第178話 2回目の幼生体の育成


 全員が合流出来たので、2枠目の育成開始である。アルが調べておいてくれた海底が土になっている場所へと移動してきた。他の場所より深いからか少し暗めである。まぁ支障のない範囲だけど。それじゃ早速、幼生体の黒の暴走種を探していこう。アルの背中に乗ったままだと行動しにくいので、みんな下りてから行動開始。


「ケイ、索敵任せたぞ!」

「おうよ」


<行動値を1消費して『獲物察知Lv1』を発動します>  行動値 9/10


 さて、反応は……緑の矢印があちこちにある。まぁ普通に見えている目の前の小魚の群れだけど、これも経験値には違いないし、魚は海エリアの回復アイテムって事だ。積極的に仕留めていくか。っていうか、これはアルに任せた方が早いな。


「アル! この辺に今は黒の暴走種はいないから一般生物は一気に殺っちまえ!」

「いないならそれもありか! 『丸呑み』!」


 アルが大きく口を開けて、一般生物の小魚の群れを一網打尽にする。……流石はクジラの巨体、半端ないな。これは気を付けないとプレイヤーが呑み込まれる事があるのもよく分かる。っていうか、これ他の群集のプレイヤーなら普通に食べれるんじゃないか……?


<ケイ2ndがLv2に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント1、融合進化ポイント1、生存進化ポイント1獲得しました>

<『海の小魚』を16個獲得しました>


 そして一気にLvが上がっていた。一般生物は1体ずつの経験値は少ないとはいえ、一気に倒せばこうなるか。小魚も大量に手に入ったし、クジラってとんでもねぇな……。倒しそびれた一般生物の小魚は逃げていったけど、もう一度索敵しておこうか。


<行動値を1消費して『獲物察知Lv1』を発動します>  行動値 8/11


 お、今度は右方向に黒い矢印が出たって事は黒の暴走種っぽいな。……少し矢印の色が薄いのはどういう事だろう? 矢印の方を向いてみれば、そこにはホタテっぽい貝が1体。カーソルが黒いし、こいつだな。……これは発見報酬もないし、残滓か。


<行動値を1消費して『識別Lv1』を発動します>  行動値 7/11


『ホタテ』

 種族:黒の暴走種の残滓

 進化階位:幼生体


 やっぱり残滓っていうか、普通にホタテだったよ。とりあえず経験値を狙っていこう! あ、こっちに気付いたホタテが勢いよくこちらに向かって突撃してきた。貝殻をパカパカ開けて挟む気でいるようだ。


「そこのホタテが残滓だぞ! 開いてる時に中身を狙え!」

「ホタテ、食べたいなー! とりあえず倒せー! 『刺突』!」

「ハーレ、黒の暴走種は食べれないからね。『棘飛ばし』!」

「あはは、でも一般生物の貝なら食べれそうかな? 『体当たり』!」


 ハーレさんがクラゲの触手を針のように突き刺して、ヨッシさんもウニの棘を1本飛ばして突き刺す。だが、流石にホタテも危機を感じたのか貝殻を閉じてしまう。そして閉じたホタテにタツノオトシゴのサヤの体当たりが直撃した。

 ホタテの貝殻に阻まれてハーレさんもヨッシさんも攻撃は弾かれて、殆どHPは減っていない。サヤも魔法向けと言われるだけあって、体当たりじゃ微妙な感じである。流石に技もまだ少ないし、この辺は仕方ないか。寧ろこのホタテは俺の方が相手をするには向いてるのかもしれない。


<行動値を1消費して『殴打Lv1』を発動します>  行動値 6/11


 ハサミをホタテに叩きつければ、貝殻にヒビが入りHPも結構減った。よし、ホタテには打撃が有効か! 


「お、ケイが貝相手は適任か? 俺じゃ貝は小さ過ぎるしな」

「そりゃクジラだとそうなるよな。ここは任せとけ」


 色々と試していくためにスキルなしでも何度もぶっ叩いてみるか。コケの時はスキル無しじゃ攻撃すら出来なかったけど、ロブスターならスキル無しでも攻撃が出来る! ふむふむ、スキルほどのダメージ量は無くてもそこそこ使える。行動値も使わないし、どんどんHPは減らしていけるし、これはいいね。

 あ、何度もぶっ叩いてたら貝殻にヒビが広がって隙間が出来た。うおっ!? ホタテが焦ったのか貝殻を開けて振り払って……あ、逃げる気か!?


