第165話 海のプレイヤーと合流


 岩の操作を使っての移動を始めてすぐに問題点が発覚した。ただ引っ張るだけだとアルが真横に倒れていくのである。というか、岩に全部の根で掴まって倒れるようにしなければアルの根が地面で削れていく。単純に陸地でのサヤの引っ張る移動と同じようにしたいのなら、バランスを取るためにもやっぱり地面に接して滑らせる部分が必要なようである。

 途中でこれでは駄目だという結論になり、アルが岩の上に垂直になるように乗ってみるのも試してみたけども、水に抵抗もあってやっぱり倒れていくという結果になった。これならもっとデカい岩の上にアルを乗せた方が……ってそこまでデカい岩も無かったっけ。中々思った通りにはいかないね。


「どうやっても岩の操作じゃ俺が真横になってるんだが!?」

「……エンの根にしがみついてた時も似たような感じだっただろ。それにしても地面に接してないとバランスが保てないのか……」

「うっ……、確かに体勢的にはあの時と似たようなもんだが……」

「んー、誰か海水の操作で滑らせる役をやってみる?」

「ねぇケイ、これってむしろ速度上げた方が体勢は安定するんじゃないかな? アルが真横のままにはなると思うけど」

「あ、そのまま勢いで行くという手段もあるか。速度的にはまだ上げられるけど、ヨッシさんは大丈夫?」

「バランスが安定してたら大丈夫だと思う。というか、もうなんか無茶な移動に慣れてきたよ。でもそうなると外だと落ちそうだし、敵が来たら私も出てくるから中に移るね」

「……ヨッシが行くなら、わたしも中へ行く」

「そういうことなら速度上げるか! アル、それでいいか?」

「もうこの際向きはどっちでもいい。任せる!」


 そういう理由でヨッシさんと翡翠さんがアルの中へと移動していく。アルの向きが横向きになってるとはいえ、それで安定しさえすれば良い。別にアルの中って物が置いてある訳じゃないから、アル本人以外は横になっても特に問題はないし、本人の了承も得た。そしてヨッシさんも慣れてきたと。……あれだけ何回もやればなぁ……。

 それにしても樹洞への入り口は開いていても海水が入っていかないのはゲーム的な不思議仕様だな。まぁそこまでリアルに作られても面倒なだけだけど。


「うーん、巣の位置のバランス悪いねー!? えっと、ここをこうして、こう!?」

「そこはいっそ真横にしたらいいんじゃねぇか?」

「あ、そうだね! えいっと!」

「巣の位置の微調整はもういいか? それじゃ速度上げるぞ!」

「良いよー! ケイさん、行っけー!」

「ぶっ飛ばせ、ケイさん!」


 アルが真横になっている為、巣の向きが変になっているのをハーレさんとザックさんが微調整していく。あれこれ調整した結果、巣も今のアルの角度に合わせてほぼ90度移動させた状態に調整されていた。イス型の石もハーレさんのイスとしてしっかり活用されている。まぁさっきまで落ちそうになっていた俺の場所でもあるので、その辺は地味に重要だけども。それにしてもこの巣って結構な角度調整が出来るのか。その辺りは流石ゲームだな。


 そして徐々に岩の操作の速度を上げていけば、アルの体勢も真横で安定していった。これは速度がある方が安定するんだな。自転車みたいなもんか。流石に地上では同じ真似は出来ないだろうけど、海中というか水中ならこういう移動手段はありだな。アルが真横になるけど。



 それからしばらくは岩の操作で移動していく。途中でクジラの人の海流の操作で残滓となった黒の暴走種も現れていたけども、そのまま岩で轢いていけば半分以上のHPは削る事が出来て、追いかけてきた所をハーレさんの狙撃によって仕留められていた。恐るべき威力の応用スキルと未成体である。


「おっ!? ケイさん、減速だ! 前から灯りとデカい影が見えるぞ!」

「マジか!」

「ケイ! 急激な減速は危なーーってうわっ!?」

「って、ハーレさんとケイさんが飛ばされて行ってどうすんだよ!?」

「わっ!? これは要改善だね!?」

「急停止は駄目だったか!?」


 岩の操作の方向性を一気に変えて、一気に減速したらアルが慌てていた。その急ブレーキにより、アルの体勢が真横から上へと一気に起き上がり、巣にいた俺とハーレさんはその勢いで前方へと一気に飛ばされていく。って投石機かよ!? ……コケ付きの石が飛んでいってるから間違いでもないか。

 海中だから飛ばされていくという表現が正確なのかはわからないけども……急に止まればそうなるよね。いや、つい一気に止めてしまった……。今更言っても遅いけど。


 このままいけば何やら見えてきている相手にぶつかってしまいそうなのでとにかく勢いを殺そう。俺はともかくハーレさんは朦朧になりそうだし。海水の操作……いや魔法で水を作って水の操作の方が精度が圧倒的に上だな。とりあえず岩の操作は破棄! 水の防壁を即座に作り上げる!


