第224話 青の群集の強襲


 本格的に青の群集との総力戦の開始である。紅焔さんのPTは全員マップを持っていたので、余裕がある間は先導してくれる事になっていた。


 狙う場所は青の群集の開始地点とゴール地点となる浄化の要所の中間地点くらいだ。迂回しようとしても対処可能な位置で、進路を盛大に邪魔をする。妨害班も周囲を警戒しつつ、焦りすぎないように適度にPT毎にバラけつつも離れ過ぎないように距離を保ちながら同じ方向へと進んでいく。


「要警戒対象のクジラを確認! 連絡を急げ!」

「おう!」

「いやいや、折角なんだから少し対戦して行きなよ! 『強蹴り』からの『踵落とし』!」

「なんだ、このリス!?」


 そしてすぐにアルのクジラに気付いたのか、偵察だと思われる鳥の3人PTがやってきた。……これは死ぬのを前提とした情報収集の部隊かな。即座に報告に戻ろうとした小型の鳥の人に、レナさんが飛び蹴りを食らわせて、その人を足場に飛び上がり踵落としで地面へと蹴り落とした。


「ほう、やるじゃねぇか。『群体同化』『コケ渡り』『強爪撃』!」

「くそっ、今一体どこから出てきた!? 黒いオオカミって最重要警戒対象じゃねぇか!?」


 落ちた鳥の人にどこからともなく現れたベスタが追撃を加えていく。これが噂に聞いていた手段だな。……融合進化にはスキルの統合と改変とかいうのがあった筈だけど、多分これがその改変されたスキルなんだろうね。

 ぱっと見では分からないかもしれないけどもコケである俺には分かった。ベスタはどうやらコケから出て来てたみたいだし、コケと同化して群体内移動の要領で擬似的な瞬間移動が可能になってるって感じかな?


「くっ、厄介な連中ばっかり揃ってやがる!?」

「いえいえ、ベスタさん程じゃないよっと! そっち行ったよ!」

「「『エレクトロクリエイト』『電気の操作』!」」

「くっ、麻痺……!?」

「行くぞ、ヒョウの!」

「おうよ、ライオンの!」

「「『強爪撃』!」」


 そして風雷コンビの2つの強爪撃が同時に鳥の人に突き刺さる。へぇ、小型の鳥の人だったのに、同時に大型のライオンとヒョウで互いに邪魔せずに正確に命中させるとはね。……確かにこの2人も強いな。とりあえずこれで小鳥の人のHPは無くなったので1人撃破。


「『散弾投擲』『散弾投擲』!」

「しまった、視界が!? これは泥か!?」

「ライル、やるぞ! 『ファイアクリエイト』!」

「はいはい、分かりましたよ。『アースボム』!」

「くっそ!? 複合魔法!?」

「だが、こいつらの情報は死んでも持ち帰れるからな! 覚悟してろ!」


 空中ではハーレさんの泥の弾による散弾で視界を奪い、そして紅焔さんとライルさんの複合魔法らしき攻撃で残り2人も仕留められていた。何というか火を纏った岩の爆発ではあったけど、纏っている火力が半端なかったのは気のせいか……?


「……これ、生成量増加って複合魔法まで強化すんのか? ちょっと火を作り過ぎたとは思ったけどよ」

「……みたいですね。明らかに威力が異常ですし」

「紅焔、今のはいつもとは様子が違ったのか?」

「あぁ、明らかに火力が増していたぜ」

「……なるほどな。その情報は全体に伝達しとけ。もし使われた場合に厄介だ」

「おう。カステラ、連絡頼むわ」

「お任せあれ!」


 流石に3人相手では過剰な攻撃だった気もするけど、わざと囮として動いている以上は盛大に警戒してもらわないと困る。まぁ思ったほど警戒されなければこのままこのメンバーで攻め込むだけだけど。

 それにしても生成量増加効果がかかってる魔法との複合魔法なら強化されるのか。これは貴重な情報だな。生成量が増えてる分だけ影響範囲も大きくなるという感じかな?


