第203話 知らない間の変化
空を飛びながら下を見下ろせば、目の前に広がるのは青々と広がる森林。ゲームを始めたばかりの頃にサヤに上空へと投げられた際に見た事はあるけども、それとはまた異なる趣きがある。
「おー、こりゃすげぇ!」
「あはは、これくらいなら容易いもんだよ」
「ケイさん、方向どっちだ?」
「もうちょい右……よし、そのまま真っ直ぐ!」
「こっちか。そんじゃ行くぜ、ソラ!」
「オーケー、紅焔!」
現在、森の上空を飛行中。ロブスターの右側のハサミを紅焔さん、左側のハサミをソラさんが掴んで運ばれている状態である。コケの方に視点を移して、後方を確認してみれば陥没した地形にある巨大な木のエンとその周囲の光る植物たち。エンが誕生してからそこそこ経つけど、上空から見たのは初めてだった。
「こりゃ壮観だな!」
「飛ぶってのも良いもんだろ?」
「まぁ紅焔は少し前までは今のケイさん状態だったんだけどね」
「もう自力で飛べるっての!」
仲良い事はいい事ですな。俺達にとってのいつもの崖の位置が分からないという事なので徒歩で案内しようとしたら、紅焔さんが飛んでいこうと提案してくれてこういう状況になった。その方が速そうだったし景色も良いという事だったけど、これは確かに良いものだ。
ただし、見える光景がいつもとまるで違うのでマップで位置の照らし合わせはきちんとしながらである。よし、そろそろ……っていうかもう到着か。未成体で飛べるとなれば速いもんだな。
「紅焔さん、ソラさん、そろそろ到着だ」
「お、この辺か」
「この辺って、あれの場所じゃないかい?」
「ソラさん、あれってなんだ?」
「えーと、ここにはだね……」
「見た方が早いだろ」
「ま、それもそうだね」
そう言って地面へと降りていく紅焔さんにソラさんが着いていく。まぁバラバラに動かれたら俺が悲惨な事に……あれ、同じ群集だとダメージないし、両側から引っ張られるとどうなるんだ? ……ちょっとこれはあまり試す気にはならないね。
そして、地面へと着地する。俺を落とす事なくキチンと降ろしてくれた。辺りを見回してみれば見慣れたいつもの崖とは……何かが違う? こっちは崖の上だよな? ……なんか木とか植物が減って地面が剥き出しになってる部分が増えてるような?
「ケイさん、この崖下を見てみ?」
「ん? そこっていつも俺達の集まってた場所なんだけど……ってなんじゃこりゃ!?」
崖から身を乗り出して、いつもの崖下だった場所を覗き込んでみればそこには大きな池があった。……あれー? 俺達、いつの間に完成させてたっけ? 海エリアに行ってる間は放置してたはずなんだけどな?
「あ! ケイさん来たよー!」
「ケイ、早く降りてきてね」
「ケイさん、こんにちは」
そしていつの間にか完成していた大きな池にプカプカ浮かんでいるクラゲのハーレさんと、石の上にいるウニのヨッシさんと、池の端に座っているクマのサヤが待っていた。……うん、思いっきり馴染んでるね。もしかして3人で作ったのか?
「ソラさん、あれの場所ってどういう意味?」
「あぁ、それかい? ここって何か掘り返された跡と、小さな岩風呂みたいなのがあって、誰かが『地形を弄るモノ』を取得してた場所じゃないかって少し話題になった事があってね。それでサファリ系プレイヤーがこの場所に相応しい池を作るぞって張り切った結果なんだけど……その反応からしてケイさん達がやってたみたいだね?」
「あーそういう理由……」
「まさかここがケイさん達の溜まり場だったとは……。ま、とりあえず降りようぜ」
「おうよ」
自力で降りられない訳ではないけど、紅焔さんが運んでくれるそうなのでお言葉に甘えて崖下まで連れて行ってもらった。……そうか、作りかけの掘った穴を放置していたら、サファリ系プレイヤーの人達が池に仕上げちゃったのか。
まぁ綺麗な池が出来上がってるし、場所の所有権の主張をする気もないから別に良いけどね。海エリアに行っててここは放置してたのも事実だし、文句を言えるような事でもない。
「ハーレ、今日の分は仕上げといたよー!」
「おー! いつもありがとね!」
「これくらいしかできないからねー! それじゃ泥落としてくる!」
「……ハーレさん、今のリスの人は?」
「フレンドのラックさんだよ! 海エリアでスクリーンショット撮ってくれた人!」
「へぇ、あの人がそうなのか」
何やら泥まみれのリスのプレイヤーはハーレさんのフレンドのようである。あの感じだと、サファリ系プレイヤーだな。……あ、俺が作った小さな池を見てみたらラックさんが、前にハーレさんがやってたように飛び込んでいった。
なんか他にもネズミとかイタチとかウサギとかの小動物系のプレイヤーが4人ほど風呂みたいに浸かってるのは気のせいか?