「あっ、ホタテが逃げるー!? 逃がすかー! 『巻きつき』!」

「ハーレ、ナイス! ヒビの隙間があるならこれでどう? 『棘飛ばし』!」

「ハーレ、私も巻きつきあるから、攻撃に回って! 『尾伸ばし』『巻きつき』!」

「サヤもあるんだ!? それじゃ私は『微毒生成』『毒触手』!」

「お、ハーレさんが毒持ちか!」

「そだよ! ケイさんトドメはお願いね!」

「任せとけ!」


 サヤの伸びたタツノオトシゴの尾で巻きつかれて身動きが取れないホタテは、さっき出来たヒビにヨッシさんのウニの棘が飛んでいき突き刺さり、本格的に貝殻に亀裂が入っている。そしてそこにハーレさんの微毒の触手が突き刺さり、微毒状態になっていた。まぁ微毒だけじゃ拘束済みの今ではあまり意味はない気もするけど。


 それだけ攻撃を受けたホタテのHPも残り1割といったところ。もう1撃で仕留められそうだ。行動値も通常攻撃をしている間に多少は回復していた。スキルに完全に依存する植物系と違って行動値無しでもそれなりに戦える。

 正直アルに丸呑みしてもらえば1撃で仕留められそうな気はするけど、それじゃスキルの熟練度も稼ぎにくくなるから自粛。とりあえずホタテはそろそろ仕留めようか。


<行動値を1消費して『殴打Lv1』を発動します>  行動値 8/11


 よし、これでホタテの貝殻は完全に割れた。そしてHPも無くなってポリゴンとなって砕け散っていく。2枠目での残滓戦は結構楽勝だったな。


<ケイ2ndがLv3に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント1、融合進化ポイント1、生存進化ポイント1獲得しました>


 お、またLvが上がった。……アルの丸呑みした魚の群れってどんだけ経験値あったんだよ。……そうか、クジラを変な奴が使えば調子に乗るっていうのはこういう所があるからなんだな……。

 とはいえ、安定して狩れるというのもありがたいものではある。頼り切らない程度に頑張って育てて行こう! この調子なら成長体までは早そうだ。


「よし、この調子で次々行くぞ!」

「「「「おー!」」」」


 そんな調子で獲物察知を活用しながら、敵を探して回ることになった。索敵用のスキルがあることで、かなり便利に黒の暴走種を見つける事が出来ている。


「索敵用のスキルがあるだけでこうも違うんだな」

「クジラが強力ってのもあると思うぞ。他の種族だと一気にあの数の一般生物の魚を仕留めるのは無理だろ」

「まぁな。……だが、操作してみてクジラが色物種族認定の理由が分かった気がするぞ」

「アルさん、それってどんな理由!?」

「単純な話ではあるんだが、デカすぎて小回りがきかないんだよ。あと攻撃の狙いが大雑把になり過ぎる。強い代わりにかなりの癖がある種族だな」

「ただ単に強いだけじゃバランスが壊れるからかな?」

「だろうな。ただ、例の青の群集のクジラの話であるように、無差別攻撃ならどうとでもなる。癖があるって言っても味方を巻き込みかねないっていう前提があるからな」

「……なるほどな」


 とはいっても、今のタイミングで新規で始めたプレイヤーがクジラになって大暴れという事態は起きないだろう。多分未成体のプレイヤーが撃退して終わりだ。むしろ警戒すべきは赤の群集で作られているというクジラ部隊か。……ある意味では森林深部のオオカミ組みたいなもの……? 他の群集の情報は得にくいからなんとも言えないか。



 そしてしばらくみんなアルから下りたまま黒の暴走種を探していく。ちらほらと岩が点在して、目の前には小魚の群れが泳いでいく。大体どこに行っても一般生物の小魚は普通に泳いでるんだよな。多少の量の差はあるけど。

 うーん、それにしても残滓は普通に見つかるけどオリジナルが中々見つからない。これはどうしたものか……。まぁ探していくしかないんだけどさ。


<行動値を1消費して『獲物察知Lv1』を発動します>  行動値 11/12

<熟練度が規定値に到達したため、スキル『獲物察知Lv1』が『獲物察知Lv2』になりました>


 お、使いまくってたらLv上がったな。そして視界に黒い矢印が出てくる。今までのより矢印の色が濃い? もしかしてこれはオリジナルの黒の暴走種のパターンか! 矢印はそこの岩場の下を指している。って事は隠れているのか! でも幼生体には特性はないから、獲物察知でも多分確認できるんだろう。


「みんな、多分オリジナルの黒の暴走種だ!」

「お、マジか!」

「ケイ、どこかな?」

「そこの岩場の隙間だ」


 近寄ってみれば、岩と岩の隙間に何かが隠れている。カニとかそういう系統……? 姿が明確に確認出来るまでは迂闊に近寄らない方が良いか……? よし、試しに誘き出し作戦でもしてみよう。


