第206話 水の操作の応用


<『始まりの森林深部:灰の群集エリア2』から『ミズキの森林』に移動しました>


 不動桜も倒し終えたので、集まっていた人達にそこそこ挨拶をしてから切り上げてきた。……なんか無駄に疲れた気分だよ。


 現時点で俺のロブスターがLv10、サヤのタツノオトシゴがLv9、ヨッシさんのウニとハーレさんのクラゲがLv15である。まぁLvが上がれば経験値の必要量も増えるので、単純に2倍のLvとはなっていなかった。……ロブスターもそれなりにスキルも増えてきたし、共生進化を解除してLv上げをするのもありか? まぁ、その辺も含めて行動方針を決めていこうかな。


「とりあえずミズキの森林には到着したけど、どうする?」

「はい! 火の操作の取得希望です!」

「……色々と焼く為かな?」

「多分そうだね。……でもハーレ、調理は大丈夫?」

「もちろん焼いて食べる為だけど、自信はないよ!」

「自慢げに言うことでもないけど、そうだろうな!」

「やっぱりね」


 リアルで料理関係はからっきし駄目だしな。ゲームだから勝手は違うだろうけど、ハーレさんが焼くとなれば生焼けか焦げる状態しか想像出来ない。


「俺も火加減は自信ないな……」

「紅焔は全力で燃やしてばかりだしね。まぁ僕も火の操作があっても出来る気はしないんだけども」


 紅焔さんもソラさんもその辺りは自信ないらしい。まぁ俺もその辺は自信ないな。……多少失敗を繰り返す前提ならそのうち出来るとは思うから火の操作自体は取っておきたいけど。


「ところで火種は雨で消えたって話だけど、どうするんだい?」

「とりあえず、俺の水の操作でレンズを作って出来ないかやるだけやってみるつもり」

「それならまずは湖を目指そうか。あそこは結構人が集まるって話だしね」

「そうだな。そうするか」

「おー! 湖だー! 今度は泳いでも大丈夫だよねー!?」

「……そういやハーレさんって、淡水は大丈夫なのか? 普通に池にも浸かってたけどさ」

「草原エリアで特性の実を何個か交換してきてるから大丈夫さー!」

「……なんで草原エリア?」

「草原エリアの競争クエスト終了後に交換可能に追加されるアイテムが『特性の実:淡水適応』なんだよ!」

「負けた場合は実だけで、勝った場合は種も追加されるらしいよ?」

「あーなるほど、そういう仕様か」


 競争クエストで勝った場合と負けた場合で追加されるアイテムの種類が変わる訳か。まぁ勝った方がお得ではあるけど、負けたとしても最低でも特性の実は手に入ると。全敗しない限りは共生適応に必要な特性の種のどれかは手に入るって感じかな。

 草原エリアでは負けてしまったから、手に入るのは実だけってことなんだろう。まぁ、この辺は仕方ないのかもね。


「ちなみに、負けたとこの特性の種は他の勝利エリアの徘徊している群集支援種で交換してもらえる可能性があるそうです! ここならヤナギさんからだね!」

「へぇ、それは初耳だね? 情報共有板には流れてないんじゃないかい?」

「交換出来るかはランダムらしくて、まだ情報としては未確定過ぎるからってさ! 灰のサファリ同盟から聞いたんだ!」

「……ハーレさん、その『灰のサファリ同盟』って何?」

「あ、それはケイも会ってるかな」

「ケイさん、あの池のとこで会った人達だよ」

「あの人達か!?」


 あの人達はそういう集団だったのか。……まぁこのゲームにはギルドとかクランとかそういう集まりを作る機能は無いから、ただ単に集まっての自称って事にはなるんだろうけどね。ああいう集団用のシステムって実装されないのかな?


「ま、とりあえず湖まで行こうぜ!」

「そうだね! 湖へ向けてレッツゴー!」


 考えていても結論が出る話でもないので、競争クエストの時にザリガニが引きこもっていた湖へと向かっていく。ヨッシさんがどうしても移動速度が遅くなりがちなので、サヤがブレスレット状にしているタツノオトシゴでヨッシさんの棘の1本に巻きついてぶら下がっている状態になっていた。……なんだか、そのままモーニングスター的な武器になりそうな見た目である。

 なんでそんな状態なのかが気になったので聞いてみたら、まさしく武器として投げられるようにしているらしい。……もうヨッシさんは自力での近接攻撃は捨てているみたいである。まぁ本人達がそれで良いなら別に良いか。



 そんなこんなで移動してきた湖である。今日はリアルでは豪雨だけども、ゲーム内では快晴の良い天気だ。湖の水面に陽光がキラキラと反射していて、のどかな森林を演出している。湖の周辺にはスキルの熟練度上げをしているプレイヤーの姿も結構あるね。

