第205話 共生進化での纏属進化
不動桜の残滓を倒さなければミズキの森林に行けないという事なので、さっさと倒す為に不動桜の場所へとやってきた。群集拠点種同士だとボスを倒さなくても転移出来るのに、群集拠点種と群集支援種の間は無理ってことなんだよな。……群集拠点種は特別枠なんだろうな。
ここに以前来た時とは違って、周回PTと未討伐のプレイヤーが結構な人数が集まっていた。軽く見た感じでは他のエリアの人や2ndの人が多いみたいである。3組ほどPTでの討伐待ちになっているようで、その3組のPTが終わるのを待つことになった。ここが盛況なのは正直意外だね。
「意外にも盛況だな」
「進化の軌跡・樹の欠片が不動種の人に人気って話だって聞いたよ!」
「纏樹は性質がかなり特殊だからだね。僕もたまにここの周回には混ざってたりするよ」
「纏樹が特殊? まぁ俺も思いっきり姿が変わりまくってたけど」
「あれ? ケイさんは進化の輝石・樹を持ってるのに知らないのかい?」
「そういやケイさんってあんまり使ってないよね!?」
「あれって微妙にコケの時だと変わり過ぎて、使いどころに悩むんだよ……。共生進化の今ならどうなんだろうな?」
「折角だし使ってみたらどうかな?」
「……それもそうだな。順番が来たら使ってみるか」
コケの時だと性質が大きく変わり過ぎる上に、時間制限ありだからな。ホイホイと気軽に使えるものとは言えなかった。今のロブスターとの共生状態であれば、それなりに使いやすいかもしれない。
「それで特殊ってのはどんな風に?」
「纏樹は使う度にランダムで木の種類が変わるのさ。あまり動物系のプレイヤーには違いの差はないんだけどね」
「ほう? でも不動種に人気って事は、そこに意味があるのか」
「そう、ずばりその通りさ。不動種に限らず樹木系のプレイヤーが纏樹を使えば、枝の接ぎ木みたいになってだね」
「まぁ単純に言えば、果樹系でなくても果物の採集が可能になるって事らしいぜ。ランダムだけどな」
「あ、紅焔!? 僕のセリフを取るんじゃない!」
「たまには良いだろ。で、不動種としてはランダムでも品揃えが増える可能性があるから人気が高いって話だ。後は一時的に『根脚移動』で移動が可能になるのもデカいらしいぞ」
「紅焔!」
「うお!? そんなに怒る事か!?」
なるほどね。プレイヤー産の果物が回復アイテムの主流となってる今の状態だと、採集出来る果物が増えて品揃えが良くなる可能性のある纏樹は重要なんだな。なにも戦闘に使うだけが使用方法ではないという事なのだろう。それにしても紅焔さんとソラさんも仲が良いもんですな。
そんな感じで騒いでいる間にもう少しで順番が回ってきそうになってきた。まぁ不動桜は特に強いわけでもないので、すぐに終わって順番が回ってくるだろう。
「そんじゃ、ちょっと試して見るか」
<『進化の輝石・樹』を使用して、纏属進化を行います>
ロブスターとコケがまとめて緑と茶色の混ざったような光に包まれていく。纏属進化そのものはいつものように球体状に光が覆っていき、そしてそれが砕け散れば進化は完了だ。
<『水陸コケ:殴りロブスター』から『水陸コケ:殴りロブスター・纏樹』へと纏属進化しました>
<『根脚移動』『根の操作』『樹木魔法』が一時スキルとして付与されます>
あれ? 群体化とかが使用不可にはならないのか。……これは共生進化の状態に合わせて調整されているって感じだな。種族の表記も両方のキャラが出るんだね。
とりあえずどんな風に変わったのかコケに視点を移して、グルッとロブスターの様子を見回してみる。……ふむふむ、ロブスターの背中から青々とした葉が茂った枝が何本も生えている。
「おー! なんか不思議な感じだ!?」
「小さな森っぽい感じ?」
「ケイ、どんな感じかな?」
「……自分じゃよく分からん。誰かスクショ頼む!」
「任せてよ! はい、ケイさん!」
<スクリーンショットが共有化されました。表示しますか?> はい・いいえ
即座にスクショを撮ってくれたハーレさんが共有化を申請してくれたので、はいを選択しよう。どれどれ……? お、根は側面からは腹側にかけて巻き付くようになってるのか。そしてその表面を保護するようにコケが覆っている。……なんというかロブスターの背中に小さな森が作られているような感じだな。
この感じだと、腹側から根を伸ばして根の操作を使うっぽいな。根脚移動はおそらく不要で、一番の利点は樹木魔法か。巻きついて拘束が欲しい時にはこれが良いかもしれないけど……あまり出番はなさそうな気がする。
……いや、待てよ? この纏樹なら魔力集中が使えるから支配進化までの間に、コケ側で魔力集中とかその系統を発動させるには良いんじゃないか?
