第179話 ウツボとの戦い


 岩の隙間に隠れているからカニか何かのその系統の敵かと思っていたら、予想外にウツボであった。ウツボって『海のギャング』とか呼ばれたりするやつだよな。……こいつ、発見報酬が出たって事は地味に厄介なんじゃないか? いや、発見報酬は共有化されなくなってるから、そっちは問題じゃない。問題なのは未討伐って方だな。


「とりあえずアルはヤバそうな時にさっきと同じようにやってくれ!」

「それはいいが、どうやって倒す? 俺がサクッと倒すのが早そうだが……」

「最悪の時はそれで頼む。とりあえずは頭ぶん殴って、朦朧状態にしてやる!」

「……確かにそれは効果ありそうだな」


 とはいえ、臨戦態勢で凶悪で鋭い歯を持つウツボと戦うってのも結構厳しそうだ。アルに力任せで任せれば多分楽勝だろうけど……。とにかく動きを止めないことには、こちらが種族的に圧倒的に不利か。これはスキル狙いをしてる余裕はなさそうだな。こいつを追い払って、別の幼生体で称号を狙うか……?


<行動値を1消費して『威嚇Lv1』を発動します>  行動値 8/12


 既に戦闘状態では追い払う効果はなし。でもウツボも警戒して距離は取ってるから全く無意味って訳じゃなさそうだけど……。よし、今のうちに作戦会議だ。まずはウツボの動きを封じる。称号での操作系スキル取得も今回限りって訳じゃないし、無理はしない。


「アル、合図したらもう1回さっきの頼む。岩にウツボを叩きつける感じで」

「岩に向かって吹っ飛ばせばいいんだな。任せとけ」

「サヤ、ヨッシさん、2人で協力してアルの攻撃の後に一気に距離を詰めれるか?」

「うーん、ヨッシを投げるような形でよければ出来るかな?」

「え、私投げられるの? 別にいいけど」

「ならそれで。ヨッシさんのあの針というか棘を伸ばすやつって近い方が効果は高いよな?」

「まぁ全部の針が伸びる訳だしね。サヤに投げられてから至近距離からやればいい?」

「おう、それであいつを串刺しにして岩に縫い付ける。ハーレさんはそこに微毒を食らわせてやってくれ」

「うん、分かったよ!」


 その後に俺の殴打で頭をぶん殴って朦朧状態にしてから総攻撃で仕留めてやる。ヨッシさんの針が貫通するかどうかは正直まだレベル的には怪しいけど、複数箇所にウニの棘が刺さるだけでもかなり違うだろう。さて、どのタイミングで仕掛けるか……って、先に動かれた!? 狙いは……サヤ!? まだスキルの効果時間が把握しきれてないのがキツいか!?


「あ!? サヤ、危ない!?」

「やらせるか!」


<行動値を1消費して『体当たりLv1』を発動します>  行動値 7/12


 反対向きってのがちょっと不安要素だが、これが一番早い移動かつ攻撃だ。これでウツボの頭にぶつかってやる! 間近で見るとより凶悪な歯と顎をしてるな。って、あれ!? 少し狙いが逸れて外した!? ヤバっ、あのウツボの噛みつきは多分かなりダメージがあるぞ!? 


「『尾伸ばし』『尾巻き』! ケイ、ぎりぎりで逸してくれてありがと!」

「え、あれ? 外した筈だけど、どうなった?」

「ケイさんの攻撃自体は外れてたけど、ウツボの体勢は崩してたよ」


 通り過ぎて見えた状況は、少し離れた岩に尾で巻き付いて移動している最中のサヤと、噛みつきが空振りに終わったウツボの姿だった。どうやら俺の体当たりそのものは不発でも、妨害そのものには成功したらしい。

 そうか、これが海の中での戦闘か。周りが海水で囲まれている以上は、それなりの勢いがあれば海水の動きの影響を受けるらしい。そして邪魔されたウツボがまたもや迫ってきた。厳つい顔が更に凶悪になっている。ウツボって普通に甲殻類とかも食うらしいから、あの噛みつきだけは絶対に避けないと……。


「とりあえず次の攻撃の前にもうやっとくぞ! 『旋回』!」

「ヨッシ、行くよ! 『巻きつき』『振り回し』!」


 アルが今度は海底を巻き込む上下での旋回ではなく、左右での旋回でウツボを岩場に叩きつけるように吹き飛ばす。ウツボの残りHPは2割ほど。そこに追撃の為にサヤが巻きつきでウニのヨッシさんを掴み、グルグルと振り回して砲丸投げのように投げ飛ばした。ほう、そんな技もあるのか。


「それじゃ串刺しにするよ。『針伸縮』!」

「よし、私もだね! 『微毒生成』『毒触手』!」


 そして至近距離からのヨッシさんのウニの棘の全方位串刺し攻撃でウツボの胴体を何ヶ所も貫いていく。やっぱりまだ貫通は出来ないようだ。そこにハーレさんの微毒も追加され、動きが鈍くなっていく。よし、残りHP1割! 


