第220話 空飛ぶクジラ計画の進行


 赤の群集へ面倒事の解決の材料を渡して、ゲーム内へと戻ってきた。まぁほぼ無用になる情報だから仮に失敗しても痛手ではないからね。


 どうも荒野の人達はもう先に行ってしまったようで、待っているのはアル達だけのようだ。サヤとアルはどうやら的あて対戦をやっているらしい。


<環境不適応の為に、群体数の一部のコケが弱りました>


 あ、いきなり弱り出した。そういや荒野エリアのままでログアウトしてるから効果も切れてるな。


「いきなり弱るなよ!? 『シーウォータークリエイト』『海水の操作』!」

「お、アル。サンキュー」

「ケイ、おかえり」

「おう、ただいま」


 即座にアルが海水で覆ってくれたので事なきを得た。ふー危ない危ない。さてとヨッシさんとハーレさんはどこだろう?


「ヨッシとハーレなら上かな」

「上……?」


 あ、ハーレさんとヨッシさんが空中で共生進化での飛行の練習をしてるのか。軽く見た感じでは、ヨッシさんがハチでハーレさんはクラゲでのログインか。それにしても随分高いとこでやってるな。


 ハーレさんは小さなリスの身体に巻きついて支えているクラゲに向かって風の操作を上手く使い、飛び上がっているようだ。……この挙動はリスに風魔法があると良さそうだな。移動操作制御があればなお良し。

 そしてヨッシさんは小さなハチにハチより大きなウニがぶら下がっているけど、同族統率で生成したハチ3匹でウニの下部を支えて上手くバランスを取っている。なんか騎馬戦でもしてるような感じだけど、そういう使い方もありなのか。


「で、ケイ。赤の群集の方はどうだった?」

「一応正解ルートの情報は伝えては来たけど、効果があるかは結果が出ないと分からん」

「こっちでも水月さんから軽く状況は教えてもらったよ。いったんからの警告が入ったらしくて、それがきっかけになって、既に発言力が怪しくなってる感じらしいよ」

「あ、やっぱり?」

「放置してても、自然と居場所が無くなって沈静化するんじゃないかっていうのが水月さんの見解かな?」


 慎也と話してた時にも思ってたけど、やっぱりその可能性は高そうか。まぁ後はルアー達に頑張ってもらうというか、そもそもあっちの問題なのでこれ以上は自分達で何とかしてもらおう。


「ま、後はなる様になれだな」

「確かにそうなるか。そんじゃ出発しますかね。おーい、ヨッシさん、ハーレさん下りてこいよ」

「あっ、ケイさん戻ってきてた! とう!」

「ハーレは落下が早いね!? なら私も、ハチ1〜3号、散開!」


 アルの呼びかけに応えるように、ハーレさんとヨッシさんが急速落下してきた。結構な高さから普通に落下してるけど大丈夫なのか?


「『傘展開』!」

「『大型化』!」


 そして少し落下した後にハーレさんはクラゲの傘を最大限に広げてパラシュート代わりにして減速をして、ヨッシさんは大型化した事で普通に安定した飛行の挙動を取り戻している。


「無事着地! これはリスから同じ事をしようとしてもまだ無理だー!」

「……やっぱりハチとウニだと大きさのバランスが悪いね」

「2人ともまだ共生進化では課題ありって感じか」

「まぁねー! でもクラゲに『上限発動制御』を覚えさせれば何とかなると思います!」

「あ、そういやそんなのもあったっけ?」


 チラッと存在だけ確認したことはあるけど、ポイントに余裕が無かったんだよな。……支配進化したら要らなくなりそうな気もするけど、ロブスターは強制進化でポイント消費しないみたいだしコケにはポイントの余裕もあるし取っとくか。


「ハーレ、すぐには取れないのかな?」

「クラゲは進化にポイントほぼ使っちゃったからポイント足りない!」

「あーそっか。ポイントが足りないなら仕方ないかな」

「……私はハチで大型化する変異進化が出てるけど、これもポイントが足りないね」


 流石に残滓化が多いエリアばっかり移動してたから、黒の暴走種のオリジナルの発見と討伐のポイント取得が少な目だね。ふむ、総力戦が終わったらどこか発見と討伐のポイント狙いに行くのもありか。でも今日中には無理っぽいか。


「とりあえず会話は移動しながらにしようぜ? 森林エリアからの競争クエストのエリア入りにボス討伐の順番待ちが凄いことになってるらしいしな」

「そっか。確かにアルさんの言う通りかも」


 順番待ちが起きているなら、その順番を待っている際に色々と準備とかやってしまえば良いだけの話だしな。とりあえず今は移動が先か。……これだけは先にやっておく必要があるから、今のうちにクジラの運搬がうまく行くかを試してみよう。


「アル、クジラの運搬方法を試すぞ」

「お、何か思いついてたやつか。俺が森林に行けるかどうかはそれにかかってるからな」

「って事で行くぜ!」

「……とりあえず何をするかからの説明を頼む!」

「あ、それもそうだった。前にハーレさんを水のトランポリンに乗せるのとかやったじゃん?」

「……何の話だ、それ?」

「ケイ、それはアルさんがログインしてなかった時の話かな」

「……あれ、そうだっけ?」

「うん、確かそうかな」


 そっか、あの時はアルはログインしてなかったっけ。そうなるとあの時の事は説明の参考にはならないな。普通に説明するとしよう。


「よし、今のは無かったって事で! とりあえず水の操作Lv6の性能次第なんだけど、弾性を持たせた魔法産の水の上にアルを乗せようかなと」

「ほう? 出来るのか?」

「実際のところはやってみないと何とも言えない。ただ可能性がない訳じゃない」

「……確かにそうだな。それならやってみるか」

「よし、なら試してみるぞ」


 ついでに魔法産の水を水の操作で扱うのは今の移動操作制御の登録内容そのものだ。移動に使う訳だし、攻撃判定も出ない筈だから上限値使用での発動にすれば俺の攻撃にも支障は出ない筈。


