第222話 総力戦の開始


 とりあえず、軽く説明をしてから時間もないので競争クエストエリアへと移動する。どことなくレナさんは納得しきっていなかった感じだけど、実際に持ってるもんは持ってるんだから仕方ないと主張したい!


<『始まりの森林・灰の群集エリア1』から『名も無き森林・灰の群集エリア1西部』に移動しました>

<規定条件を満たしましたので、競争クエスト『無支配地域を占拠せよ:名も無き森林・灰の群集エリア1西部』が発生します>


 とりあえずこれで競争クエストの参加の開始である。流石に3度目は2度目と同じ内容っぽいので、適当に流し見にしておいてっと。6ヶ所あるうちの3ヶ所も参加すれば多いほうだろうしね。


 周辺には同じようにクエストを受けていると思われるPTが大量にいる。流石は全エリアからの総力戦。種族に統一性が欠片もない。……その中でも浮いてるクジラは特に目立っているっぽいけどね。

 よく考えたらアルは木でログイン中なので、小型化しか使えていないはずだから空中浮遊すら未使用である。……水の操作が地味に凄い事になってるような?


<競争クエスト『無支配地域を占拠せよ:名も無き森林・灰の群集エリア1西部』を受注しますか?>


 クエストの受注確認が出たな。よし、これで受注を選べばここの競争クエストへの参加は完了だ。


<受注を確認しました。競争クエスト『無支配地域を占拠せよ:名も無き森林・灰の群集エリア1西部』を開始します>

<競争クエストの受注中には該当エリアにいる間、識別カーソルの上部に受注マークが表示されます>

<受注マークのある他の群集のプレイヤーへの攻撃は、通常時とは別カウントとなります>

<受注マークのあるプレイヤー同士の戦闘では経験値の増減はありません>

<競争クエストの該当エリアにのみ使用可能な『往路の実(限定)』を群集拠点種のエニシにて受け取る事が可能になりました>


 さてと、入り口の場所に大量のプレイヤーが集まってるけど具体的にこれからどうすればいいんだろうか? 総力戦という事もあって、ここにいる種族は多種多様だな。……地味にキャラ作成の種族の選択肢が激増している気もする。3枠目の解放条件って何かな?


「この先がちょっとした拓けた場所になってるからそこで待機してくれー! そっちで説明がある!」


 そういう指示があったので、とりあえずクジラのアルを浮かせたままで移動である。やっぱりこの手段じゃなければクジラの森林移動は無理だな。まぁアルは今回はこの目立ち過ぎるクジラを囮に使うみたいな事も言ってたし、上手く森林という地形も利用しないとね。

 ふふふ、共生進化を囮として利用か。仕留めたと思った直後の隙が狙いどころ。アルのクジラの場合は上空に意識が向くのも狙いどころだな。どこかのPTと連携が良さそうだね。


 とりあえず言われた通り拓けた場所に辿り着いたし、ここなら人が多くて狭いけども何とかアルを下ろせそうだ。開戦までは浮かせておいて目立たせても仕方ないので下ろしておこう。さてと一緒に戦えそうな知り合いは居ないかな?


「お、ケイさん達も追い付いてきたか」

「シンさん、さっきぶり!」


 早速見つけたのがサボテンの人ことシンさんだ。草原でバーベキューをしていたプレイヤーも大多数が参加しているようである。


「……まーた目立つ登場な事で」

「お、ケイさん。海エリアで暴れてたそうだな」

「紅焔さん、蒼弦さんも! っていうかオオカミ多いな!?」

「オオカミ組は現在11名だぜ!」

「チラチラこっち見てんじゃねぇよ! ボスなんかやらんと何度言わせる気だ!」


 他にも紅焔さん一行、オオカミ組とそのボスの蒼弦さん、ベスタもいるな。相変わらずベスタは蒼弦さん達オオカミ組のリーダーとして勧誘を受け続けているらしい。うん、この前のライオンの人とヒョウの人を捕まえる時の連携を見る限りでは、ああいう事を一緒にやってるからこそ慕われているんだと思うけどな。

 紅焔さんのPTはソラさんはどうやら非参戦みたいである。まぁソラさんは対人戦はパスって言ってたし、その辺は仕方ないかな。


 少し離れたところにある海水の水球が大量にあるのは海エリアの人達っぽいね。シアンさんもかなり小さくなって水球の中にいるって事は小型化や海水の水球を駆使してなんとかやって来れたらしい。他にもかなり小型化したクジラが何人か見える。

 さっきまでのはクジラが目立ったというよりは、あまり小型にならないまま浮いたクジラが目立ったってところか。是非とも今後はアル自身が自力で浮けるように頑張って貰わないとね。


 とりあえず海藻のセリアさん、こっちを見ながら光ってるソウさんを遮ったり止めたりしてモールス信号みたいなのを送るのは止めてくれるかな? そういう事されてもわかんないしさ!?


「『ク・ジ・ラ・す・ご・い・ね』だって? ケイさん達の知り合い?」

「レナさん分かるんかい!?」

「前にやってたゲームで覚えたのさ!」

「……何のゲームやってたんですかね」


 少し距離があって近付けないからってモールス信号を送ってくるセリアさんもだけど、解読出来るレナさんにもビックリだよ!


