第163話 洞窟の中での出会い


 纏光の実験も終わったし、みんなの海水に対する耐性も分かったのでそろそろ出発しても問題ないだろう。いつまでも陸地部分の安全地帯に比べると遥かに狭い場所に留まっていても仕方ない。


<纏属進化を解除しました>

<『水陸コケ・纏光』から『水陸コケ』へと戻りました>

<『閃光』が使用不可になりました>


 とりあえずこれ以上は不要なので、時間切れまではまだまだあるけど纏光は解除しておく。海中以外に行く時ならみんなが使うのは有りかもしれないけど、纏光は俺には不要な纏属進化だね。そして元々持ってるスキルは当たり前だけど、使用不可にはならないわけだ。……もしそんな事になったら運営に苦情を言わないといけない。


「さて、それじゃ改めて出発しますか!」

「「「「おー! 『纏属進化・纏海』!」」」」


<『進化の軌跡・海の欠片』を使用して、纏属進化を行います>

<『水陸コケ』から『水陸コケ・纏海』へと纏属進化しました>

<『海中適応』『海水の操作』『海水魔法』が一時スキルとして付与されます>


 そしてみんな揃って纏海をしていく。海水の中の移動にはこれが必須であるという事はよく分かった。そういや海エリアの人が陸地移動する場合ってどうするんだろ? 普通にカニとかの陸地移動が可能なプレイヤーもいるだろうけど、俺の水球移動みたいな方法で移動するんだろうか?

 ぶっちゃけ、海エリアのプレイヤーにとっては移動操作制御が必須だよな。あ、でも海水の生成量も多いみたいだし、サイズにもよるんだろうけどPTの1人が移動用の海水を常時用意しておくというのも有り……? 海水の操作は取得は簡単とか聞いたしさ。うん、それは有り得そう。



 それから約1時間くらい、似たような光景を同じような手法で進んでいくと大体の様子が掴めてきた。基本的に単純な移動に専念すれば10分も移動すれば大体洞窟の上部に先程と似たような安全地帯が設定されている。ただし比較的近い距離に何ヶ所も用意されているせいか、どこも基本的にあまり広くはない。そして、海中洞窟にある安全地帯には光源が一切ないので注意していなければ見落としやすくなっていた。

 だけど、分かってしまえばそれほど見落とす事もなく見つける事はそれほど難しくない。知ってるか知らないか、もしくは気付くか気付かないかが常闇の洞窟の攻略の分かれ目だな。ただし、多分気付かなくても労力さえかければ踏破自体は可能だと思う。


 そしてどこの安全地帯にも石に擬態した石海ガニか、壁の一部に擬態した石海貝のどちらかがいた。間違いなく海の小結晶の補充用だろう。海水中にいる黒の暴走種からは海の欠片が手に入るので、足りなくなるという事はなさそうである。

 後は闇ガニや光巻き貝とかの残滓とか、新しい敵でも闇イカとか光ダコとかの残滓ばかりであった。っていうか、傾向として魚の黒の暴走種は少なめっぽい。見かける魚は一般生物が殆どだ。

 ……残滓が多いので、やっぱり最短経路を進んでる先行PTがいるのはほぼ確定。多分寄り道すればオリジナルの黒の暴走種もいるだろうけど、それは今回はなし。経路確立が最優先である。



 そんな感じで特に変化もあまりないままに進んでいくと、灯りが見えている場所を発見した。これは多分、先行していたPTに追いついたか?


「先客がいるみたいかな?」

「みたいだな。つってもそろそろ効果の時間切れが近いぞ」

「別に敵って訳じゃないし、一緒でもいいんじゃない?」

「それもそうだね!」


 それだけ言うとハーレさんは灯りのある安全地帯へと泳いでいき、よじ登っていった。人見知りという言葉とは無縁だよな、ハーレさんは。


「お邪魔しまーす!」

「……びっくりした。こっちに来ている他のPTもいたんだ?」

「結構こっちはハードですからね」

「こら、ハーレ。いきなり飛び出て驚かしたら駄目だよ? あ、入っても大丈夫ですか?」

「あ、はい。こちらは小型が多いので大丈夫ですよ」


 いつもの様にヨッシさんがハーレさんを諌めながらも、気を遣い状況を訪ねてくれる。この感じなら一緒に休憩させてもらっても問題なさそうか。俺もサヤもアルも全員が上りきったところで纏海の時間切れになった。ふー、ぎりぎりだったか。

 そこにいたのはキノコの人、イノシシの人、ハチの人、草花の人である。石の上に陣取っているキノコの人の傘が光っているので光源はこの人か。って、なんか1人は見覚えがあるぞ?