「よし、これで一先ずこちらへの警戒情報が回っただろう」

「そういやベスタ、青の群集での警戒対象はいないのか?」

「……その辺は紅焔に聞いてくれ。行くぞ、風雷コンビ」

「「おう、ベスタの旦那」」

「……はぁ」


 何ともベスタは気苦労が多そうだな。まぁあれだけのリーダーシップ見せていれば仕方ない気もするけどね。


「ベスタもああ言ってたし、みんな聞いておいてくれ」

「……確かに警戒対象は重要な情報かな」

「そいつらを誘き出そうって作戦だしな」

「まずは掲示板で話題になってたから知ってるかもしれないけど森林の双頭狼の『ジャック』、こいつが青の群集のリーダー格らしい」

「あのスクリーンショットが載ってた人だね!?」

「そう、そいつだ。他に分かってる範囲で要注意なのが荒野の毒大蛇の『マムシ』、海のカニの『ジェイ』とタチウオの『斬雨』のコンビ、森林深部のフクロウの『濡れたらスリム』やキツネの『コン』、草原のキリンの『クビナガ』ってのも居るな」

「フクロウの『濡れたらスリム』って何!? それ、名前なの!?」

「お、レナさん良いツッコミ! まぁ名前はあれだが、実力は確かっぽいから気をつけてくれ」


 確かに今のレナさんのツッコミには同意したくなるね。確かにフクロウは濡れたらスリムだけど、完全にネタに走ってる名前だな。まぁそういう人ってオンラインゲームしてたら居るもんね。多分見たら思わずツッコミを入れそうになるけど、もしかしてそれが狙いか?

 それにしても昨日の海の2人も要警戒対象か。既に対戦済みではあるけど、確かにあれは驚異ではあるよね。カニというか本体はコケだからその辺の補足情報も入れとくかな。


「俺らのPTは昨日海で戦ったから、分かってる範囲で情報補足しとくぞ」

「そういやそういう話はあったっけ。なら補足頼むわ」

「おう。まずはーー」


 とりあえず知ってる範囲でカニは本体のコケとの共生進化の成長体だということやタチウオの戦闘スタイル、コンビになった時の動き方などを伝えていく。ついでにシャコの人の警戒情報も入れておこう。


「……なるほどな。倒された連中の情報だけだと不足も多かったし、昨日の今日で海とも詳細な情報交換してなかったからな。カステラ、情報流しておいてくれ」

「任せといて!」


 今回の作戦においては紅焔さんのPTメンバーであるカブトムシのカステラさんが情報共有の役割を担っている。なので基本的にバレにくいようにアルの木で葉っぱに隠れて待機中。

 周辺警戒は自分自身で思うように飛べる紅焔さんと隠れ潜んでいるベスタ達が定期的に獲物察知を使い、危機察知は小鳥のライルさんとハーレさんの担当となっている。そしてアルが更にその先を同族同調を使って偵察を行うという形になっている。ちなみに俺はアルの運搬係。



 その体制でしばらく進んでいく。競争クエストのエリアにも黒の暴走種はいるにはいるけど、あんまり数は多くないな。終盤ともなれば殆ど残滓ばっかりだし。……そもそも周辺の敵は紅焔さんとベスタが察知して大体ベスタと風雷コンビが始末してるから、経験値は殆ど入ってこない。PTが違うから仕方ないけど……。


 さてと、そろそろ向こうへさっきの奴らからの情報が回ってるだろうから、何かしらの動きが出始めてくる頃かもね。気を引きしめていこう。


「ちっ、なんて真似をしやがる!」

「……どうした、アル?」

「ベスタ、さっきのは見たな? あぁ、ベスタの位置は確認した。そいつらの対処を頼む。みんな、青の群集が来るぞ!」

「え、どこから!? 危機察知に反応ないよ!?」

「私の方もありませんね?」

「真上だ! 同族同調、解除! ケイ、右に向かって俺を一気に移動させろ! みんなも左右に散開!」

「なんで真上なのかな!?」

「良く分からんけどとりあえず右に移動だな! みんな動け!」


 どうやらアルが同族同調で何かを見たらしい。青の群集が一体どういう手段を取ってくるかはまだ分からないけども、アルの焦り方からしてあまり良い状態ではなさそうだ。とりあえず少しアルの位置をズラしつつ、上の様子を見てみるか。


<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します>  行動値 40/43(上限値使用:2)


 望遠の小技で視界を少しずつ様子が見える範囲まで拡大してみる。……はぁ!? なんか光をキラキラ反射してる何かが落ちてきてるんだけど、なんだよあれ!?


「アル、何を見た!?」

「おそらく、昨日のタチウオの斬雨って奴だ。この少し先の場所からあいつを、腕が銀色に光るゴリラが上空に向かって投げていた。オオカミと移動種の木もいたから、そいつらが高速移動役だろうよ」

「……凄い事を考えるね、青の群集」

「ゴリラ連中は今頃ベスタ達が始末している。こっちはこっちで対処するぞ」

「あ、危機察知に反応が出たよ!」

「……あれか! 迎撃用意!」

「任せて! 『アイスプリズン』! えっ!?」


 迎撃を指示する紅焔さんと、みんなにも目視出来るようになってきた落下しているタチウオの人に向かって、ヨッシさんが氷の檻を生成し閉じ込めようとする。しかしその寸前にタチウオの人の落ちる方向が少しズレた……? ……まるで真横から何か押されたように。って、まさか!?


