第195話 青の群集の襲撃者 後編


 迫りくる巨大なタチウオの人の凶刃に、避ける事しか出来ない……とは限らない! よし、岩もまだある! 海エリアは探せばすぐに使えそうな岩がそこらに普通にあるのがありがたい! ……森林とか森林深部だと土に埋まってるのも多いしな。


「シアンさん、海流の操作!」

「え、あ、うん! 『海流の操作』!」


<行動値を1消費して『共生指示』を発動します>  行動値 3/20(上限値使用:3)

<『共生指示』にて『半自動制御Lv1:登録枠1』を発動します>『岩の操作Lv3』 再使用時間 38秒


 シアンさんの作り出した海流へ即座に岩を放り込み、海流に乗せるように一気に加速させる。そして、タチウオの人と海流と海流によって加速した岩が衝突する。海流も打ち消され、岩も跡形もなくなってはいたけども、タチウオの人の攻撃は完全に相殺できた。……あれでようやく相殺とかとんでもない威力だな。

 海流に放り込んで流れに乗せた時点で岩の操作を切ったので、威力の判定としては多分未成体のシアンさんの判定になってるはずだ。応用スキルを使って相殺がやっとということは、あれももしかして応用スキル……? その可能性は十分あるよな。操作系スキルのみが応用スキルとは限らないし。


「ちっ! なんだ今のは!?」

「断刀が相殺されたのですか……? 少し前にあった灰の群集の妙なクジラのPTにうちのPTが壊滅させられたというのは、あなたの仕業ですか!?」

「……さてね? 敵に教えることはないもんだろ?」


 このエリアに来た時に襲いかかってきた連中の事だろうな。まぁ今は敵でしかない青の群集にそれを教える理由もない。

 さっきの攻撃は俺にとってのとっておきの手段ではあるんだ。それを見せてやっただけでも良かったと思ってくれ。……それにしても、もう行動値が心許ないな。


「……ケイさん達、強いなぁ。俺達も負けてられないんじゃない?」

「そうだな。海エリアの意地を見せてやろうじゃねぇか」


 負けてられないとばかりにシアンさんとソウさんが俺たちの前へと出ていく。マグロとクジラの巨体が前に来ると迫力が凄いな。クマであるサヤはまだそうでもないけど、ロブスターの俺なんかはこの大きさの差には隠れてしまう。


「ちっ! ジェイ、しばらく断刀は使えんぞ。どうする?」

「……中々に厄介な相手ですね。どうやらあのロブスターの方は私の共生相手を見抜いているようですし……。あのロブスターの表面は、まさか……?」

「……そっちの相手も厄介だって事か」

「少し策を考えます。斬雨は牽制を」

「……性に合わないが仕方ねぇな」


 その言葉と共に大型化したままのタチウオの人が、再び臨戦態勢に移行する。互いに睨み合い、次の一手を出しかねて、少しの膠着状態が生まれた。……互いに行動値を使い過ぎているというのもあるだろうし、ここまでの攻防で互いに決定的な攻撃には至っていない。でもこの膠着状態は行動値を回復するのにはありがたい。相手も回復するというのは難点だけど……。


「ソウ、輝石のあれで行こう」

「……なるほど、あれか。ならシアンに対処は任せるぞ?」

「そのつもり。思いっきりぶっ放してね!」


 その言葉の後にソウさんがシアンさんの前に出ていき、タチウオの人と対峙していく。シアンさんが何やら作戦を思いついたようではあるけども、具体的な内容がわからない。


「……シアンさん、何するんだ?」

「ハーレさんとヨッシさんのおかげでソウが手に入れた物をね?」

「……なるほど、あれか」

「そっか。なら、シアンさんの影に隠れれば良いかな?」

「2人はそのままでいいよ。下手に動くと狙いが悟られるし」

「……そうだな。わかった」

「ケイさんは隙が出来た時にカニの人を一気に引き剥がして、サヤさんはさっきまでと同じでお願い」

「うん、分かったよ」

「よし、次は簡単には合流出来ないようにしてやるさ……。って事で、アル聞こえてるか?」

「聞こえてるぞ。俺に声をかけてきたって事は、こっちに誘導するんだな?」

「そういう事だ。……多分相手のカニの共生進化はコケなんだよ」

「……なるほど、コケを倒す役目はこっち側か。それならちょうど適任者がいるぜ」

「お、マジか!」

「すまん、ケイさん。そろそろ動くぜ」

「それじゃアル、準備は任せたぞ」

「おう、任せとけ」

「シアンさん、合図したら俺に向けて海流の操作をやってくれ」

「……いいんだね、ケイさん?」

「おう。次こそぶっ倒してやる」


 もし聞かれていたとしても俺らにしか分からない範囲の言葉で小声の作戦会議も終了。コケを倒す為の決め手が今の俺では足りないから、他のプレイヤーに任せるしかない。……相手は相手で何かを狙っているようではあるけども、そうはさせない。


