第227話 全力での大暴れ


 味方陣営からほぼ勝利確定という朗報は得た。これで時間稼ぎの必要も無くなったから全力での戦闘が解禁だ。みんなで大暴れしようじゃないか!


「ベスタの旦那、もう全力で暴れて良いのだな?」

「あぁ、構わん! 全力でぶっ倒せ!」

「了解だ、ベスタの旦那。行くぜ、ライオンの!」

「おおとも! ヒョウの!」


「あいつら、昨日喧嘩してた奴らだろ?」

「……いや、それは忘れたほうがいいと思うぞ」

「え、何で?」

「絶対別人だよ、あいつら!」

「「『エレクトロクリエイト』『操作属性付与』『爪連撃・雷』!」」


 そしてベスタの許可が出た直後に大暴れを始めた風雷コンビ。いや、なんで全く同じスキルを同時に発動して、同じ相手に連撃攻撃してるのに互いの邪魔になってないんだよ……。うわー、青の群集の人達が次々に倒されていくな。……今まで倒さないように手加減してたのか。

 

「おっし、こんなもんで良いだろ。ライオンの」

「そうだな、雑兵は大方これで片付いたな。ヒョウの」


 うっわ、あれだけ大量にいたのに3分の1くらいをあっという間に倒し切ったよ……。え、この2人ってこんなに強かったのに、名前を先に取られたとか、互いに雷の進化の輝石を狙ってるっていう理由で喧嘩して戦力台無しにしてたの? ……ベスタが罰を与えて話し合いをさせたのは大正解だったのかもしれない。


「……ベスタ、戦闘中に聞く事ではないというのは重々承知した上で聞くんだが、あいつら本当に昨日のライオンとヒョウか……? 俺の記憶が確かならあいつらは喧嘩してたと思うんだが……」

「……それに関しては俺らにも不思議でしかない点だ。察してくれ」

「……そうか。灰の群集にも色々あるんだな」


「ホホウ、これもまた脅威も脅威……。本当に灰の群集というのはどうなっているのですかな?」

「……まったくだぜ。斬雨やジェイが警戒しろって言ってた理由を今になって痛感してるぞ」

「だから言ったでしょう。ここでこの方達を必ず足止めすべきと。……全体の地力までここまでの差があるとは思いませんでしたが」

「今更言っても仕方ないだろ、ジェイ。俺らに出来る事を全力でやるだけだ」


<『魔力集中Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 45/45 → 45/46(上限値使用:4)

<『操作属性付与(土)』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 45/46 → 45/47(上限値使用:3)

<『操作属性付与(火)』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 45/47 → 45/48(上限値使用:2)


 あ、魔力集中が切れた。それと同時に重ね掛けしてた操作属性付与効果が切れた。土とか火を付与した後とか無駄でしかないんだけど、ゲーム仕様上の制約だから仕方ない。2回くらいならそれ程負担でもないけど、気軽に切り替えが可能過ぎても問題だしね。

 それにしても、ちょっと思わぬ光景に思った以上に時間が経っていたらしい。いや、あの風雷コンビには色々と驚かされるものだ。


 ところで地味に行動値も回復してるし、なんだかお互いの主力勢が観戦モードになってるけど、これは良いんだろうか……? 今、広範囲攻撃とかしたら怒られるかな? 


「で、いつまでぼんやり見学やってるの? 勝敗つけるんじゃないの?」

「……それもそうだな。仕切り直しだ」

「……だな」


 あ、レナさんが言っちゃった。まぁわざと空気を読まずになんだろうけどね。いつまでもこうしてても仕方ないし、決着をつけようじゃないか。

 そして互いに距離を取って仕切り直す。とはいえ、互いに睨み合いで膠着状態に陥りつつあるけども。……先手を取るにしても、どうやる?


「おい、ケイ。切り札を持ってるだろ、今使え」

「……それはいいけど、どれだ?」

「地味にあの青の群集のコケの魔法吸収が面倒なんだよ。紅焔と連携して森ごと焼き払え。制御は気にしなくていい」

「……ベスタ、その情報どこで仕入れたんだ?」

「ついさっきアルマースからだ。荒野エリアで相当やらかしたそうだな」

「……なるほど、フレンドコールね」


 アルはアルでこっそりとベスタに情報を渡してたようである。森の中ではただでさえ倒しにくいコケなのに、全てではないにしても魔法まで吸収するとなれば厄介過ぎるか。……っていうかあの魔法吸収ってスキルは俺も欲しいな。取得条件はなんだろう? まぁそれは後にして、ベスタのご要望通りにいきますか!


「紅焔さん、操作の準備を頼むぞ?」

「あー多分あれだよな。おう、任せとけ!」


 さてと荒野でやらかして、紅焔さんとの連携が可能なスキルとなればこれしかないだろ。まだLvが低すぎるけど、正確な狙いを定める必要がなく制御が甘くても良いって事ならLv1でも問題ない。


<行動値を20消費して『光の操作Lv1』を発動します>  行動値 25/48(上限値使用:2)


 今日は昼間の日で、絶好の快晴だ。これ以上無いってくらいの条件である。食らえ、草原で火災を引き起こして得たスキルを! コケの焼却処分だ!


