第196話 海の競争クエストの群集支援種


「ケイさん結構HP減ってるよー! はい、これ蜜柑!」

「お、ハーレさん、サンキュー!」


 コケにはHPがなかったから、HP管理がちょっと雑過ぎたな。自然回復で40%くらいまでは回復していたけど、今のうちに蜜柑を食べて全快させていこう。お、結構美味いね、この蜜柑。ロブスターでも蜜柑で回復可能なんだ。

 一応インベントリから取り出したアジっぽい魚も食ってみよう。……回復量は固定値で回復量も少ないけど、味はアジの刺し身だな。これはこれで美味いけど、蜜柑と一緒に食うには合わないね。回復量的にここは蜜柑一択だな。


 このマップに来てからまともに周辺を見る機会が無かったので、蜜柑を食べながら改めて周辺を見回してみれば、基本的には平坦な砂地になっているようである。場所によって大きな岩場もあったりして……なんというか生物感があまりしない?

 擬態が多いとは聞いていたから、岩や海藻や砂地に擬態しているんだろうと思っていたけど、砂地と岩はあっても海藻が全然ないのはなんでだろう?


「……なんか想像してたのと違うな」

「ケイもそう思うか。だけどな、ここには初めはもっと大量に海藻があったそうだぞ」

「え、これで!? どこにあったんだ?」

「看破の情報が出るまで擬態の見破り方が分からなくて、どっちの群集も海流の操作を使いまくってたんだって聞いたよ!」

「それで被害が出過ぎてこうなったって。あとケイさん達が倒したタチウオの人が斬り倒しまくったとも言ってたね」

「……マジか」


 アルたちも同じような事を思っていて、先に参戦中の人に事情を聞いていたようである。……乾いた笑い声を上げながら、事情を説明してくれたとの事。色々と大惨事だったようで、目撃していた人も実行した人も、みんな情報共有板にもこの情報は書き込みたくなかったとも言っていたらしい。


 進化の進んだ段階での競争クエストで情報的に行き詰まりが発生すればこういう事になるのか……。まぁ擬態していて敵がいる事自体はわかっているのに見つけられないなら、手段としては広範囲無差別攻撃しかないのか。

 あれ、そうなると多分『無自覚な討伐』も手に入って『暴発』も手に入る? もしかしてこっちの競争クエストをやってからだと自然と情報が手に入るようになってたのか。……ふむ、他のエリアでの情報もヒントになっている事もありそうだ。


 まぁ過ぎた事をあれこれ考えてても仕方ないか。とりあえずここの群集支援種と話して『競争クエスト情報板』を使える様にしておこう。という事で話しかけてみる。……ここの群集支援種はコンブの移動種みたいだね。


『新しい増援の者か!? よく来てくれた! 私は群集支援種のマークという!』

『………………』

『いや、君も自己紹介したまえよ!?』

『……リックだ。……もういいだろ』

『見苦しいところを失礼した。彼は先程まで黒の暴走種となっていたリックと言ってな? まぁ私共々よろしく頼む!』

「あ、よろしく?」


 なんだろう、このNPCコンビ。コンブのやる気一杯になっているマークと、まるでやる気のないヤドカリのリックか。まぁ、この際それは別に良いか。多分ここは何度も来るような事もないだろうし。


『うむ! それでは私の方で君達にもこの地での情報共有がスムーズになるように手を貸そうではないか!』


<現在地のエリア内限定で『競争クエスト情報板』が開放されました。ぜひご活用ください>


『そしてこれも持っていくが良い!』


<『復路の実:群集拠点種ヨシミ・灰の群集エリア5(限定)』を獲得しました>

<『復路の実』を使用する事で任意に群集拠点種への帰還が可能になります>

 

 アルとハーレさんとヨッシさんは先に貰っていたようで、俺とサヤだけが復路の実を貰っていく。……なんか使わないまま終わりそうな気もするけど、貰えるものは貰っておこう。……もし倒されてヨシミのとこまで戻ったら、そこで往路の実を貰ってくればいいか。


 とりあえずマークから貰うものは貰ったので、一応シアンさん達に色々と話を聞いていこう。これからどう動けば良いのかは先にやってる人達に聞くのが1番だしね。


「ここのNPCは随分と個性的だな?」

「リックの方は半覚醒の時から無口でね? 群集支援種を連れて行くまでまともに情報を得られなかったんだよ」

「群集支援種の接触がなけりゃ、半覚醒になってもそもそも会話すら成立しないんかい!?」

「いやー、何度暴発で倒そうかと検討したことか!」

「……まぁな。だが露骨に違い過ぎるからこそ、クエストの種類が別物だって推測出来たってのが皮肉なもんだがな」


 ソウさんとシアンさんがクエスト進行上でのマークとリックの状況を教えてくれる。……そうか、リックは他の群集を連れてこいとかいう以前の問題だったんだな。という事は、青の群集の方も似たような感じの半覚醒だったりするんだろうね。


 そうしているうちに、何かに集中していたセリアさんが急に動き出した。……あ、もしかして何か新情報が入ったのか?


