第234話 タツノオトシゴの育成方向


 気になる事に関する情報収集は終わったし、時間もそれほどある訳じゃないからサヤのLv上げに早速向かうか。


「あー!? そうだ!?」

「どうした、ハーレさん?」

「エンのとこに戻ろ! 進化の軌跡の欠片シリーズを上位変換しとかないと勿体無いよ!」

「上位変換……? あ、そういやエンの強化が終わった時にそんな通知もあったな」


 そういや詳細を確認しないままだったっけ。確かエンで上位変換が可能になりましたとか出てたんだよな。確かにエンのすぐ近くだけど、具体的にどうなるんだ?


「ケイさん、地味に内容を把握してないね!?」

「……むしろ、ハーレさんはいつの間にその情報を仕入れた?」

「昨日の祝勝会の時!」

「あー、はい、なるほどね」


 あの時にワイワイ騒ぎながら食い漁ってたけど、我が妹ながら逞しい事だ。ちゃっかりと祝勝会の間にも情報を色々と仕入れていたらしい。


「具体的にはどうなるのかな?」

「えっとね、進化の軌跡の欠片5個で小結晶1個と交換だよ! エンで交換できるのは火、水、土、氷、樹だね!」

「なるほど、それで未成体用の進化の軌跡を用意するのか」


 未成体用の進化の軌跡の入手手段もちゃんと用意されているんだな。ラインナップは元々エンで交換できる種類のもの。……ふむ、手段があるとはいえ流石に1ヶ所で全部とはいかないか。


「ちなみに未成体の不動種で上位変換用のスキルの取得が解放されるんだってー!」

「へぇ? そりゃいい話だな」

「各属性毎に取得する必要があるらしいけどね!」

「そうなんだ? そうなってくるとやっぱり進化の軌跡が貨幣代わりかな?」

「不動種で変換できるって事はそうなるんだろうな」


 変換可能という事は今まで持っていた欠片も無駄になる事はないし、大量に持っていて余ってたり、使う必要のない属性なら不動種のプレイヤーの元へ行けば物々交換にもなるだろうね。多少の人気、不人気は出てくるけど、敵の属性次第では使う事もあるし全く無駄になる事もないだろう。


 不動種って何気に重要だよな。他のゲームでいうところの商人と生産を兼ね備えてるって感じがする。誰かお得意先の不動種のフレンドが欲しいとこだね。今度、俺達の元溜まり場に活動拠点を作った灰のサファリ同盟のとこを訪ねてみようかな。景色や動物を楽しむ以外にも支援を目的にしてると言ってたから、不動種の人も多分いるだろ。


「でも、ハーレ、まだ私のタツノオトシゴは成長体だよ? 進化してからでも良いと思うかな?」

「はっ!? それもそうだった!? それじゃ進化後に行くって事で!」

「うん、それなら良いかな」


 まぁ、サヤの進化が先だよな。確かに俺は欠片が使えなくなっているけど、即座に変換しなければいけない程でもない。昨日のでインベントリを圧迫してた魚介類系のアイテムもごっそりと減った事だしね。すぐにやってもいいけど、サヤの進化が終わってから時間に余裕がある時で構わないだろう。


「あ、そうそう。サヤのタツノオトシゴの次の進化先って何になるんだ?」

「あはは、それがね。物理向けの尾鞭カゼノオトシゴって進化先になってるかな?」

「サヤの共生進化って魔法の支援砲撃が目的じゃなかったか!?」

「あはは……?」

「サヤ、顔を盛大に背けるな!?」

「サヤってそういや全然魔法使ってなかったよね!?」


 思い返してみれば、サヤのタツノオトシゴの利用方法は鞭のように使って叩きつけたり、巻き付けて動きを制限したりと物理攻撃ばっかりだよな……。魔法攻撃は一体何処へ行った? いや、まぁそういう方向に育成方法を変えるというのもありではあるけど。


「もういっそ、そのまま物理で行くか?」

「……少し悩み中かな? 魔法攻撃は欲しいし」

「それなら何かの進化の輝石と合成進化させるか?」

「んー情報ポイントは温存したいかな?」

「まぁそれでも良いけど、1個くらいなら交換しても良いと思うぞ」

「あはは、分かってはいるんだけどこの手のポイントって使うの躊躇いがちでね? ほら、どこでどう必要になるかわからないじゃない?」

「そうだよー! いざって時に情報ポイントが足りないと困るよ!?」

「へー?」

「……ケイさん、どしたの!?」

「いや、別に。まぁ気持ちは分からなくもないけどな」


 まぁサヤが温存したいと言うならそれでも良いだろう。でも使う時は使わないと勿体無いものでもあるからな。……その辺は状況次第かな。まずはその前にやる事もあるし。

 それにしてもハーレさんはリアルでの金銭的な節約は出来ないのに、ゲームでの節約は出来るんだ。何とも不思議なもんだな。是非ともその節約感覚を金銭感覚へと結びつけて欲しいものだ。……切実に。

