第221話 クジラの森林進出


<『始まりの海原・灰の群集エリア5』から『始まりの森林・灰の群集エリア1』に移動しました>


 海エリアを経由して、森林エリアへとやってきた。周りを見回してみるけど雰囲気的には赤の群集の森林エリアや、ミズキの森林と似たようなものである。ここの群集拠点種のエニシの見た目もエンとそれほど変わらなかった。

 とりあえず時間に余裕があるわけじゃないから追憶の実は今回は後回し。帰還の実だけは使う可能性がありそうなのでもらっておく。会話してる時間はないのでマップ情報からの取得だけどね。


【帰還の実:始まりの森林・灰の群集エリア1】

 所持しているだけで死亡時にリスポーン位置に『始まりの森林・灰の群集エリア1』の『群集拠点種』を選ぶ事が出来る。また通常時、任意に使用して『群集拠点種』へと移動が出来る。

 使い捨てで所持制限1個。ただし『群集拠点種』にて再取得が可能。(1日1個まで)


 一応内容は流し見しておくけど、特に代わり映えは無し。まぁこの辺は場所が違うだけで基本的には同じもんか。


 それにしてもすごい混雑してるな。これ、みんな参加希望者なのかな。


「総力戦の参加希望者はここから西のエリアだ! そっちに向かってくれ!」

「ボスは火バチだよ! 出来るだけ即座に倒してね!」

「順番待ちになってるから、順番を乱すなよ。余計な時間がかかる」


 なるほど、こりゃ大混雑だ。効率的に進める為に無駄を無くそうと必死で整理をしてる人達がいるし、ご苦労さまです。

 それにしても倒すべきボスは火バチか。異常個体に当たらない限りは単なる雑魚だし水流の操作で瞬殺しようかな?


「うお、クジラか!? ……森林で移動って大丈夫か?」

「一応な。ケイ、頼む。『上限発動指示:登録1』」

「おうよ!」


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 45/45 → 43/43(上限値使用:2)


 アルのクジラを見たシカの人が心配そうに尋ねてきていた。その気持ちは分からなくもない。だからこそ大丈夫なところを見せてあげようではないか。

 アルが小型化をして、俺の水マットで4メートル程の高さまで浮かせる。よし、森林エリアは森林深部ほどは木々は密集していないのでこれで何とかなりそうだな。ぶつかる木が無いわけではないけど、避けられる範疇だ。


「……あぁ、……だ、大丈夫そうだな……」

「え、空飛ぶクジラ計画ってもうあそこまで進んでるの!?」

「うっわー、良いもん見た」

「スクショ良いですか!?」

「だー! 気持ちはわかるけど総力戦が終わってからにしろ!」

「あー、出来れば可能な限り上空から移動してもらっていいか?」

「まぁ地面にいたら邪魔だろうしな。ケイ、頼むぞ」

「おう、任せとけ」

 

 まぁ気になる気持ちは充分に分かる。ある意味ではこの青の群集との総力戦で度肝を抜かせる為の手段でもあるからね。味方には今のうちに見慣れておいて欲しいところだな。

 そしてアルは上空待機か。俺が水を制御しておく必要があるから、俺の出番という事だ。まぁ現状維持するだけなんだけど。


「ねぇ、アルさん。『上限発動制御』でのスキル発動時の使用条件ってどんな感じ?」

「ん? あぁ、ヨッシさんもウニを小型化とかにすればこれは使える可能性が高いな。大型化を登録した場合は効果時間は約85分か」

「え? 随分長いんだね?」

「効果時間は使用する行動値×5分になるんだよ。俺のクジラの行動値が34で小型化は上限の半分使用だからその5倍で85分だ」

「あ、そんな仕様なんだ。便利そうだし、ポイントが貯まったら取ろうかな」

「おう、それがいいと思うぞ」

「とりあえず移動しないかな? 時間あんまり余裕ないよね」

「そうだった! みんな乗れ!」

「「「「おー!」」」」


 アルの高度を限界まで下げて、みんなが飛び移っていく。俺もスキルを使うまでもないので、一旦水の上に乗ってから飛び跳ねてアルの背中まで移動した。




 そして木々の上を通り、ボスの位置へと移動していく。時々高くて避けるしかない木もあるが、全く移動出来ないような障害物がある感じではない。まぁアルだけで30センチ浮いただけではぶつかりそうな木々は大量にあったけど。

 移動中にチラッとここのマップは確認したけど真ん中辺りに川があって、競争クエストのエリアへはその川を超えて、西側の端のエリアから行けるようだ。


 おっと、この辺がボス戦の場所らしいな。沢山の種族がいて、列を作っているのと数名単位で固まっている場所があちこちに見える。さて、順番待ちとか言ってたからあの列がそうかな? とりあえず何か叫んでる人がいるので、聞こえるところまで移動しよう。


「総力戦の参加希望者はPTなら代表者が並んでくれ! 順番待ちになってるから悪いけど、焦らずに急いでだ!」

「PTは極力フルメンバーでやってくれ! 時間短縮だ!」

「既に通れる奴は悪いけど先に行ってから、後で合流をお願い!」

「PTに空きあるとこは入れてくれ!」

「こっち2人分空いてるぞ!」

「ボスに時間かけるな! 瞬殺しろ!」


 どうやら順番待ちの列はここで良さそうだね。そんでもってPTの代表者が列に並ぶんだな。さてと、ここは誰が並ぶのが良いものか。


「私が並んでくるね」

「お、サヤ、サンキュー!」


 そして立候補したサヤがアルから飛び降りて並びに行ってくれた。気が利いてありがたい事だね。さてとどう考えても注目の的になってるけども、とりあえず順番待ちますか!