<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 12/38(上限値使用:7): 魔力値 82/86

<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します>  行動値 8/38(上限値使用:7)

<熟練度が規定値に到達したため、スキル『水の操作Lv5』が『水の操作Lv6』になりました>

<『水の操作』の消費行動値が4から3に減少しました>


 このタイミングで水の操作のLvが上がった!? しかも消費行動値が減少ときたか! ……って、喜びたいとこだけどそういう場合じゃない。今必要なのは水の防壁だよ!


「うわ!? 何事!?」

「なんだ!? リスと……光るイスがいきなり止まった!?」

「ハーレさん、大丈夫か? そっちの人達、いきなり驚かしてすまん!」

「あーびっくりした! ケイさん、ありがと!」

「えっと、これは何事なんだろう?」

「あー! クジラの人に、マグロの人に、イルカの人だー!? 合流出来たー!」

「え、あ、もしかしてコケのPTのリスの人!?」

「……うん、いきなり吹っ飛んで来たのは俺らが悪いんだけど、ここに俺もいるからね?」

「え、もしかしてそこで光ってるのがコケの人!?」

「……なんだ、この状況?」

「……さぁ?」


 急停止のせいで変な初対面にはなってしまったけれど、とりあえずクジラの人達との合流は果たせたようである。いや、思った以上に飛び過ぎてびっくりした。クジラの人の目前で水の防壁が間に合って、衝突するのは避けれたけど。いやーこのタイミングで水の操作のLvが上がったもんだから、うっかり制御が遅れかけたぜ。危ない危ない。

 それにしても、わかってはいたけどクジラの人はデカいな!? 結構広めの洞窟でも結構狭そうだ。


「おい、ケイ、ハーレさん大丈夫か!?」

「おー、大丈夫だ! さっきの灯りはクジラの人達のPTだったぞ」

「お、って事は合流成功か!」


 そして俺のPTとザックさんのPTも追いついてきて、目的の海エリアの人達との合流を果たした。だけど、変な遭遇の仕方になったせいで妙なギクシャク感が生まれているのはどうしよう……。


「あー、コケの人……ケイさんかな? とりあえず、この少し前の所に広い陸地と海水の通路が一緒に並んでるところがあるから、そこで落ち着いて話をしない?」

「近くにそういう場所があるならそこが良いな。そろそろ纏海も切れそうなんで」

「それなら早く移動しよう!」

「だね。流石にそろそろ休憩もしたいし」

「私も賛成かな。ケイ、とりあえず巣に戻しておくね」

「お、サヤ、ありがとな」


<行動値上限を4使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 8/38 → 8/34(上限値使用:11)


 とりあえずこの場はイルカの人の提案に従うのが良いだろう。移動の為に移動操作制御も発動して小石移動に切り替えてっと。よし、これでいい。


 クジラの人のPTがクジラの人、マグロの人、イルカの人、クラゲの人、海藻の人、カニの人の6人PT。俺らが5人で、ザックさん達が4人なので、合計15人の大所帯となり、とりあえず海のプレイヤーも陸のプレイヤーも休憩できる安全地帯へと向かう事になった。

 ……クジラの人はそのままでは方向転換が出来なかったので、途中の分かれ道を利用して方向転換をしていた。大きければ良いって話でもないんだな。




 ◇ ◇ ◇



 辿り着いたのは海水の部分が湖状に見える、結構広い地下空間であった。ここはエンが転移地点を作った場所くらいの広さはありそうだ。……とりあえず人数が多いという事もあって、いつも情報共有板で顔を合わせるメンバーで話し合おうという事になった。ただし、ザックさんのとこは足止めを受けていた件もあるので全員参加。