 ちなみに移動している間に自己強化と操作属性付与は効果の時間切れになっていた。纏樹の方はまだ効果中である。


「いやっほー! 到着だー!」

「あ、また!? ハーレ、待ちなさい! サヤ!」

「うん、分かったよ」

「『針伸縮』!」

「ひゃ!? ヨ、ヨッシ!? びっくりしたー!?」

「普通に追いかけても間に合わないからね。ハーレ、単独での先走り禁止!」

「……はーい」


 別に攻撃をした訳でないけども、サヤがタツノオトシゴを振り回して勢いをつけ、ヨッシさんを投げ飛ばし、ハーレさんの前へと回り込んで棘を伸ばしていた。ダメージは無いとはいえ、突然目の前で伸びた針にハーレさんもびっくりしていた様子である。……なるほど、これを含めてのさっきの移動方法か。


「ハーレさん、あんまり時間もないし火種を作るところから先にやるぞ? 泳ぐのは後でも出来るだろ?」

「はっ!? いつの間にかこんな時間!?」

「今日は雨で帰ってくるのがちょっと遅かったもんね」

「梅雨だし、仕方ないんじゃないかな?」


 現在時刻は5時半を過ぎた頃。もう30分もしないうちにサヤもヨッシさんも晩飯でログアウトだからね。もうちょい時間があるならちょっと好きに泳いでからでもいいんだけど、やるなら今のうちに火種だけでも作っておきたい。……まぁ上手く作れるかは実験になるけどさ。


「さて、水の操作Lv6で出来るもんなのかね?」

「どうだろな? っていうかケイさんの操作Lv高いな? Lv6って他のプレイヤーでまだ聞いたことないぞ」

「僕も聞いた範囲ではLv5が最大だね」

「へぇ、そうなのか?」


 まだ操作系スキルでLv6まで行ってる人は少ないんだな。全くいないってことは無いんだろうけど、ここは素直に誇ってもいいとこかもしれない。さてと、とりあえず水でレンズを作ってみるか。


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 44/45 : 魔力値 83/86

<熟練度が規定値に到達したため、スキル『水魔法Lv3』が『水魔法Lv4』になりました>


 お、水魔法のLvが上がったぞ。多分水魔法Lv4はアクアボムのはずだから、後でこの辺は確認しておこう。とりあえず今はレンズの作成が先だな。


<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します>  行動値 41/45


 よし、これで魔法産の水を支配対象に指定して……はいっ!?


「え、何だこれ……?」

「……ケイ、どうかしたのかな?」

「どしたの、ケイさん!?」

「……ケイさん?」

「何かあったのか!?」

「ケイさん、どうしたんだい……?」


 俺は魔法で水を作ってそれを操作するつもりだったんだけど、視界に入っている湖の方を見れば異常な事になっている事に気付いた。……ちょっと待てよ。Lv6から変わり過ぎじゃないか!?


「……湖の表面の水がほぼ全て操作可能になってるんだけど……」

「えっ!?」

「ケイさん、それはどういう事だ!?」

「……ここは試してみるべきだろうね」


 これはソラさんの言うように試しておくべきか……? 周辺にプレイヤーは結構いるけど、いるのはみんな灰の群集のプレイヤーだ。見られて困るという事もないだろう。よし、支配範囲を確定して操作に移ってみようか。

 うっわ、今までとは桁違いの水量が支配状態になったよ。……これ、海水の操作の水量よりも遥かに上じゃないか? ちょっとずつ持ち上げるように動かしてみよう。


「おい、なんか湖の様子が変だぞ?」

「え!? 水面が上がってきてるの!?」

「おいおい、何だこれ!?」

「おい、これって誰かのスキルなのか!?」


 そしてその様子に気付いた他のプレイヤー達がざわめき始めていた。……こりゃ流石に目立ち過ぎるか。俺だって周囲でこんな事が起こっていたらびっくりするよ。


「みんな、これは水の操作Lv6の実験中かな! 何か大きく変わってるらしくて何が起こるか分からないから注意して!」

「Lv6!?」

「これって水の操作なのかよ!?」

「え、こんな事になるの!?」


 サヤが簡潔に事情を説明してくれて、周囲のプレイヤーの驚く声が聞こえてくる。……俺自身もこの状況はびっくりなんだけどな。とりあえず持ち上げた湖の表面の水を上空で、球状に形を変化させていく。水量こそ桁違いに増えたものの操作感そのものはスムーズであり、今までと遜色ない……いや、むしろ良くなっている気がする。