「ケイ、あそこは完全に水風呂になってるみたいかな? 汚れを落とすのに使われてるみたいだよ」
「あ、やっぱり見たまんまなんだ……」
「いいんじゃない? 見た目は岩風呂だしね」
うん、見た目が岩風呂だけど俺としては池のつもりが完全に小動物専用の風呂になってるね。……そして泥が落ちたところを見計らって、水面に浮かんでいたハーレさんが空中に浮いて移動を始めた。
「みんな、スクショ撮るよー!」
「おうよー!」
「後で撮ったの頂戴ね!」
「私も後で撮らせて」
「順番な、順番!」
どうやら皆さん、サファリ系プレイヤーのようである。まぁリアルじゃどう考えてもこの混在した小動物が風呂に入る光景なんて見れるはずが無い。……ところでなんで泥まみれ?
「なぁ、なんで泥まみれなんだ?」
「ケイさん、ここは投擲用の泥団子の生産地になってるらしいよ?」
「少し見ない間に随分変わったかな」
「変わり過ぎじゃねぇかな!?」
そうツッコミを入れたところで、別に悪い事をしている訳でも無いどころか、むしろ投擲用の弾を量産してくれているのなら感謝すべき事である。……あまりにも知らない間に変わり過ぎててびっくりしただけ。
あ、ラックさんが風呂から出てきて水気を飛ば……してないな。水の操作で水分だけ分離しているのか、濡れた毛から水分が集まって小さな水球が出来ていく。……そういう使い方もありなのか。でも視界から指定するのにどうやって? あ、実行してるのは他のプレイヤーっぽいね。
「ふーさっぱりした。どーも、初めましてだね。ケイさん」
「あ、どーも。ラックさんで良いのか?」
「うん、それでいいよ。いやー、お風呂は有効に使わせてもらってるよ! ケイさん、良いもの作るね!」
「あ、うん。まぁいいか」
「うん? 何か問題でもあったかな?」
「いや、別に気にしなくていいよ」
「そっか? まぁ色々と感謝させておくれ」
「……感謝?」
そう言われてもそれほど感謝されるような事をした覚えもないんだけどな? いつもの情報提供はこっちも色々教わってるからお互い様って感じだし、あの小さな池程度なら、大きな立派な池作り上げた人達でも充分作れる筈だ。
「あぁ、多分普通に遊んでるだけだからそういう自覚はないんだろうね。わたし達、サファリ系プレイヤーってのはどうにも強い人はあまり多くないからさ。クエストをクリアしていくプレイヤー達のおかげで活動範囲を広げていけてるんだ」
「あぁ、なるほど。そういう事か」
「そう、そういう事さ。わたし達は自力じゃ攻略に限度があるからね。ま、かといって任せっぱなしってつもりもないけどね」
「……というと?」
「簡単な話さ。ようやくこっちも下準備が出来てきたとこだし、クエストを進める上で必要な支援があったらいつでも言ってくださいな。可能な限り支援はするつもりさ!」
「おぉ、なるほどね。それは助かる」
掲示板でサファリ系プレイヤー関係のを見た事はあるけど、ゲーム内で本格的にこうやって支援表明されたのは初めてだな。下準備と言ってるし、サファリ系プレイヤー同士の連携した支援体制が整ったってところだろうか?