 海エリアからはクジラの人とマグロの人の2人、俺のPTからは俺とアルとハーレさんである。他のメンバーはそれぞれ自己紹介をしながらワイワイと賑わっていた。いいな、あっちはあっちで楽しそう。


 場所は少し離れたところの水際にした。海エリアの人は海水の中から顔を出し、俺達はその周囲に集まるような感じになっている。これがお互いに負担がかからない方法だろう。


「とりあえず改めて自己紹介からだな。俺はマグロのソウだ」

「俺はクジラのシアン! よろしく!」


 それに続けて、こちら側も続けて挨拶をしていく。マグロのソウさんに、クジラのシアンさんか。結構な頻度で情報共有板で会話はしていてもプレイヤー名は知らなかったからな。


「とりあえず、さっきぶつかりかけて驚かせたのはすみませんでした!」

「あれって、何がどうやったらああなったの?」

「えっと、岩の操作でアル……アルマースを引っ張って移動してたら、そっちのPTの灯りを確認したから急減速したら、固定してなかった俺とハーレさんが吹っ飛んじゃって……」

「あー、なるほどね」

「……そういえば、コケの人もそういう無茶をするタイプの人だったな。まぁこっちも色々とやらかしてたみたいだし、謝るのはこっちもだ。すまなかった」

「海流の操作で流してすみませんでした!」


「あのくらいなら気にしなくて良いぜ?」

「そうですね。結果的には色々と有益な事もありましたし、わざとでさえなければ文句をつける気もありませんよ」

「……そういう事だ。気にするな」

「……わたしはむしろ、出会うきっかけをくれた事に感謝」

「そう言ってもらえると助かる」

「つっても俺ら以外にも他にPTがいた可能性はあるから、そっちまでは責任持てないぜ?」

「それはそうだな。そっちは後でなんか手段を考えるとするよ」

「……もういい? わたし、あっちに混ざりたい」

「……俺もこういう話し合いは性に合わん」

「えっと、そういう事なのですが別に問題ないですね?」

「うん。謝罪を受け入れてくれてあっちが良いって言うなら問題ないよ!」


 タケが確認を取った後は、イッシーさんと翡翠さんはワイワイと騒いでいる方に向かっていった。……光るクラゲの人をイルカの人が跳ね飛ばし、空中でジャグリングみたいな事をして曲芸みたいな事をやってる……。ものすごく気にはなるけど、今はこっちに集中しよう。


<纏属進化を解除しました>

<『水陸コケ・纏海』から『水陸コケ』へと戻りました>

<『海中適応』『海水の操作』『海水魔法』が使用不可になりました>


 あ、纏海の時間切れになった。まぁ今は陸地だから問題ないか。


「さて、クエストの話をしようか。海エリアのソウさん、シアンさん」

「そうだな。……こうやって出会った時点で経路としては繋がった筈だよな。海エリア側は特に経路確立のアナウンスは流れてないけど、森林深部の方はどうだ?」

「こっちも同じだ。そうなると、まだ何か足りてない訳か」

「……考えられるのはどっち側もそれぞれの群集拠点種に、ここまでのマップ情報の提供をしてくる必要があるってとこか」

「だろうね! 誰か群集拠点に戻って、報告してくればいけるかな!?」

「そういう事なら、森林深部の報告は私が請け負いましょう」

「タケさん、良いのか? すぐに戻ってこれるか分からないぞ?」

「いえ、構いません。先程の情報のお礼です」

「そうか、そういう事なら任せるよ」

「はい。任されました」


 タケさん自身がやると申し出ていて、ここで却下して他の人を選ぶというのも無粋か。ここはタケさんに任せよう。この状況ではおそらく誰か1人は戻る必要がありそうだしね。


「なら、こっちは俺が戻って報告してくるか」

「え、俺行くよ?」

「……確かにシアンが一番移動は早いが、この状況で単独行動を任せるのは不安なんだよ……」

「とりあえず私は行ってきますね」

「タケさん、いってらっしゃい!」

「任せたぞー!」


 森林深部はタケさんがエンに情報の提供に出発していった。海はソウさんが報告に行く事に決まりそうである。っていうか、シアンさんは単独行動を心配されてるし……。

 そして海エリアの方が中々決まらない中で、変化が訪れる。


<群集クエスト《群集拠点種の強化・灰の群集》・群集拠点種:エン(始まりの森林深部・灰の群集エリア2)の強化が規定値に達しました>

<転移地点が生成されます>

<群集クエスト《群集拠点種の強化・灰の群集》・群集拠点種:エン(始まりの森林深部・灰の群集エリア2)転移地点 5/10>


「おっ!?」

「5ヶ所目、来たね!」

「……あれ、ケイさん達どうしたの?」

「森林深部側から新規の転移地点の誕生のアナウンスが来たんだよ」

「このタイミングで!? って、なんか来たー!?」


 そして海水のほうでワイワイ騒いでいたみんなも何かの異変に気付き、慌て始めていた。サヤとヨッシさんは平然としているけど。アナウンスがあってからのこの変化って事はかなりラッキーなんじゃないか!