<行動値を1消費して『体当たりLv1』を発動します>  行動値 6/12


 暴れて逃げ出さないうちに追撃を仕掛ける! よし、今度は狙い通りウツボの頭部に命中。今回は当たったけど背後への体当たりは狙いが定めにくいな。少しすれば慣れるだろうけど、練習はしといた方が良いかもしれない。少しずれればヨッシさんに体当たりしそうな位置だったし。

 一応体当たりでも朦朧状態に入ったみたいだ。これならもう逃げられる事なく仕留めきれる。


「これでくたばれ、ウツボ!」


<行動値を1消費して『殴打Lv1』を発動します>  行動値 5/12


 そしてウツボの頭に俺のハサミを叩き込む。これでHPは全部無くなって、ウツボは息絶えポリゴンとなって砕け散っていった。思ったように操作系スキルは狙えなかったけど、まぁ相手が悪かったかな。油断すると危険な敵だったし仕方ないか。


<ケイがLv5に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>

<幼生体・暴走種を討伐しました>

<幼生体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>

<規定条件を満たしましたので、称号『幼生体・暴走種の討伐』を取得しました>

<融合進化ポイントを3獲得しました>

<規定条件を満たしましたので、称号『海水を扱うモノ』を取得しました>

<スキル『海水の操作』を取得しました>


 あれ!? 操作系スキルはさっぱり駄目だと思ったら、取得出来てるんだけど!? え、少し体勢崩させただけで良いのかよ!? しかもウツボは結構な経験値量だったから、見つけにくい経験値ボーナスのモンスターだったのかもしれない。……ウツボは幼生体としては強敵なのかもね。


「よし、海水の操作と土の操作ゲット!」

「ま、アルはそうだろうな。俺も海水の操作は手に入れたぞ」

「私も海水の操作は手に入ったよ。ヨッシを投げた際の海水の乱れもカウントされるみたいかな……?」

「え、サヤも? 私もだよ」

「私もあるよ!? あれ!? 何で条件満たしたの!?」

「ハーレは、回避する時に傘展開で海水の流れを使った時じゃない?」

「あれでいいんだ!? 海水の操作って条件緩いね!?」


 これは海エリアの人が簡単に手に入るって言ってた理由がよく分かった。……こりゃほんとに簡単に手に入るわ。どの操作系スキルよりも判定が緩いんじゃないか……? 海以外のエリアに行くには適応進化や特性の実や種以外の必須級のスキルみたいだから緩いのかもしれないけど。


「Lvは意外とサクサク上がってるけど、これってスキルの熟練度が微妙じゃない?」

「あ、それは私も思ったかな? 1枠目の時ってケイの水の操作で的あてゲームで鍛えたんだったよね」

「なら、ちょっと時間とって熟練度稼ぎするか? それで派生スキルやらを出して、進化先が出てから一気にレベル上げてもいいしな」

「そうだな。アルの土の操作で熟練度上げの的あてでもやりますか」

「賛成ー! 今のままじゃスキルの種類も足りないし、威力不足だよね!」

「ただ、もう1人くらい的を用意する役目が欲しいとこだな」

「それなら1枠目の方を交代しながら持ってくるか? 別に2枠目にこだわる必要もないし」

「あ、確かにそうだよね。それじゃそうしよっか」


 という事で、しばらく進化先を出す為と、スキルの幅を広げる為に熟練度稼ぎをする事に決定。ただ単に進化させるだけなら無理にする必要もないけど、せっかく育てるのなら強く育てたい。

 操作系スキルの練度の低いハーレさんとそもそも操作系スキルの苦手なサヤは他のスキルを鍛える事に集中してもらって、俺とアルとヨッシさんで的の用意は交代しながらやっていこう。


 土の操作とかは他の称号で狙うかな。火の操作も取得方法が判明したし、一般生物のザリガニでも見つけて焼いてみれば良いかもしれない。その後、焼け死ぬ前に水で消火して火の操作と水の操作の両方狙って、ついでにマッチポンプも取っていこう。

 成長体になってコケと共生進化して、陸地を移動できるようになったらミズキの森の湖にでもザリガニがいないか探検だな。コケの方が陸地も水中も適応してるから、『共生適応』とやらで多分どっちも大丈夫になるはず!


 いやー、色々と情報が揃ってるから育成計画を立てるのも楽しいね。まぁとりあえず今は、はさむか殴打からの派生スキルを狙って、単純強化以外の進化先を狙っていこう。

 斬撃か打撃か、どっちがいいかな? 両方兼ね備えたのがあれば良いんだけど、試してみないと分からないからやるだけやってみるしかないか。


「それじゃ私が1回ハチを持ってくるね」

「お、ヨッシさん、ありがとよ」

「いえいえ。後で私も鍛えさせてもらうからね。その時はよろしく」

「おう、任せとけ」


 そしてヨッシさんはハチを持ってくるために一度ログアウトした。未成体だからそれほどここまで来るのには時間はかからないだろう。現在時刻は大体9時半くらい。今日中に成長体には無理かもしれないけど、派生スキルを取得するくらいまでは行けるだろう。


「よし、それじゃ時間も勿体無いからやっていくか!」

「「「おー!」」」


 ヨッシさんが辿り着くまでの間は、行動値が尽きるまでやって尽きたら交代という形で熟練度稼ぎを行っていく。しばらくしてヨッシさんも辿り着き、組み合わせを変えながら熟練度稼ぎを続けていった。



 

【ステータス】


 名前:ケイ2nd

 種族:ロブスター

 所属:灰の群集


 レベル 1 → 5

 進化階位:幼生体


 HP 500/500 → 500/980

 行動値 10/10 → 10/14


 攻撃 4 → 12

 防御 4 → 12

 俊敏 3 → 11

 知識 1 → 5

 器用 1 → 5

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