第164話 みんな揃って


 とりあえずあの流れがクジラの人のスキルの可能性が高いという事と、近くにいる可能性をみんなに話しておいた。


「……は? あの激流って海エリアのクジラの人のスキルなのか!?」

「……そういえば、海流の操作については取得の時の流れを見た覚えがありますね」

「タケさんもあの時見てたんだ!?」

「えぇ。情報共有板では書き込む事はしていませんが、よく覗いてはいますよ」

「……俺もだ。いつも情報には感謝している」

「……だけど、びっくり。応用スキルって凄いね」

「確かにな。まさかスキルだったとは思わなかったぞ」


 確かにあの激流については元々そういうスキルがあるという事や、事前にクジラの人が張り切って海流の操作を使いまくっていたという情報を聞いていなければ気付かなかった可能性が高い。だけどクジラの人も悪気があった訳ではないだろうし、海エリア側としても想定外だったんだろうね。……ぶっちゃけあの様子なら、海エリア側に任せておけば海水の地下湖までのルートは海エリア側から確定させる事も出来るだろうし。


「それでなんだけど、向こうは向こうで悪気があった訳じゃないみたいだから……」

「あー、別に怒ってはねぇよ。なぁ?」

「そうですね。わざとであれば流石に怒りますけど、そうでないなら気にはしません」

「……時には寛容さも重要だ」

「……そのおかげでヨッシに会えたから、不満なし!」


 どうやら特に怒っているという訳でもなさそうである。……PTを抜けていった人の方が気にはなるけど、流石にそっちは俺じゃどうしようもないか。

 さてザックさん達への説明はそれでいいとして、俺達の行動方針も決めなきゃな。まぁ反対されるとも思ってないけど、こういう事はちゃんと決めていこう。


「海側の人達と合流してみようかと思うんだけど、どうする?」

「私は賛成かな。多分そんなに遠くないよね」

「俺も賛成だ。クジラの人とイルカの人が一緒にいるっぽいし、丁度いい」

「もちろん賛成! 反対する理由がないね!」

「そうだね。それで良いと思うよ」

「んじゃ、そういう事で。ザックさん達はどうする?」


 多分、こっちも反応も予想はつくけど一応聞いておかないと。思い込みだけで動いて全然違う内容を押し付ける事になっても駄目だろう。初対面の人が3人もいる訳だしね。


「折角ここまで進んできてんだ。そりゃ行くに決まってるだろ!」

「そうですね。撤退する理由もなくなりましたし、逆に進む理由すら出来ましたよ」

「……俺も同意だ」

「……わたしも。あとヨッシともう少し話したい」

「ヨッシ、なんか気に入られちゃったね!?」

「あはは、まぁこれはこれで良いのかな?」

「良いんじゃないかな? 同じ種族の友達も良いものだよ」

「そうだね! 同じ種族だとスキル情報の共有もしやすいしね!」

「それじゃ、みんなで合流しに行きますか」

「「「「おー!」」」」


「なんかこういう仲良いPT見てると固定PTってのも羨ましくなってくるな」

「そうですね。それは同感です」

「……わたし達で組んでみる?」

「……俺は良いぞ」

「それも良いかもしれませんね」

「そうしてみるか!」


 そしてザックさん達の野良PTも結構馬が合っていたのか、臨時の野良PTから固定PTへと変わっていっている様子である。それぞれのリアルの都合もあるだろうからいつでもとはいかないだろうけど、それでもこうやって人の輪が広がっていくのも良いだろう。

 ……そういや、折角だし良い情報を教えておいてあげようかな。足止め分の補填って感じで。後で情報共有板に情報は流すけど、これに関しては場合によっては混雑するかもしれないからね。


「ところで、ザックさん達の中で識別を持ってる人っている?」

「あれを教えるんだね、ケイ」

「そのつもり。足止めの補填分って事で」

「……なんだ、突然? 識別なら俺は持ってるぞ」

「私も持ってますね。基本ソロでしたので、自分で持っている必要がありますから」

「……俺も持っている」

「……わたしも。ソロなら必須」


 ザックさん達はみんな基本的にソロだったのか。それなら持ってて当然かもな。何にしてもちょうどいい話だな。全員が持ってるなら、新たに取得する必要もない。


「よし、それじゃタケさんが陣取っているその石を識別してみたら良いよ」

「……この石をか? なんの為に……?」

「いえ、無意味な事は言わないでしょう。まずはやってみてからです。『識別』! これは!?」

「……『識別』。……なるほど、情報感謝する」

「なんだなんだ!? そんなに凄いことでもあるってのか!? 『識別』! って未成体に『看破』だと!?」

「……『識別』。うん、これ良いね」


 よし、これでザックさん達は全員、看破の取得が出来た。看破は色々と便利だろうから、積極的に広めていくつもりである。ボス戦、通常戦、対人戦とありとあらゆる面で有効に使えるだろう。