「……は?」

「ちょっと待てやー!? 光の操作だと!?」

「おいこら!? さっきまで成長体だった奴がなんでそれを使える!?」

「くっ!? どれだけの手札を持っているのですか、あなたは!?」

「そんな事言ってる場合か! 消火しろ! 『アクアクリエイト』!」

「お、おう! 『アクアクリエイト』!」


 おー慌てて消火してるね。まぁ聞かれたところで教える訳がないけど。まだまだ使ってない手の内もあるし、試してみたい組み合わせもある。これでコケの人を排除したらそっちで一気に掃討するか。


<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『森を荒らすモノ』を取得しました>

<増強進化ポイントを3獲得しました>


 Lvが低いから操作の制御は甘いけど今回は特に狙いをつける必要もない。収束させた日光で続々とあちこちに火が付いていく。こりゃ大規模な森林火災だな。消火が全然追い付いていない。……称号はもういつもの事。

 お、プレイヤーに当たってもそこそこな威力。だけど光の操作は狙った方向に攻撃し続けられる分、威力は控え目な感じだね。


「紅焔さん、あとは任せた!」

「なるほど、これは確かに俺が適任か。行くぜ、『炎の操作』!」

「ぎゃー!?」

「ホホウ……。これほどの広範囲とは」

「チッ、これじゃ地上には下りれねぇな」

「くっ!? む、無念です……」

「ジェイ!?」


 無秩序な森林火災は紅焔さんの炎の操作により制御された炎へと変わり、的確にコケを燃やし尽くしていく。まぁ木々も必要以上に燃えてるけど、これは仕方ないということで。

 よし、コケの人はポリゴンになって砕け散っていったので排除完了。飛べる人以外もほぼ排除出来たか……? いや、結構弱ってはいるけどまだ生きてる人もいるな。規模は大きいけど、魔法産ほどの威力はないか。


「くそったれ! 『回転ーー』」

「レナさん、落とすよ?」

「ヨッシさん、よろしく! はい、タチウオの人も後に続こうね! 『重脚撃』!」

「なんーー」


 お、ヨッシさんが大型化した状態でレナさんを抱えて、タチウオの人の真上に落としていく。そして銀光を纏うレナさんの蹴りが炸裂した。混乱している中でタチウオの人の尻尾が地面に向くタイミングを狙っていたのか、蹴り落とされて地面へと突き刺さる。

 タチウオの人はサヤとの戦いでかなり減っていたHPも全部消し飛んで、喋ってる途中でポリゴンとなって砕け散っていった。よし、要警戒人物の2人目排除!


「その調子で全員を地面に叩き落とせ!」

「「了解した!」」

「それと、ハーレ。投擲用の石を出せ」

「はい、どうぞ! 何に使うの、ベスタさん!?」

「こう使うんだよ。『増殖』!」

「あ! 分かった、これを飛んでる相手に向かって投げれば良いんだね!」

「察しが良いのは助かるぜ。任せたぞ! 『増殖』『群体同化』!」


 風雷コンビは自前のジャンプ力で飛び上がり、攻撃を加えて次々と青の群集を叩き落としていく。そしてベスタは俺が小石にコケを移す時の様に脚からコケを増殖させていた。……あれは脚を覆っているコケが増殖してるのか。次に地面へとコケを増殖させ、そのコケとベスタのオオカミの身体が一体化していっている。


「ハーレ、狙い撃て!」

「いっくよー! 『狙撃』!」

「当たってたまるか! 『アクアクリエイト』『水の操作』!」

「良い狙いだ。『コケ渡り』『自己強化』『強爪撃』!」

「なん……で、そこに……オオカミ……が!?」

「次々行くよー! 『狙撃』!」

「頼むぜ。『コケ渡り』『強爪撃』!」


 うっわ、ハーレさんがコケ付き小石を投げてそこにコケの疑似転移をしていってる感じか。これ、地味に凶悪なコンボじゃない? まぁ光の操作で発火させまくって、紅焔さんが延焼させまくってる状況の俺が言うのもなんだけど。お、殆ど喋ってなかったけど、要警戒人物のキツネも撃破か。


 何となくだけどベスタのスキルの仕組みは分かったぞ。多分あれは始点となるコケと転移先となるコケが両方必要で、始点となるコケと同化して視界内にある自分以外に群体化されていないコケに転移出来るって感じだな。キャラの組み合わせ次第ではえげつない効果を発揮するんだろう、今のベスタみたいに。


「ホホウ、いつまでもはやらせませんぞ」

「ぶっ倒してやる!」


 かなり青の群集の数は減ってきた。まだ余裕を持って戦っているのはフクロウと大蛇、そして双頭狼のみ! 後はまだ死んではいないけど、弱体化して叩き落とされた人ばかりである。

 決して弱い人達ではなかったけど、突出して強いのは大人数ではなかったね。シャコの人とか、聞いていたキリンの人とかも居なかったし。突発的な総力戦の提案だったから、リアルの都合がつかなかったとかだろうな。さて、そろそろ仕上げといくか。


「紅焔さん、もういいぞ!」

「お、何かやるのか。それなら炎の操作解除っと」


 一掃するためにもまだ使っていない手札を切るとしますか。光の操作は解除して、今こそ水流の操作を使う時!


