第229話 最後の競争クエストの終わり


<『始まりの森林・灰の群集エリア1』から『名も無き森林・灰の群集エリア1西部』に移動しました>


 さてと戻ってきました、競争クエスト最後のエリア! 沢山の種族が集まっているのは競争クエストの最後の演出の時のいつもの光景だけど、もう演出は始まっているようでみんな静かに演出を見守っていた。

 ここにいるNPCは移動種の木とキツネか。作業を行う木に寄り添うようにキツネが見守っているように見える。


 そして、音もなく静かだけど、動きまくって動きが静かじゃないネズミは多分サファリ系プレイヤーだね。……動きが気にはなるけど、演出を見るのに視線を妨げる事はしていないし、出来るだけ気にしないでおこう。


『皆さん、この度はご協力感謝いたしますわ!』

『ミ、ミヤビー!? き、協力、しししてくれーー』

『マサキはまず落ち着きなさいな!』

『そ、それも、そそうだよね!?』

『はぁ……。そんなのだから、黒の暴走種になるんですのよ?』

『ミヤビだって、黒の暴走種になってたじゃないか!?』

『いきなり饒舌にならないでくれない!?』


 なんか喧嘩始めたんだけど、あれ? ここの競争クエストはまたネタ系の演出か? 誰か、ここの競争クエストの途中経過の情報を知ってる人はいないかな? お、すぐ近くに蒼弦さんを発見。邪魔にならないように小声で聞いてみよっと。


「おっす、蒼弦さん」

「お、ケイさんか。激戦だったって聞いたけど、お疲れさん」

「蒼弦さんは防衛班の指揮だったよな? そっちもお疲れさん」


 お互いに重要な役割だったはずだし、どっちが欠けてもうまく行かなかった可能性はあるからね。まぁその辺の話は後で良いか。


「蒼弦さん、ここの競争クエストの概要って知ってる?」

「あぁ、知ってるぞ。あ、そうか。急な総力戦だったからケイさん達はここの概要を知らないのか」

「そういう事だね。って事で簡単でいいから教えてくれない?」

「そういう事ならいいぞ。まずはここの競争クエストの特徴からだな。まず半覚醒の黒の暴走種がいるのはここも同じだった」

「ほうほう」


 競争クエストには半覚醒の存在は不可欠なのかな? 流れ的にはあっちのキツネが半覚醒か。


「で、ここの特徴としてはだな……。まぁ、なんだ、半覚醒になるまでは好戦的なんだけど、半覚醒になったら全力で逃げるんだ」

「はい!?」


 ちょっと驚いて声を出し過ぎた。ごめんなさい、謝るので大勢でジロっとこっちを見るのは止めて!? 謝罪の念を込めて頭を下げれば、謝意は通じたようである。


「まぁ気持ちは分かるけど、まだ続きがあるからな?」

「よし、続きを頼む」

「クエストとしては半覚醒をとっ捕まえて、正常化するのが第1段階だな。ここのは暴発を使ってもいいけど、数の暴力で袋叩きが正解だったらしい」

「……マジか」

「逃げるってのが特徴でな。ダメージ減衰幅は他と同じだがHPは少なめに設定されてたみたいだぞ」

「なるほど、そういう傾向か」


 森林深部エリアでやった競争クエストが好戦的な攻撃型、海エリアの2つ目のやつは擬態での潜伏型、そしてここが逃走していく逃亡型って感じか。あれ、確か海エリアの1つ目が森林深部と同系統って話だったよな?


「全部で競争クエストは6つだから、もしかして3種類2個ずつある?」

「多分そうだと思うぜ? 草原はここのと同種だったしな」

「なるほど、それなら荒野のが擬態のタイプか」


 ふむふむ、何となく傾向は見えたね。もしかしたらありそうな再戦の時に役立つかもしれないので覚えておこう。


『マサキはとりあえず黙ってなさい! 浄化の実の生成を始めますわよ!』

『むぅ、待たせても駄目だから分かったよ……』


 あ、とりあえず喧嘩は終わって浄化の実の生成が始まった。ミズキの森林での光景によく似てるかな。やはり神秘的な光景である。


「ちなみに、逃げた理由ってのはあのミヤビってのを心配してって内容だぞ。大事なものを守るんだって半覚醒の状態であちこち動きまくるんだよ。で、その相手があのミヤビって訳だ」