「おーい、そこのPT! そろそろ順番だから準備しとけ!」
「あ、はーい! ケイ、みんな、順番かな」
「よしやるぞー!」
「あ、ケイさん。俺とソラは見学な」
「なんでなのさ、紅焔?」
「未成体が戦えば瞬殺だろうが……」
「……それもそうだったね。うん、見てることにするよ」
既に未成体の紅焔さんとソラさんは待機という事になった。まぁ妥当なとこだろうね。さてと折角纏樹を使ってるんだから有効活用と行こうじゃないか! まずはまだコケ側では未取得の自己強化から行くか。既にコツは掴んでいるから楽勝だ!
<ケイが規定の条件を満たしたため、スキル『自己強化Lv1』を取得しました>
よし、あっさりと取得出来た。共生中でもコケの方では魔力集中は発動出来なかったから、纏樹中じゃないと取得出来ないし、使えなさそうだけどこれで充分!
<行動値上限を1使用と魔力値2消費して『自己強化Lv1』を発動します> 行動値 45/45 → 44/44(上限値使用:1): 魔力値 84/86 :効果時間 10分
さて、コケ側で自己強化を発動してみたけど共生進化相手のロブスターも含めて自己強化は発動したようだ。こういう仕様なら纏樹も今後は便利に使えるかもしれない。よし、操作属性付与の取得も行ってみよう!
<行動値1と魔力値4消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 43/44(上限値使用:1): 魔力値 80/86
<行動値を4消費して『土の操作Lv3』を発動します> 行動値 39/44(上限値使用:1)
生成した土を発動した土の操作で操って、ハサミに纏わせていく。……魔力集中ではなくて自己強化でやったけど、これでいけるかな? ロブスターの風の操作よりコケの土の操作の方がLvは上だから纏わせるの自体は簡単なんだけど。
<ケイが規定の条件を満たしたため、スキル『操作属性付与』を取得しました>
お、取得そのものには特に問題ないんだな。これでコケの方でも魔力集中、自己強化、操作属性付与の取得は出来た。この辺は一度コツを掴めば楽勝だな。さて、早速使ってみよう!
<行動値上限を1使用と魔力値2消費して『操作属性付与Lv1』を発動します> 行動値 39/44 → 39/43(上限値使用:2): 魔力値 78/86
よし、発動完了。……少し身体が重くなったような気がするのは気のせいか?
「わっ!? ケイさんがゴツくなった!?」
「……これは石の鎧かな?」
「防御力が上がってそう。ケイさん、何やったの?」
「ん? 纏樹の効果でコケの方から魔力集中が使えるから、自己強化とか操作属性付与も行けるんじゃないかと思ってやってみた」
「見た限りは成功かな?」
「またスクショ頼む!」
「分かったよー!」
<スクリーンショットが共有化されました。表示しますか?> はい・いいえ
またすぐにハーレさんがスクショを撮って、共有化してくれたのではいを選んで確認していく。基本的にはさっきまでと同じだけど、その隙間を埋めるように石がロブスターの表面を覆っていた。……なんというか石垣っぽい感じになっていた。
「おーい、順番だぞ! ……っていうか、さっきからすげぇ気になる事をやってんな?」
「……まぁいつもの事なので」
とりあえず順番が回ってきたので、戦闘開始である。……だけどかなり見学者が多く目立っていた。
「へぇ、ザリガニで纏樹ってあんな感じになるのか」
「纏樹だけじゃないよな? さっき操作属性付与も使ってなかったか?」
「え、マジ? 纏属進化と操作属性付与って重ねられるの?」
「樹と土っぽいな。属性次第か……?」
「色々と面白い事になってるな」
「……ケイさんって、コケの人じゃね?」
「あ、例のコケの人か!」
「未公開情報をまだ持ってるのか。どんだけ情報あるんだよ」
「いやいや、そこは文句言うとこじゃないでしょ。どれだけあの人の情報が役立ってる事か」
「あれって共生進化かな?」
「だろうね。名前が2nd表記じゃないけど、コケのみじゃないってことはザリガニの方が2ndって事だろうし」
そんな感じでワイワイと雑談が聞こえて来ている……。いや、うん、間違った事は何も言われてないけど、これは落ち着かない。
「さぁ、始まりました、コケの人ことケイさんによる実戦による実験! 今回は纏樹と操作属性付与と自己強化の合わせ技だー!」
「ハーレさん!?」
「あ、サヤ。退避しとこ?」
「あ、うん。そうだね、ヨッシ」
「サヤとヨッシさんまで!?」
「解説のソラさん! これをどう見ますか!?」
「え、解説は僕なのかい? まぁいいけどさ。そうだね、ここの重要な所は複数の属性を纏属進化と操作属性付与という2つの手段で同時に扱っているということになるだろうね」
突然脈絡もなく始まったハーレさんの実況と、それに乗っかったソラさん。そして巻き込まれないように見物人に紛れていったサヤとヨッシさんであった。紅焔さんは笑いを堪えつつ、見物人の中にいる。くそ、俺の味方はいないのか!?