「でもいいのか、こんな情報さらっと教えてよ?」

「後で情報共有板に流すから別に良いよ。でも内容が内容だからちょっと混雑しそうだし、その前の特別サービスって事で」

「そうか。まぁそういう事なら、ありがたく使わせてもらうぜ」

「何から何までありがとうございます。……何かお礼をしたいところですが、生憎とこれといった情報は……」

「それなら何か良い情報があった時にでも情報共有板に書いてくれればいいよ」

「……そうですね。ただ情報を貰ってばかりというのも駄目ですよね」

「そうだな。俺達も積極的に色々と試してみようぜ」

「……ん、賛成」

「……それもまた1つの道か」


 まぁ別に見るだけでも良いとは思うけどね。まぁ折角大人数でプレイするゲームなんだし、勢力分けがされてるんだから味方陣営同士は積極的に仲良くやろうじゃないか。


「それじゃ各自、纏属進化して出発しますかね!」


<『進化の軌跡・海の欠片』を使用して、纏属進化を行います>

<『水陸コケ』から『水陸コケ・纏海』へと纏属進化しました>

<『海中適応』『海水の操作』『海水魔法』が一時スキルとして付与されます>


 そして全員が纏海になり、出発準備は完了した。進化したザックさん達を見てみたらみんな青い色を基調にした姿になっている。基本的には大きく姿は変わらないんだな。さてと小型が多いとはいえプレイヤー9人か。1PTが6人までだからどうしても2つのPTに分散って事になってしまうし、経験値やアイテム取得もバラけるから戦う順番をPT毎に交代しつつ進むのがいいか……?


 とりあえず全員が海水の中に入り、進みながら相談という事になった。一応PTで交互に戦闘で、位置が悪ければ近い方のPTが優先という事に。……とはいっても海流の操作で一掃されたのか、全然敵がいないけど。

 配置としては俺らのPTが先行して、後ろからザックさん達のPTが着いてくるという感じである。そしてイッシーさんの頭に光るタケさんがいて、背にはザックさんが根で絡みつき、ザックさんに翡翠さんが掴まっていた。4人で共生中なのかと言いたくなる光景だけども、光源の事や移動速度を合わせる事を考えると、そういうのもありかもしれない。


「敵がいねぇ……。敵も攻撃しつつ、プレイヤーもあっさり流していくって海流の操作って凄いもんだな」

「応用スキルなら未成体からポイント取得可能になってるよ!」

「あ、そうなのですか? それなら強力なのも納得ではありますね」

「こっちにも応用スキル持ちは1人いるけどな」

「あぁ、そういえばクジラの方が海流の操作を取得したきっかけはケイさんの応用スキルの取得情報からでしたよね。岩の操作でしたっけ?」

「あぁ、そうだぞ」

「岩の操作……? って事はミズウメを倒した時のあれは応用スキルだったのか!? だからとんでもない威力だった訳か!」

「……ちょっと見てみたい?」

「そうですね。私も少し興味があります」


 そういえばザックさんはミズウメとの戦闘の際に赤の群集の足止めをしててくれたから、俺が岩の操作を使っている所を見てたっけ。まぁあれは厳密には暴発との併用だけどね。というか、岩の有無をザックさんに確認してもらってたんだった。今なら称号利用でうまく狙えば、取って取れなくもないだろう。岩の操作辺りは取りやすそうな気もするし。

 そしてタケさんも翡翠さんも岩の操作に興味を示している。別に見せるのくらいは別に良いけど、肝心の岩が……。岩の操作用の岩って、今の俺の魔法じゃ作れないから天然物に頼るしかないんだけど、どっかに丁度いいものはないかな?