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 24/48(上限値使用:2): 魔力値 103/106

<行動値を19消費して『水流の操作Lv3』を発動します>  行動値 5/48(上限値使用:2)


 いつの間にか魔力値は全快してたよ。行動値はぎりぎりだけどね。さてとこれで最大量の水を生成して水流の操作を使用する。上空に大量生成した水を水球の中で回転させ、水流を作り出していく。


「なんだ、その馬鹿げた水量は!? インベントリに水を溜め込んでたのか!? ちっ! 『強風の操作』!」

「ホウ、果たしていくつの応用スキルを持っているので?」

「ははっ、こりゃとんでもねぇわ……。ジャック、同じ応用スキルなのになんで押し負けてんだ?」

「……こりゃスキルの差じゃねぇな。一体何だ、その水は!?」


 そして俺の水流を妨害するように双頭狼の人が荒れ狂う風をぶつけてくる。流石は応用スキルなだけあって威力はあるけど、あいにくこっちは天然産じゃなくて魔法産なんでね! 威力に関しては魔法産の方が優れている!


「飛べるやつ以外はアルマースに登れ! 巻き込まれるぞ!」

「「承知した!」」

「俺の上かよ!? 仕方ない、小型化解除だ!」

「逃げろー!」

「あはは、無茶するね、ケイさん」

「それでこそケイかな」

「殺っちまえ、ケイ!」

「言われなくてもそのつもりだよ!」


 ベスタの避難指示を受けて、アルは小型化を解除しその上にみんなが登っていく。水流の操作は巻き込む事はないくらいの精度にはなっているけど、一応は避けてもらっていた方がいいのは間違いないしね。食らえ、昇華させた水流の操作の力を!


 荒れ狂う風を吹き飛ばしながら、俺を中心に渦を作って青の群集の生き残りを水流に巻き込んでいく。HPの少ない人から順番に水流の先端を絞り込み、高圧水流にして圧殺。紅焔さんの炎の操作から生き残っていた人も次々とHPが無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていっていた。ついでにまだ燃えている火災も消火しておこう。


「……まだ……負けて……たまるか!」

「ホホウ……最後まで……諦めは……しないので」

「俺らが……諦めて……どうするよ!」


 効果時間が切れた頃に生き残っていたのは双頭狼とフクロウと大蛇の3人である。……フクロウの人は水を浴びて、名前通りに濡れてスリムになっているね。まぁどうでもいい情報だけど。

 さてとここまで来れば普通にみんなで倒せるだろうけど、その心意気に敬意を評して最後の追撃といこうじゃないか。


「紅焔さん、昇華を重ねるぞ!」

「そこまでやるか!? てか、属性的に大丈夫かよ!?」

「駄目なら駄目だった時!」

「あーケイさんはこういう性格だった!? よし、その案乗ってやる!」


「……昇華……だと? ……なんだ、それは!?」

「ホホウ……まだ……他にもある……ので?」

「はっ……とんでもねぇな……灰の群集ってのは!」


「行くぜ、ケイさん! 『ファイアクリエイト』!」


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 4/48(上限値使用:2): 魔力値 100/106


<『昇華魔法:スチームエクスプロージョン』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/106


「はっ!?」

「ちょーー」

「ホホーー」


 轟音と共に発生した水蒸気爆発により、即座に残っていたHPを削りきっていった。今までのどの魔法よりとんでもない威力である。うっわ、クレーターが出来てるし。それにしても発動コストは物凄く低いと思っていたのに、発動時に全部の魔力値を持っていくのかよ、昇華魔法!?

 みんなは水流の操作から避難してたから味方への被害はなし。まぁあったとしてもダメージなしで吹き飛ばされて朦朧状態になるくらいだろう。


「はは、魔力値を全部持っていかれるけど、とんでもねぇ威力だな」

「あ、紅焔さんも全部持っていかれたんだ」

「2人分の全魔力値が発動コストか。攻撃範囲も含めて気軽には使えねぇな……」

「……確かに」


 これは威力は凄まじいけど、使いどころを間違えれば一気に自分達も不利になる。使用には細心の注意が必要か。削りきれる止めでなければこれは使えそうにないね。


「……とんでもねぇもん持ってたな。とにかくお疲れさん。これで俺達の勝ちまではあと少しだ」

「あ、そっか。まだゴールに辿り着いた訳じゃなかったっけ」

「辿り着いて群集支援種が根下ろしした時点で連絡を頼んでるから、そしたらみんなで転移しよう!」

「あー往路の実を貰ってないや」

「その時は帰還の実を使って、貰ってくれば良いだけだ」

「とりあえず私達の激戦は終わったねー!」

「そうだな。色々ととんでもない物も見たし、報告が来るまでは休憩するか」

『賛成!』


 みんなも激戦で疲れたようで、ベスタの休憩の提案に異口同音で応えていた。流石にここから逆転って事はないだろう。後は休憩しながら、最終結果を待つばかりだね。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る