして、桜花さんは俺から受け取った樹の欠片を使って森林深部へと歩いていった。とりあえずあれならなんとか辿り着け……るのか? エンのとこまでの道も知ってるはずが無いし、そもそも外からのエリア切り替えで試した事はないからはっきりとは分からないけど氷狼が立ち塞がるんじゃ……?


「ねぇ、ケイ。桜花さん、大丈夫かな?」

「私も不安な感じがするよ!?」

「奇遇だな、2人とも。俺もだよ」

「Lv上げも予定外に早く終わったし、護衛してあげないかな?」

「ここは昼間の日に来るのが良いと思ったし、私は賛成ー!」

「そうだな。そうするか」


 不動種の知り合いが欲しいと思っていたとこでもあるし、かなりの無計画だったとはいえ折角の移籍希望者だ。俺達の目的自体は果たしてるから、これくらいの手伝いはしてあげても良いかもしれないね。

 この後はサヤの魔法特訓の予定も入れている訳だし、このままミズキの森林まで戻るとするか。どうにも調査クエストには縁がないよな、俺達。


「おーい、桜花さん。ちょっと待った!」

「ん? どうした、ケイさん?」

「いや、これも何かの縁だからボスの始末と群集拠点種までの案内をしようかと思ってな」

「……申し出はありがたいけど、何か目的とかあったんじゃないのか?」

「あー、さっきの大量の虫で目的自体は終わってるんだよ。その後に戻る予定だったから、ついでだよ、ついで」

「そうか、ならぜひ頼むよ!」

「任せといて!」

「うん、今のケイとハーレなら瞬殺だからね」

「それじゃ、ほい、PT申請」

「ありがたい!」


<桜花様がPTに加入しました>


 とりあえずこれで準備完了。反対側から行った時にもボスの妨害があるのかの確認もしたいとか、親しく出来る不動種の知り合いが欲しいとかの下心が無い訳じゃないけど、このくらいの下心は別にいいよな。


「それじゃ戻ろー!」

「「おー!」」

「お、おー?」


 とは言っても大した距離ではないので、あっという間ではあるんだけどね。


「ところで、会った時から気になってたんだがその移動方法は一体なんだ……? 水の空飛ぶカーペット?」

「ん? 水の操作を利用しての移動方法って青の群集にはなかったか? 昨日の総力戦で見かけた気もするけど」

「ケイ、それは多分違うと思うかな?」

「ケイさんの言ってるのは、水球移動だよね!? これ、別物だよ!?」

「使ってるスキル自体は同じなんだけど……」

「なるほど、これが灰の群集の日常風景なんだな」

「……そうか?」

「うん、そうかな」

「間違いなくそうだね!」


 何を失礼な! いや、確かにこの精度で使える人はまだ少ないだろうけど、少なくとももう1人は同じ事が出来る人がいるぞ! ……あ、その人数の時点で根本的に一般的じゃないね。こりゃ失敬。


「そういえば群集の脱退クエストってどんな内容なのー!?」

「おー、それはな。まずは群集拠点種でクエストを受けるんだよ。するとな、共有情報は全部取り上げられるんだ」

「ほうほう! そりゃ出ていく人には渡せられないよね!」

「で、帰還の実やらも全部没収された後に、制限時間内に初期エリアからの退去を命じられるんだよ」

「へー!? それってどの方向に行ってもいいの!?」

「あぁ、それは問題ねぇぜ! 隣接が灰の群集なら楽だったんだがなー」

「……それって灰の群集と隣接してる他のエリアでやるんじゃ駄目だったのかな?」

「……はっ!? その手があった!?」

「気付いてなかったんかい!?」


 なんか色々間の抜けた人だな。まぁ悪い人って感じもしないけど、ちょっと無計画感が強い気がする。その代わりに行動力と決断力はありそうだけど。誰か冷静なタイプの人とコンビにでもなればそこそこ安定しそうな人ではあるかな。


「まぁ済んだ事を気にしても仕方ねぇや。あ、ちなみに初期エリアから退去した時点でカーソルの色が白になるぜ。白になった後ならすぐにエリアに戻っても大丈夫だ。マップはスカスカだったけど」

「あ、試したんだね」

「まぁなー。あ、ちなみに脱退クエスト自体はそれで終わりな。脱退した群集への再加入は1ヶ月は無理だとさ」

「脱退は意外と手軽なんだね!? でも再加入には厳しい!?」

「青の群集で他に移籍を考えてるような人はいたのかな?」

「あー、昨日の総力戦で心惹かれてる奴はそれなりにいたっぽいけど、悩みまくってたぜ? 混む前に行っちまえって事で俺は来た!」


 ふむふむ、青の群集には悩む人はそれなりにいたけど、即座に動くほどではなかったって事か。まぁ昨日の青の群集の主力勢もかなり強くなってたし、あの感じならすぐに昇華させたモノにも辿り着くだろう。青の群集からの流入はそれほど多い感じにはならなさそうかな。


 そんな風に話している間に、エリア切り替え地点までやってきた。さてとこっち側から未討伐の人を連れて行けばどうなるのかの検証だね。


<『ハイルング高原』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 戻ってきました、森林深部。いやー短い高原だったけど、まとまった時間がある時にみんなで行けという事か。まぁ昼の日が良さそうだと分かったのと、サヤのLv上げという目的だけは終わったから良しとしよう。


