第232話 プレイヤー達の世界観設定


 そしてエンの元へと移動し、サヤがタツノオトシゴを持ってくるのを待っていた。今日も群集拠点種の周辺は盛況である。色んなPT募集をやっているようだし、ボスの周回PTは相変わらず人気があるみたいだ。


 そういやこのメンバーだと氷狼を倒していないのがサヤのタツノオトシゴと、ハーレさんのクラゲと、俺のロブスターだな。まぁ今だと氷狼とか瞬殺だろうし、瞬殺していけばいいか。


「ハーレ、ケイ、お待たせ!」

「それほど待ってないから別にいいぞー」

「それじゃ出発だー! そういやサヤってLv今いくつー!?」

「えっと、今はLv18かな」

「あれ? 意外と高い?」

「そうでもないと思うよ。元々16に上がる寸前だったし、共生進化で参加してたら解除されても半減のままみたいかな」

「あーそれならそんなもんか」


 とりあえず混み合っているので移動しつつ、サヤの現状を把握していく。流石に共生進化を途中で解除したら半減せずに貰えるとなればズルいか。……2枠両方にちゃんと経験値が欲しいなら、ザックさんが海でやってたように個別に参戦させるべきなのだろう。まぁ、ザックさんはあの時はクエスト受けただけで何もせずにいたから失敗してたけど。


 俺は支配進化で個別に参加させれないから無理だけど。あー、支配進化って解除できないのが地味にデメリットか。コケでの単体戦闘は不可能になったから、昨日のジェイさんみたいな真似は多分出来ないし、良い事ばっかりでもないんだな。


<群集クエスト《群集拠点種の強化・灰の群集:『始まりの荒野・灰の群集エリア4』》がクリアされました>

<『始まりの荒野・灰の群集エリア4:群集拠点種・キズナ』が未成体に進化しました>

<『始まりの荒野・灰の群集エリア4:群集拠点種・キズナ』にて進化の軌跡の上位変換が可能になりました>

<群集クエスト《群集拠点種の強化・灰の群集》のクリア率:5/5>

<群集クエスト《群集拠点種の強化・灰の群集》が完了しました>

<各群集拠点種にてクエスト『群集の脱退・灰の群集』とクエスト『群集へ加入・灰の群集』の受注が可能になりました>


 お、いったんがあと少しって言ってたけど、群集クエストが終わったようである。そしてこのクエストの終了で群集の変更が可能になる訳か。……赤の群集も青の群集もそれぞれにこのクエストが受けれるようにならなきゃ移籍は出来ないんだな。まぁ、移籍する気はないから別にいいや。


「おー! とうとう終わったね!」

「群集の移籍が可能になるんだね。でも移籍する予定もないから関係ないかな?」

「だよなー。でも、赤の群集から人は来そうだけど」

「確かにね! でもそれはそれでいいんじゃない!?」

「合う合わないはありそうだし、そうだよね」

「ま、その辺は実際に移籍してきた人が出てから考えようぜ。今考えたって仕方ないし」


<規定条件を満たしましたので、群集クエスト《異変の調査・灰の群集》を開始します>


「……ん?」

「あれ? また何か始まったね?」

「これは何かな?」


 この後は共闘イベントに繋がるものと思ってたけど、どうやら何か他にもあるようだ。異変の調査って、緊急調査クエストの群集クエスト版みたいなもんかな? ただの偶然だけど、この演出があるのならちょっと位置移動してて良かったかもね。あ、グレイの姿が現れてきた。


『急にすまないな。先程、5ヶ所の群集拠点種の一先ずの強化と同期のためのネットワークの構築が完了した事を確認した。協力してくれた者達に感謝しよう』


 まず初めにこれまでの強化の終了の報告なんだ。一先ずのって事は群集拠点種の強化の群集クエストはそのうちまたありそうだね。未成体への進化が広まり始めた頃に発生したから、次の段階……オフライン版では成熟体だった。プレイヤーの多くが成熟体に近付いてきた頃にあるのかもしれないね。


『さて、本題に入らせてもらおう。多くの目撃情報が上がっているので、既に知っている者も多々いるであろうが正式に群集の長として報告しておく。この地にある瘴気に関してだ』


 ほう、プロモーションビデオといい、前兆の様子といい、やっぱり瘴気絡みっぽいね。さて、どんな風にかかわってくるんだろうか? 


『知らぬなら知らぬ方が良いとして伝えていなかった者達も多くいるが、改めて瘴気について説明が必要だろうな。……瘴気とはかつて我らが人の身体を持っていた時に、我らの故郷の星の外より放棄されたものだ。これが当時の記録となる』


 ここで世界観の説明が来るのか。かつては人の身体だったって事は精神生命体って元人間か。しかも瘴気が星の外から放棄された物……? あ、映像記録が目の前に表示された。

 うっわ、空になんか巨大な宇宙船みたいなものがあって、そこから真っ黒い禍々しい瘴気を纏った隕石みたいなのが次々と落とされていってる。それが落ちた側から瘴気に触れたものが次々と死滅して、塵となって消えていく……。あっという間に自然豊かな星が死の星へと変貌して行く姿があった。……なんだこれ、大虐殺?


『瘴気に汚染された物を放棄した者達の正体はあの時の我らには分からなかった。唯一可能だったのは今の我らと同種の精神生命体の力を借りて肉体を捨て、精神のみとなり、死の星となった故郷を捨てて逃げる事だけであった』


 グレイが説明を続けながら、記録映像は流れ続けた。ただ逃げるしか出来ない人々は瘴気に呑まれて塵へと変わっていく。何かに操られているかのように瘴気は蠢き、広まっている。

 しばらくして放棄が終わったのか、謎の宇宙船はどこかへ消えていった。すると途端に瘴気の動きは鈍っていく。だが、既に広まり過ぎていて手遅れにしか見えない。

 そして少し経った頃、急激に瘴気が増大していく。……既にいなくなったのに何が起きたんだ?


