第207話 自然には勝てない


 俺もちょっと流されたけど、規模そのものは大した事が無かったので特に問題はなかった。あ、小魚や海老が打ち上げられまくってるね。

 空を飛んだり、木の上に登ったりして全く流されなかった人達がこぞって回収に向かっていた。ふむ、他のプレイヤーが仕留めたのはアイテムとして手に入らないけど、誰かに仕留められる前に死んだのは俺のアイテムとしてインベントリに入ってきたね。

 そろそろコケのインベントリの容量がヤバイんだけど、どっかで消費しないと……。ロブスターの方も結構海の魚とかが多いんだよな。


<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『淡水漁ビギナー』を取得しました>

<スキル『容量拡張Ⅰ』を取得しました>


 あ、これはありがたい。ロブスターの方のインベントリの容量がこれで増えたから、多少の余裕が出来た。


「なぁ、ケイさん。このずぶ濡れ状態で火って起こせるか?」

「……多分無理だな」

「まぁ多少場所を移動すれば大丈夫だろうけど、この状態を放置というのは僕は感心しないな」

「……ですよねー」 


 ソラさんの言う事ももっともだろう。この状況を引き起こした張本人がその場を放り出して他の事をやるのはやっぱり駄目だろう。

 そして津波を起こして巻き込んだ事を謝って、水分吸収持ちのプレイヤーで手分けをして乾かして行くことになった。紅焔さんも火魔法と火の操作を駆使し乾かすのを手伝っている。水分吸収ほど効果は早くないけど、全く無意味という訳でもないらしい。


 ちなみにその乾かす行為で『地形を弄るモノ』の取得も可能だったようで、どことなく怒っていた人もその怒りは何処かに消えていた。ちなみにロブスターの方は、津波を発生させて周囲が泥濘だらけになった時点で『地形を弄るモノ』を取得していた。ついでに『水流を扱うモノ』もである。


 しばらくみんなで頑張れば、元通りの湖の畔へと戻っていた。流石に一部の折れた木とかは元通りとはいかなかったけどね……。

 時間的にもう6時だし、サヤとヨッシさんがそろそろ厳しいかな。余計な事をやってしまったせいで、火種を作るという計画は後回しになりそうである。まぁこういう事もあるさ。元凶、俺だけど。


「時間が時間だし、一度ログアウトするね。アル次第だけど、夜の合流はここで良いかな?」

「私もログアウト。……アルさんのクジラ次第になるんだね。駄目そうなら海エリアで合流?」

「その辺は2人に任せる。ログインした時に都合の良い方に合わせて移動するし。とりあえず続きはアルも合流してからだな」

「2人ともいってらっしゃいー!」


 そしてサヤとヨッシさんはログアウトしていった。クジラが持ってこれるかどうかが問題ではあるけども、共生進化は解除しても大丈夫だし、その辺は先に戻ってくる2人とアルに任せておけば問題ない。ここからならミズキのとこまでも近いし、転移で海エリアに行くまではそれほど手間はかからないからな。


「なんかバタバタしたけど、とりあえず片付いたか? さて、ケイさん。水流の操作の詳細を聞かせてもらおうか!」

「それもそうだな。1つの称号で水流の操作以外にもスキル取得が出てるしな」

「なんですと!? え、どういう事!?」

「ケイさん、どういう事だ!?」

「ハーレさん、紅焔、落ち着きなって! こら、周りの人達も気になるのは分かるけど慌てない!」


 ざわめきだしたプレイヤー達をソラさんが一喝して大人しくさせる。うん、気になる気持ちは分かるけど、ソラさんナイスだ!