「ソウ、シアン、他のみんなも聞いて!」

「お、セリアどうした?」

「キメラダコの位置情報が確定! 潜んでる場所を見つけたってさ!」

「場所はどこ!?」

「マップの東端に小さな洞窟があって、その中だって!」

「よし、見つけたPTに良くやったと言っといてくれ! あと、近くでボス討伐を希望する奴は先に行ってろともな!」

「オッケー! 海流の操作の使用は?」

「もう終盤だし、無制限でいい! ある程度の戦力が揃い次第、ボス討伐班とこの浄化の要所の防衛班に分かれて一気に終わらすぞ!」

「遠くの人はこっちの防衛に回ってもらうように言っとくよー!」

「あぁ、それでいい。集まった後に必要なら増援を出す!」

「はーい、そう伝えておくね!」


 やっぱり新情報のようだ。ここの競争クエストに参加してまだ青の群集と2戦やっただけなのに、もうクエストの終盤か。……まぁ、そもそも参加が遅かったんだから仕方ないね。

 それにしても海での指揮役はソウさんかセリアさんって感じである。他にもいるのかもしれないけど、とりあえず知り合いの中ではその2人か。


「俺らはどうする?」

「俺はどっちでもいいぜ。今回は重要な役割で動かなきゃいけない訳じゃなさそうだしな」

「はい! 特殊演出を始めからじっくり見たいから、防衛班希望です!」

「あはは、ハーレは相変わらずだね。スクリーンショットが解禁されたから撮りまくるつもりでしょ?」

「勿論だよ! 撮って撮って撮りまくるぞー!」

「ハーレがそういう希望なら防衛で良いんじゃないかな?」

「それじゃそうするか! ところでここの浄化の要所ってどれ? 瘴気を纏った石だよな?」

「あ、それならあっちだよー!」

「あっちか」


 ハーレさんが触手で指し示した先にある砂地の真ん中に鎮座する石があった。その表面を見てみれば、禍々しいオーラのようなものが纏わりついている。後はキメラダコとやらを倒して来た人達が、浄化の欠片を必要数持ってくればクエストクリアか。

 どうも今回のクエストはする事が少なくてちょっと物足りない。やっぱりクエストは初めの方から参加すべきだな。


「そういや、ケイ、サヤ。持ってる浄化の欠片を渡しとけよ?」

「あ、そういえば渡すのを忘れてたかな!?」

「そういや持ってたんだった」


 タチウオの人の襲撃ですっかり忘れてたよ。とりあえず持ってた浄化の欠片が10個程あったので、群集支援種のマークに渡しておく。浄化の欠片の必要数は1000個で、今は536個という事である。擬態の黒の暴走種に盗まれまくっていて、結構な量が行方不明になっているらしいからボスが隠し持っているのはほぼ確実だろう。


 クエストの終わりが近づいて来ているのを感じてみんながざわついている中で、それを壊す声が響き渡る。


「みんな、報告が2つあるから聞いて!」

「……セリア、どうした?」

「まずは良い情報の方から。キメラダコとの戦闘は開始して、現在かなり優勢。ついでにその奥で大量の浄化の欠片を確認して、回収中だって!」

「よし、やっぱりか!」


 その予想通りと言えば予想通りの報告にみんなが歓声を上げていく。クリア条件を満たす直前なのだからその気持ちは分からなくもない。


「……まだ喜ぶのは早いよ。悪い情報は、青の群集の大群が迫ってきてるって! 偵察に出てたPTが複数全滅!」

「やっぱり来たか! 迎撃するぞ!」

「うおー! やったるぜ!」

「ここまで来て負けてられるか!」

「海流の操作で巻き込んでも構わん! とにかく青の群集を倒せ!」

「攻撃に巻き込まれても文句は言わないようにね! そんなの気にしてたら相手に一方的に使われるだけだから!」


 元々この襲撃の可能性は考えていたのだろう。みんながそれぞれのPTで集まって、迎撃準備を整えていく。……こう見てみると結構な数のクジラが増えているのがよく分かる。そして、2ndも共生進化っぽい人もそこそこいるね。単純に未成体に進化する人もいれば、複合進化目指している人もいるし、両方を単純に個別に育てていたりもするようだ。こういう所でそれぞれの個性が出てきているらしい。

 今はそんな分析をしている場合でもないか。俺達も迎撃準備をしないとね。


「私もクジラに切り替えてくるから、ソウお願いね」

「おうよ。PTはクジラを中心に編成しろ! 小型の連中は空いてるクジラに乗せて貰え!」


「アル、俺は今のうちにコケに切り替えてくるよ」

「おう、分かった」



 ◇ ◇ ◇



 そしてコケに切り替えて再度ログインしてみれば、夜目がない状態でも視認出来そうな距離に魚影が見えてきていた。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 45/45 → 44/44(上限値使用:1)


 さてとロブスター側もHPは全快しているし、これで俺の戦闘準備は完了である。さぁ、海エリアでの競争クエストの最終防衛戦と行こうじゃないか! 目標は青の群集からの浄化の要所の防衛だ!


「やるぞ、みんな!」

「「「「おー」」」」


「俺達も便乗させてくれ!」

「申し訳ありませんが、お願いできますでしょうか?」

「……頼む」

「……ヨッシと一緒に戦う!」

「アル、良いか?」

「勿論だ!」

「おう、ありがとよ!」


 ザックさんPTも一緒に乗っていくことになった。改めて見てみればザックさん達はみんな未成体に進化しているっぽいね。劇的な見た目の変化があるのはタケさんが毒々しい色合いになってる事くらいだろうか。ザックさんとイッシーさんは一回り大きくなって、翡翠さんが薄っすらと緑色を帯びていた。

 そうしている内にアルの背中にみんなが乗り終わった。クジラ、ロブスター、クラゲ、ウニ、クマが俺達のPT、そしてトリカブト、キノコ、イノシシ、ハチがザックさんのPTである。総勢9人で突撃だ!

 

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