「……サヤ、上の方に回り込んで死角からアイテムの魚を岩の隙間の前に落とせるか?」

「隙間の中から誘き出すのかな。分かったよ」

「ヨッシさんとハーレさんは左右から挟み込んで、出てきたところを刺すか拘束でいけるか?」

「了解」

「分かった! ケイさんは!?」

「俺は出てきたところを上からハサミで抑え込む。その後は拘束役を交代しながら操作系スキルを狙っていくぞ」

「……俺は?」

「アルは危なそうな時に敵ごと引っ掻き回してくれ」

「まぁ、そんなとこか」


 大雑把な作戦はこれで決定。俺とサヤは岩場の上部に移動。アルはその更に上で待機。ヨッシさんとハーレさんはそれぞれ岩の隙間の左右に移動して、準備は完了した。もちろん行動値は全快させている。まぁ移動してる間に勝手に回復しただけだけど。


「サヤ、頼む」

「うん。これでどうかな!」


 サヤがインベントリから取り出したアイテムの小魚が岩場の前へと落ちていく。地下湖の魚には虫の死体が、大型の鳥には川魚が誘き出しの餌として有効だったけど、ここならどうなる? 


<幼生体・暴走種を発見しました>

<幼生体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>


「カニとかじゃないの!? 『針伸縮』!」

「わっ、ウツボだね!? 『巻きつき』! って、わー!?」

「刺さったけど、これは厳しいね?」


 げっ、よりによってウツボかよ!? かなり凶暴なやつじゃねぇか! 大きさ的には1メートルくらいで、黄色っぽい体色か。ってそんな事言ってる場合じゃない。

 ウツボの尻尾の方にヨッシさんの伸ばした針というか棘が突き刺さり、ハーレさんが触手で巻き付いて首を抑えたが、凶暴なウツボが暴れまわり2人とも振り回されている。このウツボを抑え込むにはまだLvが足りないらしい。げっ、ヨッシさんに噛み付こうとしてる!?


「っ!? 『棘防御』!」


 咄嗟にヨッシさんが『棘防御』というスキルを発動し、ウツボの噛みつきを防いでいる。見た目では分からないけど、棘の硬度を上げている感じだろうか? でも、ウツボもそれを噛み砕こうと力を入れている様子である。スキル名の針と棘の違いはなんだろう……? 


<行動値を1消費して『はさむLv1』を発動します>  行動値 11/12


「ヨッシさんを離しやがれ!」

「ケイさん、ありがと! 助かったよ」


 その隙を狙ってハサミでウツボの頭を挟み込み、近くの岩へと押し付ける。これでヨッシさんは噛みつかれた状態から解放されて逃げられるし、暴れるウツボの頭は抑え込んだ。俺のロブスターのハサミなら何とか抑え……いや、結構な力があって長時間は無理そうだな。はさむのスキルの時間が切れたら、これは逃げられる。……いきなりだけど仕方ない。


「アル、引っ掻き回せ! みんなは即座に退避!」

「サヤ、ヨッシをお願い! 『傘展開』!」

「うん! 『尾伸ばし』『尾巻き』!」

「サヤ、ありがと!」

「行くぜ! 『旋回』!」


 アルはクジラの巨体を捻って縦に回転し、尾びれで海底の土を掬い上げるように抉り、そして俺らごと巻き込んで攻撃をする。しっかりと土の操作の取得狙いで、土を使っていた。ダメージが無いからって容赦ねぇな!? 

 

<行動値を1消費して『体当たりLv1』を発動します>  行動値 10/12

<行動値を1消費して『体当たりLv1』を発動します>  行動値 9/12


 タイミングを見計らって、体当たりで緊急退避! 2連発したので背後に向けて勢いよく2回跳ねていく。……一気に逃げれるけど、スキル名に偽りありな気がする。いや、俺の使い方が違うだけ?

 みんなを見てみれば、ハーレさんはアルの動きで発生した海水の流れに乗り上部へ浮き上がり、サヤは尾でヨッシさんの棘を掴んで引っ張り上げていた。あのタツノオトシゴの尾ってどうやら伸ばすスキルと巻き取るスキルの2種類あるらしい。とりあえず、全員巻き込まれずにアルの攻撃を避けられたようだ。


 肝心のウツボといえば、アルによって乱された海水と海底の土をぶつけられて近場の岩場に衝突し、HPは半分ほどまで減っていた。ただし、凶悪な目でこちらを睨みつけてきている……。こりゃ幼生体でも厄介なのを引き当てたっぽいね。

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