「おいおいおい、ちょっと待て。まさか、初手からそんな攻撃をしてくるのか!?」

「……こりゃ青の群集も本気みたいだな」

  

 上空から凄い勢いで落下してきているタチウオの人は大きくなりながら銀光を放ち、俺らに向かって落ちてくる。昨日と大きく違うのはその銀光が若干の緑色を帯びていて、周囲に風を纏っている事だろう。

 初手から味方を全力でぶん投げて風魔法で位置調整して、魔力集中と操作属性付与を重ねてきやがるか、普通!? しかもこのスキルって、多分だけど昨日海流を斬ったやつだよな!? これはちょっとズラしたくらいじゃ斬り裂かれる!


「『断刀・風』!」

「みんな避けろー!」


 一気にアルを右方向へとズラし、みんなは号令をかけるまでもなく攻撃の当たる予測地点から離れていく。そしてその場所へと巨大なタチウオが一閃した。


「ちっ、今の奇襲で被害なしかよ。っていうか、クジラが真横に避けるってどういう挙動だ!?」


 予め攻撃を察知しておいたのが功を奏したのか、こちらに被害はなし。危機察知が働いてからだと間に合わなくて何人か仕留められてた可能性もあるぞ、これ! うっわ、思いっきり地面が斬り裂かれてるし……。これは風の刃の追撃が斬撃の威力を増してるな。


 そしてその斬撃の惨状の中から、タチウオの人が浮かび上がってくる。どことなく浮かび方がぎこちないから、これはもしかしたら初めて空中浮遊を使っている? そうなると纏風を使用中か? 未成体用の進化の軌跡って……あ、もしかして群集拠点種の強化が完了した際に解放された上位変換ってやつか!? あれ、まだ詳細確認してないんだよな。


「いえ、このくらいは予想の範疇でしょう」

「……ジェイも来たか。ここからしばらく時間稼げって、うちのリーダーも無茶言ってくれるぜ」

「まぁ、この方たちを放置する方が危険ですからね。……例え誘き寄せるのが罠だと分かっていたとしてもね?」

「分かってる。他の連中は?」

「大急ぎでこちらへ向かっている最中ですよ。……察知された手段はクジラの上にいる木の同族同調ですかね?」

「おそらくな」


 どこからともなく聞こえてくる聞き覚えのある声。……これは今回はカニは捨てて、割り切ってコケのみで来たようである。それにしてもいつの間にこんな近くまで? しかも同族同調まで見破られたか。


「ケイ!」

「分かってる!」


<行動値を3消費して『群体化Lv3』を発動します>  行動値 37/43(上限値使用:2)


 コケの位置を割り出すのには、コケの群体化を利用するのが1番だ。群体内移動は共生進化の最中は無理だけど、群体化するだけなら可能だから……げっ、この周辺のコケってもう支配済みじゃないか!? 真っ先に周辺のコケを抑えてきたって訳かよ。

 一応、群体化の指定画面で他のコケの核の位置が分かるのが救いか。くそっ、相手にコケがいるのが分かっていたのにコケのみで動いてくる事を何故想定しなかった!?


「……青の群集のコケか。あのゴリラ、俺らを無視して最後に投げたのはこいつを送り込むためか」


 そしてそこにベスタと風雷コンビが駆け戻ってきた。ベスタが普通に出てきたという事はコケを使っての疑似転移も封じられているのか。……コケって、敵に回すと本気で厄介だな!?


