第197話 クエスト最後の防衛戦


 とりあえず俺達は元々海のプレイヤーではないので、慣れている海のプレイヤー陣が前衛となり、俺達は後方から魔法での攻撃支援ということになった。


「青の群集を近付けさせるな! クジラは一斉に海流の操作を使って押し戻せ!」

「「「「「『海流の操作』!」」」」」

「魔法Lv3まで行ってるやつはプリズン系で進路を塞げ!」

「おうよ! 『シーウォータープリズン』!」

「おっしゃ! 『ポイズンプリズン』!」

「『共生指示:登録3』! ちっ、抜けてきたか。『コイルルート』!」

「攻撃の手も緩めないでね! 『アースバレット』!」


<行動値3と魔力値9消費して『水魔法Lv3:アクアプリズン』を発動します> 行動値 41/44(上限値使用:1): 魔力値 77/86


 押し寄せて来る青の群集の大群に向けて押し戻すように海流を作り出し、それを掻い潜ってくるプレイヤーには魔法Lv3で移動の妨害をしていく。俺も混ざって水魔法で妨害をしている。水の操作がLv6になった時に行動値の消費が4から3に減ったから、水魔法の消費魔力値も減っているので地味にありがたい!

 そしてザックさんも毒魔法を放ち、アルも共生指示から海流の操作を発動しつつ、樹木魔法で妨害を加えていた。他の人達もそれぞれの魔法で攻撃と妨害をしていき、味方群集の魔法が重なれば複合魔法となり、戦闘の様子がどんどんと激しくなっていく。


「ふっ飛ばされたヤツは構うな! とにかく灰の群集を攻め落とせ!」

「斬雨もジェイもなんで来ない!? 1度負けただけだろう!?」

「分かんねぇよ! いないもんは仕方ないんだ!」

「ともかく、ここで浄化の要所を奪取出来なきゃ勝ち目はないんだ。ともかく攻めろ!」

「……それにあいつも動いている。あいつなら!」


 青の群集も負けず劣らずの攻勢を続けてくる。こちらの海流の操作に海流の操作をぶつけて相殺し、魔法には魔法そのものや、魔力集中と思われる攻撃で打ち消しながら、果敢に攻め込んできていた。やるじゃねぇか、青の群集。

 今までのこのゲームで1番の大人数での戦闘かもしれない。とんでもない数のプレイヤーによる乱戦である。お互いにどれくらいいるんだろう? プレイヤーの大きさにバラつきがあり過ぎて分からないから、数えるだけ無駄かな。……まぁ大人数なのは確かだし、これだけ海流の操作がぶつかり合ってたら地形も無茶苦茶になるわ。



「……ねぇ、ケイ?」

「どうした、サヤ?」

「……ちょっと何かが凄い勢いで通り過ぎた様に見えたんだけど、獲物察知を使って確認して貰っていい? 小さかったから、土魔法の流れ弾の可能性もあるんだけど……」

「……よし、それは確認しておいた方が良さそうだな」


 突然と言えば突然だけど、青の群集からもちょっと気になる言葉が僅かに聞こえてきていたし、念には念を入れたほうが良いだろう。『あいつ』ってのが気になるし、この乱戦なら伏兵を仕込む可能性は充分にある。

 もし伏兵なら即座に手を打たないと手遅れになっても困る。……獲物察知の登録のし直ししておいて良かったかも。


<行動値を1消費して『共生指示』を発動します>  行動値 40/44(上限値使用:1)

<『共生指示』にて『半自動制御Lv1:登録枠3』を発動します>『獲物察知Lv3』 再使用時間 6秒


 青いカーソルが前面に大量に見えるのは分かりきっている事なのでスルーとして、黒いカーソルも緑のカーソルもほぼ存在していないって事はこの乱戦で死滅したか。……ん? 妙に近いところに青いカーソルがある……? あっ、あの乱戦を掻い潜って突入してきている奴がいるな!? やっぱり伏兵か!


「サヤ、ナイス! こっち側に潜り込んで来てるやつがいる!」

「ケイ、どっちだ!?」

「もう通り過ぎてる! 右後ろの方向だ!」

「……見つけた。エビっぽい? イッシー、行こう」

「……そうだな。任せてばかりではいられんか。『自己強化』『猪突猛進』」

「『自己強化』『高速飛翔』」

「あっ!? イッシーさん、翡翠さん!?」

「心配すんな。あの2人はもう未成体だ」


 攻撃の為に海水の防壁を作っていなかったので、アルから飛び降りた翡翠さんとイッシーさんの邪魔になる事はなく、2人は猛烈な勢いで俺の言った方向へ吹っ飛んでいった。

 くそ、潜り込んで来た青の群集のプレイヤーは効果範囲外に行ったのか、獲物察知では位置が分からない。あ、そうだ!


<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します>  行動値 37/44(上限値使用:1)


 海水の中だから、支配できる淡水は存在しない。まぁ目的は別なので問題ないけど。支配の範囲指定の段階で視覚延長Ⅰで倍率を今の最大の6倍まで引き上げる。目印になるのはイッシーさんの猪突猛進だな。……よし、見つけた!

