第193話 海の競争クエストの進捗状況


 みんなで浄化の欠片を拾い集めていると、近くに大きな海流が出来てその中を途轍もない速度で移動する巨体の姿があった。……あれはクジラっぽい? あ、光る大型の魚も一緒にいるってことはもしかしてソウさんとシアンさんか?

 あ、海流が消滅して中から現れたクジラと大きな魚が徐々にこっちに近付いてくる。カーソルは灰色だし、やっぱりソウさんとシアンさんっぽい。


「よし、到着!」

「くっそ、やっぱりこの移動方法は早いけど色々難ありだな!?」

「緊急だし、仕方ないって。それにソウだって許可出したじゃん」

「……まぁそうなんだが。それにしてもどういう状況だよ、これ」

「これはまた凄惨な状態!?」

「……何があったらこうなるんだ?」

「あのクジラはアルマースさんじゃない?」

「お、ほんとだな。ケイさん達はアルマースさんの背中の上か」


 少し届いてくる2人の声を聞いていれば、さっきの速度は難ありの移動らしい。パッと見た感じでは海流の操作で海流を作って、それに乗って一気に移動してきたってところだな。それにしても海エリアのクジラの人のシアンさんから見ても、この近辺の状況はやり過ぎか……。初期エリアで試さなくてよかった。

 そして俺達に気付いたソウさんとシアンさんがこちらへとやってくる。おー、やっぱり未成体ともなると移動は早いね。


「シアンさん、ソウさん! 参戦しに来たよー!」

「おう、聞いてた通りに夜から参戦か。歓迎するぜ」

「よろしく!」

「よろしく。戦力が必要ならいつでも未成体を出すから言ってね」

「おう、それは助かる。それでなんだが……」

「ケイさん達は襲われなかった!? この辺で青の群集の襲撃が多発してるって情報があったんだけど」

「あー多分それなら、返り討ちにしたぞ」

「なるほど、さっきの奴らは増援潰しなのか。なら倒しておいて正解だな」

「……ちょっとやり過ぎた気もするかな?」


 なるほど、シアンさんとソウさんはさっきの連中を撃退しに一気に駆けつけて来た感じなのか。未成体2人で駆け付けるという事は、地味に厄介な相手だった?


「倒してくれたならそれはそれでいいけど、青の群集の結構な強敵って聞いたはずなんだけど……? あ、それでこの惨状?」

「まぁ倒すのは全く問題ないが、具体的に何があったんだ? 海流の操作を使ったのはなんとなく想像はつくんだが、それだけじゃここまではならない筈なんだが……」


 海流の操作だけじゃやっぱりここまでの惨状にはならないのか。まぁ海流の操作そのものはダメージ量は大した事はなかったし、当然といえば当然。……うん、どう考えてもやり過ぎた。あの威力と範囲であれば基本的に1ヶ所に味方が固まってないと巻き添え確実だもんな。

 でも状況次第では切り札にもなる。全然青の群集の相手には何もさせなかったから強敵かどうかも分からなかったけど、シアンさんが強敵だったと言っているし、即座に仕留めるという俺の判断は正しかった!

 

「ケイさんがアルさんの海流の操作に岩の操作を重ねたらこうなったんだよね!」

「それで待ち伏せの青の群集をオーバーキルで返り討ちにしちゃってね?」

「え、そんな使い方が出来るの!?」

「応用スキルの重ね技かよ……。これが未成体からポイント取得が解禁ってんだからとんでもねぇな……」


 そういや応用スキルの操作系スキルは未成体からポイント取得が可能だから、場合によってはあれを相手に使われる事も想定しておいた方がいいのか。……流石に未成体に実行されたら成長体の俺達は確実に死ぬだろうな。……防ぐ手段も考えておこうっと。

 一応は共生進化状態での防御手段のアイデア自体はあるけど、まだ試せてないからうまく行くかはやってみないと分からないんだよね。コケのみの時と違ってロブスターにはHPもあるからその辺も気を付けないと。


「まぁそれは置いといてだな、とりあえず群集支援種まで行こうぜ! なぁ、ケイ?」

「そうだな、アル! 浄化の欠片も集め終わったしな!」

「あ、2人して誤魔化そうとしてないかな?」

「してないしてない!」

「そうだぞ、サヤ」


 ちょっと危なそうだからって、実験も兼ねて盛大にぶっ放したけど、威力が高すぎて焦ってるとかそういう事は決してないから! ……まぁちょっとやり過ぎだったとは思うけど。いやいや、あれは必要な事だったんだ。