 少し様子を観察した感じではPT単位である程度はまとまりながら、順番が近くなったPTから順に並んでいる人がPT会話で呼び出す形になっているようである。そして待っている間にPTの人数調整を行うようになっているみたいだね。基本的にソロや野良PTの人が臨時で入っている感じのようだ。


 そうやってしばらく待っている間に、インベントリの中身を整理していた。バーベキューで魚や貝を大量提供して圧迫しかけていたのを整理したからね。……地味にロブスターの方が海産系の採集物が8種類あったのでもう少し頑張れば『海水漁ビギナー』も取れそうな感じである。

 とりあえず、元々固定値回復で300以上の物が20個。焼いて加工したのが割合回復5%が20個、10%が10個ってところだな。劇的に上手く行ったので20%回復が1個か。まぁ戦闘中にバクバクと食える訳でもないので、この辺は上手く合間を見て使わないとね。


 そんな事をしていれば、同じ高さの目線に他のプレイヤーがいる事に気付いた。まぁ木のすぐ上くらいだし、横には飛んでいる場所より高い木もあるから木に登ってるプレイヤーがいてもおかしくはないか


「あ、やっぱりハーレだ。ハーレのとこはPTで総力戦の参加?」

「あ、レナさんだー! そうだよー!」

「よっ、レナさん」

「アルさんは……随分と珍妙なお姿で?」

「珍妙とか言うな!?」

「いやだって、森林エリアで空中に浮かんでるクジラとか初めて見たし?」

「……まぁ俺だって見たことないけどよ」


 知らない誰かかと思っていたら、ハーレさんのリス仲間でありアルと良く野良PTを組んでいたという蹴リスのレナさんか。前に見た時も少し赤い体毛のリスだったけど、なんか赤みが増して少し大きくなっているような気もする。

 なるほど、レナさんはアルとハーレさんに気付いてこの高さまで木を登ってきたって感じか。


「あ、ハーレのとこってPT空いてたりしない? 確か5人PTだったよね?」

「うん、空いてるよー!」

「なら混ぜてもらってもいい? この状況じゃなかなかまともにPT組めなくてさー」

「あー、俺は別に良いが、ケイ、ヨッシさんはどうだ?」

「私は問題ないよ」

「俺も良いぞ。極力フルPTでって言ってたし、知り合いの方が動きやすいだろ」

「おっ、良い事言ってくれるね、『ビックリ情報箱』のケイさん!」

「……その渾名ってどこまで広まってるんだ?」

「え? さぁ?」

「……よし、気にしない事にしよう」


 何かこれは気にし過ぎたら負けな気がする。そもそも悪口じゃないんだから気にしなくても良いはずだ。

 とりあえず優先事項はそこじゃない。大型の人だとアルに乗れない可能性もあるけど、リスのレナさんならその点は大丈夫だろう。


「サヤー! レナさんがPTに入れてって言ってるんだけど良いー!?」

「レナさんってハーレのフレンドのリスの人だよね? みんなが良ければ私は良いよ」


 サヤは俺達を代表してボスの討伐待ちに並んでくれているので、PT会話でハーレさんが確認を取っていた。サヤも特に問題はないみたいだな。


<レナ様がPTに加入しました>


 とりあえずレナさんにPT申請を送り、これで6人フルPTになった。まぁ全く知らない人1人を臨時で入れるよりは2人も交流があるPTの方がレナさんも動きやすいだろうしね。


「いやいや、ありがとね。普段は野良PTばっかなんだけど、タイミング逃したみたいで組みそびれちゃってさ」

「そういえばレナさん、いつも野良PTかソロだよね!?」

「気楽でいいのさー! まぁPTが嫌いな訳じゃないんだけどね」

「レナさんは今は進化はどんな感じー!?」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました! わたしは未成体で火属性の『火蹴リス』だー! そういうハーレは? なんか頭に被ってるけど?」

「私は『投擲リス』と『風帽クラゲ』の共生進化ー! どっちも未成体!」

「え、どっちも未成体で共生進化って早いねー? よく見ればここのPT、共生進化ばっかだし? みんな未成体?」

「ううん、まだヨッシと私だけ!」

「あ、そうなんだ?」

「つってもまだ成長体の俺らももうLv20も近いから、もうすぐだがな」

「おー、なんか随分おっかないPTに混ざった気分だね!」


 いやいや、近接で強いリスとも聞いてますけどレナさんの方はどんな強さなもんだろうね? まぁ一緒に戦ってたら分かるかな?


