第223話 総力戦の作戦立案
「それでは私は役目は終わりですので、これにて失礼」
「おう。そっちのリーダーに楽しんでやろうって伝えといてくれ」
「分かりました。伝えておきましょう」
それだけ言い残して、青の群集のフクロウの人は飛び去っていった。こっそりとここで見た情報を流すとかそういう無粋な真似をするつもりはなさそうではある。この辺は相手を信じるしかないけどね
「さて、簡単にだが方針を決めるぞ。最重要なのは群集支援種が攻め落とされない事だ。次点でどれだけ相手の妨害が出来るかにかかっている。かと言ってこの大人数だ。完全な連携は不可能だろう」
そのベスタの発言にみんなは耳を傾けている。なんだか完全にベスタが灰の群集のリーダーっぽい感じだな。
「大雑把にだがエリア毎に役割を分ける。まずは防衛班から行くぞ。こっちは最優先に海エリアの奴を当てる」
「オオカミの人! なんで海エリアが防衛班?」
「理由は2つ。1つは移動に他のエリアの者より制限がある事。もう1つは植物系に対して絶大な戦力になるからだ」
「あ、そっか! 海水魔法だね!」
ふむふむ。確かに海水適応を常時しているプレイヤーばかりではないから、回復手段を持つことが多い植物系のプレイヤー相手にはかなり有効な手段だろう。海エリアのプレイヤーなら大半は海水の操作や海水魔法を持ってるしね。
陸地での移動も万全な人ばかりではないから、これが妥当なところかな。
「そういう事だ。海水魔法を主軸にして防衛戦をする。次に草原エリアだ。あそこにしかない物を存分に使ってもらうぞ?」
「我らの出番という事をだな、ヒョウの!」
「そういう事だな、ライオンの!」
「……狙いはそうだが、お前ら2人は別働隊だ。草原エリアの奴は纏雷を使って、海エリアと連携をしてくれ」
「なんだと!? 我らは別働隊か!?」
「いいぜ、名誉挽回といこうじゃねぇか!」
「オオカミの人! 要は海水でびしょ濡れになってる青の群集を感電させりゃ良いんだな!?」
「そうだ! 他のエリアの奴は、飛べる奴をメインに防衛線を張れ! PTは普段慣れてる組み合わせでいい!」
「おう、分かったぜ!」
「防衛組の指揮はオオカミ組とカインを中心に、各エリアのまとめ役がやってくれ」
なるほどね。基本的な防衛戦略は海水魔法と纏雷を主軸に相手の弱体化と行動妨害を重視して、飛行戦力で迎撃って感じか。それだけだと抜けられる恐れもあるから陸地のプレイヤーも混ぜつつ、防衛線を築くって手段だな。
普段は陸のプレイヤーでは海水での特性をはっきりと把握しきっていない可能性もあるし、強敵相手には通じない可能性はあるけど大多数には有効だろう。
「次に妨害班だ。こっちは荒野エリアをメインに組み立てる」
「……なんで荒野エリアだ?」
「さっき言った防衛戦の手段ってのは向こうも仕掛けてくる可能性があるからだ。電気魔法と海水魔法の相殺に土魔法をメインに使う」
「ふっ、分かってるじゃねぇか。そうとも俺ら荒野エリアは土魔法の所有者は多いからな。電気は打ち消し、海水は泥に変えてやろうじゃないか!」
「そういや土属性持ちって電気は他より少し効きにくかったっけ。地味に土属性が多いもんね、荒野」
「そういう事だ。後は近接戦闘に自信があるPTを中心にいく。各自、自身に合った場所だと思う方を選んで行動開始だ!」
『おー!』
その言葉に否応なくみんなの士気が上がっていく。いいね、こりゃ参加して正解だ。それにしてもベスタはリーダー的な立ち位置で指揮を取るのが地味に似合ってるな。
ベスタが考えたのは各エリアの特色を活かした作戦か。まぁ総力戦だからこその手段だな。少なくとも考え無しにバラバラで攻めるより効率も良さそうだ。
