第189話 海のクエストの下準備


「進化完了ー!」

「私もこれで完了だね」

「よし、これで2枠目も成長体になったな」

「そうなるかな。私も共生進化は終わったしね」


 ナギの海原の割と近くにいたままなので、俺と同じようにそちらにいってハーレさんとヨッシさんは死んできた。魚の撒き餌によるウツボ召喚が役に立ったそうだ。……予想通り、ウツボは餌で呼び寄せるように行動パターンが決まっているようである。そしてその間にサヤも共生進化を済ませてきている。


 ハーレさんは『強化クラゲ』に進化をした後に、ささっと草原エリアまで行って進化の輝石・風を交換してきて合成進化を行い『風クラゲ』となった。属性はもちろん風、特性が浮遊と陸地適応となっている。

 ハーレさんが適応進化ではなく、進化の輝石との合成進化を選んだのはすぐに風の操作と風魔法が使えるからだという理由であった。まぁ理に適った選択なのかもしれない。……ま、魔力制御Ⅰを取得しなかったら魔法は持ってても発動はしなかったようだけどね。これもある意味重要な情報。魔法を使うには魔力制御Ⅰは必須と。

 そしてサヤと同じで特性が浮遊と陸地適応という事は、陸地への適応の為に風属性を使えばこうなる傾向のような気がする。



 ヨッシさんは『伸縮ウニ』に進化した。属性はなし、特性が堅牢と伸縮となっている。特性の種:陸地適応は有効な時間が2時間と長めなので、必要な時に使うとの事。ウニはハチへの合成進化に使うから、そこまで極端にこだわる気はないようだ。

 合成進化で混ぜるのは共に未成体の上限Lvになってからなので、当分先の話だろうけどね。まだ先の事とはいえ、どんな風に進化するのかが楽しみだね。ウニが未成体に進化すれば共生進化も使える様になるので、こっちも気になるところである。



 サヤはクマとタツノオトシゴで共生進化した結果、尻尾の長くなったタツノオトシゴを首に巻いたクマになった。タツノオトシゴは薄い緑色の首輪の様にも見えるね。

 そしてタツノオトシゴの方に移動の操作を切り替えれば、クマへ巻きつく場所も自由に変えられるとの事。また俺と同様に特性の種を使って共生適応を発生させているので、水陸両用のタツノオトシゴ付きのクマが誕生したことになる。……結構厄介なクマが誕生した気がするぞ。


「何はともあれ、6時には間に合った!」

「時間ギリギリだー!」

「それじゃ一度ログアウトするね」

「また後でね」


 そして急ぐようにサヤとヨッシさんはログアウトしていった。まぁ時間までに目標は達成出来ていて良かったって感じだな。さてと晩飯までの1時間はどうしようか。


「ケイさん、ケイさん!」

「ん? どした?」

「さっき転移して草原エリアに行った時に気付いたんだけど、全部の経路が確立されてたよ!」

「あ、そういえばそうだったな。すっかり忘れてた」

「あれ!? 気付いてたのに忘れてたの!?」

「特性の種を交換してくる時にエンの方を経由して行ったんだよ。その時にな」

「あ、進化前だったんだね! それなら納得!」


 納得してくれたようで何よりだ。後々確認しようとは思っていたけど、支配進化の事でどっか吹っ飛んでたし……。タイミング的には丁度いいから今のうちに確認しとくかな。


群集クエスト《群集拠点種の強化・灰の群集》


【群集拠点種:エニシ(始まりの森林・灰の群集エリア1)】


 経路確立   4/4

 経験値強化  71%

 進化ポイント 1368/2000

 転移地点   6/10


【群集拠点種:エン(始まりの森林深部・灰の群集エリア2)】


 経路確立   4/4

 経験値強化  83%

 進化ポイント 2000/2000

 転移地点   8/10


【群集拠点種:ユカリ(始まりの草原・灰の群集エリア3)】


 経路確立   4/4

 経験値強化  52%

 進化ポイント 1147/2000

 転移地点   5/10


【群集拠点種:キズナ(始まりの荒野・灰の群集エリア4)】


 経路確立   4/4

 経験値強化  62%

 進化ポイント 1341/2000

 転移地点   6/10


【群集拠点種:ヨシミ(始まりの海原・灰の群集エリア5)】


 経路確立   4/4

 経験値強化  77%

 進化ポイント 1672/2000

 転移地点   7/10


 ※進化ポイントは譲渡された増強進化ポイント、融合進化ポイント、生存進化ポイントの合算になります。



 経路確立は完全に終了済みになっている。……これは各エリアへの転移の為に最新マップを貰って来たほうが良いか? あ、そういやハーレさんは草原エリアまで進化の輝石・風を交換しに行ったんだから、最新マップを持っている……?