 そうしているうちに行動値は全快とまではいかないが8割ほどは回復している。……相手も時間稼ぎが狙いだろうから、カニの人の防御も元に戻ったと考えた方が良いだろう。


<『魔力集中Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 17/20 → 17/21(上限値使用:2)

<『操作属性付与Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 17/21 → 17/22(上限値使用:1)


 魔力集中も時間切れって事は既に10分経ったのか。思ったより体感的に早かったな。……となればここは自己強化を取るべきか。……タチウオの人はまだ魔力集中が切れた様子はない。こんなところでスキルLvの差が出てしまったようである。


「そんじゃ、行くぜ! 『自己強化』『弾丸突撃』!」

「……もう少し回復まで粘りたかったんですがね。斬雨、迎撃を!」

「ちっ、何を企んでやがる!? 『返しの太刀』!」


 名前的には『返しの太刀』とやらがカウンター技なのだろう。身構えた状態で、タチウオの人が静止する。そして自己強化をしたソウさんがタチウオの人の切っ先に向けて盛大に突っ込んでいく。捻りも何もないただの自己強化しただけの突撃である。


「ただ真正面から突っ込んでくるだけかよ! マグロの三枚おろしにしてやる!」

「っ!? 斬雨、これは罠です!」

「何!?」

「もう遅い! 『閃光』!」

「『旋回』! ケイさん、今のうちに!」

「くっ! 目潰しですか!?」

「逃がすか! 『乱斬り』!」

「行かせないって! 『治癒活性』!」


 ソウさんの突撃をヒラリと躱すようにタチウオの人がその身を振るおうとした瞬間に、強烈な閃光が周囲を埋め尽くしてカニの人とタチウオの人の視覚を奪っていった。どうやら閃光はプレイヤーが使った際には予備動作はないようである。一度試しに使ったことはあるけど、客観的には見てなかったから知らなかった。……タイミングさえ合わせれば、こういう使い方もありか。

 視覚を奪われたタチウオの人が闇雲にその身を振り回し、そして俺とサヤをシアンさんが盾となってそれを防いでくれた。数度斬られた傷は治癒活性により、徐々に回復していく。……この回復ありのクジラってすげぇな。


 とにかくシアンさんとソウさんが盛大に隙を作ってくれた今こそ再び分断させる狙い時! 自己強化は魔力集中を全身に広げる感覚だと言っていたはず。……駄目そうなら即座に動くけど、一度だけ試させてくれ。


<ケイ2ndが規定の条件を満たしたため、スキル『自己強化Lv1』を取得しました>


 ははっ、一度魔力集中の取得のコツさえ掴んでしまえば楽勝か。それじゃ、すぐに実戦投入だな。


<行動値上限を1使用と魔力値2消費して『自己強化Lv1』を発動します>  行動値 17/22 → 17/21(上限値使用:2): 魔力値 12/14 :効果時間 10分

<行動値1と魔力値5消費して『風魔法Lv1:ウィンドクリエイト』を発動します> 行動値 16/21(上限値使用:2): 魔力値 7/14

<行動値上限を1使用と魔力値2消費して『操作属性付与Lv1』を発動します>  行動値 16/21 → 16/20(上限値使用:3): 魔力値 5/14

 

 なるほど、自己強化に操作属性付与を使えば全身に風の鎧を纏うようになるのか。……それにしても消費魔力値そのものは少なめとはいえ、元々の魔力値の上限値が少ないから余裕はあまりないか。とにかくこれで準備は完了だ! カニの人もタチウオの人もまだ目潰しの効果中のようで、辺りがまるで見えていない。


 再びコケに視点を切り替えて、跳ねていく。体当たりで一気に行きたい所だが、行動値の節約を兼ねて……って、移動に跳ねた際に風が噴出して移動の勢いが増している? よし、これなら!

 閃光による目潰しで周囲の把握が出来なくなっているカニの人に近づくのは簡単であった。さて、覚悟しろよ、カニの人!