「あ、そっか。ケイさん達は参戦したばっかりだから、まだ『競争クエスト情報板』への登録出来てないんだね」

「……そうなるとまずは群集支援種までの案内が必要か。ケイさん達は誰か1人はマップは持ってきてるよな?」

「それなら私が貰ってきてるかな」

「……よし、なら大丈夫か。俺とシアンで案内するから着いてきてくれ」

「お、それは助かる。群集支援種は移動してるだろうから、こっちの誰かに会ってから正確な場所を聞くつもりだったしな」

「あ、それならちょうど良かったんだね。うん、まさか青の群集を倒しに来て、何もせずに道案内する事になるとは思わなかったけど」

「……まぁこの辺には味方がいなかったのが不幸中の幸いか」


 うん、まぁ結果オーライって事でいいんじゃないかな。さーて、さっさと群集支援種のとこまで行って、情報を集めてこないとね。


「あ、ケイさん!? そういやキャラの切り替えしてる最中じゃなかったっけ!?」

「……そういやそうだった。まぁ切り替えは群集支援種に到着してからでいいか」

「それでいいんだ!?」

「まぁ切り替え途中でまた襲われても嫌だしな……」


 ロブスターの獲物察知をコケから発動出来るように登録し直すのが目的だったのに、青の群集の襲撃ですっかり忘れてた。元々の目的だった半自動制御の登録をし直そう。欠片を集めてる間にちょいちょい使ってたら獲物察知もLv3になったしね。


『半自動制御Lv1:登録枠3』

 登録内容:『獲物察知Lv3』

 ログイン時、再使用時間:9秒

 共生相手時、再使用時間:6秒


 海水の操作を消して獲物察知で登録をし直したから、これでコケの方からも発動が可能になった。……ログインのし直しは群集支援種に辿り着いてからでいいだろう。大丈夫だとは思うけど、またログインしたら襲撃を受けてましたってのは嫌だしね。


「シアン、時間も節約したいからまたあの移動で行くぞ」

「オッケー! アルマースさん、俺の海流の操作に乗って移動するけど着いてこれる?」

「……さっきここまで来てたやつか? 大丈夫だとは思うが……ケイ、海水の防壁は任せていいか?」

「おう、良いぞ。任せとけ!」

「それはその方が良いだろう。アルマースさんは自分の体勢を保つ事だけに集中してくれ。未成体での海流の操作は結構強烈だからな」

「おー! さっきのジェットコースターみたいな移動になるんだね!?」

「……こういう移動、多いなぁ」

「ヨッシ、大丈夫かな?」

「まぁ前よりは慣れてきてるしね。アルさんから落ちなければ大丈夫」


 海流の操作そのものはシアンさんが発動し、シアンさん自身とソウさんとアルもその海流に乗って一緒に移動するって感じになるのだろう。海ならではの高速移動方法なんだろうね。……あれ? これってもしかすると風の操作の取得条件とか地味に分かってたりするのか?


「脈絡のない話になるけどさ、シアンさん達ってもしかして風の操作の取得方法は判明してる?」

「え? なに、それはどういう質問!?」

「……まだそんなものは見つかってないと思うが、ケイさん達は何か見つけたのか?」

「あ、まだなのか。どうも風の操作って称号取得だと『流れを扱うモノ』になるみたいで、海流の流れに乗った状態なら取れるっぽいぞ?」

「え!? まさかそんな感じの取得方法なの!?」

「……それは盲点だったな。となると、海流に乗った状態で何らかの称号を手に入れればいいって事か」

「俺、取れそうな称号は残ってないよ!?」

「……とりあえずその辺は後回しだな。よし、使用報告は済んだ。シアン、海流の操作を頼む」

「……それもそっか。今は競争クエストに集中だね。『海流の操作』!」


 そしてシアンさんが海流の操作を発動する。先程アルが使った海流の操作よりも流れの勢いを増した海流が作られていく。……流石は未成体での発動だ。単純にスキルLvが違うというのもありそうだけど、勢いが全然違う。

 っていうか、使用報告って何だ? あ、海流の操作は周囲への影響が大きいから、味方への事前通達か何かかな?