そして誰も止めてくれる事はなく、見物人が増えていく中で不動桜を単独で倒す事になってしまった。どうにもハーレさんは実況欲が溜まっていたらしい……。というか、ハーレさんは昨日の競争クエストではあまり出番が無かったから、何か物足りなくなってたな!?
「あーもう! やってやるよ!」
「おーっと、コケの人ことケイさん! ここで走って距離を詰めていく!」
「……これは少し移動速度が落ちているようだね?」
「それはどういう事でしょうか!? 解説のソラさん!?」
「多分だけどね? 自己強化に土属性を付与すれば見たまま石の鎧で強化されるんだろうけど、移動速度に影響が出るんだろうね。まぁこの辺りは一長一短じゃないのかな?」
「解説ありがとうございます! メリットはあれど、それだけではないという事でしょう!」
いつかの進化の際のサヤの気持ちがよく分かった。物凄くやりにくい、この状況! それにしても生き生きしてるな、ハーレさんもソラさんも!? よし、サクッと倒してサッサと終わらせよう。
<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します> 行動値 36/43(上限値使用:2)
不動種の木は基本的に水分吸収を使ってくるのが当たり前。回復量を上回る攻撃を繰り出すか、回復を阻害するかが重要になってくる。
「おぉーと! ロブスターの背中を覆うコケがハサミを筆頭に、全身に広がっていくー!」
「へぇ、こういうのもあるのかい? あれは何をやってるのかな、ハーレさん?」
「えー、この辺りは情報が足らないようなので私、クラゲのハーレから補足させていただきます! 表面のコケを増やす事によって攻撃を滑らせる防御などが可能になるのです!」
「ほう、それは興味深い事だね。でも、狙いはそうではなさそうだよ」
こっちに集中。あっちはいないものと考えよう。とりあえず実験も兼ねて地面を跳ねて一気に不動桜の元へと距離を詰める。……水中ほど自由自在には跳ねられず、ちょっとジャンプした程度の感じになっていた。
まぁこの辺は陸地と水中の違いだから仕方ないけど、工夫の仕方によってはどうにか出来るかな? これは後で試してみよう。
「ここで一気に不動桜の懐へ飛び込んだー! しかし流石のケイさんも海中ほどの動きの精細さはなさそうだ!? そして不動桜も負けてはいない! 複数の根がケイさん狙って動き出すー!」
「お、上手く躱すものだね。……このコケの鎧はそれなりに攻撃を滑らせる効果もあると見た。これはLv差かな?」
「そうかもしれません! ケイさんのコケは成長体のLv上限ですからね!」
「お、次に動いたね。ハサミを幹に当ててどうするんだろうか?」
<行動値を10消費して『半自動制御Lv1:登録枠2』を発動します> 『水分吸収Lv3』『水分吸収Lv3』『水分吸収Lv3』『水分吸収Lv3』『水分吸収Lv3』 行動値 26/43(上限値使用:2)再使用時間 45秒
「おぉー!? これはどうした事だ、不動桜ー!? 急激に萎れていくー!?」
「……これはこれは。ケイさん、水分吸収を一気に使ったね」
「どういう事でしょうか!?」
「不動種の倒し方にはいくつかコツがあってね。1つ目は水分吸収による回復量を上回る攻撃を叩き込む事。2つ目は水分吸収を持ってるプレイヤーが相殺しながら他のプレイヤーが削ること。3つ目は過剰に水分吸収を行う事だね。過剰に水分吸収を行えばああいう風に一時的に萎れていくんだよ」
「そういう事でしたか! 解説ありがとうございます!」
「とは言っても、単独ではやりにくい筈なんだけどね。石の鎧と表面のコケで攻撃を受けにくくして、その上で本人も避けているからこそだろうね」
気にしないようにしてもどうしても聞こえてくるから落ち着かない。まぁ、実験と言われたからには使った事ないのを色々試してみるけどさ。……どうも、真面目に参考にしようとしているプレイヤーもそこそこいるっぽいしね。
<行動値1と魔力値5消費して『海水魔法Lv1:シーウォータークリエイト』を発動します> 行動値 25/43(上限値使用:2): 魔力値 73/86
