第198話 海の競争クエスト完了
ボスのキメラダコの討伐報告を受けてから暫く待っていると、ぞろぞろとマークの所に多くのプレイヤーが転移してくる。
『おぉ、良くこれだけの量を集めてくれた! 早速『浄化の実』の生成に移るとしよう!』
『……めんどいから早くしろ』
『やれやれ、お前はいつもそうやって。いっその事、ここの不動種でもやってみるか?』
『……え、嫌に決まってんだろ』
『……かえって迷惑がかかるだけか。さて『浄化の実』を生成に移る!』
『おいこら、迷惑ってなんだよ!』
だから、ここのNPCコンビはなんなんだよ! ヤナギとミズキのやり取りはもっと良いものだったぞ! もうちょっとこう、緊張感ってものをだな……。
そんな感想もお構いなしにコンブのマークが海底に根を張り、光り始めていく。そしてヨシミのいる初期エリア、ここから見れば北西に向かって光が海底の中を移動していくのが見える。
『ヨシミの所へと浄化の欠片を送った! しばらく待ってくれ!』
『……もう帰っていいか?』
『なんでお前はこの地に降りてきたんだ!?』
『え、暇だったから』
『……よし、グレイには後でそう伝えておこう』
『え!? ちょ、それはやめてくれよ!? 俺、グレイは苦手なんだよ!?』
よし、もうこのコンビの会話は気にしないでおこう。なんか折角の演出が台無しな気分だ。どうもみんなも沈黙でこの演出を眺めているが白けた様子である。……見た目は派手な筈だから、そっちに期待しておこう。
しばらく経てば、ヨシミのいる方向から光が戻ってくる。あれが生成された浄化の実なのだろう。まぁ海藻が実と言うのもちょっと変な気もするけど、今更といえば今更だ。現実の生物に近いとはいえ、ゲームだから全く一緒な訳ではない。
『……先程から見苦しい状態で済まない。『浄化の実』の生成が完了したので、これより瘴気の石の除去を開始する!』
海底の土の中からマークに光が伝わっていき、コンブの中を光が通っていくのが見える。やがて先端へと辿り着いたそれは砕けて散らばっていく。……いや、細かく砕けたものの方向性は一定で光る欠片がキラキラと輝きながら瘴気の石を包み込んでいく。そして、瘴気の石が放つ禍々しいオーラは消滅していった。
『では、これよりこの地の不動種への進化も行う!』
その言葉とともにマークは瘴気の石に定着し、そして海面に向けて光りながら大きくなっていく。周囲の海藻も復活し始め、共に淡く光り始めて、戦闘によって荒れ果てた海域の一部がとてつもない勢いで再生していく。
NPCは微妙だけどこの景色は壮観だな! 元々あった植物が光り始めたミズキの時とは違い、完全に1から光る海藻の森が誕生した。みんなもNPCには微妙な感じを示していたけど、この光景そのものには魅入っているらしい。
ハーレさんが黙々とこの光景を見ながら動きまくっているところを見るとスクリーンショットを撮りまくってるな。……チラホラと同じような動きをしているカニとか、タツノオトシゴとか、海藻とか、サメとかその辺の人、絶対サファリ系プレイヤーだろ!? ……まぁいいや、俺も1枚くらいスクリーンショットを撮っておこう。
『流れの正常化は終了した! 協力してくれた者たちに礼を言わせてほしい! ありがとう!』
『あ、終わりだね。それじゃ帰ろうっと』
『……あぁ、グレイからの通達だ。『しばらく帰ってくるな』だそうだ』
『……え?』
『青の群集との戦いで荒れたその地の回復に努めろとの事だ。よかったな、暇ではなくなったぞ』
『そんな!?』
<競争クエスト『無支配地域を占拠せよ:名も無き海原・その3』が完了しました>
<『名も無き海域・その3・灰の群集エリア5東部』を灰の群集の『群集支援種:マーク』が占拠しました>
<他の群集のプレイヤーへの攻撃は通常仕様に戻ります>
<『往路の実(限定)』『復路の実(限定)』は使用不可になり、廃棄されました>
<『競争クエスト情報板』が使用不可になりました>
<『群集支援種:マーク』と『群集拠点種:ヨシミ』とのネットワークの構築が完了しました。両地点同士の任意の転移が可能になります>
<参加ボーナスとして経験値を獲得しました>
<参加ボーナスとして情報ポイントを100獲得しました>
<勝利ボーナスとして情報ポイントを300獲得しました>
<キメラダコの撃破ボーナスとして情報ポイントを200獲得しました>
<ケイはLv上限の為、過剰経験値は『群集拠点種:ヨシミ』に譲渡されます>
<ケイ2ndがLv9に上がりました。各種ステータスが上昇します>
<Lvアップにより、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>
あ、演出終了か。……最後まで締まらないNPCだったな。群集の長から直々に帰ってくるなと言われて、ここで荒れ果てた状態の修繕か。ここのエリアの移動しているNPCになるって事なんだろうね。