「ハーレさんって草原エリアまで行ってきたんだよな?」

「うん、そうだよ! なんかあそこの競争クエストを今日中に終わらせるってベスタさんとオオカミ組が下準備をしてたよ! 沢山人が集まってたね!」

「そんな事になってるのか」


 あ、だから草原エリアが一番遅れ気味なのか? 草原エリアの相手は青の群集の荒野エリアだったっけ。確か増援を頼んでたし、掲示板でも青の群集は厄介なことになってるような情報もあったし結構強いのかもしれない。

 今日の夜に可能なら参加するつもりの海の競争クエストも相手は青の群集だから、舐めてかからない方がいいかもしれないな。……さて未成体に進化してない状態でどこまで通用するだろうか? 場合によっては支援に回るほうが良いかもね。


「それでね、ケイさん! やっぱり経路確立に必要ないとこにも転移地点があるんだってさ!」

「やっぱりか! それでその場所の情報はなんかあったか?」

「詳しく聞く時間はなかったから軽く聞いただけだけど、なんか埋まってる金属の塊みたいなのがあるんだって! 時々表面に青白い線が走るとか言ってたよ!」

「……青白い線が走る金属の塊? それってどう考えても自然の物じゃないよな?」

「そうだね! ちなみに転移地点は調査の為に設置したものだって話だよ!」

「ほう、調査の為ときたか」


 となると、これはやっぱり何かのクエストの開始フラグ……? 常闇の洞窟が元大地の脈動って事らしいし、浄化の力に関するクエストか? タイミングを考えると、共闘イベントに関わってきそうな話になりそうだな。今いるこの惑星にはかつて人類がいたみたいだし、その遺産か何かになってくるのだろうか?


「そうだ! 今のうちに競争クエストの情報を仕入れておこうよ!」

「……それもそうだな。情報共有板か、ヨシミのとこで直接話を聞くか、どっちがいいと思う?」

「んー情報共有板だと他のエリアの情報も混ざるからヨシミのとこだね! 多分野良PTの募集もしてると思うし!」

「んじゃ、ヨシミのとこまでいくか」


 そうか、誰もが固定PTで動いている訳じゃないから野良PTの募集はしているだろうし、優位に動く為には味方同士では情報交換を必ずしているだろう。それならばその現地で情報集めるのが手っ取り早いか。

 さて、目的地も決まったので移動開始。移動手段だけど、岩の操作で岩に乗っていくか、普通にロブスターで歩くか、それとも跳ねながら行ってみるか悩みどころ。使えそうな岩自体はその辺にあるし。……共生進化状態なら移動操作制御には岩の操作を登録してた方が……いや、いつも岩があるとは限らないから駄目か。


「ハーレさんは移動、大丈夫か? また流され過ぎるとかなら俺が引っ張るけど?」

「大丈夫! その為に合成進化したんだよ! 『傘展開』『ウィンドクリエイト』『風の操作』!」


 ハーレさんは傘を広げて、風魔法で渦巻く小さな風を生成し、それを風の操作でクラゲの推進力に変えていく。なるほど、これがしたいなら進化の輝石での合成進化は正解かもしれない。風の操作のポイント使用以外での取得方法ってまだ見つかってないしね。


「そういう移動方法もあるのか。ん? もしかして傘展開って上限値消費タイプのスキルか?」

「そうだよー! ただ、どちらかというと魔力集中とかに近い感じ? 時間経過で徐々に狭まってくるんだよ!」

「あ、そうなのか。再発動の時間は?」

「それは特になし! ただ永続的には展開し続けられないだけだねー!」


 とりあえず先に進んでいくハーレさんに移動の操作をロブスターに切り替えて跳ねながら追いついていく。うん、視界だけはコケで背後に固定すれば安全な移動になるね。やっぱりこの共生進化ってのはいいな。

 ハーレさんのこの移動方法はずっと同じ状態は維持し続けられないけども、再発動はすぐに可能ということか。そういうパターンスキルもあるんだな。……でも止まる時ってどうするんだ? これだと即座には止まれそうにない気もするぞ。


「それ、ちゃんと止まれるのか?」

「止まるときにはケイさんにしがみつくから大丈夫!」

「……俺にしがみついて止まる気かよ!? まぁ良いけどさ」


 思いっきり俺頼りの止まり方だった。……まぁ急停止は無理でも海流に流されて出られないって事まではなさそうだし、大丈夫な範囲かな?