「おぉーっと、ここで海水魔法の登場だー!」
「……へぇ、この攻略方法は初めて見るね。これが海エリアで手に入れた新スキルかい?」
「そういう事になりますね! さぁ、海水を浴びた不動桜はどうなるのかー!?」
「どうやら水分吸収を行っているようだけど、逆にHPが減っているね? ふむ、水分吸収で回復を誘発させる状態にして、あえて弱点となる海水を吸収させるのか。魔法産の海水では長くは保たないだろうけど、これはなかなかの一手だね」
魔法産の海水を吸収をしてくるかどうかは未知数だったけど、攻撃パターンとしては有効であるようだ。海水魔法は植物系の不動種の攻略には役立つのかもしれない。さてと、次は自己強化による追撃効果でも試してみよう。
「ケイさんの次の一手は、通常攻撃による連撃だー!」
「お、これは強烈だね。へぇ、自己強化への操作属性付与は通常攻撃に追撃効果が出るんだね。土は衝撃波かな?」
「連打、連打、連打ー! 不動桜はこの連撃には堪えられないー!」
「Lv差はあるとはいえ、お見事。不動種の特性を封じた上で、付与した属性を上手く利用していたね」
「勝者、ケイさん!」
<『進化の軌跡・樹の欠片』を1個獲得しました>
そのハーレさんの勝利宣言と共に、不動桜のHPは全て無くなりポリゴンとなって砕け散っていった。ふむ、自己強化に操作属性付与を合わせればスキルでなくても結構な威力はあるようだ。とは言ってもスキルを使う方が確実に威力が高いから、これはコケからの操作の時の補助用って感じかな。
とりあえず纏樹が必要になるから時間制限はあるけども、支配進化に辿り着くまでの間には有効そうな手段ではあるね。進化の軌跡でも付与スキルのLvや効果時間が違うだけで同じ事は出来るから、結構有用ではあるだろう。
そんなこんなで注目の的になりつつも、なんとか不動桜を撃破した。途中からどんどん人が増えてきて、終わった後には参考になったとか、面白かったとか色んな感想を貰ったけどちょっと精神的に疲れたよ。
「ケイ、お疲れ様かな」
「ケイさん、お疲れ」
「サヤ、ヨッシさん、逃げたよな?」
「……まぁ否定はしないかな」
「ああなったらハーレは止まらないしね」
「……確かに」
2人ともよく分かっているようだ。まぁ逃げたい気持ちは分かるし、多分標的がサヤやヨッシさんなら俺も同じ事をした気がするので追求しても仕方ないか。……どちらかといえば追求すべきはハーレさんの方である。
「あー楽しかった! ソラさん、ナイス解説!」
「いきなりびっくりしたけど、これはこれで楽しいものだね。たまにはこういう事も良いかもしれないと思ったよ」
「おーい、ハーレさん……?」
「はっ!? これは怒られそうな予感!? ソラさん助けて!?」
「分かってるなら、いきなり始めるな!」
「まぁまぁ、ケイさん落ち着いてはどうかな? いきなりは僕もどうかとは思うけど、内容自体は有意義な物だったからね」
「まぁ、それには俺も同意だな。ケイさん、実践を見せるってのは結構有効的だったみたいだぜ?」
「……まぁそれは分からなくはないけどな」
少なくとも面白がって見ていた人もいたが、参考にする為に見ていた人がいたのも確実だった。全体的な戦力の底上げをするのならば、定期的にこういうのをやるの自体はありかもしれない。……突発的には勘弁して欲しいけど、多分言っても聞かないんだろうな。
「はぁ……。もういいや、実況については諦めよ……」
「怒られると思ったらまさかの展開!? 許可が出たー!」
「……許可した気はないんだけど」
あれだけ楽しそうにしてたら、毒気が抜かれてしまった。最近まで空元気だったって聞いたのが頭にチラついてしまったというのもあるし、母さんからも頼まれてるしな……。
「……やっぱりケイってシスコン?」
「どうだろ? ハーレが甘え過ぎてる感じもあるし、これは微妙なとこじゃない?」
「サヤ、ヨッシさん、聞こえてるからな!?」
俺はシスコンじゃないからな! ちょっと妹に甘いんじゃないかと自分でも思わなくもないけども……。
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