それはともかくとして、競争クエストは経験値が凄いな。半減した状態でも一気にLv4も上がるとは。
「よし、色んな角度から撮れたよ! 後でじっくりと選別しよう!」
「ハーレ、沢山撮ってたね」
「後で見せてもらっても良いかな?」
「良いよー! 選別してから、リアルの方にも出力しておくよー!」
「お、そちらのクラゲさんはサファリ系ですか?」
「そだよー! そういうカニさんもサファリ系だね!」
「えぇ、そうです。どうです? これからスクリーンショットの交換会を計画しているのですが」
「お、いいねー! サヤ、ヨッシ、一緒にどう!?」
「え、私もヨッシもサファリ系じゃないけど、行っても良いのかな?」
「もちろん構いませんとも! 是非どうぞ!」
「うん、これは一緒に行っておいた方がいいね。ハーレだけだと止まらなくなるし」
「あ、ケイさんとアルさんはどうー!?」
「俺は遠慮しとくわ」
「俺もパス」
「分かったー! それじゃしばらく離脱するね!」
そしてハーレさんに連れられて、サヤとヨッシさんがカニのサファリ系プレイヤーの元へと遊びに行った。まぁクエストも終わったし、これからの予定も立ててなかったから別にいいか。今は10時だし、今日はログアウトまではそれぞれの自由行動って事で良いだろう。……ヨッシさんが一緒に行ったので時間に関しては大丈夫だろうしね。
ハーレさん達は今の場所から少し離れた光る海藻が途切れるかどうかというところで立ち止まって、何やら談笑が始まっている。そしてそこに沢山のプレイヤーが集まっていた。
会話を聞くのもなんだし、一時的にPT会話をオフにしとくか。確かそういう設定もあったはず。うん、やっぱりあった。名指しで呼ばれた際には視界に警告が出るように設定しておいて……これでよし。
「アルはどうする? ハーレさん達はどっか行ったし、今日はもう自由行動で良い気もするけど」
「あー、確かに今日はそれでいいか。俺は適当にのんびりしつつ、まったりしてるかな。ケイはどうするんだ?」
「俺もそうする。結構な経験値も入ったしな」
「なら、のんびりしとくかー」
「おー。あ、そういや今日の夕方にやった進化の情報話しとくわ」
「お、そういやそれがあったか。なんか新情報でもあったか」
「おう、あったぜ」
「あったんかい!? じっくりと聞かせてもらおうか」
「おうよ。まずはだなーー」
とりあえずアルへ、支配進化を始めとした進化情報を伝えていく。忘れないうちにしっかりと伝えておかないとな。
「……支配進化か。俺の木って今は水の操作Lv1、土の操作Lv3、根の操作Lv5なんだよな。水の操作をLv3にすれば俺も出る可能性はあるか?」
「あ、そういえばそうなるのか」
「なら後で水の操作を上げてみるか。……まぁ少しの間は休憩だな」
「だなー」
今回の競争クエストはほぼ対人戦だったし、結構ぎりぎりな戦闘を繰り広げていたので少し疲れてはいる。結局殆どクエストそのものの進行には関与しなかったもんな。
ボスのキメラダコってどんなのだったんだろ? プレイヤーの合成進化をしたみたいな感じのタコだったんだろうか? ……まぁ残滓として復活した時にでも見に来てみようかな。
<命名クエスト『命名せよ:名も無き海域・その3・灰の群集エリア5東部』を開始します>
<本クエストは現在ログイン中の【競争クエスト『無支配地域を占拠せよ:名も無き海原・その3』】の参加者に限定されます>
<以下の選択肢より、30分以内に好きなものを選んでください。一番多かった選択肢が新しいエリア名となります>
【命名候補】
1:乱戦の海原
2:灰の海原
3:マークの海原
4:荒れ果てた海原
あ、命名クエストが始まった。今回の選択肢は……うわ、微妙……。この中からだとマークの海原が無難かな。
ほぼ悩む余地のない気がする選択肢に一応悩んでいると、ソウさんとシアンさんがやってきた。
「ケイさん、アルマースさん、お疲れー! あれ? 他の3人は?」
「ハーレさん達なら、サファリ系プレイヤーのスクショ交換会に行ったよ」
「あ、ハーレさん達ってサファリ系なんだ?」
「ハーレさんだけだけどな。サヤとヨッシさんは付き添いだ」
「なるほどね! 結構いるもんね!」
「こっちのPTではセリアがそうだしな」
「へー、セリアさんもそうなんだ」
思った以上にサファリ系プレイヤーの人数は多そうだ。まぁあれはあれでこのゲームの楽しみ方の1つだし良いと思う。色んな楽しみ方があるのは良い事だろうね。
「……なんてこった」
「ですから、多少は2枠目でも戦いましょうと言ったのに……。完全に無駄骨じゃないですか」
「だってよー」
「……手抜きでは駄目だという事なのだろう」
「……うん、今回はザックの判断ミス」
「あー勿体無い事したー!」
そして何やら騒がしい一角があり、そこを見てみればザックさんがトリカブトの姿で四つん這いで悔しそうに葉っぱを海底に打ち付けていた。……なんか奇妙な光景だけど一体何事?