 そこにグレイとよく似た精神生命体が現れた。その精神生命体が何かを語り、そして光を放っていく。それと同時に多くの人が死にゆく中で塵と変わる寸前に肉体を捨て、同種の精神生命体へと変貌していた。……ただし老若男女を問わず、自身の意志とも無関係に。

 突然の理不尽な故郷の終焉と、選択肢のない自身の存在が変貌して出来上がった精神生命体。……これがプレイヤーの正体であり、新たに身体を得て人類種を目指す理由なのだろう。


 あ、記録映像はここまでか。そうか、だからNPCにおばちゃんっぽいヤナギさんや、悪ガキっぽいリックや、お嬢様っぽいミヤビやそれを守りたいと思うマサキがいるのか。元々は普通の人間だったからこそ、性格も普通の人間である訳だ。


『そして第2の故郷として見つけたこの星に瘴気が存在した。後の調査で分かった事だが、瘴気は知性ある生物の負の思いから発生する。ただの文明でも少なからず発生し、星の自浄作用により消滅していくものだ。……だから、この地で滅びた者達が残した瘴気だと考えていた。不意の滅びだと、急激に瘴気の濃度が上昇するという事も確認されている』


 星の自浄作用というのが大地の脈動の事なのだろう。そして知性のある生物……つまり人が瘴気を生み出すのか。……あれ? PKのプレイヤーのカーソルが黒い縁で覆われる様になるって話はそこら辺が理由だったりする?

 急激な滅びって事は、天災や戦争とかかな? 先程の記録映像で謎の宇宙船が消えた後に一度落ち着いた瘴気が活性化したのはまさに滅びかけたからか。瘴気が原因で滅びかけ、それが原因で更に悪化するとはとんでもない話だ。


『だが、それはあくまでも変動のない場合の話だ。変動があるとなれば、その瘴気を生み出すのにかかわった存在が必ず居て、それがあの時の連中である可能性が出てきた。おそらくだが、一部の者の黒の暴走種化の原因もその変動にある』


 あくまでゲームの設定上の話だけど、瘴気の濃い場所に降り立ったのが黒の暴走種化したって事なんだろう。そして星の自浄作用を流用して、浄化の実を生成するのが群集拠点種って事だな。一度倒された後に再び黒の暴走種にならないのは、瘴気に対して適応進化を行った訳か。

 ふむふむ、色々と繋がってきたぞ。そうなると残滓は瘴気によって形成された何か異質なもの? 残滓だけは別の存在になっている気がするね。


『長々とした説明ですまない。結論を言おう。これらの懸案事項の解消の為、赤の群集と青の群集との共同調査を実行する事に決定した』


 こんな事をやった連中がかかわってる可能性があるとなれば、そりゃ放置も出来ないか。方針の違いで3つの群集に分かれてはいるが、共通の怨敵である事は間違いない。

 これが原因なのであれば元々まとまった組織ではないから、思想の違いが出ても仕方ないのだろう。さっきの映像を見た限りだと、身体を得ずにこのままでいいという集団もいそうだけど、それは出てこない集団かな。


『それぞれに現時点での活動に区切りがついた時点で共同調査を開始する。……相手が我らの敵である可能性を考慮して動いてほしい。それまでの間に何かがあれば報告を頼む』


<群集クエスト《異変の調査・灰の群集》が開始されました>

<共闘イベント『瘴気との邂逅』の事前クエストとなります>

<黒の暴走種の残滓、異常個体の発生量が増加します>

<共闘イベント『瘴気との邂逅』の開始と同時に群集クエスト《異変の調査・灰の群集》は終了となります>


 これで演出終了みたいだね。共闘イベントが開始されるまでの埋め合わせ的なクエストか。……いや、どちらかというと今まではっきりしていなかった世界観の説明がメインかな。とりあえずこれでどういう経緯でこの星の開拓に至ったかの理由が分かったね。


「へー!? こういう流れだったんだ!?」

「……結構重い理由だったかな?」

「確かに……。1つの星を理由も分からずに滅ぼした連中と、滅ぼされかけて精神以外を全て捨てて逃げ出した人達が舞台だとはね」


 まぁゲームの背景的なストーリーとしては理由は大事か。強大な力を持つ人の姿を目指す理由も、もう2度と一方的な理不尽で滅びを招かないようにする為なんだろうな。思った以上にヘビーな感じだったけども。


「まぁ、ゲームだし気楽に行こうー!」

「それもそうかな。RPGで世界の滅亡とかはよくある題材だしね」

「そりゃそうだ。それにこのタイミングで残滓の強化はありがたい」

「そうだね!」

「経験値が増えてるだろうし、私の進化が早くなるかな」

「という事でLv上げに行くぞ!」

「「おー!」」


 ゲームの、それも既に終わった過去の設定の重さに流されても意味はないしね。そして共闘イベントでは他の群集と連携して、この星にある瘴気の正体を探るのが主題なのは間違いない。どういう形で共闘になるのかはまだ分からないけど、単独の群集では無理な要素が何かあるんだろうね。

 まぁとりあえず、サヤのタツノオトシゴの進化が先だ! アルは昨日のうちに進化させると言っていたから、サヤの進化が終われば全員未成体へと進化完了だ。

 

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