 そんな感じで移動しつつ、ヨシミのとこまで辿り着いた。成長体になったら移動速度も上がったので案外早く辿り着けた。……ん? クジラの姿が見えるって事はあれはシアンさんか? 丁度いい、シアンさんの都合さえ良ければ競争クエストの状況を教えてもらおう。


「おーい、シアンさん!」

「ん? あ、ケイさんとハーレさんだ!」

「お、ホントだ。無事に2枠目は作れたんだな?」

「あ、ソウさんもいたよ!」

「おう、いたぜ! ……2人とも幼生体って感じじゃないな? 成長体にまで進化したのか?」

「ソウさん、大当たり! 私は普通の成長体で、ケイさんはコケとロブスターの共生進化済みだよ!」

「お、それはいいね。って事は競争クエストに参加するとか?」

「そのつもりで情報収集に来たとこ。シアンさんとソウさんは時間ある?」

「あぁ、今はリアル側も含めて休憩と回復アイテムの補充をしてたとこだ。もう大詰めって所だしな」

「そうだね! 看破のお陰でかなり進んだし!」


 どうやら結構進行しているようである。それなりに開始してから時間が経ってるし、その辺りは仕方ないだろう。知らない所で進行しているのが嫌とか言い出せばオンラインゲームとかやってられないし。

 それにしてもシアンさんは更に大きくなって、ソウさんは鱗が金色になってキラキラしている。どうやら2人とも進化してるみたいだな。


「具体的にはどんな状況なのかな!?」

「あーまずはこっちの競争クエストの内容を説明しとかないとな。……擬態の敵が浄化の欠片を盗んでいくっていうのは言ったよな?」

「うん、聞いたね! それで!?」

「あれを看破で見破ると逃げていくんだがそれを追跡していくと、ある黒の暴走種へと辿り着くんだよ。浄化の欠片を集めてる黒の暴走種にな」

「……それが倒したり、誘導するべき敵の黒の暴走種か?」


 その黒の暴走種が俺達のやった競争クエストのザリガニに相当する敵だとすると、厄介な未成体かもしれないな。まぁ未成体へと進化した人も増えてきてるみたいだし、あの時よりは楽なのかもしれないけど。


「それが違ってね。そっちのクエストで言えばミズウメに相当するのかな? 半覚醒の黒の暴走種なんだよね」

「あ、半覚醒の黒の暴走種ってこっちでもいるんだな。って事はそっちを暴発で解放か……? でもクエストとしては種類が違うんだよな?」

「うん、そこが重要。半覚醒が統率持ちで、擬態の暴走種に盗むように指示を出してた張本人でさ。半覚醒になった後に浄化の欠片の性質に気付いて、そのままの状態で擬態の暴走種を利用して浄化の欠片を集めるようになっててね」

「簡単に言えば、青の群集の半覚醒と俺らのとこの半覚醒が擬態の奴らの統率権の奪い合いをしてる感じだな」


 なるほど、解放するのではなく半覚醒の状態を利用して浄化の欠片を集めていくって内容なのか。自力で集めるのではなく盗ませて集めさせた後に掻っ攫うと。ただし、その統率権を持つ半覚醒の黒の暴走種が青の群集と灰の群集の両方にいて、奪い合いの状態になっているって事なんだな。

 そうなるとこっちの競争クエストの場合は……。


「……敵側の半覚醒を潰した方が有利か?」

「そうなるんだけど、まぁお互いその可能性に気付いたからどっちにも護衛が付いてるよ」

「そりゃそうなるな。群集支援種は居ないのか?」

「群集支援種はいるぞ。半覚醒の目前で擬態の奴らを一網打尽にして浄化の欠片を集めてから群集支援種に渡すようになってるな。っていうか半覚醒と群集支援種は接触して、情報共有してからの作戦になってるぜ」

「そうそう! 初めは群集支援種を半覚醒の所まで誘導して接触させる必要があったんだよね」


 こっちの競争クエストの半覚醒は全く情報を持たない孤立無援の状態ではないのか。俺達のやったのとは違い、自分達の方の半覚醒を倒せば不利になり、相手の半覚醒は倒すべきという構図になると。