「それじゃアルマースさん、お先にどうぞ! 危なければ俺が後ろから押すからね!」

「……行くしかねぇか。みんな良いか?」

「アル、ちょい待った。まだ海水の防壁が作れてないぞ」

「そのまま行ったら吹っ飛ぶね!?」

「それは流石に勘弁して欲しいかな?」

「ケイさん、よろしくね」

「……そういやそうか。ケイ、任せたぞ」


 アルが移動に専念しなければならない以上は、流されるのを防止する海水の防壁を作るのは俺の役目である。この辺は得意な人がやるべきだろう。それにあの勢いの海流の中を進むのならば、この役割はかなり重要だ。


<行動値を4消費して『海水の操作Lv3』を発動します>  行動値 18/22(上限値使用:1)


 アルの背中を覆うように海水の防壁を作り上げていく。流れを阻害しないようにするのなら簡単な丸いドーム型じゃなくて、抵抗が少なくなるように木も巻き込んで流線形にしてみるか。……うーん、ちょっと使える海水の量が足りない。……木は剥き出しになるけど仕方ないか。


「準備は良いみたいだね! それじゃ出発ー!」

「行くぜ、みんな!」

「「「「おー!」」」」

「よし、俺らも行くぞ」

「うん。俺が最後尾で操作していくからね!」


 そしてアルがシアンさんの作った海流へ飛び込んでいく。必然的にアルの背中に乗っている俺達も一緒に海流の中へ入る事になる。続けてソウさんとシアンさんが飛び込んできた。


 そうして海流の中を進んでいく。海流の中は勢いこそ凄まじいけども荒れ狂うように乱れまくってはいなかった。これなら姿勢を保つだけだし、結構楽じゃないか?


「……アルマースさんって、この移動は初めてだよな?」

「ん? あぁ、そうだけど?」

「それにしては平然と慣れてる様に泳いでるのは何でだ!? シアンの海流の操作は他の奴よりLvが高めで比較的安定はしてるけど、それでも大体のやつは吹っ飛んで弾き出されてるんだが!?」

「あー、いつものあれに比べりゃこの移動なんて楽勝だぞ」

「うん、確かにそうかも。いつものあれより全然怖くないね。安定してるし」

「私は物足りない! もっと迫力を期待したのに!?」

「普段は一体どんな移動をしてるんだよ……」

「あはは、まぁ色々と無茶な移動をしてるかな?」

「まぁあれに比べたら、全然楽勝だな」


 この海流の移動はいつものコケ式滑水移動(サヤ、ベスタ2人体制)に比べると全然揺れも少なければ、少し間違えたら大転倒という危険性もない。あれの操作のぎりぎりさに比べたらこの程度はアルには何の問題もないだろう。これくらいなら海水の防壁もアルが作っても問題なさそうな範囲だね。

 

「ソウ、うまく扱えてる分についてはいいんじゃない?」

「……まぁ、それもそうだな。アルマースさんは余裕もありそうだし、今のうちに状況を教えておこうか」

「おう、頼むわ」

「おー! それはありがたいね!」

「そうだね。到着したらすぐに動けるほうがいいし」

「今はどんな風になってるのかな?」


 最新のクエストの状況というのは重要だしね。移動中に済ませてしまえるならその方が良いだろう。時々、海流の外で魚やら海藻が弾き飛ばされていくのが見えるけど、まぁそれは気にしないでおこう。チラッと青いカーソルも見えた気もするけど、うん、そういう事もあるさ。……とんでもないな、未成体の海流の操作って。


「この移動はあんまり時間はかからないから、手短にいくよ! まず半覚醒の解放は終わった!」

「お、終わったんだ。手段は?」

「浄化の欠片の収集だね。暴発での解放も検討はしたんだけど、安全策って事でこっちになったよ」

「……なるほど、先の動きが分からない上に他に提示されてる手段があるなら無理にする必要もないか」

「まぁ暴発は扱いにくいしね」


 暴発はどうしても運頼みになる側面があるから、他の手段が取れるならそっちの方が良いか。とにかく半覚醒の正常化は終わったって事で良いだろう。そうなると今は次の段階へと移っているのか。


「浄化の要所は確定済みか?」

「うん。そこはもう既に押さえて、防衛に移ってるよ」

「こっちの群集支援種がそこにいるから、ケイさん達はそこの防衛に加わってくれ」

「もう押さえてるんだ。ボスはいないのかな?」

「それに関しては擬態ダコって成長体がいたんだが、そいつがキメラダコってのに進化したって目撃情報があってな。すぐに見失ったらしいんだが、それ以降から擬態したタコっぽい何かに襲われるっていう証言が出ている。十中八九、こいつがボスだって事で捜索中だ」