<行動値を2消費して『はさむLv2』を発動します>  行動値 14/20(上限値使用:3)


「なっ、ロブスターですか!? 離しなさい!」

「やなこった。シアンさん、手加減はいらないぞ!」

「うん! 『海流の操作』!」

「何をする気ですか!?」

「カニの人は俺と一緒に来てもらおうか!」


 俺のハサミでカニの人の右側の脚を掴んだ状態で、シアンさんの作り出した海流に呑まれていく。わざと乱しまくった海流の中を乱雑に流されていくが、カニの人だけは離さない。……っていうか、これよりアルがエンの根に掴まって移動した時の方がキツいな。……地味に操作属性付与の風の鎧が防壁代わりになっている気もする。

 俺はダメージはないけども、カニの人には海流の操作によるダメージもそこそこあるようだ。……このHPの減り方からすれば、シアンさんはちょっと威力を抑えたな? まぁ距離的に短いし仕方ないか。


 それほど長距離は必要ないのは分かっていたので乱れた海流はすぐに収まっていった。ここからは風による推進力を増した状態を利用してどんどん跳ねて自力移動だな。どうやら自己強化に操作属性付与を使えば、スキルの強化ではなく通常動作に追加効果が現れるらしい。


「乱れた海流の操作であんな移動などと何を考えているのですか!? えぇい、とにかく離しなさい! 『アースバレット』!」


 暴れるカニの人から何度も土魔法をぶつけられHPがどんどん減っていくが、それを気にしている暇はない。共生進化を破るまでは簡単に出来るだろうが、その後のコケの始末が今のままだと難しい。


「ケイ、そっちから見て右側の岩場へ行け。準備はしてある」


 俺の到着を確認したアルからの場所の指定があった。何人もの海藻のプレイヤーの誘導に従い進んでいけば、嵌まる為にありそうな穴があった。さて、ここが仕上げの場所か。これでお互いに援護する事も連携する事も難しいだろう。視界はロブスターへと切り替えて操作していこう。


 穴の中へと入り、周囲を軽く確認しておく。……なるほど、適任者ってそういう事か。そういや居るって言ってたもんな。ロブスター側じゃカニの人の始末には手段が足りないから、力を貸してもらおう。


「いい加減、離しなさい!」


 そろそろ暴れるカニの人も鬱陶しくなってきたので、投げ捨てるように解放する。分断も迎撃準備も完了しているんだから、もう捕まえておく必要はない。あとはカニを倒してコケのみににすれば良いだけだ。

 まぁ丸ごと一気に倒せればいいんだけど、その場合は脱皮で逃げられる可能性も出てくるからね。……海でなければ纏火で一気に燃やし尽くしたいとこなんだけど、それは成功する可能性が低そうなので却下。


「ここは……どこですか!? あなたは私をどこに連れてきた!?」

「さぁな? 教える訳ないだろ」


 海流でふっ飛ばされた後に、俺が背後に向かって進んでいた為に何処へ向かっていたのか正確には分からないはず。途中までは盲目状態で全く見えていなかったはずだしな。……まぁマップ見ればすぐに分かるだろうけど、そんな暇は与えない。


「……えぇ、そうですね。ですが、ここは私が勝たせてもらいますよ。灰の群集のコケの人!」

「……さて、なんの事やら?」

「あくまで惚けますか。では勝ってから聞くまでです! 『アースバレット』!」


<行動値を1消費して『共生指示』を発動します>  行動値 13/20(上限値使用:3)

<『共生指示』にて『半自動制御Lv1:登録枠3』を発動します>『土魔法Lv2』『土魔法Lv2』『土魔法Lv2』『土魔法Lv2』『土魔法Lv2』 再使用時間 100秒


 カニの人の土魔法を同じ土魔法で撃ち落としていく。……まぁそこまで狙いの精度は良くないので、ちゃんと撃ち落とせた訳ではないけども。発動した量が違うので、被弾量はカニの人の方が多い。残りHPは5割ってとこか。ダメージの減り方からすると防御ダウンはまだ継続中のようである。これは一気に仕留めるチャンスだ!


「くっ! 物理攻撃も魔法攻撃も共に上手い!? 地力の差がここまであるのですか!?」

「そっちは魔法攻撃に頼り過ぎだな。折角の土台が勿体無いぞ」


 もう油断はしない。今度こそカニを潰して、コケのみにしてやる。そうなればみんなが仕留めてくれるだろう。……すぐ近くに潜んでいる伏兵に気付いていないって事はカニの人も相当余裕が無くなってるな。


 多分ここでカニの人に攻撃を加えても、回避する為にスリップを使ってくるだろう。……俺ならそうするからだ。脚を潰したから逃げられない……と思うのは失敗だったので痛感済み。だからこそ、ここは2段構えで攻撃を仕掛ける!