まぁ、全員が同じ楽しみ方をしなければならない訳じゃないこのゲームにはそういう楽しみ方もあるのだろう。それぞれがそれぞれの楽しみ方を見つければ良い。
「あぁ、それとは別なんだけどね。ここ、勝手に改造しまくってるけど、大丈夫?」
「別に俺達の専有場所って訳じゃないしな。そこは気にしなくていいぞ」
「そう? それならこのまま使わせてもらうね」
まぁ元々は動けないアルのゲーム開始地点だったからという理由でここに集まっていた。今は移動速度も相当上がってきたし、初期エリアの初期地点に拘る理由は……少しだけ名残惜しいというか寂しいか……。
いや、それでもこれからもどんどん鍛えていくのであればここでは手狭になる可能性もあるし、新規プレイヤーだっているんだ。いつまでも初期エリアの一角を占拠してても仕方ない。そろそろ特訓拠点は移動しろという事なのかもな。
「ケイ、この場所が無くなる訳じゃないからね」
「……そうだな。よし、今日は色んな場所に行って新しい特訓場所を探すか!」
「お! 良いね、それ! 私は賛成!」
「確かにそういう場所は欲しいよね」
「うん、私もそれに賛成かな」
「ケイさん。そういう話ならミズキの森林はどうだ?」
「あそこは熟練度上げにやってきてる人が結構いるからね。特訓には良い場所だと思うね」
「へぇ、そうなのか」
紅焔さんとソラさんがミズキの森林の現状を軽く教えてくれた。海エリアのナギの海原と同様に、森林深部ではミズキの森林が特訓場所に使われているらしい。広さは初期エリアの2倍はあるし、マップに他のプレイヤーの位置も表示される仕様だ。
サルの人も焚き火をしてたらしいし、確かに特訓には丁度いい場所なのかもしれない。
「それじゃミズキの森林に行ってみるか」
「あ、ついでに火の操作の取得試したい!」
「お、そういやそれがあったな。俺もちょっと試してみたいとこだ」
「ミズキの森林って一般生物のクマって居るかな?」
「あ、それなら僕が見かけた事あるよ。あんまり数はいなかったけどね」
「いるのが分かればそれで良いかな。うん、私も火の操作を狙ってみようかな」
みんなで火の操作狙いというのもいいだろう。操作属性付与の属性も増える訳だし、俺はいずれ進化予定の支配進化で有効活用もするつもりだ。Lv3まではどれも割とすぐに上がるので、主力の水を中心にいくつかの属性を予備選力として増やしておきたい。
「あー、サルの人の起こした火は昨日の夜中に雨が降って消えちまったぞ?」
「え、紅焔さん。それ、マジ?」
「えー!? 期待してたのに!?」
「……ねぇ、サルの人って水のレンズで火を着けたって話だったよね?」
「ヨッシ、その通りだよー!」
「ならケイさんの水の操作でそれは出来ない?」
「あーどうだろう? 水の操作のLvが高ければ可能かもとは言ってたけど、試してみないと何とも」
「それじゃ試してみよう! 駄目だったら駄目だった時さ!」
「そうだね。ケイ、そうしようよ?」
「……そうだな。そうするか」
よし、これで方針は決定。とりあえずミズキの森林へ言って、火を起こすのを試してみて、良さそうな場所を見繕って熟練度上げと行こう。他のエリア探索は夜にアルが合流してきてからだな。……アルがログインしたら特訓場所の移動の件は伝えておかないとね。
「お、ハーレ達はそろそろ出発かな?」
「うん、そろそろ行くねー!」
「なんか悪いね、場所を乗っ取ったみたいになってさ」
「まぁ多少の思い入れはあるけど、そろそろ拠点の位置を変えろって事なんだろうよ。……1つ頼み事してもいいか?」
「勿論さ。それがわたし達の役目と決めたからね。どんな事だい?」
「手が空いてる時でいいから困ってる感じの初心者プレイヤーがいたら色々と面倒みてやってくれ。情報周りの事は特にな」
「確かに情報共有は必須だし、それは必要な事だね。よし、それは請け負ったよ! 無理強いはしない程度に声はかけておくね」
「おう、それじゃ任せた!」
「それじゃ、みんなも頑張ってくれたまえ! 必要がある時は何時でも言っておくれよ!」
そうして特訓拠点を新たに探す為に、ミズキの森林へと行く事になった。色々と変化もあったけども、これも悪いことばかりではない筈だ。さぁ気分を切り替えて、目指せミズキの森林!
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