「みんな、もうすぐ順番だからこっちに来てね」

「分かったー!」

「レナさんも乗ってくれ。移動するからな」

「はーいっと。それにしてもアルさんは、クジラでも乗り物やってるんだねー!」

「まぁな。つっても今は推進力は人任せになってるが。ケイ!」

「おうよ!」

「あ、なんで水なんだろうって思ったけど、これケイさんの水の操作なんだ。例の『生成量増加Ⅰ』ってやつ?」

「そうそれ。そんじゃ行きますぜ!」

「「「「おー!」」」」


 それほど距離は離れてないけど、ササッとボスのとこまで移動完了。火バチそのものに特に用はないので瞬殺だ!




 とりあえず火バチ討伐はまだ2PTほど待つ必要はあったものの、それもほぼ瞬殺で終わりすぐに順番が回ってきた。現在時間は9時55分。まぁゲームシステムで決められた時間ではなく、プレイヤーで勝手にやってるだけの総力戦なので絶対に守らなきゃ不味いわけでもない。

 でも折角の青の群集からの楽しそうな提案だし、ここはちゃんと時間通りに行って開始を見届けないとね。


「よし、次の……クジラ一行、良いぞ」

「よっしゃ、順番だ!」

「みんな、瞬殺するぞ!」

「「「「「おー!」」」」」


 どうもかなりの順番待ちの場合には、ボスの再出現時間が早まるようで前のPTが倒して少ししたら新たな火バチが現れていた。……よし、今回は異常個体を引くとかいう事はなかったな。


「それじゃ私の実力をちょっと見せようかな? 『踵落とし』!」

「早!?」


 そしてみんながアルから下りるより前に真っ先に飛び降りて、火バチに踵落としを決めるレナさんであった。そして朦朧が入ったようでフラフラと火バチが飛んでいる。


「レナさん、一緒にやろうよー!」

「あ、ハーレごめんね。わたしは臨時メンバーだし、ハーレやアルさんにもまだ見せてない攻撃手段があるから、それを見せておきたいからちょっとだけ1人やらせて? 駄目かな?」

「まぁそういう事なら……」

「ありがとね!」


 まぁ気持ちは有り難く受け取っておこう。一緒に戦う以上は切り札を知っておくのは重要といえば重要だし。まぁそれなら全員の切り札を見せ合っておきたいけど、流石に今からだと時間が足りないんだよな。


「それじゃ、わたしのとっておき! 『重脚撃』!」


 スキル発動と共にレナさんの脚が赤みを帯びた銀色の輝きを発し始める。……これはもしかして、タチウオの人やシャコの人が使っていたチャージ系の応用スキル!? 少し赤いのはレナさんが火属性だからか?


 朦朧状態でフラフラと飛んでいた火バチを飛び越えるようにレナさんは跳び上がり、体勢を変えていく。サッカーで言うところのオーバーヘッドキックみたいな感じの体勢から、地面に火バチを叩きつけるような方向でほんのり赤みを帯びた銀光を纏うその蹴りが炸裂した。

 その1撃で地面に叩きつけられた火バチのHPは全て無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていく。……うん、すげぇ威力。地面にほんの僅かだけど亀裂入ってるじゃん。


<『進化の軌跡・火の欠片』を2個獲得しました>


「あー次のPT、良いぞー」

「チャージスキルって初めて見た」

「すげぇ威力……」

「おいこら! 時間ないんだからさっさとしろ!」

「そうだった!?」

「急げー!」


 そうしてあっさり倒したので次のPTの邪魔にならないように退避する。小さな身体のリスだけど、育て方次第でこれだけ強くなるんだな。ほんと、育て方って大事なのが良く分かった。


「ふふん、どうよ!」

「ふむ、凄い威力だな」

「うーん、凄いとは思うけど試す相手が弱過ぎたかな?」

「あれにまだ魔力集中と操作属性付与は乗せられるからね。流石にオーバーキルになり過ぎるから止めといたけど」

「レナさん、凄いねー!」

「ハーレも未成体なんだし、同じような応用スキル持ってない?」

「まだ持ってないよ!」

「あれ、そうなんだ? ヨッシさんは?」

「私もまだだよ。未成体になってほとんど強化しない内に2枠目育ててたからね」

「あ、そっか、2キャラ同時に育ててたらそうなるんだね」

「まぁ、どうしても同時に育てたら育成は遅れるからな」

「うんうん、ケイさんの言う通りみたいだね」


 何やら納得しているようなレナさんであった。まぁ2キャラ育成してたら育ち方が分散するのは仕方ない側面はあるけどな。……なんだかみんなが俺をじっと見ているのは気のせいだろうか?


「あれ、みんなどしたの?」

「いや、成長体で応用スキルを4つ持ってる奴が言ってもなーって思ってな?」

「「「うん」」」

「……へ? 成長体で応用スキルが4つ? ケイさんって岩の操作とちょっと前に情報が流れてた水流の操作の2つじゃないの? それでも充分多いと思うけど」

「その後に2つ増えたぞ」

「……え? えぇ!?」


 レナさんが思いっきり二度見してきていた。……いや、確かに炎の操作と光の操作が増えたからそうだけどさ。とりあえず時間もないから後にしない?


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