「ただし、これだけは忘れるな。青の群集も同じ手段を取る可能性もあれば、予想外の手を出してくる可能性も充分考えられる。そういう時は灰の群集のいつもの光景を思い出せ!」
「どんな騒動でも必ず原因はある!」
「このゲームに再現出来ないものは無い!」
「クジラの人やコケの人が広めた事実だからね! 想定外が起きても冷静な対処が重要!」
「応用スキルにも注意しろ! 操作系スキルは未知数だが、チャージ系は間違いなく使ってくるからな!」
「そうだね! 水流の操作はあのザリガニの攻撃と同じ驚異!」
「ありとあらゆる可能性を考えないと!」
「では、PT単位で戦闘準備開始!」
なんだろう。みんなの一体感は凄いんだけど、俺だけ何か取り残されてる感が凄い……。あ、シアンさんがこっちを見てる。うん、仲間が1人でもいて少しホッとしたよ。
さてと今の方針に合わせて行動か。俺らの場合はアルの都合もあるし防衛に回った方が良いのか? いやでもーー
「おい、ケイ達はこっち来い」
「ん? ベスタ、どうしたよ?」
「お前らは俺と、風雷コンビと、紅焔一行の混成PTと一緒に遊撃だ」
「え、マジで? 俺ら、まだ成長体多いけど?」
「良いんだよ、目立たせるのが目的だからな。アルマースも元々そのつもりだろう?」
「やっぱりベスタにはバレてたか」
「そりゃ、わざわざ木の方でログインしてればな? それにまだ成長体とはいえ、広範囲の応用スキル持ちを遊ばせておく理由もないだろう?」
これだけ目立つアルを防衛側に回すのはあまり意味もないか。現時点で飛べるクジラというのは相当目立つ存在だ。……まぁまだアル自身だけでは飛べるとは言えないけど、それを青の群集が知っているとは限らない。はったりとしては充分通用するだろう。
「俺は賛成。みんなは?」
「俺も元々そのつもりだから問題ないぜ」
「私も良いよー! 上空から狙い撃つさー!」
「これは行くしかなさそうかな?」
「そうみたいだね」
「わたし、入るPT間違えたかなー!?」
レナさんだけはちょっと戸惑ってる様子だけど、他のみんなはやる気一杯といった感じである。レナさんもかなり強そうだし、入るPTを間違えたって事はないと思うけどね。
「それでベスタ、具体的にはどう動く?」
「ケイのPTはアルマースを中心にとにかく目立ちまくれ。紅焔一行とアルマース以外はアルマースが落とされないように迎撃に専念しろ。その間に俺と風雷コンビで敵の数を減らす」
「……流石にこっちの人数が少な過ぎないか?」
アルの疑問も最もだ。いくらなんでも2PTだけで相手し切れる数じゃないだろう。……いや、ベスタの狙いは数を倒す事じゃない?
「ベスタの狙いは強敵の誘い出しだな?」
「ケイ、正解だ。強い奴らがお前らの排除に動き出したところを狙う。俺は既にかなり警戒されているから、単独では迂闊に近寄れん」
「そういう意味じゃケイもサヤも警戒されてそうだけどな」
「それこそ狙い通りだ。それだけ相手の防衛側が手薄になる」
ふむふむ。とにかく警戒されてる俺らを目立たせて放置出来ない状態にしてやろうって事だな。灰の群集の強い人達は他にもいるだろうから、俺らが粘れば粘るだけそちらに有利に働くという事になる。
どうなるかは実際にやってみないと分からないけど、それは何をやっても同じ事。岩の操作は周辺に岩があるかないかにかなり左右されるけど、自前で大量の水を生成できるから水流の操作はどこでも使えるし、昼間で晴れの日なので光の操作の発動は問題はない。でも光の操作はまともに狙える精度じゃないから、まだ実戦利用は微妙だよな……。
ただし、行動値の管理だけはきっちりしておかないと厳しい事になりそうだ。まぁやれるだけの事をやるしかないね!