「……タケさん、どうしたんだ?」
「あ、いえ大したことではないんですが……」
「聞いてくれよ、ケイさん! 競争クエストって受注しただけじゃ、経験値貰えないんだぜ!?」
「……え? それって当たり前じゃないか?」
「ぐっ!? ……ちゃんと考えればそうなんだけどよ……」
「……ケイさん、地味に容赦がないですね。まぁ軽く擁護をしますと、ログイン中ではなくても参加さえしてれば勝利報酬は貰えないですが、参加ボーナスは貰えたって情報がありましてね?」
「そういやそんな話も聞いた気はするな」
「あー、それか。……で、具体的にどうなったんだ?」
どこで聞いたかは忘れたけども、そういう話も聞いたことがあったっけ。まぁクエストクリアのタイミングが正確に決まっていない以上はリアルの都合でクリアのタイミングにログイン出来ない人も出てくるので、参加ボーナスが貰えるのは良心的な仕様だとは思う。
……で、アルの言うように一体何があったんだろう? 特に問題が発生する余地もないと思うけど。
「いえ、単純な話でしてね? ただクエストを受注しただけで、特に何もしなければ流石に参加ボーナスも貰えないようでして。……まぁケイさんの言うように当たり前の話だっただけの事ですね」
「うぐっ!? あーもう、今回は俺のミスだよ! 次からは気をつける!」
「えぇ、そうしてください」
なるほどね。2枠目で受注だけして、何もせずに1枠目で参戦してた訳か。流石に何もしない状態では経験値を貰えるはずがないもんな。最低限でも戦闘1戦くらいが必要ってとこだろうか?
「……ケイさん、ヨッシは?」
「ヨッシさんなら、ハーレさんとサヤと一緒にあっちのスクショ交換会に行ったぞ」
「……それなら私も行く」
「あ、翡翠さん。それなら今日はここで解散にしますか?」
「……うん。ザック、タケ、イッシー、またね」
「はい、分かりました。それではまた」
そうして翡翠さんは少し離れた所で大盛り上がりしている様子のスクショ交換会の場所へと向かっていった。ヨッシさんも翡翠さんに随分懐かれたもんだな。
とりあえず近くにはソウさん、シアンさん、タケさん、まだ悔しがってるザックさん、イッシーさん、そして俺とアルとなっている。あ、完全に男のプレイヤーだけってのも珍しい気もするね。
「で、アルは命名クエストはどれを選ぶ?」
「……いや、もうこれはほぼ一択のようなもんだろ。灰の海原は論外として、確かに乱戦だったし荒れ果ててもいたが、これをエリア名にしたいかと言われれば微妙としか言いようがない」
「あー確かにね! これはマーク一択かな」
「え、乱戦とかでも良くね?」
「……その辺りは自由なのでザックのお好きなように選択してくださいね」
「まぁ、どれが良いかは人それぞれだしな」
「え、俺の感性は駄目なのか!?」
駄目とは言わないけど……いや、これ以上言うのはやめておこう。人の感性にケチをつけるのもマナー違反だ。人それぞれに好みがある。それでいいじゃないか。ちなみに俺はマークの海原に1票という事で。
「……なんだか腑に落ちないけどまぁいいか。そうそう、ちょっと聞きたかったんだがよ、もう1つの海エリアの競争クエストのNPCってどんなのだったんだ? こっちと同じでなんか微妙な感じか?」
ん? ザックさんは内容を知らないのか……? あ、追憶の実を貰って見てこないとわからないんだった。という事はザックさんは追憶の実での再現映像を見ていないのか、勿体無いな。
「いやいや、ザックさん!? あっちは真面目な内容だったぜ!?」
「そうだよ! 暴発を使って解放したナギが、群集支援種に名乗り出てきて不動種進化した時は思わずみんなで魅入ってたもん!」
「おっ!? その辺はミズキの時と同じじゃねぇか! へぇ、そうなのか」
「……そうなのですか? 私はどちらも見ていないのでわからないのですが」
「ザックさん、タケさん、その辺は追憶の実で見れるからぜひ見ておくべきだぞ」
「そういえば、そういうアイテムもありましたか。ケイさんがそう仰るのでしたら後ほど見てみることにしますね」
「……あれは実に良い」
イッシーさんは既に見終えた後みたいだね。そしてそんな風に雑談をしながら時間が経っていく。
<命名クエスト『命名せよ:名も無き海域・その3・灰の群集エリア5東部』が完了しました>
