第190話 各自の進化も済んで


 いったんのとこでは、またそれなりの数のスクリーンショットの承諾依頼が来ていたので前のと同じ条件で一括処理してもらった。後で時間がある時に良いのがないか見ておこうっと。


 そして現実へと戻ってきた。……当たり前のように俺の机の椅子で晴香が座って、携帯端末を操作している。もう何も言うまい……。


「あ、兄貴。許可出してくれておいてありがとね!」

「ん? なんの話だ?」

「スクリーンショットの話! みんながアルさんに乗ってたのあったでしょ!? これ!」


 携帯端末に映し出された画像は、俺が気に入って貰ったスクリーンショットそのものであった。うん、こうやってリアル側の端末で写真みたいに見るのもこれはこれで味がある。


「え、これ晴香が撮ったのか?」

「ううん、違うよ! 私のゲーム内でのフレンド! この角度で撮ってって頼んでたんだ!」

「そうなのか。まぁよく撮れてるし、俺も貰ったしな」

「凄いでしょ!」


 確かにあれはよく撮れていた。スクリーンショットは使う人が使えば立派なものが撮れるんだな。晴香自身がサファリ系プレイヤーだし、その手のプレイヤーとの交流もあるんだろうね。……多分夜更かししまくってた頃に仲良くなってたりしたんだろう。


「それじゃ晩ご飯だー! この匂いはカレーだね!」

「材料は俺が買ってきたからな」


 特売クーポンを利用する為に買ってきたからな。味わって食ったら、ゲーム再開だ!



 ◇ ◇ ◇



 カレーを食べ終え、食後の片付けも済ませたら再びゲームへログインしていく。待ち合わせ場所を決めていなかったけれど、ヨッシさんの方から晴香にヨシミの所で待ち合わせようという連絡がきていたとの事。


 そしていつもの様にいったんのいるログイン場面へとやってきた。胴体部分の文字は『共闘イベントに関する続報があります』となっている。お、続報が出たのか。


「いったん、共闘イベントの続報情報を教えてくれ」

「はいはい〜。プロモーションビデオの第1弾になるけど、再生して良いかな〜?」

「え、プロモーションビデオなのか!? 時間ってどのくらい?」

「そんなに時間はかからないよ〜。それでどうする〜? 急ぐなら後にするよ〜?」

「……長くないなら見ておきたい。再生頼んだ」

「それじゃ再生するよ〜」


 長くはないって事だし、ちょっとくらいなら大丈夫だろう。コケやロブスターの立体映像が消えて、ログイン場面が暗転する。いや、真っ暗ではあるけども周辺に岩壁があるみたいだし、これは洞窟の中……?


『……誰だ? 我の力を乱す者は?』


 何処からともなく脳内に響く声。その声にあるのは怒りか憎しみか、不穏な雰囲気を感じさせる。


『まさか、自ら滅ぼした地に戻ってきたのか。あの愚か者共め……』


 そして怒りと共に広がるのは、怨嗟の声。その洞窟の奥に広がるっていくのは瘴気そのもの。まるで封じ込めていたものを解放したかのように広がっていく。その瘴気に触れた生物は骸となり、塵へと変わっていった。


 そこで通常のログイン場面へと切り替え変わっていく。かなり意味深な内容だったけど、短いな!?


「はい、ここまでね〜」

「え、もう終わり?」

「まだ第1弾だからね〜」

「凄い気になるんだけど!?」

「それはイベントまでのお楽しみって事で〜」


 それを言われてしまえば仕方ない。……凄い短い内容だったけど、結構重要な要素はあった気がする。『我の力』とか『自ら滅ぼした地』とか『瘴気』とか『洞窟っぽい場所』とかその辺が重要なキーワードか。

 これはこのゲームの舞台となっている惑星の過去に関わる何かと、それが現在に及ぼしている影響に関わる話か。そして、これが共闘イベントという事は群集毎では対応出来ない……いや、してはいけない規模のストーリーになりそうだ。……これ以上は続報を待つしかないんだろうな。


「よし、このイベントの為にも今のクエストを終わらさないとな!」

「僕は特定の群集だけに肩入れは出来ないけど、頑張ってね〜」


 さてとログインするのはコケの方が良いんだろうけど、ロブスターで魔力集中と自己強化の取得を狙っておきたい。……ポイントが足りないからすぐに共生進化で完全に実用化とはいかないだろうけどね。競争クエストのエリアに行くにはボスも倒さないといけないから、そこで試してみよう。