 そしてそう時間はかからずに湖の上に浮かぶ巨大な水球は完成した。大きさ的にはエンの近くにある海水の水球に匹敵するくらいのサイズじゃないだろうか。


「ははは、何だこれ。自分でやったとはいえ凄いな、これ……」

「ケイさん、これは凄いね!?」

「……ねぇ、ケイさん。もしかしてなんだけどさ、この水球を勢いよく混ぜるみたいな事って出来る? それこそ海流の操作みたいにさ?」

「……何となくヨッシさんの言いたい事は分かった。操作自体は今まで以上にスムーズだから問題なく出来そうだけど……やってみるか」


 イメージとしては水球の中の水をグルグルと回し続ける感じだろうか。急激にやるとどうなるか分からないので、徐々に勢いを増すように水球の中の水を動かしていく。段々と勢いを増していき、やがて渦のようなものが出来上がってきた。


<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『水流に昇華させたモノ』を取得しました>

<スキル『水流の操作』を取得しました>

<スキル『生成量増加Ⅰ・水』を取得しました>


 何となく予想はしていたけど、やっぱりか。どうも応用スキルは基本スキルのLvを結構上げてからの派生でも覚える事が可能だったようである。それにしても『水流に昇華させたモノ』か。他にも『生成量増加Ⅰ・水』というスキルも貰えてるから『岩を扱うモノ』とかとは別系統の称号っぽい。この称号とスキルは共生相手の方は取得はなしか。……多分この称号の条件に操作系スキルのLvも関わってるんだろうね。

 これで応用スキルのポイント以外での新たな取得手段が見つかったって事になるんだろうけど、これは正直簡単に真似は出来そうにない。まぁ、それでもこう言っても問題はないだろう。


「水流の操作の取得方法を見つけたぞー!」

「途中からそんな気はしてたかな?」

「おー! ケイさん、2つ目の応用スキルだね!」

「やっぱりそうなったね」

「操作系スキルLv6以上で、大規模になってそこからの派生か……? え、俺、ポイントで炎の操作は取っちまったんだけど!?」

「だから僕は少し待ったらと言ったのに、急いでポイントで取るもんだから……」

「これは流石に想像つかねぇよ!?」


 俺達のPTは途中から大体の結果は予想出来ていたようで、割とあっさりとした反応である。それに比べて周囲のプレイヤーの様子は……。


「……は? 水流の操作って、あれだよな? 応用スキルのあれだよな?」

「え、もしかして操作系の応用スキルって派生方面から行けるの?」

「おい、誰か他にも試してみろ!?」

「Lv6になってる操作系スキルなんてまだねぇよ!?」

「誰でもいいから、再現できる奴を探せ! 誰かいないか!?」

「よっしゃ! 水の操作Lv5で行き詰まってて諦めかけてたけど、Lv6を目指す理由が出来た!」

「お、可能性ありそうな奴がいた!」

「よし、俺もやる!」

「紅焔もやるのかい?」

「すぐ上げて、検証頼む! Lv上げにも付き合うぞ」

「おう、頼む!」


 みんな驚いてはいるものの、すぐに再現をする為の行動を開始していた。この辺が灰の群集の強みなのかな? 誰かが見つけて、みんなで検証して、条件を確定して、そしてそれらをみんなで共有する。うん、これは良い傾向なんだろうね。


「とりあえず水を元に戻しとくか。解除っと」

「ケイ!? それは駄目かな!?」

「ぎゃー!? 逃げろー!」

「ケイさん! なんで上空で解除するの!?」

「おいおいおい!? なんでこうなる!?」

「やれやれ、ホント君達は見てて面白いねぇ」


 しまった、ついいつもの感覚でその場で解除してしまった。上空に浮かんだ渦巻く水球は俺の支配から解放され、水量の減った湖へと落下していく。そしてそれによって発生するのはそれほど大規模ではないけれど、津波である。


<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『小さな湖を荒らすモノ』を取得しました>

<増強進化ポイントを3獲得しました>

<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『小さな湖を荒らすモノ』を取得しました>

<増強進化ポイントを3獲得しました>


 あ、やっぱり荒らすモノの称号はあるんだ。小さな湖のって事は大きな湖の場合もあるんだろうか? ……予想してなかったから、称号と一緒にスキル狙いは無理だった。うーん、勿体無い……。あ、ロブスターは森を荒らすモノを持ってないから、そこが狙えるかもしれないね。……さて現実逃避はこれくらいにして……。


「何やってんだよ!?」

「津波が来るぞ、逃げろー!?」

「わ!? なんでこうなるのさ!?」

「あらら、飛べない人は大変だね」

「くそ、飛べる奴が羨ましい!?」

「木の上なら大丈夫だよな」


 そして慌てふためいて逃げている大勢のプレイヤーと、飛べたり木の上に登って退避しているプレイヤーに分かれていた。……まぁダメージもなくて、一番酷い人でも軽く流された程度で済んだけど、しばらく謝って回ることになってしまった。……ちなみに俺も少し流された。まぁ全然問題なかったけどね。

 いつもと違う事をした後に、いつもと同じ感覚で片付けると悲惨な事になるもんだね。……はい、迷惑掛けてごめんなさい! 

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