第235話 並列制御の使い方


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ハイルング高原』に移動しました>


 とりあえず高原エリアに到着である。ここも命名クエストは終わってるんだな。……ハイルングってどういう意味なんだろうか? まぁいいや、その辺は深く考えてもそれほど意味もないだろうしね。


 エリア切り替えをしたばかりの付近は木々がまだ多いので、少し先に進んでいくと一気に目の前の景色が変わっていく。見渡す限りの広い高原であり、その先には白い雪が積もった山が見える。あそこが雪山エリアか。

 ここの高原は木が少なくて草花が多い点は草原エリアに近い感じだけど、なんか雰囲気は全然違うね。……夜の日って事もあるけど、少し曇っているので夜目があっても余計に薄暗いのが少し残念。ここは夜の日に来るよりは、快晴の昼の日に来ると気分的に気持ち良さそうだね。


「おー!? なんか空気が澄んでる雰囲気がするね!」

「まぁ感覚的にはわからんけどな」

「でも雰囲気は良い感じかな」


 極端な暑さ寒さの再現はない代わりに、ちょっとしたこういう変化もシャットアウトされてるのはちょっと残念なところだね。まぁ火山の暑さや雪山の寒さを完全再現されるよりは良いけども。


 そして、チラホラと戦闘を行っているプレイヤー達の姿が見て取れる。競争クエストも群集拠点種の強化も終わった事だし、みんなLv上げに他のエリアへの移動を開始しだしたってところかな。


「そんじゃ、とりあえず調査クエストの受注でもしにいくか」

「「おー!」」

「……で、肝心の場所は誰か知らない?」

「はい! 知りません!」

「私も知らないかな?」

「……適当にぶらつきながら探すか」

「そだねー!」

「賛成かな」


 具体的な場所を知らなかった事に今更気付いてしまった。まぁ情報共有板で聞けばすぐに分かるだろうけど、のんびりハイキング気分で高原を移動していくのもいいかな。まぁ、昼間の日に来たかった雰囲気でもあるけどね。

 とりあえずサヤのLv上げを目指して出発だー!


<行動値を3消費して『獲物察知Lv3』を発動します>  行動値 43/46(上限値使用:6)


 水の上に乗ったまま上空から他のプレイヤーが戦闘している部分を避けて、獲物を探していく。うーん、獲物察知に反応はあるにはあるけど、既に誰かが戦闘中なのが多いな。もう少し、奥の方へ行ってみるか? ん? 妙な反応を発見。……なんで真っ黒の矢印で埋まってる場所があるんだ?


「あー!? 木の人が集られてる!?」

「あ、ホントだね。あれは集め過ぎた感じかな?」

「みたいだな。さて、どうするか」


 獲物察知の効果が切れて矢印が消えれば、そこには木の人がいた。綺麗な桜が咲いているから桜の木だな。

 軽く見た感じでは群がっているのは昆虫系の残滓が大量にいる。カブトムシ、クワガタ、カミキリムシ、蛾などなど。異常個体も結構いそうな感じである。合計20匹くらいは居そうだな。……高原エリアでこれだけ集まるって事は森林エリアでやるともっと大量に集まる? 


<ケイが成長体・暴走種を発見しました>

<成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>

<ケイ2ndが成長体・暴走種を発見しました>

<成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>


 お、発見報酬も出たからオリジナルもいるね。……数が多すぎてどれかよくわからんけど。これを一掃出来ればサヤの良い経験値にはなりそうだけど、問題は意図的に進化の為にやっているのか、それともやり過ぎてミスっただけの状況なのかによる。

 まぁどっちにしても死んだ後になら、そこにいる大量の経験値の群れは根こそぎ貰っても構わんよね?