 比較的近くにソウさんがいるので、報告してから追いかけないと! 手遅れになったらマズい!


「ソウさん、こっち側に潜り込んでる奴がいる! これから追いかけるけど、大丈夫か!?」

「……なんだと!? どんな特徴だ!?」

「数は1人で、見た目はエビっぽいけど何か違う感じだな」

「エビっぽいプレイヤーで単独だと……!? このタイミングでそんな事をするのはシャコのヤツか! そいつの狙いは群集支援種だ!」


 ……シャコ? エビにしてはちょっと見た目が違うので、そう言われればそのような気もする。狙いはそりゃ群集支援種だよな。


「あ、群集支援種をランダムリスポーンさせる気なのかな!?」

「そういう事だ。特にそいつは、攻撃特化型のシャコの未成体だ。タチウオと同格の厄介なプレイヤーだぞ……。かといって、ここも手薄には出来ん……。サヤさん、また未成体相手に翻弄できるか……?」

「……やってみるけど、相手次第だから確実とは言えないかな。でも翡翠さんとイッシーさんが向かってるよ」

「あの2人は確か未成体だったな。……それなら何とかなるか? よし、そっちはケイさん達のPTに任せたぞ!」

「ふっ、俺の事を忘れてもらっちゃ困るな!」

「……ザック、そういうのは良いですから行きますよ。アルマースさん、お願いします」

「『共生指示:登録枠2』! そんじゃ行くぜ!」


 アルは即座に共生指示で海水の操作を呼び出して海水の防壁を生成する。そして即座に群集支援種のマークの所へと向かっていく事になった。



 そうして青の群集のシャコを追いかけて、群集支援種マークの所まで戻ってくるとほぼプレイヤーの姿が無かった。それほど多い人数がすぐ近くにいた訳じゃないけど、この短時間にもう殆ど倒されたのか!? とはいえ、シャコの人のHPも半分以下に減ってはいるのでただ何も出来ずに倒されたという訳でもなさそうだ。


「くっそ、なんだよこいつ!?」

「『シャコパンチ』!」

「ぐはっ!」

「……それ以上はさせない! 『ポイズンプリズン』!」

「ふんっ! 『魔力集中』『シャコパンチ』!」

「……させるものか。『硬化』!」

「ほう。これを耐えるか。イノシシ」

「……イッシー、大丈夫?」

「……問題ない」


 今は翡翠さんとイッシーさんが何とか食い止めているという感じだが、結構なダメージを受けている。……このシャコの人、相当強いぞ。そもそも攻撃が殆ど見えない。……いや、僅かに予備動作で溜めがある感じか? シャコといえば強烈なパンチだよな……?

 翡翠さんもイッシーさんも攻撃向けで防御には向いてない感じだし、これはかなり相性も悪そうだ。


「まぁいい。まずは厄介な毒から潰させてもらおう」

「サヤ、投げて! 『魔力集中』!」

「え、うん! 『投擲』!」

「くたばれ。『シャコパンチ』!」

「『棘防御』!」

「…………え、ヨッシ……?」

「なんだ、ただの雑魚のウニか。邪魔だ」


 翡翠さんを庇ったヨッシさんは、シャコの強烈な1撃を受けてHPが全て無くなりポリゴンとなって砕け散っていった。……成長体で未成体の強烈な1撃を耐えるのは無理なのか。


「……よくもヨッシを! 許さない!」

「翡翠さん、落ち着いて下さい」

「タケ!? でも、あいつはヨッシを!」


 目の前で懐いていたヨッシさんが倒されて、雑魚扱いされた事で怒っているのだろう。……正直俺も結構苛立っている。そういうクエストだから仕方ないとはいえ、仲間が負けて雑魚扱いされるのは良い気分ではない。


「次から次へと……。他の連中は何をやっている? まぁいい、順番に倒すだけだ」

「お前は私が倒してやる!」

「ふん、どうとでも言っていろ」

「……流石に聞き捨てならないかな。『共生指示:登録枠3』!」

「うん、そうだね! 『巻きつき』!」

「ふん、成長体如きに何が出来る?」


 サヤとハーレさんがそれぞれ巻きつきで、シャコの人のハサミを縛り付けてはいるがそう長くは持ちそうにない。そして拘束したまま2人は振り回されて吹き飛ばされていった。……やっぱり未成体と成長体では地力の差があり過ぎるのか? 


