第208話 丸焼きと次の目的地


 今は7時を少し過ぎた頃。停電や有線回線も復旧したし、晩飯も普段より早いけど食べ終えたのでログインしていく。


 そしていつもの様にいったんの場所へとやってきた。さっきは慌てて即座にログアウト処理をしたので見ていなかったけども、いったんの胴体を見てみる。今回は『要望のあった機能の追加について』となっている。ほう、何だろう?


「君の処理は間に合ったと思うけど大丈夫だったかな〜?」

「あー完全に停電してたけど、まぁ一応対策はしてたから大丈夫だ」

「それは良かったよ〜。昨日の地震といい、今日の雷雨での停電といい、強制ログアウトが多くてね〜。僕らじゃどうしようもないから、事後対応で大変さ〜」

「そりゃま、お疲れさん」


 技術は確実に進歩はしているけど、まだ天候も地震も事前に完璧に知る事は出来ていないもんな。現実世界の自然を操るなんて事はまだまだ先の話だろう。その辺は運営に文句を言ってもどうしようもならないので仕方ない。


「ところで機能追加ってのは?」

「あ、それね〜。群集毎の情報を纏める為の機能の追加だよ〜。次の定期メンテナンス後から使える様になります〜」

「お、意外と早いんだな?」

「ありゃ? 他のプレイヤーから情報を聞いてたかな〜? まぁテキストベースのシステムで、基本的にプレイヤーの人達に自分達で編集してもらう形になるからね〜。テンプレートがあったから、それを放り込むだけっていう手抜……お手軽な機能追加だよ〜」


 おい、思いっきり手抜きって言おうとしたよな? ……まぁプレイヤーが編集するタイプの物は攻略サイトとかでも結構あるし、用意自体は大して難しくもないのか。定期メンテは木曜日だから、明後日だな。


「あ、あとスクリーンショットの承諾もお願いね〜」

「ほいよ」


 一覧から軽く確認してみれば、不動桜のとこでハーレさんに実況された時のが大量にあった。……まぁ、あそこであんな事をすればそうなって当たり前だよな。って地味に赤の群集のプレイヤーのも混じってるな……。げっ、青の群集までいるし!? 陸路で灰の森林深部まで来てた人がいたのかよ。

 ゲーム内では普通に見れるからあんまり意味ないかもしれないけど、一応他の群集の人は拒否にしておこう。あとは何枚か良い感じのがあるので貰っておこうっと。


「よし、これでいつもと同じ条件で処理しといてくれ」

「はいはい〜。それじゃログインかな〜?」

「おう。コケの方な」

「コケだね〜。いってらっしゃい〜」

「おうよ」


 そしていったんに見送られながらゲームの中へと移動していく。さて、みんなで何処に行くか相談しないとな。



 ◇ ◇ ◇



 現実では大雨の夜だというのに、ゲームの中は快晴の昼間である。うん、いい天気だ。纏樹の効果は切れているのは当然と言えば当然か。


 周囲を見回してみれば、ログアウトしたミズキの森林にある湖の畔であり、そこにはキャンプファイヤーみたいな大きな焚き火が出来ていた。これは他の人が火種を作った感じだね。サルの人が焚き火のすぐ横にいるので、多分サルの人がしたんだろう。

 そして沢山のプレイヤーが焚き火を囲んで何やらワイワイと騒ぎながら何かをやっているようである。少し眺めていると俺がログインしたのに気付いたのかクマとウニが近付いてきた。まぁサヤとヨッシさんなんだけど。……ヨッシさんの姿が物凄く気になるんだけど、その姿は何事……?


「ケイ、紅焔さんから聞いたよ? 停電してたって?」

「サヤってば、2人とも今日はログイン出来ないんじゃないかって妙に落ち着かない様子だったよ」

「そ、そんな事はないかな!?」

「ほう、サヤはそんな感じだったのか。紅焔さん達は?」

「ライルさんとカステラさんがログインしたから、スキルのLv上げをしに行くってマップの北の方に行ったかな。私とほぼ入れ替わりだったかな?」

「あー、なるほどね」

「ところでケイ、ハーレはどうしたのかな?」

「ん? 俺より先にログインしてたはずだけど来てない?」


 まぁサヤが心配してくれていたというのは何となく分かったので、これ以上追求するのは止めておこう。紅焔さんとソラさんは自分達のPTが勢揃いしたのでそっちに行って、熟練度上げというとこだろうね。

 それにしてもハーレさんについては俺の方が後片付けもしていたから後からのログインの筈だけど、俺の方が先とはどういう事だ?