「後で情報共有板にも流すけど、迷惑かけたお詫びって事で先に情報公開しとく! まず推測される条件は操作系スキルLv6以上で大規模に操作する事。そして今回手に入ったのは称号『水流に昇華させたモノ』とスキル『水流の操作』と『生成量増加Ⅰ・水』の2つ!」


「称号って『水流を扱うモノ』じゃないのか!?」

「取得スキルが2つ……? 『生成量増加Ⅰ・水』って何?」

「もしかして応用スキルの取得が可能な称号は複数ある……?」

「あ、だから水の操作Lv6が条件なのか? こっちの方はハードルが高いんじゃないか」

「いや、でも1つのスキルの使い込みに大きな意味が出てくるんじゃない?」

「……そういや物理攻撃のチャージ系で応用スキルに称号と一緒に派生する奴ってのもあったよな? そっち方面の強化か?」

「そういえばチャージ系の派生で『凝縮破壊Ⅰ』とかスキルが手に入るんだっけ?」


 あ、そういやベスタがそんな話もしてたっけ。なるほどね、自力で派生から応用スキルへと辿り着けばそれ相応に強化に使えるスキルが更に追加される訳か。……ポイント取得とかで応用スキルを手に入れた場合ってどうなるんだろ?


「なぁ、紅焔さん?」

「……大体聞きたい事は想像ついたから、今確認中だ。……ちっ、『生成量増加Ⅰ』ってのはポイント一覧にはないって事は称号での取得限定か? ポイントで応用スキルを取ってたら取り逃す……?」

「僕はこの運営の事だから入手が不可だとは思わないね。派生以外で取得をした場合でも条件を満たせば新たに取得可能になるとかそういうのじゃないかい? 紅焔、炎の操作はポイント取得済みだし、試してみればいいじゃないか」

「……有り得そうな話だし、火の操作をLv6まで上げて試してみるか」


 応用スキルへ至る道が複数あって難易度が違うとなると、この辺は色々と時間をかけて調べていくしかないだろうね。……とりあえずスキルの詳細を見ていこうか。


『水流の操作Lv1』

 行動値を消費する事で水流を操る事が可能になる。操作の難易度はLvに依存し、また消費行動値も変動する。


 この辺は同格の岩の操作とほぼ同じ。行動値の消費量も岩の操作と同じで20だな。まぁここは予想通りなので気にしないでいいだろう。重要なのはもう1つの方のスキルだろう。


『生成量増加Ⅰ・水』

 水魔法Lv1での水の基礎生成量を増加させる。また水流の操作の発動中に限り、1度に生成可能な最大水量の3倍まで追加生成が可能となる。


 これはシンプルと言えばシンプルな内容だ。名前の通り、水魔法での水の生成量を増やすスキルらしい。分類としては特殊スキルで常時発動の何も消費しない類のスキルだね。

 みんなにその辺の情報も伝えていけば、再現を目指して頑張り始めていた。中にはすぐに情報共有板に情報を流している人もいるようなので、今回は任せておこうかな。


「ケイさん、ケイさん! 水流の操作を使ってリスで風の操作の取得できないかな!?」

「あー、出来るかもな。やってみるか?」

「やるー! それじゃリスを持ってこないとね!」

「おう。今のうちにやっちまおうぜ」


<システムメッセージ:外部電源とネットワークの切断を感知しました。内蔵バッテリーと予備ネットワークへ接続を切り替えました。即時ログアウトを推奨します>


 げっ、システムからの警告が出た。……このメッセージが出るって事は、雷で停電でもしたか!? 短時間なら大丈夫だけど、長時間では悪影響が出る可能性があるからこれは即座にログアウトした方がいいな。


「ケイさん! システムメッセージが出たよ!」

「俺の方もだ。紅焔さん、ソラさん、すまん! どうも停電っぽい!」

「あー今日は天気悪いもんな……。それは悪影響が出ない内にすぐにログアウトした方がいいぞ」

「……そうだね。あまり例は多くはないけど、キャラデータの破損って事も低確率で起こるらしいしね」

「2人とも中途半端なとこですまん。それじゃまた!」

「ごめんねー!」

「天気が原因の事は気にすんな!」

「ケイさん、ハーレさん、また会った時は一緒にやろうじゃないか。それじゃまた」


 強制ログアウトにこそなってはいないが、その一歩手前の状態ではある。急いでログアウトしてしまわないと。くっそ、リアルの天気め!