「へぇ、ネタ的な演出かと思ったら、無鉄砲な熱血系の半覚醒なんだ?」

「まぁミヤビの前でミヤビを守るんだとか言いながら正常化の為に倒されたんだがな。結果的には空回りしてたし、正常化したら気の弱い感じにはなったけど2人でセットならさっきみたいな感じだ」

「……海エリアのネタ的な演出よりこっちが見たかった気もする」

「追憶の実で見れるんじゃねぇの?」

「よし、後で見ておこうっと」


 少し興味があるし、見れそうなら見ておいても良いかな。おっと、そろそろ浄化の実の生成も終わりそうだね。少し先の位置に見えるのがいつもの瘴気の石か。


『さて浄化しますわよ!』

『ミヤビ、それは僕がやる』

『何を言ってますの、マサキ!? これは私がグレイから頼まれた役目ですわよ!』

『なら僕にその手伝いをさせてくれ!』

『き、急に、なんですのよ!?』

『この星に何か異常があるのが分かってるのに、ミヤビだけに危険な役目をさせられない! いや僕がさせたくないんだ!』

『っ!? ですが、これは誰かがやらなければならない役目ですのよ!』

『だから僕が君を守るんだ!』

『っ!? 勝手になさい!』


 お、やるね、マサキ。最初に気弱そうで緊張しまくって噛みまくっていたとは思えない台詞だよ。ミヤビから浄化の実を受け取って、瘴気の石へとマサキが運んでいき、浄化が開始された。瘴気の石から禍々しい瘴気は消え去っていく。


『それでは私が不動種へと進化しますわ』

『分かったよ。僕が君を守ってみせる!』

『マサキのくせに、生意気ですわよ!?』


 そんな微笑ましい喧嘩をしながら、ミヤビは周囲に淡い光を放ちながら大きな不動種へと進化していく。そしてその不動種に寄り添い、守る為の決意を目に宿したキツネの姿がそこにはあった。

 うん、初めはネタかと思ったけどそうでもなかったね。むしろマサキが良いやつだった。


<競争クエスト『無支配地域を占拠せよ:名も無き森林・灰の群集エリア1西部』が完了しました>

<『名も無き森林・灰の群集エリア1西部』を灰の群集の『群集支援種:ミヤビ』が占拠しました>

<他の群集のプレイヤーへの攻撃は通常仕様に戻ります>

<『往路の実(限定)』『復路の実(限定)』は使用不可になり、廃棄されました>

<『競争クエスト情報板』が使用不可になりました>

<『群集支援種:ミヤビ』と『群集拠点種:エニシ』とのネットワークの構築が完了しました。両地点同士の任意の転移が可能になります>

<参加ボーナスとして経験値を獲得しました>

<参加ボーナスとして情報ポイントを100獲得しました>

<勝利ボーナスとして情報ポイントを300獲得しました>

<ミヤビとマサキの共同支援化ボーナスとして情報ポイントを300獲得しました>


<ケイがLv3に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>

<ケイ2ndがLv3に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>


 これで演出は終わりだね。経験値は未成体で、更に2キャラ分で分割なら仕方ないかな。それにしてもミヤビとマサキの共同支援化ボーナスね。微妙に条件が気になるけど、ああやって周囲で守らなくなるパターンもあるのかな?

 というか、未成体からLvアップの時にもらえる進化ポイントが増えるの? 


「これで全競争クエスト終了だ! 1ヶ所だけ不本意な負け方にはなったが、6戦中5勝は良くやった!」

「うぐっ……あれは我らのせいだな、ヒョウの」

「もう2度とあんな失態は晒さないぞ、ライオンの」

「是非そうしてくれ、風雷コンビ」

「「おうとも! ベスタの旦那!」」

「だからその呼び方を止めろと何度言わせる気だ!」

「そうだそうだ! ベスタはオオカミ組のボスとして勧誘してるんだぞ!」

「そうっすよ!」

「お前らもしつこいんだよ! オオカミ組!」


 もはやベスタの慕われ方は日常風景の1つになりつつあるな。まぁ大変そうだけど、頑張ってくれよ、ベスタ!