「さて、これで終わらせようか!」

「そう簡単に殺られはしませんよ!」


<行動値を1消費して『鋏強打Lv1』を発動します>  行動値 12/20(上限値使用:3)


 跳ねての移動の時だけコケに視界を切り替えて一気に距離を詰め、左側の鋏で右斜め上から左下へと振り下ろす形で発動する。


「甘いですよ! 『スリップ』!」


 カニの人のスリップによりハサミは左側へと滑らされ、攻撃そのものは直撃していない。だが、それも元々の狙い通り。自己強化によって底上げされたステータスと、更に操作属性付与による追撃を用意している。今の鋏強打で操作属性付与はスキルには反映されない事は分かった。そしてただの移動の為に跳ねた時には効果があった。つまりスキルを使わない通常攻撃には効果があるという事。

 あえて隙の多くてまだLvの低い鋏強打を使ったのは、滑らせる方向をある程度制御する為。そして予め分かっていれば、それを利用する事も出来る。右側のハサミで通常攻撃をしていく。


「またですか。『スリップ』!」

「残念だけど、それは判断ミスだぞ?」

「なっ!?」


 スリップが発動してハサミを滑らされるとはいえ、攻撃そのものは接触している。威力自体はそれほどでもない通常攻撃に追撃効果が発生し、風の刃が甲羅の表面のコケを切り剥がしていく。そして少しだけではあるけどもコケのない部分が現れた。よし、そこが狙い目だ!


「くっ、コケを剥がすのが狙いですか!? 『増ーー」

「遅い!」


 即座に上に跳ねて、更に上で向きを変えて跳ねてスキル無しで体当たりをして、更にコケを風で切り剥がす。完全にコケを無くすことは不可能なようだが、全く無意味ではないようである程度の量のコケは剥がせた。

 当たり前の話だけど、もしこれが不可能ならコケが物理防御に万能過ぎてゲームのバランスを壊してしまう。コケのスリップでの防御を過信しすぎたのがカニの人の敗因だ!


<行動値を3消費して『殴打Lv3』を発動します>  行動値 9/20(上限値使用:3)


 そしてコケを切り取った部分に向けてハサミを叩き込む。自己強化による移動速度の強化がここでかなりの効果を発揮していた。通常時なら増殖の方が早かっただろう。残りHPは1割。もう1撃で終わる。


<行動値を3消費して『殴打Lv3』を発動します>  行動値 6/20(上限値使用:3)


 そしてカニのHPは全て無くなり、カニはポリゴンとなって砕け散っていった。だが、そこに漂うコケの姿が残っている。こっちがログインしている本体なのだろう。コケ自身が海水に適応しているわけではないようで、あっという間に弱っていく。

 どういう風に適応してるかが問題だったけど、共生適応の利用だったか。今回の戦い方は俺自身の攻略法にもなるから気をつけないと……。


「まだですよ! まだ私は負けていない!」

「いいや、終わりだ。任せたぜ、セリアさん、ザックさん!」

「任せてよ! 『シーウォータープリズン』!」

「よっしゃ、任せとけ! 腐食毒で『ポイズンボール』!」

「なっ、いつの間に!? いえ、このままでは!? 『纏属進化・纏海』!」


 いつの間にも何も、その辺の岩陰に隠れていたんだけどね。セリアさんはワカメで、ザックさんは纏海のトリカブトで、ここに来た時からずっと待機してこのタイミングを狙っていた。周囲をよく見ればすぐに気付かれるくらいだったけど、気付かれても問題はなかった。


 複合魔法になったと思われる毒々しい海水の牢獄に閉じ込められたカニの人のコケは徐々に弱っていく。よし、これで決着! あ、HP20%くらいまで減ってるし、結構危なかったのか。……HP管理は気を付けよう。


「『増殖』『増殖』『増殖』! くっ、これでは!?」

「それじゃ、これは回収していくね」

「ケイ、お疲れさん」

「お、アル。迎撃準備を整えてくれてサンキュー!」


 中々カニの人のコケもしぶといようで増殖によって倒されない様に粘ってはいるけど、そう時間もかからずに行動値が尽きて終わりだろう。そしてセリアさんが拘束したままの状態でアルに乗って群集支援種まで進んでいけば、サヤ達の方も終わっていたようで既に来ていた。


 ちなみにサヤは蜜柑をクマとタツノオトシゴでそれぞれ食べながらHPの回復をしているようである。あ、魚でも蜜柑で回復出来るんだ。……そりゃ果物が人気の筈だよ。ソウさんシアンさんは魚をバクバク食って回復をしていた。3対1でも結構なダメージは受けたようである。