 こりゃ見事に真逆の性質にしてくれたもんだな。他のエリアと同じと思って油断して突っ込めば不利になるって訳か。……全てのエリアで一方的に情報的優位には立たせて貰えないんだろう。


「それって自分のとこの半覚醒の倒したらどうなっちゃうのかな!?」

「……やってみないと分からないってのが正直なところだな。少なくとも相手に有利になる可能性は高い」

「でも擬態の暴走種の方向は一方に決まるんだよねー。相手の方にだけど……」

「まぁ解放のための浄化の欠片はそろそろ集まるからな。半覚醒を正常化してからが問題だ」

「それで浄化の要所は確定するって話だしね。正常化した後に擬態の暴走種がどう動くのかが問題なんだよね」

「って事は、進捗状態としてはそこまでか?」

「うん、そうなるね。多分、こっちと同じくらいで青の群集の半覚醒も正常化するだろうから、その後が勝負の分かれ目かな」


 それなりに進んでいるようだけど、残りの大詰めの部分が残っているという訳か。となれば、両方の半覚醒が正常化した後の擬態の暴走種の動きが鍵になる。……ザリガニ相当の敵がいないようだけど、これは何かありそうだ。何もないという事はあり得ないだろう。

 盗んだ浄化の欠片が全て半覚醒のところに上手く送られるとも限らないし、ザリガニが溜め込んでいた例もある。それに聞いている限りだと、浄化の要所に使う浄化の実を作るための材料が足りそうにない。これはどこかで大量取得の可能性があると見た!


「よし、大体状況は分かったよ。8時くらいから参戦予定だから、まだ終わってなかったらよろしく!」

「うん、その時はよろしく!」

「さーて、頑張るぞー! あ、未成体のリスの方が良いのかな!?」

「あ、それは好きに決めてくれ。俺とシアンは未成体に進化したし、海エリアの底力も見せてやるからな」

「おー! それもそうだね。増援を頼まれた訳でもないし、とりあえずクラゲで参加しようっと! 必要そうな場合はリスも投入するけどね!」

「俺は共生進化状態で参戦だな。まぁ岩の操作で撹乱くらいは出来るだろ」

「お!? 岩の操作ってこっちじゃ見ないから有効かも」

「森林深部でもまだケイさん以外に見た事はないけどね!」

「あれ、そうなの? 海流の操作はクジラが増えただけ所持者も増えてるよ?」

「……マジか」


 それなら後でサクッとアルにも海流の操作を覚えてもらおうか。……いや、アルなら既に覚えてる可能性もありそうだな。


「あ、すまん。そろそろ時間切れだ。シアン、行くぞ」

「ホントだ。それじゃ8時までに終わってなければ一緒に暴れて青の群集を倒そうねー!」

「おう!」

「また後でね!」


 一通り説明はしてもらったし、大体のクエストの状態は分かった。丁度今は膠着状態で、動きがある少し前といったところだろう。……さてと自分のとこの半覚醒は倒すべきか、倒さないべきか少し悩むところだな。多分、有利不利は出ても攻略不可能にはならないだろう。あえて倒して浄化の欠片を温存し、一気に浄化の要所を抑えるという手もありそうだ。

 ……まぁこれはいきなり乱入して俺が独断で決める事でもないか。晩飯食ってから競争クエストのエリアに行ってからみんなで相談して決めるべき事だろう。


「状況は色々分かったけど、こりゃ厄介そうだな」

「そうだね! あのザリガニに相当する未成体とか居そうだけど、その情報はないみたいだしね!」

「……可能性としては擬態の未成体か? もしくはまだクエスト上に登場していない?」

「どっちもありえそう! 参戦してからじゃないとこれ以上は分かりそうにないね!?」

「まぁ、そうなるな。分かってたらもう行動に移してるだろうし」


 推測だけは可能だけど、それだけで断定するにはまだ早すぎる。……未成体といえば、敵にも合成進化や融合進化ってのは存在してるんだろうか……? もしいるのだとすれば、クエストが進んだら何かの個体が進化してボスになる可能性もある?


「とりあえずケイさん、そろそろ晩ご飯ー!」

「あ、そんな時間か」


 時間を見てみれば7時まであと10分ほど。これ以上は何をしても中途半端な時間になるからログアウトしておくか。さてと、晩飯食ってみんな揃えば競争クエストへ殴り込みだ! 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る