 ◇ ◇ ◇



 そしていったんの所にやってきたけども、のんびり話してる場合でもない。


「VR機器の方から警告メッセージが出てるね? すぐにログアウト処理するよ?」

「おう、頼む」

「……天気が悪い日はこれが大変だね〜。回復したらまた来てね〜」

「おう、それじゃな!」


 ある程度の内蔵バッテリーはあるとはいえ長時間は持たないし、予備ネットワークに設定しているモバイル回線もプレイに支障はない速度はあるとはいえ、メインの有線の方が安定している。有線回線とモバイル回線の併用が一番安定はするんだけどな。

 とりあえずログアウト処理は無事に完了だ。これでデータ破損のトラブルはないと思う。まぁそれ程頻繁にデータ破損が起きる訳じゃないらしいけど、正規の手順で終わらせるのが安全だしね。



 ◇ ◇ ◇



 そして現実へと戻ってきたが、雷が鳴り響いていた。携帯端末からホームサーバーへとアクセスしてみれば、予想通りの停電状態になっており電源は非常時の家庭用バッテリーへと切り替わっている。あまり無駄に使い過ぎない様にこういう事態の時には最小限の電源供給に設定しているので、VR機器への給電は止まっている状態だ。


「兄貴、どんな状態?」

「とりあえず停電中で、非常用のバッテリーで最小限の駆動になってるな。……ネット回線は有線がどっかで停電の影響で切れてるけど、モバイル回線は生きてるか」

「そっかー。あ、お母さんから連絡が来たよ?」

「……俺の方にも来たな。こっちの状況確認って事は母さんの方も停電か?」

「とりあえず大丈夫だって返事を送っとくよー!」

「おう、任せた」


 携帯端末で天気のニュースを見てみれば、停電は結構な範囲で起こっているらしい。……こりゃ復旧には少しかかるか。まぁ天気は仕方ないよな。いきなり全部アウトで強制ログアウトにならなかっただけでも良しとしよう。


「兄貴! お母さんもお父さんもこの雨ですぐに帰れるか分からないから、私達で晩飯なんとかしてってさー! どこかで食べてくるからお父さんとお母さんの分は気にしなくても良いって!」

「……まぁ、この状況じゃ仕方ないか」


 とりあえず非常用のバッテリーで最低限の灯りや冷蔵庫などの必需品はしばらくは大丈夫である。……まぁ流石にゲームに回すのは出来ないけど、晩飯の用意くらいはなんとかなるだろう。その為の非常用バッテリーだしな。


「さてと、食えそうな物は何があるかね」

「食料探しだー!」


 とりあえず晩飯の確保が先だな。この天気で停電中に宅配を頼む気はない。……流石に大変過ぎるだろうしね。買い置きは多少あったはず。


「インスタントラーメンを発見!」

「こっちは炒飯の素とかあるな。お、冷凍の餃子とかもある」

「これは、ラーメンセットだね!」

「……2人で食うにはちょっと量多くね?」

「私が食べるから大丈夫!」

「あ、そう」


 家族4人で食べる事を想定した餃子の量だけど晴香は俺より大量に食べるし、まぁ別に大丈夫か。……冷凍してたご飯もあるし、炒飯の量を控えめにして簡易ラーメンセットにしますかね。

 晴香に作るのを手伝わせると悲惨な事になるので、作るのは俺だけど……。大惨事の後片付けをする事を考えれば1人でする方が安全だしな。



 そんな感じでいつもより早めの晩飯を食べ終わった頃には雷も鳴らなくなり、停電も復旧して元通りになっていた。天気のニュースを見る限りでも雷は収まっていくとの事である。

 うーん、この前父さんが太陽光パネルの自家発電の導入を悩んでいた気持ちが少しだけ分かった気もする。


 予定外に早めの晩飯も食ったし、停電も復旧した事だしゲームを再開していこうかな。今が7時くらいだから、サヤとヨッシさんはもう戻っているかな? アルが居るかは微妙なところ。まぁ、ログインすれば分かる事だ。それじゃ続きをやっていこう!

 

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