「そこの木の人ー!? 助けはいるー!?」

「はっ!? 他のプレイヤーか!? 助けてもらえるとありがたい!」

「だってさー!」

「集め過ぎたみたいかな。ケイ、どうする?」

「ま、助けてくれっていうなら助けようぜ。よし、折角だし並列制御を試すか」

「おー!? 早速だね!?」

「それじゃ行くぞ!」

「出来るだけ早く頼む! あ、HPがやばい!?」


 さてといくつか組み合わせ考えてみてはいるけど、大技の前に小技を試してみるか。これが可能なら戦略の幅が広がるんだよな。

 多分これくらいは既に試してる人はいるだろうし、情報共有板を見てない時に話題になってた可能性も充分あるけど、別にトップを突っ走って行きたい訳じゃないしね。このくらいの事は自分で確認するだけだ。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を3消費して『水の操作Lv6』は並列発動の待機になります>  行動値 40/46(上限値使用:6)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値4と魔力値6消費して『水魔法Lv2:アクアボール』は並列発動の待機になります> 行動値 36/46(上限値使用:6): 魔力値 104/110

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 よし、並列制御で同時に発動出来た。生成するアクアボールは3つにして撃ち出す角度を指定。それを水の操作で支配下に置けるかな? あ、生成したら自動的に水の操作の支配下になった。

 並列制御を使えばこうなる仕様なのか。手動で即座に操作しようと思ったけど、意外と親切仕様だった。


 後はそのまま撃ち出して、その後がどうなるかが問題だね。指定通りの角度に真っ直ぐ3発とも昆虫の群れに向かっていく。

 よし、ここからが実験の本命だ。1発はそのまま正面から、他の2発は左右に分かれて木の人を回り込むように軌道を変えて、3方向から同時に着弾させる。ふむ、並列制御を使えばLv2以降の魔法も手動で操作可能だね。行動値を余分に使うから状況次第で使い分けだね。


「おぉ!? 何がどうなったのかよく分からんけど、群がってるのが減った! これなら死なずに済みそうだ! 『水分吸収』『水分吸収』!」


 攻撃した事で対象が俺らに移ったのか、結構な数がこっちに向かってきている。まぁそれが狙いなんだけど。とりあえず木の人も水分吸収で必死にHPを回復していた。おー死にかけだったのが安全圏にはなったね。

 それにしても未成体になってから魔法も威力が上がったようである。ま、結構ステータスも上がってるんだから強くなってないと困るんだけどさ。


「ケイさん、今の何やったの!?」

「パッと見ではいつもの水球に見えたけど、あれって別物だよね?」

「ん? 今のはアクアボールを水の操作で軌道を変えただけだぞ」

「え!? 撃ち出した後だと操作って間に合わないんじゃ!?」

「……並列制御でタイムロスを一気に縮めたのかな?」

「サヤ、惜しい。これ、そういう仕様みたいだぞ。ハーレさんの投擲にも応用出来るんじゃないか?」

「はっ、確かに!? 後でやってみよう!」


 さてとハーレさんの実験はとりあえず後回しにして、次の実験をやろうかな。まぁこっちも既に実験してる人も普通にいるだろうけどね。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値4と魔力値12消費して『水魔法Lv4:アクアボム』は並列発動の待機になります> 行動値 32/46(上限値使用:6): 魔力値 92/110

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値4と魔力値8消費して『土魔法Lv2:アースバレット』は並列発動の待機になります> 行動値 28/46(上限値使用:6): 魔力値 84/110

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 自前で複数の魔法を同時発動だ。この組み合わせは試してみた事はないけど、複合魔法が発動する組み合わせだとすれば理屈としては複合魔法になるはず。……実験なんだから確実に複合魔法になると分かっている組み合わせの方が良かったかな?