「ケイさん、ケイさん! 岩ならさっき転がってるの見たよ!」

「お、マジか。それな……っ!」

「ん? ケイ、どうしたよ?」

「アル、相談だ。良いこと思いついた」

「……今度は何をやる気だ……?」

「アルにみんなを乗せて、岩の操作で牽引していく。アル、岩にしがみつくだけなら問題ないよな?」

「いつも私がやってる事をケイが岩の操作でやるって事かな?」

「あー水中なら、勢いさえあれば地面にぶつからずにいけるか」

「ケイさん、速度の出し過ぎだけは勘弁してね?」

「それは大丈夫。アルがエンの根にしがみついた時とは違って速度調整は出来るからな」

「うん、それならいいよ」


 流石にヨッシさんが厳しい程の速度を出す気はない。どのくらいの速度になるかは実際やってみないと分からないけど、今の移動速度よりちょっと早くなる程度だろう。……そういや、まだ岩の操作での最高速度って試してなかったっけ。


「えーと、いまいち話が見えないんだが……?」

「えっとね! ザリガニを誘導してた時のあれを岩の操作でやるんだよ!」

「え、そんな事出来るのか!?」

「いや、初実験だけど。まぁ何事もやってみないとな!」

「……新情報を発見する過程の片鱗を見た気がしますね……」

「……発見とはそういうものだ」


 とりあえず、少しだけ戻って使用する岩の確保といこうか。まずはあれがないことには話が始まらないからな。


「ケイさん! これだよ、これ!」

「あー、これはどっかが崩れた感じだな」


 見つけたのは崩落でもあったかの様に崩れた岩場。……これ、未成体が擬態とかしてないよな? 一応看破で確かめておくか。


<行動値を1消費して『看破Lv1』を発動します>  行動値 33/34(上限値使用:11)


 ……特に看破には反応なし。って、そういや未成体相手には俺がやっても意味ないわ!


「ヨッシさんか、ハーレさん、そこの岩場の看破お願いできない?」

「岩場だねー! 『看破』! うん、問題ないよ!」


 それならこれは単なる岩だから問題ないな。これで移動するなら小石移動もいらないから、移動操作制御も切っておこう。ハーレさんの巣のイス型小石にも移動しておくか。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 33/34 → 33/38(上限値使用:7)

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 32/38(上限値使用:7)


 移動も完了したから次だな。比較的アルが掴まりやすそうな岩塊を選んでいこう。うん、変に尖った方向もなくてちょうど良さそうな岩があるな。


<行動値を19消費して『岩の操作Lv3』を発動します>  行動値 13/38(上限値使用:7)


 よしよし、無事に岩を制御下に置けた。これで俺の準備は終わり。


「アル、この岩が良いと思うけど、どうだ?」

「良い感じの岩だな。さてとサヤとかイッシーさんは中に入っとくか? 5人までなら入れるぞ」

「中に入れるということは、アルマースさんは移動拠点種なんですね?」

「おう、そうだ。外の様子も見れるスキルもあるからな」

「……ケイさんは岩の操作を使うので外にいる必要があるでしょうから、中での灯りは私がしましょうか」

「私は外にいるよ! サヤとヨッシは!?」

「私はサイズ的にアルさんの中にいた方がいいかな」

「私も中でって言いたいとこだけど、黒の暴走種対策で外に出てた方がいいだろうね」

「……ヨッシが外なら、わたしも外」

「……俺は中にいよう」

「俺は外で直接見てみたいぜ!」

「よし、それぞれ決まったな。それじゃ『樹洞展開』!」


 それぞれの理由もあり、外が俺、アル、ハーレさん、ヨッシさん、翡翠さん、ザックさんとなり、アルの中はサヤ、イッシーさん、タケさんになった。アルは一時的に中へ入る条件を無条件に設定し直して、サヤとイッシーさんとタケさんが中へ入っていく。……コケを置いておけば中の灯りも俺が出来るけど、タケさんの気遣いを無駄にするのも無粋なので言わなくて良いだろう。

 そして外側はハーレさんの巣にハーレさんと俺が待機して、ヨッシさんと翡翠さんはアルの葉に掴まっている。ザックさんはどこに掴まるか悩んでいる様子だ。


「よし、後はザックさんか」

「んー、どっか良い場所ねぇかな?」

「あ、こういうのはどうだ? アル、根の操作で岩を掴んでくれ」

「もうか? まぁいいけどよ。『根の操作』!」

「おっ!? ケイさん、ここに掴まれって訳だな?」

「そういう事」

「あ、俺の根に掴まるんだな?」


 そしてザックさんがアルの根に、自身の根でしがみついていく。これはあれだ、アルがエンの根にやった事と同じようなもんだな。


「準備完了! 出発だー!」


 出発準備は整った。後は進むのみである!

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