「うん。ハーレはまだかな」

「何やってんだ?」

「スクリーンショットの整理でもしてるんじゃない? 昨日沢山撮ってたしね」

「あ、それはありえそうかな」

「なるほどね」


 そうか、昨日のスクリーンショットも昨日の内に承諾になったとも限らないもんな。今日の夕方辺りからログインして仕分けして、外部出力の為の承諾待ちになればそれを見るタイミングは今ぐらいになる訳か。俺はざっくりと整理しているけど、ハーレさんはじっくり見てそうだし。

 そう思っていれば、ハーレさんもクラゲでログインしてきた。


「お待たせー! あ、ケイさんの方が早かった!? って、ヨッシはどういう格好なの!?」

「それは俺も気になってた。なんでヨッシさんのウニの棘に何匹も魚が串刺しになってんの?」


 しかも良い感じに焼けて、良い匂いもしているというのが地味に凄い光景である。串みたいに長く伸ばした数本の棘に、串焼きにする様に魚を刺している状態だ。何がどうなればこうなるんだろうか。


「これは回復アイテム作りだよ。はい、ハーレにもケイさんにもあげる」

「おー、やったー! いただきまーす!」

「いきなり食うんかい!?」

「んー! 塩気が足りないけど、これはこれで美味しいよ!」


 ヨッシさんが棘を抜いて渡してきた焼き魚を俺はロブスターのハサミで受け取り、ハーレさんはクラゲの触手で受け取った。受け取った直後にハーレさんは食べてたけども。回復アイテムとしてもらったのに、いきなり食うのか……。リアルでも晩飯食ったばかりなのに相変わらずの食い意地だな。

 えーと、アジっぽいこの魚は確か生だと回復量は100とかだったけど、回復量10%とかになるのか。ログイン中のアルから採った蜜柑が10%だったはずだから、これはなかなか良い感じかもしれない。とりあえずインベントリに入れておこう。


 ヨッシさんが魚を焼いていたって事は、もしかするとあの大きな焚き火を囲んでいるプレイヤーはみんな何かを焼いてるのか……?


「あー!? しまった、焦がした!?」

「これ、地味に火加減が難しい……」

「あ!? 拾った木の枝じゃ枝のほうが燃え尽きた!?」

「おー良い感じで焼けた。これは使えそうだ」


 人が多くて様子はうまく見えないけども、聞こえてくる声を聞いていれば大体想像通りのようである。拾った木の枝では燃え尽きたって事は、ヨッシさんは大胆な事を考えたな。


「……なるほど。ヨッシさんはウニの棘を串代わりに魚を焼いてたんだな?」

「そういう事。これなら直接操作も出来るしね」

「生焼けだったり、焦げたりすると回復量に大きく違いが出るみたいかな。これ、案外難しいよ」

「……確かに難しそうだな」

「あ、ちなみに成功認定の焼き加減が10回くらいで称号『調理ビギナー』っていうのが手に入ったよ。ついでにそれで『火を扱うモノ』と火の操作も手に入ったね」

「ほう? そんな称号もあるんだな?」

「スキルは『調理上昇Ⅰ』だってさ。調理の成功確率が上がるんだって」


 そうやって説明しながらヨッシさんは伸ばした棘の向きやら高さを変えながら、焼き方の実演を見せてくれた。ヨッシさんも思い切った調理方法を選んだものである。だけど、周りの失敗の仕方を見ていれば案外正解だったのかもしれない。

 それにしても上手に焼く事で称号『調理ビギナー』の取得が可能になって、それに合わせて火の操作も手に入るのは良い発見だ。だからみんなして色々焼いているんだな。


 そして焚き火に薪を放り込んでるのはサルの人。こうやって見てみれば実際の人間への進化を見ているような気分になるね。ゲーム的には人類種はもっと別物にはなるけどさ。

 

「おーい、そろそろ問題ないだろうから交代していくぞー!」

「おい、順番は誰からだ!?」

「俺だ、俺ー!」

「おう、頼むわ」


 そんなやり取りを経て、サルの人がタコの人と役割を交代していた。……タコが森中の湖の畔で焚き火に薪を放り込んでいるのも妙な光景である。

 薪はクマの人やタチウオの人とかが丸太や板を斬っていた。……タチウオの人って灰の群集にも居たんだな。他には小動物系のプレイヤーが小枝とかを拾い集めてきている様子である。


「あれって、なんで薪をずっと放り込んでるんだ?」

「えっと、火の操作じゃ火を大きくし過ぎて制御が無理なんだって。でも誰かのダメージ判定にしないと燃え移っちゃってね?」

「それで交代しながら、ああやって誰かのダメージ判定にしてるんだって」

「あ、そういう事か。……ダメージ判定無くして飛び込めば進化の為に自殺可能?」

「確かやってた人もいたよね? 途中までは上手くいってたかな」

「イノシシの人がいたけど、失敗してたね。プレイヤーが飛び込んだ瞬間から火がどんどん弱まっていってね」

「あ、それで薪を足したらダメージ通らなくなって失敗してたかな」

「やっぱりそう簡単には死なせてくれないのか……」


 でも途中まではうまくいったなら、適度に何処かでHPを減らして来ていれば可能ではありそうだ。……HPを減らしたなら、そのままそこで死ねばいいだけだしあんまり意味ないな。うん、やっぱり敵か他の群集に倒される以外の死に方は簡単には用意させてくれないらしい。