「誰かと思えばケイさん達じゃねぇか!」

「お、ザックさんか!」

「ザックさん、お知り合いですか?」

「あぁ、あれだ。さっき言ってた競争クエストで一緒に戦ったコケの人のPTだ」

「あ、なるほど。この方たちですか」

「ザックさん達も海狙いー!?」

「そうだぞ。つってもこっちは野良募集のPTだけどな」

「コケの人のPTの方々はいつも色々と情報をありがとうございます。あ、自己紹介がまだでしたね。キノコのタケと申します」

「あ、俺はコケのケイです」


 それに続いてみんなが自己紹介をしていく。キノコのタケさんは丁寧口調の若そうな男性。イノシシの人はイッシーさんで寡黙な感じの渋い声の男性。ハチの人は翡翠さんで声の感じから若い女の人。イッシーさんは口数が少なく、翡翠さんはなんだかヨッシさんをじっと見つめている。同じハチとして何か気になる事があるのだろうか?


「えっと、翡翠さん? なんで私をじっと見てるの?」

「……その見た目、良い。どうやって進化するの?」

「えーっと!? ケイさん、これって教えても大丈夫!?」

「いったんから注意事項さえ聞いてたら、基本的に問題ないぞ。あとはヨッシさんの判断に任せる!」

「……課金アイテムの話ならちゃんと聞いた。大丈夫」

「うーん、わかった。同じハチっていう縁で教えよう!」

「……ヨッシに感謝!」


 半ば押し切られるような形で翡翠さんにヨッシさんの進化情報を教えていく事になった。まぁ他の群集なら止めるけど、同じ群集の同じ種族仲間で仲良くしておくのも良いだろう。ここで会ったのも何かの縁だろうしね。


「そういえば、野良PTなのに4人なのかな?」

「あ、いえ、元々は6人だったのですが……」

「……今は先に進めん」

「……あれは厄介。今、足止めされてる」

「1人は2枠目の目的の種族が途中でいたから足止め食らった時点で抜けていったんだよ。もう1人は足止めとは全く関係なく逸れて纏海の時間切れで溺れ死んで、群集拠点に帰っていった。俺らも撤退しようか相談してたとこだ」

「……1人は足止め関係ないんだね」

「足止めって何!? なんかあるの!?」


 何かに足止めを食らって、2枠目の目的を確保済みだったから撤退していった人の気持ちも分からなくはないかな。どれくらい足止めされてるのかは分からないけど、本人の目的自体は達成してるのならそれも仕方ない。……逸れて溺れ死んだプレイヤーの人は……うん、ご愁傷さまとだけ。それはどうしようもない。それにしても足止めって何だろうか?


「ケイさん達はまだ遭遇してないのか。……ちょっとこの先に進むとだな」

「……ザック、来るぞ」

「ちょうどいいや。説明するより見た方が早い。そっちだぜ」


 そう言ってザックさんは海水への出入り口を葉で指し示す。そっちを見ろってことか? そういやなんかさっきまでは聞こえてなかったけれど、海水の方から凄い音がし始めてるんだよな……。音だけ気にしても仕方ないからちゃんと見て確かめよう。


「……うわ、何じゃこりゃ?」

「凄い急流だよ!?」

「足止めってこういう理由か」


 轟々と音を立てながら、洞窟内の海水が激流となり黒の暴走種や一般生物が流されていく。この勢いだとここに上がってなければそのまま流されてたかもしれない。……アルが根下ろしすればなんとか耐えられるか……? いや、やってみないと分からないし、この勢いだと俺やハーレさんやヨッシさんはアルにしがみつき続けられなくて流される可能性は高い。


「これって、どうなってるのかな?」

「フィールドギミック? でも、ここまでそんな気配は全然無かったよね?」

「それがさっぱりでな。先に進んでも流されて戻されて、それならと他の道へ行けば激流はないけど行き止まり。しかもだんだんと戻される位置が後退していってるんだよ」

「……それで足止めか。ちょっとずつ戻されていくって嫌なギミックだな」

「そうなんですよね。ですが、黒の暴走種はダメージを受けているのに私達は流されるだけでダメージがないというのも少し気になりまして」

「そういうギミックなんじゃねぇか? 流石にこれでHPまで削られたら腹立つぞ」

「そうなんだ! それは厄介だね!?」


 確かにさっきの勢いで何度も流されて弱っていったらたまったもんじゃない。でもなんで黒の暴走種にまでダメージが? ん……? ちょっと待て。黒の暴走種にはダメージがあって、タケさんやザックさんにはダメージがない? そしてここは海水……。そういえば、この状況に関係してきそうな事を聞いた覚えもあるような……?