「今回、『ビックリ情報箱』のコケの人が大活躍してたらしいぞ!」

「あの水流でのクジラの移動方法も考案してたらしいな。荒野エリアの奴から聞いた」

「灰の群集の主力勢と青の群集の主力勢の戦い見たかった!」

「いやいや、あれは迂闊に近付くもんじゃないね。戦いの桁が違ったよ」

「レナさん、その場にいたんだよな? どんな感じだったのさ?」

「いやー凄かったよ? 私、場違いじゃないかと思ったもん」


 いやいや、レナさん。あなたは間違いなく場違いじゃなくてかなりの戦力になってたと思うんですけど!? なんで他人事みたいに話してるのさ!?


「何はともあれ、お疲れ様だな」

「祝勝会やろー! みんなでバーベキュー大会だー!」

「お、いいね。やる?」

「何!? バーベキューだと!?」

「シンさん、出番だ!」

「ちょっと待て!? またか、またなのか!?」


<命名クエスト『命名せよ:名も無き森林・灰の群集エリア1西部』を開始します>

<本クエストは現在ログイン中の【競争クエスト『無支配地域を占拠せよ:名も無き森林・灰の群集エリア1西部』】の参加者に限定されます>

<以下の選択肢より、30分以内に好きなものを選んでください。一番多かった選択肢が新しいエリア名となります>


【命名候補】

 1:騒乱の森林

 2:災害の森林

 3:ミヤビの森林

 4:ミヤ・マサの森林


 お、命名クエストが始まったね。騒乱の森林と災害の森林はおそらく昇華のクリエイト系魔法の影響かな……。ミヤビの森林はそのまま標準って感じだけど、ミヤ・マサの森林は2人で守る森林っていう事なんだろうな。よし、今回はこれに1票。


「誰か火種作ってくれー!」

「よし、火種なら任せとけ!」

「お、流石プロメテウス!」

「俺はカインだよ!?」


 これは本格的に祝勝会でバーベキューが始まりそうだな。今は……あ、意外と時間は経ってないんだな。まだ10時40分か。うーん、11時半くらいまでなら今日は良いかな。


「ハーレさん、今日は11時半までなら良いぞ」

「え、ホント!? ちょっとだけど時間延長だー! やったー!」

「いいのかな、ケイ?」

「ま、1日くらいなら良いだろ。明日の寝坊防止は頑張るさ」

「やっぱりケイってハーレさんに甘いよな?」

「別にいいだろ、これくらい!?」


 せっかくの最終戦での勝利なんだしこれくらいは別に良いと思うんだけどな。少し俺も参加していきたいっていうのもあるしね。

 そしてカインさんの起こした火種からバーベキュー大会が始まった。まぁ調味料なんかないので、ただの丸焼きだけどね。……塩の作成も試してみないとな。塩焼きでも出来れば嬉しいところ。


 あ、青の群集の双頭狼の人とタチウオの人とコケの人がやってきたね。どうしたんだろうか?


「随分と賑やかなもんだな? なぁ、ベスタ」

「ジャックか、青の群集も演出を見に来たのか?」

「まぁそれも無くはないが、情報交換と共闘イベントについての話し合いにきた。提案してきたのは灰の群集のほうだろう?」

「そういやそうだったな。ここに来たって事は共闘の意思はありってことでいいんだな?」

「あぁ、それで良いぜ。むしろあの戦闘を見た限りじゃ、共闘しない理由がねぇ」


 なるほど、掲示板での共闘イベントへ向けての情報共有とかその辺の話をしに来たんだな。青の群集も強者は結構いたし、共闘相手としては申し分ない。……少なくとも不安定な赤の群集とは比べものにもならないだろう。