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 45/45 → 43/43(上限値使用:2)


 とりあえず水の生成量は最大にして大量の水を生成。クジラを支えるだけの広さの土台自体は作れそうだな。生成量増加の効果は素晴らしいね。


「よし、アル乗ってみてくれ」

「よし来た!」

「さてとどうなるか?」

「お、ちょっと持ち上がったか?」

「あ、これ無理だ。これ以上は持ち上がらない」


 マット状にした水の上でアルは浮けてはいるものの、クジラの重量の為か1メートルくらいまで浮き上がらせたところでそれ以上は持ち上げられなくなった。これでもそれなりの成果だとは思うけど、流石に1メートルの高さじゃ厳しいぞ。これでは流石に森林エリアの木は避けられない。


「……それならこれでどうだ? 『小型化』!」

「お、これならいけそうだな」


 アルのクジラが5メートルほどに小型化した事で重量がかなり軽くなったようで、3〜4メートルくらいまでなら持ち上げられた。前よりも小さくなっているって事は小型化のLvも上がってるみたいだな。必要な面積も少なくなったのでその分だけ水に厚みを増せたのも効果があったようだ。

 さてと木の高さにもよるけども、このくらいの高度ならそれなりに飛べたと言えるだろう。空飛ぶクジラ計画が一歩前進!


「こりゃいいな。そうなるとこれはクジラで『上限発動制御』を取得して木でログインする方が良さそうだな」

「ん? クジラのままでも良いんじゃないか?」

「いや、飛べはするが海中ほどの回避は不可能だ。クジラは倒される事を前提にしておく」

「そっか、目立つ囮にするのかな?」

「サヤ、正解だ。こんな目立つのを狙ってこない筈がないからな」

「それじゃ私達は迎撃役だね! 私は久々にリスの方で、アルさんの木の巣で待機だね!」

「よし、これ以上の細かい調整は現地に行ってからだ。ケイ、向こうに着いたら移動は頼むぞ」

「おう、任せとけ!」


 とは言っても、わざわざここから群集拠点種のキズナまで行ってから転移するのは時間がかかるので帰還の実を使って短縮して行こう。エンのとこならよっぽど混雑してない限りはアルのクジラで転移しても多分大丈夫だろうけど、ここはヨシミのとこの方が確実に安全か。


「んじゃ、一旦海エリアを経由して森林エリアに行くぞー!」

「「「「おー!」」」」


 説明せずとも意図は伝わったようで、元気な返事が帰ってきた。とりあえず1回、ヨシミのとこへ帰還の実で移動だな。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 43/43 → 43/45


 海では邪魔なだけなので、これは解除しておこう。後で再発動の必要はあるけどね。



 ◇ ◇ ◇



<『始まりの荒野・灰の群集エリア4』から『始まりの海原・灰の群集エリア5』に移動しました>


 とりあえず海エリアに到着。ここはただの経由地点なので、すぐに森林エリアへと転移をーー。


「あ、すまん。森林に行く前にちょっと『上限発動指示』と『上限発動制御』を取らせてくれ。その後で木に切り替える」

「それもそうだな。俺も取っておこうっと」

「わかった! 待ってるねー!」

「私も取っておきたいとこだけど、ポイント足らないからね」

「ポイントが足りないのはどうしようもないかな」


 そういう事なので、俺もコケとロブスターでそれぞれ取得してきた。各種進化ポイント15ずつは大きいけど、まぁ多分あって損する物でもないからね。一応詳細を確認しておこう。


『上限発動指示』

 消費行動値1で『上限発動制御』の登録枠の1つを呼び出し、発動させる。

 発動中に再度使用する事で発動解除となる。


『上限発動制御Lv1』

 『上限発動指示』と同時取得になるセット運用スキル。

 上限値使用のスキルを事前に登録しておいて、『上限発動指示』で呼び出す事が可能になる。

 初期登録枠は1つ。効果時間は使用上限値×5分。再使用には5分必要となる。

 ただし、元々使用時間に制限がある場合はそちらに依存する。

 Lv上昇により登録枠の増加。


 ふむふむ、登録枠は少ないけど無いよりはいいね。基本的に上限値使用のスキルは発動を切るまでずっと使えるものだけど、それに時間制限がある感じか。まぁ行動値上限を使用しない以上は、こういう仕様になるのは仕方ないかな。とりあえずコケとロブスターでそれぞれ登録しておこう。

 まぁ操作中のキャラからは発動出来ないみたいだし、コケの方はあんまり意味ないだろうけど。


コケ『上限発動制御Lv1:登録枠1』

 登録内容:『移動操作制御Ⅰ』

 効果時間:10分


ロブスター『上限発動制御Lv1:登録枠1』

 登録内容:『魔力集中Lv1』

 効果時間:10分


 ダメ元だったけども、移動操作制御が登録出来たのは少し驚いた。これ、地味に便利じゃないか? でもアルをこれで浮かせられるのは10分……いや、別にコケでログインしてるから気にする必要もないか。


「よし、こっちはスキル取得も登録も終わったぞ」

「俺も終わったとこだ」


 アルも準備が終わって木でログインし直してきたので早速森林エリアに向けて出発だ。俺は今回はコケでログインしている。サヤはクマ、ヨッシさんはハチ、ハーレさんはリスである。見た目こそかなり変わったけどもログインしているキャラはみんな1枠目になったね。


 さてと現在時間は9時40分。なんとか総力戦の開始時間までに間に合えばいいけど。とりあえず総力戦に向けて行動開始!


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