<『名も無き海域・その3・灰の群集エリア5東部』を改め『マークの海原』へと名称が変更になりました>
これにて命名クエストも終わり! やっぱりマークの海原に決まったね。これで海エリアの青の群集との競争クエストは完全終了である。……今回は青の群集の人達が、演出を見に来ることはなかったな。
タチウオの人とかシャコの人の言動を見た限りでは結構自信はあったみたいだし、負けて凹んでいるのかもしれない。……まぁ逆に奮起して鍛えだしている可能性も否定出来ないけど。
それにしても攻撃が下がり防御の上がる青の群集に、ああも好戦的なプレイヤーが主力になっていたのには何か理由があるんだろうか? なんとなく青の群集って慎重なプレイヤーが多そうなイメージがあるんだけどな。
まぁ考えていても分からないだろうし、どこかで敵以外として出会った時にでも聞くだけ聞いてみよう。……答えてくれるかはわからないけどね。
今回色々と世話になった人や、タイミング的に登録出来ていなかったタケさんとかとフレンド登録をしていけば、いつの間にやら11時になっていた。さてと、ハーレさんはヨッシさんが引き際を見極めてさっき回収して来てくれたので、そろそろ終わりにしようかな。
明日はちょっとミズキの森林に行きたいので、エンのとこへ移動しておこう。まずマークからヨシミへと転移して、それからヨシミからエンへと転移しておいた。よし、今日はここまでで終了!
◇ ◇ ◇
そしてみんなに軽く挨拶してからログアウトした。いつものようにいったんの場所へとやってくる。その胴体には『お、このスクショはいいな。宣伝用に本人に許可をもらってくるか』と書かれている。え、宣伝用に運営からそんな連絡が来る事があるのか!?
「今日もお疲れ様〜」
「おう。なぁ、いったん。宣伝用に運営がプレイヤーのスクショを使ったりするの?」
「あ、これの事だね〜。うん、中には凄い構図で迫力あるのを撮る人もいるからね〜」
「へぇ、そうなのか」
そういえばあのアルに乗ってる俺達を撮ったスクショも凄かったもんな。……なるほど、ああいうのを宣伝に使おうとかいう感じか。
「……あれ? あ、君も思いっきり関係してたよ〜」
「……え?」
「ほら、君が貰っていったクジラに乗ったあの1枚がその宣伝に使いたいやつになってるよ〜」
「マジか!?」
まさかああいうのが使われるんだろうなと推測したものが、ズバリそれだとは思わなかった。へぇ、あれを宣伝に使いたいのか。
「それで、撮った人と映ってる人の承諾が必要になってるね〜。……報酬も何もないけど、君はあのスクリーンショットを宣伝に使用するのは良いかな〜?」
「あー、プレイヤー名は出ないんだよな?」
「うん、それは大丈夫〜」
「なら問題ないぞ」
「お、それは助かるよ〜。ありがとね〜」
まぁそれくらいなら問題ないだろう。あれならばみんな幼生体の時のスクショだし、既に進化した後の今では進化情報に関して気にする必要もないだろうしね。
「あ、それで承諾待ちのスクリーンショットの処理はどうする〜?」
「今までと同じ処理で頼む」
「はいはい〜。他の群集は拒否で、同じ灰の群集は許可だね〜」
中には掘り出し物のスクリーンショットもあるという事は分かったけど、確認するのは今度にしよう。今日はこれにて終わり! 明日からは共闘イベントに向けて育成だな。目標は未成体への進化!
【ステータス】
名前:ケイ
種族:水陸コケ(共生:殴りロブスター)
所属:灰の群集
レベル 20(上限)
進化階位:成長体・複合適応種
属性:水、土
特性:複合適応
群体数 154/3700
魔力値 86/86
行動値 45/45
攻撃 45
防御 53
俊敏 44
知識 72
器用 72
魔力 98
ー ー ー
名前:ケイ2nd
種族:殴りロブスター(共生:水陸コケ)
所属:灰の群集
レベル 5 → 9
進化階位:成長体・殴打種
属性:なし
特性:打撃、堅牢
HP 2000/2000 → 2000/2600
魔力値 14/14 → 14/18
行動値 23/23 → 23/27
攻撃 29 → 45
防御 27 → 43
俊敏 21 → 33
知識 12 → 20
器用 12 → 20
魔力 7 → 11
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