「これはこれは灰の群集のリーダーのベスタさん。この度は総力戦の提案を受けて下さり、リーダーのジャックに代わりお礼を申し上げます」

「そりゃどうも。だが、露骨な時間稼ぎに付き合うつもりはねぇ。紅焔、ヨッシ、森を全滅させるつもりで構わん、毒と火をぶちかませ!」

「いえいえ、そんな事をされては堪りませんね。『群体内移動』!」

「させるか! 『ファイアボム』!」

「させない! 『ポイズンボール』!」


 あ、どっかに消えやがった! これだから森の中でのコケって厄介なんだよな。……俺が言うのもなんだけども。

 よし、群体化の指定を確定しない状態で待機させて核の位置を割り出そう。群体化って地味にコケ相手の索敵にも使えるみたいだけど、これって俺も同じ話だから要注意しないといけないな。


「ベスタ! コケの核の位置は俺が割り出す!」

「なら、そこはケイに任せるぞ。紅焔と風雷コンビはケイのサポートしろ」

「おう!」

「「了解した!」」

「何人かでタチウオを先に仕留めろ。手が空いた奴はコケを狙って、この2人を連携させるな」

「おっと、こっちもそう簡単には殺られる気はねぇし、時間は稼がせてもらうぜ? 『返しの太刀』!」


 どうやら昨日とは違い、2人だけで大人数を相手にして勝てるなんて事は思っていないようである。……これは味方が到着するまでの撹乱と時間稼ぎが狙いか。


「それって確かカウンター技だったよね。『蹴り』!」

「はぁ!? カウンターって分かっててーー」

「『蹴り』!」

「……なんだと!?」


 なんかレナさんが蹴りに対して発動したカウンターの斬撃に向けて、更に手動で蹴りのカウンターを放って、更にカウンターが発動してそれに合わせて攻撃して……あれって、そんな真似出来たの?


「これくらいのスキルでの自動カウンターならどうとでもなるね。『魔力集中』『双連蹴』! ハーレ、カウンターのタイミングに合わせて狙撃!」

「ちょ、ちょ!? おい!? 昨日のクマもだが、灰の群集のプレイヤースキルってどうなってんだよ!?」

「『魔力集中』『狙撃』!」

「くそ!?」


 おぉ、レナさんが地味にすげぇ! タチウオのカウンターを掻い潜りながら、ハーレさんがカウンター攻撃を相殺して、タチウオへ着実にダメージを蓄積させていく。あ、一旦距離を取ったね。


「サヤさん、少し交代! いけるよね?」

「え、うん。いけるかな」

「それじゃ行動値の回復までよろしくね」

「昨日の今日でもう再戦かよ!?」

「それはこっちのセリフかな! 『魔力集中』『アースクリエイト』『操作属性付与』!」


 そしてレナさんが行動値の回復に入っている間はサヤがタチウオの人の相手をする。流石に1日ではプレイヤースキルの差が埋まる訳でもなく、ハーレさんの援護もあり優勢である。……これは迂闊に手を出す方が邪魔になりそうだ。


「……タチウオは任せても大丈夫そうだな。よし、厄介なコケの始末を優先。アルマースは同族同調を使え」

「了解だ。『同族同調』! ……やってくれたな、青の群集!」

「……どうした?」

「周辺は煙幕だらけだ。……しかもプレイヤーの姿が確認出来ない」

「……手の内はバレたか。そのままアルマースは継続。紅焔は索敵を切らすな。ハーレはアルマース上から目視で警戒しろ!」

「分かったよ!」

「おう!」


 どうやら青の群集は一筋縄では行かないようである。流石、総力戦を提案してきただけの事はある。色々仕掛けてきているらしい。


「「喰らえ! 『エレクトロボム』!」」

「本当に厳しい役割を押し付けてくれますね。『群体内移動』!」

「『獲物察知』! 増援はまだなしだ!」

「コケは右側に逃げたぞ!」

「ちっ、森でのコケは厄介過ぎる!」


 俺が群体化を発動したままにしておいてコケの人の移動を確認してはいる。やはりベスタが焦るように、相手にコケがいるのは厄介過ぎる状況だ。数人掛かりで仕留めていっているのに、潰しても潰しても他の場所に逃げられ、増殖で回復されていく。あ、また移動しやがった!?


「左側の木の根本に移動したぞ!」

「……時間稼ぎすら簡単ではありませんね。『アースバレット』!」

「させません! 『ウィンドボール』!」

「そこ! 『ポイズンプリズン』!」


 俺が捉えたコケの人の位置を伝え、ライルさんが土魔法を風魔法で相殺して支援攻撃を阻止し、コケの人の核を腐食毒の拘束魔法で捕らえた。……でもこれじゃコケに対する対処としては甘過ぎる。


「森の中ではそれでは無意味なのはご存知ですよね」

「だと思ったよ!」


 そして予想通りに倒し切れるはずもなく、当たり前のように他の群体化したコケへと移動していた。根本的にこの森のコケを全滅させるつもりでやらないと駄目か。となれば、焼き払うか、腐食毒で満たすくらいだな。よし、ここは……。