「アル、ちょっと良いか?」

「……なんとなくケイの言いたい事は予想がつくぞ」

「あ、もしかしてアルも同じ事を考えてたか?」

「多分な。よし、情報共有板に行くか」

「そうだな。解決には多分それしかない」


 おそらく思っている通りなら、これはフィールドギミックでもなんでもない。ただの人災である。そして人災ではあるけど、良い情報でもある筈だ。そこまで無茶苦茶な広範囲の影響ではないだろうし。


「ちょっとこの状況に心当たりがあるから、ちょっと待っててくれ」

「心当たりがあるのですか!?」

「マジか!? 諦めて撤退しなくて正解だったか!」

「……待つこともまた大事だ」

「……わたしはヨッシに会えて満足!」


 短い時間だけどイッシーさんは寡黙な職人肌って感じであり、翡翠さんはなんだかご機嫌である。よっぽどヨッシさんから進化情報を聞けたのが満足だったらしい。良い人達っぽいし、このまま放置ってのはないな。さてと予想通りの原因なら連絡さえつけば、どうとでもなるはずだ。いざ、情報共有板へ!



 コケ   : クジラの人はいるかー!?

 草花   : あれ? コケの人、どうかした?

 サル   : クジラの人、またなんかやったのか?

 木    : まぁちょっとな。その確認の為というか……。誰かクジラの人と連絡取れないか?

 クジラ  : 私の事ではないよね?

 コケ   : うん、違う。用事があるのは海流の操作を持ってるいつものクジラの人。

 草花   : ……海流の操作? なんでそれが関係してくるの?

 カツオ  : なんだ、何事だ? あいつ、またなんかやったのか?

 コケ   : まぁ確定ではないけどね。海エリアの人で連絡出来る人いない?

 カツオ  : 確か俺のフレが今一緒にPT組んでたって言ってた筈だ。そっち経由で連絡取ってみるわ。


 木    : お、カツオの人、助かる。

 カツオ  : いや、この程度良いってことよ。


 カツオの人がフレンド経由でクジラの人を呼び出してくれた。連絡自体はすぐについたらしくて、今戦ってる相手を倒し次第こっちに顔を出してくれるとの事。……予想通りならクジラの人のPTには黒の暴走種が殺到している可能性がある。……また轟々と凄い音が聞こえてきてるし。

 そして音が静まってから少ししてクジラの人がやってきた。


 クジラ2 : コケの人が呼んでるって聞いたけど、何かあった?

 コケ   : お、来たか。

 クジラ2 : うん、来たよ。それで何か用事?

 コケ   : 面倒だから単刀直入に聞くよ。クジラの人って今は常闇の洞窟の中で、海流の操作を定期的にぶっ放しつつ、先に進んでないか?


 クジラ2 : お! コケの人、エリアが違うのによく分かったね! まさしくその通り!

 草花   : あ、そういう事……。

 サル   : 確かコケの人のPTって、海エリアの方に行ってたよな……。

 カツオ  : ……またか、クジラの人。

 クジラ  : うん、大体状況は掴めたよ……。

 クジラ2 : え、なに!? みんななんでそんな反応!?

 イルカ  : あちゃー、そういう事か。……コケの人、同じPTとして謝罪しとくよ。

 マグロ  : しまった、その可能性は失念してた。俺からも謝っとく。

 クジラ2 : え、どういう事!?

 木    : ……クジラの人、反対側の俺らの方にまで海流の操作の影響が届いてるぞ。

 クジラ2 : ……え? って事は、もしかしてまたやらかした?

 コケ   : うん、そうなるな。多分もう少しで合流出来るくらいの距離だからこその影響だとは思うからしばらく海流の操作を控えて貰えないか?


 クジラ2 : ホントに!? それはすみませんでした!

 木    : 影響を受けてたの俺らより先にいたPTだから、そっちに言ってやってくれ。この後、合同で先に進んでいくつもりだから。


 クジラ2 : ほんとすみませんでした!


 やはり元凶はクジラの人の海流の操作だったらしい。一応、もう発生しないかどうかの確認は必要だろうけど、多分大丈夫だろう。現実世界ならまだしもここはゲームの中だから応用スキルの海流の操作とはいえ、そこまで長距離に影響はし続けない筈だ。すなわち海流の操作の範囲内には入っているという事だろう。

 そしてザックさん達はクジラの人のPTに近付いては何度も流されていたって事になる。災難といえば災難ではあったけど、クジラの人も悪気があった訳ではないだろうし穏便に片付けないとね。

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