「あ、ケイさんの方も終わったんだね」

「ケイさん、よく倒せたな」

「ケイ、お疲れ様かな!」

「ま、みんなの協力のお陰ってことで。それでそっちはどうなった?」


 どうやら倒し切らずに連れてきたようで、そこにはタチウオの人が土魔法で拘束されていた。あー、こりゃ盛大にやったね。あと1撃くらいで倒せる状態だ。まぁ倒して復活してまた戦いに来られても面倒ではあるけど……。

 でもそのうち自然回復するんだよな……。クエストクリアまでは自然回復したら適度に攻撃しつつ拘束し続けておくのが正解? いや、でもこの2人は油断すると即座に反撃して痛い目に合いそうな気もするから、仕留めて送り返すべきか?


「ははは……。……灰の群集を甘く見過ぎてたか」

「斬雨、あなたまでボロボロではないですか!?」

「ジェイこそ人の事を言える状況じゃねぇだろ……。とっておきは相殺されるし、成長体に全部の攻撃を凌がれるし、散々だぜ……。あー上には上がいるって事か」

「1撃ずつは強いんだけど、隙が多すぎるかな? 力技だけで押し切れる相手ばかりじゃないってことだよ」

「ははっ……。同じ未成体だったら勝てる気がしねぇぜ……」

「私を倒したクマも赤の群集にいるからね?」

「……マジか。そりゃ良いこと聞いたぜ。まだまだ強くなる余地はありまくるって訳か」


「……サヤさん、近接戦闘すげぇのな?」

「サヤは近接ならうちのPTで最強だぞ?」

「うん、あれを見たらそれも納得だね」


「あー今回は負けだ! ここまで見事にやられたのに、負け惜しみを言っても無様なだけだ。サクッと殺ってくれ」

「斬雨!? ……いえ、時には負けを認める事は重要ですか……」

「そういうこった! 負けを認めてこそ更に強くなれるってもんよ!」


 どうやら2人とも素直に負けを認めるようだ。……いやカニの人は結構往生際は悪いか。タチウオの人は戦闘好きではあっても、良識を捨ててはいないらしい。……これは次に会ったらとんでもない強敵になってそうだな。


「……不躾な事だとは思うのですが、1つお尋ねしたい事があります」

「……内容による」

「あなたの共生相手もコケなのではありませんか?」

「あーそれか? まぁ正解だ。見たらわかるけど、やっぱりそっちもコケなんだな」

「……やはりですか。種族の構成がほぼ同じでもこういう結果になるのですね。……今度の共闘イベントでは敵ではなく味方として共に戦ってみたいものです」

「それなら俺は大歓迎だぞ。競争クエスト以外では争う気はないしな」

「ははっ! こりゃいいや。共闘イベントで縁があったらまた会おうぜ。……トドメを頼む」

「うん、分かった」


 そしてタチウオの人はシアンさんに仕留められ、カニの人はコケのみになった状態の纏海を解除して弱体化して死んでいった。さてと、こっちの方が大人数だったとはいえ主力級の2人組を仕留めたのは大戦果だな。

 むしろあの人数が必要な程に青の群集のあの2人が強かったというべきか。……青の群集が厄介な事になっているというのがよく分かった。……でもこっちも結構強いよな?


「うはー! 一時はどうなるかと思ったけど、何とかなったね」

「ケイさんとサヤさんが居なけりゃ負けてたかもな……」

「確かに厄介な相手だとは思ったけど、あの2人組ってそんなに強かったの?」

「無茶苦茶厄介だったよ!? 未成体の人でも何人も倒されてるからね。カニの人が遠距離から魔法で行動を制限してきて、そこをタチウオの人が一刀両断って戦闘スタイルなんだよ」

「カニを仕留めてもどこかから攻撃が続いてたりしてたが、まさかコケとの共生進化だったとは……。脚に海藻があるから、海藻との共生進化だと推測していたからな。それに気付いたのはケイさんがコケだったからこそか」


 確かにその戦法はハマれば厄介か。足止めからの強攻撃は俺達も結構使う戦法だし、自分達がそれを封じられた時の事も考えておかないと。1つの戦法のみに頼るのは封じられた時に危険って事だね。


 さて、結構な激戦になったけど……って、クエスト自体は全然進んでない!? とりあえず群集支援種には到着したことだし、クエストを進めて行こう!

 それにしても至る所に色んなサイズの魚や貝やエビや海藻などのプレイヤーが沢山集まっている。……浄化の要所は既に押さえたって事らしいし、群集支援種がいる以上はここがその場所なんだろう。防衛の為にプレイヤーが集まっていて当然か。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る