<『複合魔法:マッドショット』が発動しました>


 お、無事に複合魔法化に成功だ。小石や泥を内包した水の爆弾が爆発して、散弾のように一気に広範囲へとダメージを与えていく。ふむふむ、こっちの組み合わせも成功か。行動値が倍加するのが少し難点ではあるけど、どちらを先に指定するかで多少の節約は出来るかな。


<ケイが成長体・暴走種を討伐しました>

<成長体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>

<ケイ2ndが成長体・暴走種を討伐しました>

<成長体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>


 しかし流石に数が多かったのもあるから全部仕留めきるのはちょっと無理だったか。でも仕留めた中にはオリジナルもいた訳だ。よし、次は応用スキルの組み合わせ……流石に行動値が足りないか。水流の操作と岩の操作の同時発動とか試してみたかったんだけどな。それをするには最低でも行動値60くらいは必要になるね。


「今のは複合魔法かな? 並列制御なら確かにそれは出来るよね」

「おーその手があった! これはいいね、ケイさん!」

「ま、とりあえず実験は成功。後はどうする? 俺が仕留めても良いけど」

「私がやるー! ちょっと私も威力試したい!」

「……私はすること無さそう。あ、Lv20に上がったよ」

「え、もう!?」

「……そりゃこんだけの数がいればな」


 まぁあの数の成長体を相手に、ほぼ近接しか上がっていない成長体のサヤだと厳しいだろう。とりあえず棚からぼた餅的な大量の経験値の入手により、サクッとLvが上がったのは良い事だ。


「それじゃ残りも始末するね! 『魔力集中』『アースクリエイト』『爆散投擲』!」

「お、早速試すのか」


 残り4体程の残滓の異常個体のカブトムシとクワガタ2匹ずつに向けて、ハーレさんの強化込みの新技が投げ放たれる。銀光を纏い投擲された小石は着弾とともに爆発して砕け散り、範囲攻撃となり強力なダメージを与えていた。

 これは物理版のアースボムって感じである。応用スキルの分だけこっちの方が威力高そうだけど。


「うーん!? ちょっと思ってたよりは威力が低い!? タチウオの人とかシャコの人のはもっと凄かった!?」

「あーもしかして『凝縮破壊Ⅰ』がいるんじゃないか? あれってチャージ系の威力増強のスキルって話だった気がするぞ」

「そうかも!? 後で具体的な取得方法を聞いておこう!」

「……まだ威力が上がるんだね」

「ハーレさんにはまだアルの巣のボーナスもあるからな」

「そういえばそうだったかな」


 とりあえず予定外に早く用件が終わってしまった。うーん、ほぼ入り口を抜けた辺りで終わるとは思ってなかったぞ。お、桜の木の人がこっちに向かって歩いてきたね。……さっきから気になってたけどカーソルの色が白ってどういう事なんだろう。白なんてプレイヤーにあったっけ?


「うはー。すげぇな、今の」

「あ、流れ弾とか大丈夫だったかな?」

「ちょっと食らったのはあるけどヘーキヘーキ。寧ろあのままの方がヤバかった」

「ところで何であんな無茶をしてたのかな?」

「あー、発声なしの思考操作でミスって樹液分泌を発動しちまってな? 不慣れな移動と戦闘で色々ミスりまくって焦ってたとこだったから助かったわ」

「ところで何でカーソルが白なの!? それに不慣れな戦闘ってどういう事なのさー!?」

 

 お、ハーレさんいいぞ。それは俺もかなり気になっているところだ。見たところ成長体みたいだけど、移動種で不慣れな移動とかスキル発動のそんなミスを連発するのも変な話だもんな。確かに発声無しでも思考操作で発動出来るけど、ちょっとした攻撃手順とか考える時に誤発動する時があるから避けてる人が多いのにね。


「あ、自己紹介がまだだったっけ。俺は桜の不動種の桜花ってんだ。元青の群集の森林エリア出身で、灰の群集への移籍にやってきた」

「灰の群集への移籍希望者か!?」

「そゆこと。今後は同じ群集になるからよろしく!」


 どうやら虫に集られていたこの桜花さんは、これから灰の群集の仲間になるようである。早速の移籍希望者がやってきたか! っていうか来るの早くない!?

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