 

「とりあえずLv上限にしないと意味ないから、高原まで行くか」

「確かにそれもそうかな」

「その間にサヤは具体的な進化先を考えといてくれよ」

「うん、わかったよ」

「私は進化ポイントを稼いで、上限発動制御を取るんだ! リスからクラゲの傘展開を使いたい!」

「あーあれか」


 確かにリスからでもあれが使えれば、ハーレさんの空中移動の幅が広がるからな。……でも問題は未発見……せめて未討伐の黒の暴走種がいるかどうかにかかってるのか。近場の隣接エリアじゃ厳しいかな。


「残滓じゃないオリジナルの黒の暴走種がいるかどうかが問題か」

「そうなんだよねー! という事で提案です!」

「遠出したいんだろ。夜にヨッシさんとアルが合流してから応相談な」

「やったー! 許可が下りた!」

「……まだ決まった訳じゃないからなー」


 まぁ他の初期エリアは遠いといえば遠いけど、転移での移動だから遠出って感じではないからね。行ってみるなら、ミズキの森林から南にあるっていう平原エリアか、西側の丘陵エリアとかかな? 流石にこれから行く高原の先の雪山は厳しいだろうし、他の場所は全然知らないし。

 まぁ知らないとこに突っ込んで行ってみるのも楽しいかもしれないから、その辺は全員揃ってから決めようか。


「とにかく移動が先。話しながら移動でも良いだろ」

「それもそうだねー!」

「んー、この3人なら普通に移動するしかないかな?」

「まぁな。サヤがクマなら背中に乗せてもらうんだけど」

「みんな大きくないから仕方ないよね!」

「いっその事、水流の操作で流すか?」

「上り坂だから無理じゃないかな?」

「私はクラゲで水を受ければ大丈夫さー!」

「よし、ならそれでいくか。ハーレさんがサヤを抱えたらいけるだろ」

「え、本当にやるのかな!?」


 俺の水流の操作なら、多分森林深部の傾斜くらいは遡っていけるだろう。さっさと移動して、サクッとサヤをLv上限にしてからサヤは魔法の特訓で、俺は物理攻撃スキルと全然育成の進んでいない操作系スキルの熟練度稼ぎをしたい。


「ねぇ、ケイ? 本当にやるのかな?」

「あれ? サヤは反対か?」

「流石に誰かを巻き込みそうな予感がね? 昨日のアルを乗せてたあれじゃ駄目なのかな?」

「あーあれか」


 確かにそう言われると誰か巻き込む可能性もある。それにアルを浮かせる事が出来たあれなら、俺達3人が乗ったところで問題があるはずもないか。よし、ならばそれで上空を飛んでいこうじゃないか。


「よし、サヤの案を採用!」

「おー! 空中飛行だねー!」


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 48/48 → 46/46(上限値使用:6)


 アルを浮かせる時ほどの大量の水は必要ないので控えめな、でも3人が余裕を持って乗れる程度の1メートル四方のカーペットみたいな水を生成する。まぁもっと分厚いけども。これで表面に弾性を与えれば水の上に乗れるっていうんだから、魔法産の水と天然産の水が別物だっていうのがよく分かるものだね。

 そして、サヤもハーレさんも素早く水の上に乗ってきた。これで移動準備は完了である。


「それじゃ出発だー!」

「……それ、俺のセリフ」

「あはは」

「ケイさん、細かい事は気にしない!」

「ハーレさん、最近狙ってやってないか?」

「狙ってないよー!?」

「それならこっちを見て言おうか?」


 思いっきり顔を背けてるって事は確実に狙ってやってんじゃないか。まぁ別に害があるわけでもないから、責め立てるような気はないけどさ。まぁいいや、氷狼を仕留めて高原にいくか。



 しばらく水の上に乗って飛んで南に進み、氷狼の出現エリアまでやってきた。お、ここも周回PTありか。結構な人数がいるね。そしてやっぱり森林深部では見かける事の少なかった種族が多い。こうして見る限りではみんなあちこちに移動してるみたいだな。