「ちなみに火の操作の取得って食べ物焼くだけ?」

「あの焚き火でしばらく薪を放り込んでたら、『見張りビギナー』って称号と一緒に取得出来るらしいよ? 順番待ちが凄いけどね」

「焼く方も1回やったら成功しても失敗しても交代だしね。今はまだ混み合ってどうしようもないかな」

「なるほど、順番待ちになってるんだな」

「『見張りビギナー』は『奇襲防御Ⅰ』だって。奇襲された際に受けるダメージ量が少し減るんだってさ」

「ほう、そりゃ良いな」


 ふむふむ火種さえ起こせば、火の管理を行うか、調理をすればいい訳か。どっちも中々魅力的なスキルだね。出来ればどっちも取得を狙いたいところだな。

 うーん、でもこの繁盛具合ではここで水のレンズで火を起こすのは少し厳しいかな? 何処か少し場所を変えてやってみるか? まぁ、この辺はみんな揃ってから決めるか。そういやアルは……。


「サヤ、ヨッシさん待たせた! お、ケイとハーレさんももう居るのか?」

「アルさん、こんばんはー! 停電があって、色々とタイミングがズレたんだよ!」

「そういやサヤとヨッシさんがそう言ってたな。ってか、停電は直ったのか?」

「そっちは復旧済みだからとりあえず大丈夫だ。アル、流石にクジラはまだ無理か?」


 アルが何処にいるかチェックしようと思ったら良いタイミングでやってきた。木だけでやってきたのを見れば、まだクジラでの陸地移動は無理っぽいな。流石にそう簡単にはいかないか。


「まぁ大丈夫ならいいか。クジラはまだちょっと厳しいな。だが、もうちょい『小型化』と『空中浮遊』が上がれば、30センチくらいは浮かんで移動くらいは行けそうな感じはしてきてるぜ?」

「おー! そうなんだ!?」

「ちょっと広めの平坦な場所で試してみたいってとこだ。……頑張ればなんとかここまで持って来る事も出来なくはないだろうが、森林深部やミズキの森林じゃちょっと木が多すぎるからな」


 ふむふむ。アルはまだ無理ではあるけども、それなりに進歩ありと。……あれ? クジラで空中浮遊って取れないとかいう話じゃなかったっけ?


「なぁ、アル? 大型の奴では『空中浮遊』は取れないとか見た覚えがあるんだけど?」

「あーそれは『浮遊』の方じゃないか?」

「あれ? そういえばそんな気も……? それってどう違うんだ……?」

「『浮遊』は適応してる環境ならどこでも漂えるってスキルで、『空中浮遊』は空中限定のスキルだ。『浮遊』は変異狙いのポイント節約用って話だがな」

「おー!? そんな違いがあったんだ!?」


 なるほど、そういう違いか。変異狙いって言っても変異する確率ってそれほど高くないから、微妙なとこではあるよね。まぁアルが空中浮遊を取れているなら気にする必要もないか。

 さてと、色々あったもののこれで全員集合である。どこに行くかを決めていこうじゃないか。


「昨日で一応、海の競争クエストを終えた訳だけど、これからの目的地を決めていこう!」

「海は海で良かったが、確かに他のエリアも行ってみたいとこではあるな」

「はい! 私は趣向を変えて草原に行ってみたい!」

「ハーレ、どういう理由でかな?」

「見渡す限りの草原の上空を飛びたいです!」

「……確かに今のハーレのクラゲなら出来そうだよね。アルさんも平坦な場所へ行きたいなら草原はありじゃない?」

「確かに草原エリアならそれもありだが、初期エリアよりはどこか別の場所がいいか。どっか草原ってあったか?」


 まぁ初期エリアは人が多いもんな。……そういや他の初期エリアの近隣エリア情報とかはさっぱりだな。もうちょい情報収集しとくべきだったか。


「それなら荒野エリアの調査クエストが草原エリアだったはず! そっち行こう!」

「お、そりゃいいな。……ケイ、乾燥は大丈夫か?」

「あーまぁいざとなったら水球でも被っとくし、大丈夫だろ。それより、みんなの方は乾燥大丈夫なのか?」

「行ってみないと分かりません!」

「私もちょっと分からないね」

「私はクマは大丈夫だと思うかな?」

「……いざとなれば俺も海水を被るか」


 乾燥が弱点だと明確に分かっている俺のコケ以外は、実際に行ってみないことには分からないという事のようである。


「それじゃとりあえず荒野エリアに行ってみてから考えるって事で決定で良いか?」

「良いよー!」

「異議なし」

「私も良いかな」

「俺も良いぜ。共生進化をし直してこないとな」


 ということで次の目的地は荒野エリアに決定! さて、どんな感じの場所だろうか。草原なら燃えるものもありそうだし、そっちのエリアで水のレンズを作って火を着けてみるのもいいかもね!


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