 

「ログインはロブスターで頼む」

「はい、ロブスターだね〜。いってらっしゃい〜」

「おうよ」


 いったんに見送られながら、今はロブスターでログインしていく。まぁボスを倒した後に再度コケでログインかな。競争クエストをやるのなら手札の多い育っている側のキャラでログインした方が良いだろうし。 



 ◇ ◇ ◇



 そしてゲーム内へとやってきた。ログアウトしたのがヨシミのとこなので、待ち合わせ移動する必要もないのがありがたい。光っている群集拠点種の近くなので割と明るめではあるけど、夜目を発動していないとやっぱり暗い事には違いないので発動しておこう。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 19/19 → 18/18(上限値使用:1)


 よし、これで問題なし。リアルでも夜ということもあって周りを見てみた感じだと結構プレイヤーも多いようである。そして競争クエストの野良PT募集も活発になっているようだ。……え、実況中継PT募集とかもやってるの!? しかも地味に人気っぽいし。


「ケイさん、こっち!」

「あ、ハーレさんか」


 ハーレさんにクラゲの触手で手招きされたのでそちらに向かって移動していく。まぁ野良PTに入るのが目的じゃないので、みんなと合流しないとね。

 ヨシミから少し離れた位置に辿り着くと、背中に木のあるクジラのアル、ウニのヨッシさん、タツノオトシゴ付きのクマのサヤが集まっていた。アルも無事に共生進化済みのようである。名前がアルマース2ndとサヤ2ndになってるので、2枠目の方でログインしているようだ。……多分狙いは俺と同じだろうね。


「俺が最後か」

「お、ケイも来たか。これで全員揃ったな」

「そうだね。まだ競争クエストも終わってないみたいだし、参戦出来そうかな?」

「殴り込むぞー!」

「まぁ成長体ばっかだけどね」

「育成中だから仕方ないよ! いざとなればリスも出す!」

「そうだね。状況次第で未成体を出すことも考えないと……」


 ヨッシさんとハーレさんは状況次第ではハチやリスを出すつもりのようだ。青の群集に未成体のプレイヤーだって居るはずだから、対抗戦力としては重要である。俺自身も即座に未成体に進化しようと思えば出来るけど、それは出来れば避けたい展開……。よくベスタはあの時に進化出来たもんだ。


 それにしてもアルは元々デカいクジラなのに背中に木が共生するようになって、高さも結構な事になってきたな。……それなりに海水の影響はありそうだけど、大丈夫なんだろうか?


「アルも共生進化になったんだな。これってクジラから生えてるのか?」

「あー厳密には生えてるんじゃなくて、根で巻き付いてるだけだ。見た目的には生えてる風に見えるけどな」

「ねーアルさん! それってバランスは大丈夫なの!?」

「それに関しては既に実験済みだ。実際、ちょっと問題あったし」

「問題とかあったのか」

「木が海水の抵抗を受けまくってな。早く泳ぐ時にはケイの岩の操作で引っ張られた時みたいに横に倒す事で解決したぞ」

「おー! 斜めになった!?」


 そう言いながらアルは木の方を横に倒していく。完全に真横になったとは言えないけれど、クジラの尾びれに向けてかなり傾斜のついた状態になっている。サヤのタツノオトシゴと同じで操作側を切り替える事で多少の位置変更は可能のようだ。

 

「まぁこんな感じで俺は問題ない。あぁ、ついでに海流の操作は昨日の段階で取っておいたぞ」

「……なんとなくそんな予感はしてたけど、やっぱり取ってたか」

「まぁな。クジラなら『丸呑み』を途中でキャンセルして勢い良く吹き出すように海水を吐き出せば『海を荒らすモノ』とセットで簡単に取れるんだよ」


 クジラ限定にはなるけども、海流の操作は取得方法が確定している訳か。未成体から応用スキルのポイント取得が可能みたいだし、他の属性の応用スキルも取得出来ないか狙ってみないとね。岩の操作が取得可能なんだから、出来るはず!