「風雷コンビは倒す事も大事だが、全員の行動値の回復時間を稼ぐ役目もやってもらうからな」
「承知した。名誉挽回の機会として頑張らせてもらおう」
「おう、任されたぜ」
「ん? そんなに重要な役割って2人で出来るのか?」
「……喧嘩してる印象が強過ぎるから仕方ないが、こいつらそれぞれ俺並みに強いからな?」
「え、マジで?」
「……しかも意気投合した後の連携精度が尋常じゃない」
どこか呆れたようなベスタの口調だが、それが事実なら喧嘩さえ無ければ草原エリアでベスタが強制ログアウトになっても負けるなんて事は無かったんじゃ……。あ、だから今思いっきり呆れているのか。
そういや草原エリアの人も抑え込める人がいないって言ってたもんな。そんな2人のいがみ合いが消滅し、全力で連携を取れるようになったという事は相当な戦力アップになる訳か。
「おーい、そろそろのんびり話してる時間は無さそうだぞ」
「青の群集が動き出しましたね。飛行部隊がこちらへ向かっていますよ」
「ちっ、時間切れか。よし、アルマース。俺と常にフレンドコールを繋いでおけ」
「それは良いが、どうするんだ?」
「なに、アルマースには索敵をしてもらおうってだけだ。木でログインしているなら『同族同調』が使えるだろう?」
「あぁ、なるほどな。クジラだけに注意を払ってれば裏をかこうって話か。どうせ移動はケイ任せだし、問題ないか」
「そういう事だ。紅焔一行、ケイ一行、引き付ける役は任せたぞ。可能な限り強い連中を足止めしろ」
「おう、任せとけ!」
そしてこれ以上話している時間はなさそうなので、行動を開始する。周辺の多くのプレイヤー達も行動を開始していた。群集支援種へと転移する往路の実は、根を下ろしている最中にしか使えないから決着がつくまで移動し続ける今回は使えないかもしれないね。まぁ往路の実は貰う時間が無かったから持ってないけど。
「……そういや念の為に聞いておくがマップは持ってるよな?」
「……そういえば、誰か取ってきたっけ?」
「慌ててたから取ってないかも?」
「しまったー!? 私も取ってない!?」
「……おいおい。仕方ねぇ、カステラとヨッシ辺りでメンバーを入れ替えるか」
「え、僕!?」
「私!?」
マップの取得忘れは確かに痛恨のミスである。でもいきなりメンバー入れ替えとなると流石に戸惑うよね。うーん、なんか良い手段はないものか。急いで取りに戻る……?
「ふっふっふ! 心配はご無用、マップなら私が持っているからさ!」
「おー! レナさん、ナイス!」
「……ならいいか。現在地がマップの東側上部で、浄化の要所はマップの中央から少し西寄りの位置だ。青の群集は東側下部で、スタート地点の距離は同じになるように設定してある。そこから青の群集の移動経路を予測して動いていけ」
「オッケー! 道案内は任せといてよ!」
「ベスタ達は?」
「ケイたちが目立ち出すまでは身を隠す。戦いが始まれば動き出すさ」
「よし、分かった。それじゃ健闘を祈る!」
「おう、そっちこそな」
そういう事で一旦ベスタと風雷コンビとは別行動となった。あっという間に姿が見えなくなったけど、すげぇな。あっさりとベスタの動きについていってるよ、風雷コンビ。
さてと今のメンバーは木でログインしているクジラのアル、タツノオトシゴのブレスレットを着用中のクマでログイン中のサヤ、クラゲとリスの共生進化でリスの方でログインしてアルの巣にいるハーレさん、ウニとハチの共生進化でハチの方でログインしてアルの上にウニで立っているヨッシさんが俺のPTメンバーと臨時メンバーのリスのレナさん。
そしてドラゴンの紅焔さんと、小鳥のライルさん、カブトムシのカステラさんである。紅焔さんのPTはみんな未成体になっているらしい。
そして各PTが最低1人は緊急事態の連絡用に『競争クエスト情報板』の登録をしておく事になった。俺らは作戦の性質上、全員が連絡取れるように登録したけどね。念の為に復路の実も貰っておく。さてと勝利に向けて頑張るぞー!
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