「おい、ライオンの! すげぇぞ、あのクジラ!」

「なんだ、ヒョウの? ……確かにあれは凄いな。空飛ぶクジラは完成したのか」


 そして電気をバチバチ言わせながら纏っているライオンの人とヒョウの人がアルのクジラを見上げていた。……あれ? 喧嘩させない方向になったとは思っていたけど、印象が全然違うぞ? あ、草原には他にもライオンの人とヒョウの人は居たからそっちの組み合わせかな。


「あの人達って、あの喧嘩してた2人かな!?」

「……さすがに別人じゃねぇか?」

「俺もアルに同意。喧嘩してたにしては仲良すぎじゃね?」

「あーそう思うのも無理ないかー!」

「え、そういう言い方をするって事はもしかして!?」

「はい、例のあの2人でーす!」


 レナさんがそう断言したけども、何がどうしてそうなった……。え、いがみ合ってたのに、ベスタから罰を受けたらこうなったの? え、こいつらもしかしてドMなのか……。それならちょっと関わり合いにはなりたくない様な……。


「何か変な誤解を受けてる気がするぞ、ヒョウの!」

「あぁ、そんな気が俺もしてるぜ、ライオンの!」


「あー、ベスタ! 説明をくれ!」

「……なんで俺が。ちっ、分かったよ! 説明するから大勢でこっちを見て頭を傾げるのは止めろ!」


 草原エリアのライオンとヒョウが仲が悪いというのは他のエリアでも周知の事実だったようで、集まっている人達の多くが首を傾げて不思議そうにしていた。うん、気持ちはよく分かる。俺も同じ気持ちだからね。所々でウンウンと頷いているのは事情を知っている人っぽい?


「まずはこっちのライオンが迅雷って名前だ。んでそっちのヒョウが疾風だ。元々ヒョウの奴も迅雷って名付けたかったらしいが、ライオンの奴に先に名前を取られたらしい」


 え、この2人の因縁って名前の付けるとこから話が始まるのか。聞いたの俺だけど、今やるような話じゃない気もしてきた。


「それでヒョウの方が先にライオンをライバル視し始めて、お互いに狙ってるのが雷の進化の輝石だってのが分かって、互いの事もろくに知らずに喧嘩ばかりしてたらしい。……それで昨日、まともに話し合わせてみたら趣味やら好みやら同じもんばっかであっさりと意気投合しやがったんだよ、このアホ共!」

「正直済まなかった、ベスタの旦那」

「反省してますぜ、ベスタの旦那」

「お前らはお前らで変な呼び方するんじゃねぇよ! このアホ風雷コンビ!」


 長いかと思ったら、短かった。そしてしょーもない理由だった……。えー、そんな理由で喧嘩ばっかしてたのかよ。……お互いの事を知るのも話し合いも大事なんだね。

 周りを見てみれば、みんな同じ感想なのか白けてるな。あ、さっき頷いていた人達がまたウンウンと頷いている。事情を知っててもその感想は同じらしい。あー、でも同じライバル視でも赤の群集のあれに比べれば遥かにマシか……?


「ゴホン! そこのアホコンビについてはもうこれ以上の説明はいいな? 時間も開始時間を少し過ぎてるから、今回の総力戦の概要を手短に説明していくぞ」

「補足は俺の方で入れていくぞ!」

「いいぞ、『プロメテウス』!」

「頑張れ、『聖火の人』!」

「俺の名前はカインだよ! 変なあだ名は止めろ!」

「まずは、今回のはゲームとしての正式なイベントではない事を忘れるな」


 あ、サルの人も色々と大変みたいだね。そしてベスタは盛大にスルーか。まぁ話が進まないから仕方ないかな。みんなも流石にルール説明は重要なので静かに聞くようになっていく。


「青の群集との勝負のルール設定を説明していくぞ。まず大前提として人数の制限も、復活しての戦線復帰の制限は無い。今、間に合ってない奴に会ったらそう伝えてやってくれ」

「非参戦の人にその辺の説明役は頼んではいるけど、徹底周知が出来てる訳じゃないからみんな頼むよ!」


 なるほど、負けても競争クエストが終わるまでは戦線復帰しても良いわけだ。勝負自体が終わらない限りは多少遅れても大丈夫ではあるんだな。それにこれは制限をかけようと思って出来る話でもないか。


「次に勝利条件だ。現時点で互いに満たしていないクリア条件は群集支援種の誘導のみになっている。これを先に浄化の要所へ連れて行った方が勝ちだ」

「10時の時点で互いに非参戦のプレイヤーが群集支援種の位置を確認して、問題がなければ上空にファイアボールを打ち上げてそれを合図に開始って事になってるから!」


 ふむふむ。という事は規模こそ大規模にはなっているけど、やる事そのものは競争クエストの終盤と同じか。自分達の群集支援種を守りながら、相手の妨害をして浄化の要所へと辿り着けばいいと。うん、分かりやすくていいね。

 あ、だからさっきから競争クエストに参戦してない青の群集のフクロウの人がすぐそこにいるわけか。物凄く気になってたけど、あの人が開戦合図の係って事だね。


「最後の競争クエストだ! 折角のお祭り騒ぎ、好きなだけ暴れまくれ!」

「あ、ちゃんと連携は考えてね?」

「行くぞ、野郎ども! 最後の競争クエストは勝って終わらせるぞ!」

『おー!』


 そしてベスタの宣言と共に、大量に集まったプレイヤー達の雄叫びが重なった。ま、カインさんの言う事にも気を付けないとね。好きなだけ暴れるのはいいけど、連携を欠いては勝てるものも勝てなくなる。


「こちらの所定位置の確認は出来ました。それでは、よろしいですかな?」

「少し確認するから待ってくれ。紅焔、そっちの方はどうだ?」

「ソラ、どうだ? おう、おう、分かった。所定位置に青の群集の群集支援種の確認出来たってよ」

「よし、なら開戦だ!」

「承りました。『ファイアボール』!」

「ソラ、頼む!」


 そしてフクロウの人の打ち上げた火球と、ソラさんの打ち上げた火球が合図となって青の群集と灰の群集による総力戦が始まった!

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