「ねー、また実況やってもいい!?」

「ハーレ、私は解説役やらないからね?」

「えー!?」

「解説役もいないって事で却下な」

「うー、またの機会にしようっと……」


 よし、今回は実況阻止は成功。チャンスがあれば狙ってくるけど、事前に確認するようになっただけでも進歩かな。


「討伐したいんですけどいいですか?」

「あーすまん。討伐希望のPTが既に3組ほどいるから、その後でも良いか?」

「あ、問題ないですよ」


 ふむふむ、討伐PTで順番待ち発生中か。まぁそういう事もあるし、ここは大人しく待とうかな。


「今の内にちょっと前から未成体になったら取得しときたかったスキルを取っておこうかな」

「ケイって狙ってたのがあるんだね。あ、もしかしたらあれかな?」

「ケイさんが狙ってたのってどんなのー!?」

「俺が狙ってたのは『並列制御』だな。……ちなみに聞くけど、ポイント以外の取得手段ってあると思う?」

「あーあれだね! 多分ないと思うよ!」

「だよな。探せばあるかもしれないけど、早めに欲しいからポイントでいくか。ちょっと取得してくる」

「うん、分かったよ」

「いってらっしゃーい!」


 まぁ、そうは言っても取得可能なスキル一覧を開いて取得するだけだから、どっかに行く訳じゃないしね。スキルの性質上からしてもポイント取得以外の方法が全く思いつかないし、ちょっとこれを使った手段も色々試してみたかったりもするからね。進化ポイントにも余裕があるし、大丈夫だろ。


 さてとスキル一覧を見てみれば、種類がかなり増えている。お、重打破とかいうチャージ系の応用スキルとかもあるな。これはロブスター向けっぽい。もうちょいロブスターのスキルを全体的に鍛えてから取ってみるのも良いかもしれないね。

 応用の操作系スキルもあるにはあるけど、今は増やす必要もないだろう。今あるやつを鍛えるのが先! よし、目的の並列制御を発見。各種進化ポイントが30ずつだけど、余裕はありまくるので問題なし! 無事に取得完了である。


 概要は以前軽く聞いたけど、一応詳細を見ておくか。詳細表示っと。


『並列制御Lv1』

 複数の行動値消費型スキルを並列発動が可能になる。初期値は2つまで。

 『並列制御』発動後、1つ目のスキルは通常通り、2つ目以降のスキルは発動の順番数と通常の行動値の乗算となる。魔力値に関しては通常通りの消費となる。

 Lv上昇により、並列発動の可能数の増加。


 ふむふむ、聞いていた通りである。とりあえずこれで色々試していこうかな。行動値の消費は増えるけど、その分色々と出来るはず。


「おーい、順番良いぞ!」

「あ、はーい! ケイ、順番だよ」

「瞬殺するよー!」

「そうだな、時間かけても仕方ないし」


 それほど時間もかからずに順番もやってきた。残滓の異常個体は増えたけども、今回の氷狼の残滓は通常個体であった。ちっ、残念。


「ケイさん! 私も応用スキルを取ってみたから試してみていい!?」

「お、ハーレさんが応用スキルを取得か。いいぞ!」

「どんなのかな?」

「それは見てのお楽しみー! 行くよー!」

「おう、やっちまえ!」

「チャージ完了! 『爆散投擲』!」


 手に持っていた弾はいつもの小石である。そしてスキルを発動すればハーレさんの手が銀色に輝き出し、徐々に光が強まっていく。この感じはチャージ系の応用スキルか。そして氷狼に向かって投げ放たれた小石が着弾と同時に爆発した。

 その1撃で氷狼のHPは全てなくなり、ポリゴンとなって砕け散っていった。未成体でチャージ系の応用スキルだと、初期のボスは瞬殺か。それにしてもこれは良い感じの遠距離攻撃になりそうだ。


<『進化の軌跡・氷の欠片』を1個獲得しました>


「うん、いい感じ!」

「結構な威力かな? これって付与する属性とか、魔法産の小石とかでも威力変わるのかな?」

「やってみないと分からないねー!?」

「ま、その辺は追々試していけばいいだろ」


 チャージ系の応用スキルは溜めの時間が必要でちょっと癖がある感じだけど、その威力は散々見たからな。まぁチャージ系以外にも色々ありそうだし、何かしら取得を狙っていきたいとこだね。


「もうこの辺のボスの瞬殺も当たり前になってきたな」

「まぁ、最初期のボスだしな。仕方ないって」

「俺らも瞬殺してるしな」

「ははっ、確かにそりゃそうだ」

「上位変換があるから軌跡も無駄にもならねぇしな」

「だが、流石に未討伐者の確保が厳しくなってきたな」

「よし、群集内交流板で募集かけるか」

「そだな。他のとこでもそれをやってる場所も多いし、そうするか」

「んじゃ募集かけてくるわ!」

「おう、任せた!」


 へぇ、周回PTも周回する為に色々と手を打ってるんだね。全部を自前で調達するのも大変になってくるだろうし、こうやって集めてくれる人の存在も重要になっていくだろうね。今はまだ固定位置のボスは初期エリアの奴だけだけど、そのうちクエストが進めば出てきたりもするのかな? ま、その辺は追々分かって来るだろう。


「何はともあれ、高原エリアに出発だー!」

「「おー!」」


 目的はサヤのタツノオトシゴのLv上限までの育成である。今は5時ちょっと過ぎ。まぁLv上げはなんとか間に合うだろうけど、魔法向けの進化を狙うには少し微妙なとこだね。まぁやるだけやるしかないけどさ!

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