「よぉ、灰の群集のコケの人、クマの人」

「あ、タチウオの人」

「私もいますよ、灰の群集のコケの人」

「青の群集のコケの人もか。どうしたよ?」

「いやなに、普通に話してみたいと思っただけだ。……ケイさんとサヤさんって呼んでもいいか?」

「別にいいぞ。じゃあ、こっちも斬雨さんとジェイさんで良いか?」

「構いませんよ、ケイさん。この度は非常に面白いものを見せて戴きました」

「これでも俺らも結構検証は頑張ってたつもりだったけど、上には上がいるって痛感したぜ」

「あはは、でも私も赤の群集に負け越してる人もいるんだよ?」

「……赤の群集にもとんでもねぇのがいるってか」


 サヤが言ってるのは水月さんの事だよな。まぁあの人も強いけど、今はそれどころじゃないだろうし、赤の群集の安定化を頑張って欲しいところだね。


「今回は軽い挨拶だけの予定なので、ジャック、斬雨、帰りますよ」

「だな。俺らがいたら折角の祝勝会も台無しだろう。……なんだか見た事もない光景があるが」

「ま、しゃーないか。次は共闘イベントで会おうぜ!」

「……まぁ今回の件は負けはしましたが、貴重な情報は多く得ました。帰ったら検証しませんとね」

「相変わらずジェイはそればっかだな?」

「情報は最大の武器ですよ?」

「確かにジェイの言う通りだな。戻ったら反省会をやるぞ」


 そんな事を言いながら青の群集の3人は帰っていった。サボテンに魚や肉を刺して焼いている光景はそりゃ見た事もないだろうね。

 それにしても今日の激戦で必要以上に手札を見せ過ぎたかな? まぁ次は共闘イベントだし、また対戦型のクエストがあるまでに手札を増やせば良いだけか。


 

<命名クエスト『命名せよ:名も無き森林・灰の群集エリア1西部』が完了しました>

<『名も無き森林・灰の群集エリア1西部』を改め『ミヤ・マサの森林』へと名称が変更になりました>


 そして命名クエストで新名称は『ミヤ・マサの森林』に決まり、その後はみんなで騒ぎながらあっという間に時間が経って11時半になった。


「ハーレさん、ここまでだ」

「うー!? 仕方ないよね!」

「私も今日は終わりかな」

「私もだね」

「おう、お疲れさん。俺はこの後、クジラと木を未成体まで進化させとくわ。あと少しだしな」

「それなら明日にはみんな未成体かな」

「今日は予定外の競争クエストになっちゃったもんね! 思ったより行けるエリアが少なかった!?」

「結局荒野の調査クエストしないままになっちゃったしね。まぁ明日やろうよ」

「そだね! 明日も頑張るぞー!」

「それじゃまた明日って事で!」


 そしてみんなログアウトしていった。あー2日連続で競争クエストやる事になるとは思わなかったけど、勝てて良かったぜ!



 ◇ ◇ ◇



 そしてログイン場面へとやってきた。いつものようにいったんがいて、その胴体には『競争クエスト、全エリア完了! プレイヤーの皆様、お疲れ様です』とあった。そっか、これで競争クエストはほんとに全部終わったんだな。


「競争クエストお疲れ様〜。プレイヤー主催で面白い事やってたね〜」

「まぁな。あれって、運営的にはどうなんだ?」

「んー、意図していた方向性からはズレるけど、盛り上がって不正がない分には問題ないって見解かな〜? クエスト条件自体を本質的に歪めてた訳でもないからね〜」

「そっか、そりゃ良かった」


 運営的には一応あり判定なんだな。まぁ盛り上がってる分には不正がない限りはケチつける必要もないんだろうけども。


「まぁおかげで僕の仕事は大量増加なんだけどね〜」

「あ、スクショの処理か」

「そうなのさ〜。まぁ何とかやるけどね〜」

「そっか、頑張れよ」

「頑張りますとも〜。明日辺りにスクショの承諾の件数が増えるかもしれないけど、協力お願いね〜」

「ほいよ。それじゃログアウト頼むわ」

「はいはい〜。またのお越しをお待ちしております〜」


 まぁ今回は目立つ場所で戦ってた訳でもないから、俺のはそれほど無いとは思うけどね。さてとログアウトしたら風呂入って寝坊対策をしっかりして、寝ようかな。




【ステータス】


 名前:ケイ

 種族:支配ゴケ

 所属:灰の群集


 レベル 1 → 3

 進化階位:未成体・支配種

 属性:水、土

 特性:複合適応、支配


 群体数 154/4000 → 154/4300

 魔力値 106/106 → 106/110

 行動値 50/50 → 50/52


 攻撃 50 → 54

 防御 68 → 74

 俊敏 54 → 58

 知識 92 → 102

 器用 92 → 104

 魔力 128 → 142




 名前:ケイ2nd(ログイン不可)

 種族:傀儡ロブスター

 所属:灰の群集

 

 レベル 1 → 3

 進化階位:未成体・傀儡種

 属性:なし

 特性:打撃、堅牢、傀儡


 HP 3750/3750 → 3750/4150

 魔力値 32/32 → 32/34

 行動値 39/39 → 39/41



 攻撃 99 → 113

 防御 92 → 106

 俊敏 66 → 82

 知識 40 → 44

 器用 40 → 44

 魔力 21 → 23

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る