 あ、その前に応用スキルの操作系スキルに何があるのかまだ見れないから知らない……。まずはそっちが先か。未成体へと進化してからと思ってたけど、まだ時間がかかりそうだし既に未成体の2人に聞いておこう。


「ハーレさん、ヨッシさん、ちょっと質問」

「ん? どうしたの、ケイさん?」

「ケイさん、何ー!?」

「まだ聞いてなかったけど、応用スキルの操作系スキルってどんな種類があるんだ? 光の操作が応用スキルとは聞いた気がするけどさ」

「そういえばそうだっけ? えっと、今は一覧見れないから覚えてる範囲になるけどいい?」

「おう、それで問題ない」

「それじゃ覚えてる範囲でね。確か『炎の操作』『水流の操作』『岩の操作』『強風の操作』『光の操作』『闇の操作』くらいだったと思うよ」

「ヨッシ! 『猛毒の操作』と『砂の操作』を忘れてるよ!」

「あ、そういえば『猛毒の操作』はあったね。でも『砂の操作』は覚えがないよ?」

「え、そうなの!? もしかして何か条件付き!?」


 中々応用スキルも種類があるんだね。属性は基本的に通常スキルの物と同じ感じのようである。新たに出てくるのは光の操作と闇の操作くらいか。


「……基本的に属性は同じで規模というか威力を上げた感じなのかな?」

「聞いた感じじゃそうなるか。そういや陸地のキャラでは海水の操作って取得可能?」

「えっ、どうなんだろ? あ、確認してみたらポイント取得一覧にあるかな」

「海エリアへの進出が取得可能になる条件ってとこか。まぁ水の操作があればわざわざ取る必要性もない気はするけどな」


 今はロブスターでログインしているから、それらの確認は出来ない。まぁ水の操作があれば海水の操作は必須ではないだろう。使い道が全くない訳じゃないけど、優先度は低いかな。


「あ、そういえば昨日ヨモギとヤドカリの共生進化してた人が居ただろ?」

「共生適応をヨッシさんに教えてくれた人か? それが……あっ!?」

「あー!? 教えてもらった情報を流すの忘れてた!?」

「……俺も自分がログアウトする直前まで忘れてたから何とも言えんが、やっぱり忘れてたか。それに関しては俺の方でケイ達がログアウトした時にやっといたぞ」

「アル、ナイスだ!」


 わざわざ伝えてくれた情報を流すのを忘れてたらどうしようもない。アルが気付いてくれて良かったぜ。まぁ自分で伝えてくれれば良いんだけど、オンラインゲームには色んな人がいるからそこら辺は気にしても仕方ない。悪意があって嫌がらせをする様な相手でない限りは気にしない。


「よし、それじゃ忘れてた事も片付いていたという事で出発しよう!」

「……なんか全力で誤魔化そうとしてる気もするが、まぁいいか。まずはボスの討伐からだな」

「確か残りのボスって癒ワカメと水刃鮫だったよな? どっちが相手?」

「ケイさん達を待ってる間情報収集してたけど、東方角の競争クエストのエリアの前は癒ワカメだって聞いたね」

「癒ワカメは人気のボスとも言ってたかな?」

「あー回復系なら人気にもなるか」

「回復は重要だもんね!」

「でも競争クエストに関しての情報は微妙? あ、マップは今回はサヤが取ったからね」

「うん。今回は私の番かな。でも競争クエストに詳しい人は参加中みたいであんまり情報は集まらなかったよ」

「あ、今回はサヤがマップ担当なんだな。ちなみに情報に関しては心配無用!」

「私とケイさんでシアンさんとソウさんから聞いておいたからね!」

「ほう。よく聞けたな?」

「ちょうど回復の補給だったみたいでな。まぁ運が良かったってとこ」


 サヤとヨッシさんが俺達を待ってる間に情報とマップを仕入れておいたようだ。俺とハーレさんも情報収集をしていたけど、情報の被りはなさそうで良かったようだ。誰もが同じ情報を持ってる訳じゃないので、この辺はタイミング次第なんだろうな。詳しい情報を持ってるソウさんとシアンさんと遭遇出来てラッキーだったのだろう。


 青の群集との競争クエストの舞台となる東側のエリアは『名も無き海域・その3』で、その前に立ち塞がるのは癒ワカメか。回復系となれば持久戦は無しで一気に押し切るのが正解だろう。まぁ今の戦力なら問題ないだろう。……というか共生進化で負けたら問題だよな、半分は成長体の上限Lvなんだし。


「とりあえず全員、俺に乗れ。飛ばして行くぞ」

「「「「おー!」」」」


 目標はとりあえず癒ワカメの撃破である。倒さなきゃ先に進めないんだからこればっかりはやるしかない。みんなでアルに乗り込んで移動開始だ!

 

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