「青の群集にも未成体のプレイヤーがいるし、ボスも未成体だから、捜索は未成体のプレイヤーがメインでやってるんだ」

「あー、なるほどね。なら、俺らは防衛向きだな。アルの海流の操作の使用はどの程度までなら大丈夫?」

「……ケイさん、重ね技をやる気だな? まぁいざとなったら制限なしでいいぜ。そういう風に打ち合わせしてるからな」

「海流の操作を使うのは想定済みって訳か」

「……すでに何度か青の群集との海流の操作のぶつけ合いは発生してるからな」

「……そうなんだよね。何だかんだで青の群集にも普通にクジラいるし! なんだよ、クジラいるのに俺の事を敵視しないでほしいね!」


 青の群集にもクジラいるんだな。……そりゃまぁ海の中では強大な戦力だし、使わない理由もないか。いつまでもあのBANされたクジラの影響を受け続ける訳にもいかないだろうしね。……まぁシアンさん的に納得いかない気持ちも分かるけど。


「……なんだか海の中だと私達、やること無いのかな?」

「根本的に近接戦闘になってないよね」

「地味に退屈だー!?」

「あー、その気持ちはわからんでもないが、そうとも言えないからな。クジラがいない場合だと普通に近接戦闘になるから、サヤさんみたいなクマは海では珍しいから相当厄介だとは思うぜ」

「そうだよ。あ、ちなみにクジラって表面にひっつかれると意外と出来る事が少ないよ?」

「あぁ、それは分かるぞ。クジラって死角が多いんだよな。俺は今は木の方の視界でその辺はカバーしてるが」

「そうなんだよね! って、木で死角のカバー出来るの!?」

「おう、こうやって動かせばな」


 そう言いながら、木の位置を少しズラして見せるアルだった。っていうか、前後だけでなく左右にも傾き変えられるのかよ。地味に便利だな、アルのクジラの背中にある木って。目がある種族以外では視界は地味に自由に移動が可能だからそういう芸当も可能か。

 共生進化だと視界とキャラの操作を別々に扱えるから、その辺も利点かな。でもこの辺は操作が下手な人は混乱しそうだから、誰でも簡単に出来るとも言えないだろうけど。


「さてと、もう少ししたら到着だよ!」

「え、もうなのかな? えっと、もうマップの中央付近まで来てる!?」

「結構早いんだね。うん、私はこの移動は気に入ったよ」

「おー!? ヨッシからの合格判定が出た!?」

「もうちょい先の場所が浄化の要所だからな。あぁ、そういえば注意事項だ。青の群集には近接に厄介なのが何人かいるから、気を付けてくれ」

「そんなのがいるんだ!? どんな人!?」

「っ!? シアン、アルマースさん、今すぐ海流の外に出ろ!」

「ソウさん、いきなりどうした!?」

「あいつだね!? アルマースさん、急いで外に出て!」


「クジラが2体とマグロが1体か。……纏めて斬り殺す! 『魔力集中』『大型化』『断刀』!」


「ちっ、すまん、アルマースさん!」

「うおっ!?」


 何やら物騒な内容の低い声が聞こえたかと思えば、海流の外に銀色に光る巨大な何かが現れ、そしてそれが右斜め前方から海流に平行になるようにぶつかってくる。そして海流の勢いもお構いなしに迫ってくるそれを避ける様にソウさんがアルの真下に潜り込んで上に吹き飛ばすように体当たりをして海流の外へと放りだした。ちょっ!? 一体何が起きた!? 


 海流を真正面から真っ二つに切り裂くようなその攻撃により海流の操作が解除され、そこにはそれを成した相手がいる。そしてソウさんは、マグロの腹部辺りを大きく斬られていた。


「ちっ、HPが半分近く削られたか」

「……みんな、噂をすればなんとやらだよ。あれが青の群集の強敵。未成体のタチウオだよ」


「あん? 斬りそこねたどころか、クジラとマグロ以外にもウロチョロといるじゃねぇか。……纏めて斬り捨ててやるぜ、てめぇら」


 クジラまでとはいかないけど、4〜5メートル程の大きさまで巨大化した刀のような形をした魚……青の群集のタチウオのプレイヤーが、俺達の前に現れた瞬間であった。

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