「……やれやれ、仕方ありませんね。『麻痺胞子』!」

「ちっ、麻痺系のスキルか。だが、少し動きが鈍った程度で!」

「いえいえ、少しの隙は命取りですよ? 翡翠さん、イッシーさん、それでは全力でどうぞ」

「そう簡単に行くとでも? とはいえ、未成体相手だと威力不足か。ならば『シャコ重撃』!」

「ヨッシさんの為にここまで怒ってくれてる人の邪魔なんかさせるかよ!」


 タチウオの人の様にシャコの人の……シャコってハサミでいいのか? ……それはどうでもいい。ハサミが銀色に光って、溜めが始まっていく。未成体の攻撃的なスキルには溜め攻撃があるっぽいな。だが、溜めに入る前に麻痺の影響を受けたのか少し動きが鈍かった。タケさんの攻撃のおかげで初動を捉えられたのは大きいぞ!

 即座に跳ねて行き、シャコの人と翡翠さんとイッシーさんの間に割り込む。ヨッシさんが倒されてしまったのはそういうゲームであり、クエストだから仕方ない。だけどそこで、はいそうですかとすぐに割り切れるもんじゃないんだよ! まだクエストも終わってないしな!


<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します>  行動値 34/44(上限値使用:1)

<行動値を2消費して『スリップLv2』を発動します>  行動値 32/44(上限値使用:1)


 全身の表面をコケで覆い、シャコのハサミの重い攻撃を右のハサミの表面のコケからスリップを使い受け流す。……まぁ多少は滑らせたけど、勢いを逸しきれておらず右側のハサミが千切れ飛んだ上にHPもごっそりと削られたが、大きな隙を作るという目的自体は果たした。今回の俺の役目はここまでだ。

 即座に邪魔にならないように跳ねて退避する。我慢しきれないのはみんな同じみたいだしな。


「何だと!? それはジェイの!?」

「生憎だけどな、あいつの専売特許じゃないんだよ! みんな、やれ!」

「アルさん、合わせてくれ! 『コイルルート』!」

「おう! 『アクアクリエイト』!」

「次から次へと!」


 アルとザックさんにより複合魔法『ルートレストレイント』が発動し、アルのクジラの背中からザックさんの根が伸びていき、シャコの人の身動きを完全に封じる。ザックさんが未成体なので、この複合魔法は簡単には抜け出せないはずだ。


「イッシーさん、翡翠さん、任せた!」

「……そうさせてもらおう。『重突撃』!」

「ヨッシの仇! 『巨大化』『串刺し』!」

「くそっ! あいつらが負けて、今回はもう勝てないって言った理由はこういう事か!」


 イッシーさんも銀色に光った後に発動した強烈な体当たりと、10倍ぐらいの大きさに巨大化した翡翠さんのハチの針がシャコの人を貫いている。もうシャコの人のHPは残っておらず、ポリゴンとなって砕け散っていった。……これで撃破完了である。

 残りHPは半分を切っていたとはいえ、あっけなさ過ぎないか……? いや、もしかしたら攻撃に特化し過ぎてHPや防御が低いのかもしれない。


「……ヨッシ、仇は取ったよ」

「えーと、気持ちは嬉しいけどね……。翡翠さん、これゲームだからね?」 

「え、ヨッシ!?」


 そこにはケロッとした様子でウニのヨッシさんが戻ってきていた。まぁゲームだしね。他のシャコに殺られたプレイヤーも続々と戻ってきているようだ。


「ヨッシ! 往路の実で戻ってきたのかな?」

「うん、そんなとこ」

「ヨッシ、ちゃんと倒したよー!」

「うん、途中から見てた」

「え、見てたの!?」

「私は気付いてましたけど、あの状況では言い出すのは無理ですよね」

「あはは、流石にね?」


 なるほど、タケさんはヨッシさんが戻ってきていた事に気付いていたのか。とにかくこれで厄介な潜入者は撃破した。すぐに防衛の方に戻らないと!

 急いで戻ろうと向きを変えればそこにはソウさんやシアンさんやセリアさんなど、こちらへ向かってきている海のプレイヤー達の姿があった。え、なんでみんな戻ってきてるの……? あれ、もしかして…?


「あ、そっちも片付いたんだね!」

「……もしかして防衛戦も終わった……?」

「おう、終わったぞ」


 シアンさんとソウさんが俺たちの方へとやってきて、そう告げる。灰の群集の味方の数も激減しているが、青の群集の姿はどこにも見えない。……どうやら倒し尽くしたようである。思った以上に早かったな!?

 そして乱戦で負けたと思わしき人達も次々と転移して戻ってきていた。もう終盤なんだし、そりゃ戻ってくるか。


「向こうの最大戦力のタチウオとカニのコンビと、シャコが居なかったからね。後の地力はこっちの方が上なんだよね」

「そういうこった。後はボスの討伐が終わるのを待つだけだな」


 危険なところはあったものの、何とか青の群集の襲撃は乗り切ったようである。あとはキメラダコの討伐と大量の浄化の欠片の回収を待つばかり。


「みんなー! キメラダコの討伐も終わったってさー! 浄化の欠片が届けばクエストクリアだよ!」


 そして最後の朗報を聞き、後はクエスト完了を待つだけである。あー、タチウオの人とかカニの人とかシャコの人とか強かった! 青の群集、恐るべき強化具合だな。でもこれでこの競争クエストは勝ったぞ!

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