「ヨッシさん、毒魔法Lv1!」

「分かった! 腐食毒の『ポイズンクリエイト』!」

「紅焔、風雷コンビ!」

「おうよ!」

「「了解!」」


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 36/43(上限値使用:2): 魔力値 83/86


 これなら複合魔法の威力増加もあるみたいだし、多少は効果があるだろ! それに、紅焔さんやベスタ、風雷コンビが俺らから距離のある位置のコケを潰して回っている。即座に俺の狙いを把握したらしい。


<『複合魔法:ポイズンミスト』が発動しました>


 普通の複合魔法の時よりも霧の発生速度が遥かに早く、一気に毒々しい色合いの霧が発生し周囲を満たしていく。……だけど毒の効果は思ったほどではない。これは本領発揮の為には両方の昇華の称号が必要なのか?

 それにしてもこの霧は迂闊に使えないな。濃霧になっていて、自分達の視界まで悪くなってしまっている。影が薄っすらと見えるし、今の敵の姿は独特だから問題ないけど、これなら焼き払った方がマシだったか?


「何ですか、この馬鹿げた量の毒の霧は!? くっ、逃げ場がない!?」

「コケの逃げ方を知ってれば、こうするしかないだろ」

「……毒の霧か。いや結果オーライだな」

「げっ、バレた!?」

「ご退場願おうか、カメレオン! 『強爪撃』!」

「「『双爪撃』!」」

「あとは任せた! ぎゃー!?」


 どうやら擬態のカメレオンが紛れていたらしく、ベスタと風雷コンビにより仕留められていった。あっさり仕留められたことからして擬態を持っていただけの成長体のようである。毒の霧のダメージで擬態が解除されたらしい。アルを目印にはしているんだろうけど、これで俺らの正確な位置を割り出したのか。


 とりあえずカメレオンは排除したし、コケ相手には視界潰しと範囲攻撃がかなり有効だ。この毒の濃霧で増援が来る前に青の群集のコケを削り切る! もし増援が来たとしても視界が悪いのは相手も同じ上に相手には毒ダメージがあるから迂闊に突っ込んでは来れないはずだ。


「ジェイ、大丈夫か!」

「……いえ、これは相当厄介ですね。……時間は?」

「まだ無理だが、やるしかねぇな」

「……そうですか。ですが捨て身でもやるしかないでしょう」

「余所見をしてる余裕があるのかな!?」

「うーん、防御を徹底されると3人がかりでも粘るね」

「くそったれ! 『暴発』『連閃・風』!」

「おっと、危なそうな技だね」

「暴発!? 何かな、そのスキル!?」


 いつの間にかサヤとレナさんが2人で攻めていたタチウオの人だが、行動値が尽きたのか、暴発を使って苦し紛れの連続の切りを放つ。だがその初撃はサヤとレナさんが上手く避けていた。闇雲に放った攻撃が当たるようなメンバーはここにはいない。

 しかし攻撃回数が増えていく度にタチウオの人が緑が混ざった銀光を放ち出し、鋭さも速度も上がっていく。なんだ、このスキル? 今まで見た事もない連撃スキルだな。


「この連撃は厳しいかな!?」

「わっと!? こりゃ危ないねー!?」


 上手く直撃を避けるサヤとレナさんだが、完全には避けきれておらず少なくないダメージを受けていた。そして今の連撃で次々と発生した追撃効果の風の刃で霧は少し吹き飛ばされ、攻撃の延長線上にある周囲の木を何本も無意味に切り倒す程の威力が……ちょっと待て、どんだけ威力が高いんだ? もしかしてこれも応用スキル……?

 いやでも、時間稼ぎが狙いなのに自滅を誘発する可能性のある暴発を使って、そんな行動値を盛大に無駄にするような事をするか? 下手すればタチウオの人のHPは1だけ残して瀕死状態になるんだぞ?


「おい、みんな危機察知に反応ありだ!」

「こっちも双頭狼を見つけたぞ! 斬り飛ばされた木々の先から何か仕掛けるつもりみたいだ!」

「ちっ、やはり来たか! 全員、上空へ逃げろ!」


 紅焔さんの警告とアルの同族同調で攻撃を察知、ベスタの号令でみんな慌てて木の上に登ったりアルに飛び乗ったりしているようである。濃霧でよく見えないけど、それくらいはみんな出来るだろう。


「『強風の操作』!」


 そして毒の濃霧に包まれた戦場の全てを吹き飛ばすような強風が荒れ狂う。くそ、さっきのタチウオの人の攻撃は時間稼ぎの終了と、この強風の邪魔になる木の排除が目的か!


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