「よっしゃー! 辿り着いたぜ、灰の群集エリア!」


「なんだなんだ?」

「ちょっと前に通っていったのにもう戻ってきたのか?」

「……白いカーソル?」

「あの桜の人はなんだ?」


「あ、この桜の人は青の群集を脱退して、灰の群集への移籍希望だってよ」

「ほう? って事は青の群集も群集クエストは終わったのか」

「おう、歓迎するぞ!」

「周囲に多少の被害は出してもいいけど、マナー的な荒らしだけはすんなよ!」

「……色々あるとは思うけど、大丈夫。すぐ慣れるさ」

「おっす! これからお願いします!」


 氷狼の周回PTには概ね歓迎ムードだね。……多少の被害云々で何かが刺さってきているような気もするけど、気にしないでおこう。多分気のせいだ。……気のせいのはず。……はい、気のせいじゃないのは自覚しています。


「お、なんだ。外から来てもボス戦は必要なのか」

「今は討伐待ちはいないから、すぐに仕留めて良いぞー!」

「おぉ、ありがたい! この辺は灰の群集もちゃんとマナー整備されてるんだな!」


 俺達のというより、桜花さんの目の前に立ち塞がるように氷狼が出現する。タイミングも良かったようで割り込みになるような事は無かったようだ。基本的に周回PTよりも討伐PTを優先というのもしっかり徹底してくれているようなので、ありがたい。

 灰の群集もという言い方からして青の群集も同じような感じみたいだね。なんだかんだで青の群集も結構ちゃんとまとまってるんだな。あのBANクジラが悪かっただけか。さてと、それじゃ始末しようか。


「それじゃお言葉に甘えてっと。誰が殺る?」

「はい! 昨日の最後の爆発が見たいです!」

「あ、それは却下。っていうか、あれは俺だけじゃ発動無理だから」

「そっか、紅焔さんがいないと駄目なんだ!?」

「ま、いいや。近接でぶっ倒そう。みんな一旦降りてくれー!」

「分かったよ!」

「これでいいかな」


 とりあえずみんな水の上から降りたので、3分割して俺1人だけ乗れるだけの大きさを1つ用意。再生成するのも面倒なので、残り2つの水球はその辺に放置。操作するのは1つだけで、俺の移動用に使う為に飛び乗っていく。

 水球の上に乗り、縦横無尽に飛び回る俺に氷狼は全然対応出来ていない。というか、思った以上にこれ、速度が速いね。流石に水の操作Lv6なだけはある。この移動方法もありだな。雑魚でしかないし、近接攻撃の実験も兼ねて仕留めよう。


<行動値上限を1使用と魔力値2消費して『魔力集中Lv1』を発動します>  行動値 46/46 → 45/45(上限値使用:7): 魔力値 108/110 :効果時間 10分

<熟練度が規定値に到達したため、スキル『魔力集中Lv1』が『魔力集中Lv2』になりました>

<『魔力集中』の効果時間が12分に延びました>

 

 お、やった。魔力集中のLvが上がって効果時間も伸びたね。さて操作属性付与で何を付与しようかな。……地味にまだ使った事のない組み合わせでやってみようかな。


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 44/45(上限値使用:7): 魔力値 105/110

<行動値上限を1使用と魔力値2消費して『操作属性付与Lv1』を発動します>  行動値 44/45 → 44/44(上限値使用:8): 魔力値 103/110


 とにかくこれで氷狼の喉元へと飛び込む。ふふふ、全然反応出来ていないな。


<行動値を2消費して『はさむLv2・水』を発動します>  行動値 42/44(上限値使用:8)

<熟練度が規定値に到達したため、スキル『はさむLv2』が『はさむLv3』になりました>

<ケイが規定の条件を満たしたため、スキル『鋏切断Lv1』を取得しました>


 お、はさむのLvが上がった上に、派生スキルも取得か。今回は続々とスキルが強化されるね。ま、詳細は後にして、氷狼を仕留めてしまおう。首を鋏ではさんで、さてとどんな風に追撃が……はい!? はさんだ鋏の内側から強烈な勢いで水が噴出されて……氷狼の首が切断された!?


 ちょっ!? いくらなんでも威力が高い気がする。なんか全般的に昇華の水が絡むと威力がとんでもないことになってない!? いや、でも成長体相手ならこんなもんなのか。……未成体相手に試す必要がありそうだ。


 それにしても生成量増加って俺の主力になっている水の操作や水魔法の超強化スキルになるんだな。なるほど、器用貧乏の危険性の本当の意味が段々分かってきた。スキルをあまりにも分散させると、この強化に辿り着かなくなるって事か。

 ……全体的に強化はするにしても主力スキルは数を絞った方がいいな。水は確定として、物理系も上げておいた方が良いだろう。後は何にするかはよく考えて決めないと。


「よし、俺が灰の群集への移籍を決意したのは間違ってなかったぜ!」

「あー元青の群集の人なら、珍しい光景か」

「あの程度なら日常茶飯事だしなー」

「もっととんでもない事も時々あるしな」

「マジっすか!?」

「おう、マジもマジ。まぁ、そのうち見かける事もあるだろ」

「ちなみにそこのザリガニというかコケの人の異名は『ビックリ情報箱』だから」

「え、ケイさんがコケの人!? あのジェイを焼き殺して、ジャック達を爆殺したっていうあのコケの人!?」


 まぁなんか色々聞こえてきてるけど、気にしないでおこう。青の群集でどんな風に言われているのか、気にならないわけじゃないけど、気にしない方が良い気がする。

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