 

「うわ!? デカい根っこ!?」

「あ、心配いらないぞ。それ、森林深部の群集拠点種の根だから」

「え? って事はもしかしてここが転移地点!?」


 しばらく待つと現れたデカい根は前に見たように種を落とし、青い光を放つ木が植わって急速に育ち転移地点が完成した。この辺の演出はあんまり変わらないか。……海の人達はかなりテンションが上がっているようだけど。……そういや海の群集拠点種って何の種族なんだろう? 多分、木ではないよな?


「うわー! 木の群集拠点種の特殊演出は初めて見た!」

『かなり進んだ地点の情報提供があったからここに設置してみたが、結構先客が居るじゃねぇか。……聞いてはいたが、他の地の連中もいるな』

「おう、エン。また会ったな」

『あぁ、お前たちか。これは経路情報が揃ったか? ……いや、あちら側がどうか次第だな』

「経路確立にはなんか他にも必要な事ってあるのか?」

『あーネットワークを構築する相手側の情報が欲しいとこだ。海の生物という事はヨシミだな。ヨシミのとこの者で誰か俺の本体まで来れないか?』

「え、海エリアの俺達でもそっちのエリアの転移って使えるの!?」

『大量には無理だが、数名くらいならな。そうだな、海原側から1名を俺の本体の所まで送ろう。その後、帰還の実で戻りヨシミに俺が統合した情報を渡してもらえると助かる。そうすればヨシミの強化具合にもよるがそちらとのネットワークの確立が可能だ』


 あ、そうなるのか。ヨシミって確か海エリアの群集拠点種の名前だっけな。そっちの転移地点だったら俺たちの中から誰かが行くことになってた訳なんだろうね。……もしくは俺たちがこの先に行って海側の群集拠点種にエンと同じ事をしてもらうかになるのか。


「海エリア組、集合!」

「誰が行く?」

「俺、行きたい!」

「私だって行きたいよ」

「いやいや、スキル無しじゃ陸地移動の出来ない君たちじゃ駄目だろう」

「俺は移動操作制御は持ってるから、問題ないから」

「シアンはデカくて目立ち過ぎるから駄目!」

「え!? そんな理由で駄目なの!?」

「そうでなくても単独行動はさせたくないな……」

「ソウまで酷い!?」


 何やら海エリア組も誰が行くかで揉めているようである。……まぁ気持ちはわからなくもないけども……。まぁクジラのシアンさんは特に思いっきり目立つだろうな。決まるまでしばらく待つか。


「そういやエンって海水は大丈夫なのか?」

『あぁ、その辺は大丈夫なように強化しておいた。経路確定の接続のために多少の余力は残しているしな。ヨシミの方が近くまで来ていれば、そこでネットワークが構築は出来る』

「あ、さっきマップの情報聞いたんだけどね。海エリアは4ヶ所目までは転移地点あるってさ」

「そうなんだ?」

「向こうも5ヶ所目の設置が目前だって言ってたよ」

「……それならなんかやる気になってるし、海エリアの人に任せようか」

「そうだね!」


 そうしているうちに誰かが転移してきた。よく見れば光っているキノコの人なので情報提供を終えて戻ってきたタケさんのようである。


「ただ今戻りました。転移地点はこの場所だったのですね」

「タケさん、おかえり。おかげさまでクエスト進みそうだ」

「そうですか。それは良かったです」


 後はエンとヨシミに情報提供をする海エリアの人が決まれば良さそうだな。ただ、海エリアの方の群集拠点種の強化具合にもよるらしいので、すぐにとはいかない可能性もある。まぁそれはそれで仕方ないかもしれないけど、その場合は普通に奥に進んでいけばいいか。……とりあえず海エリアの人達、誰が行くのか早く決めてくれ。

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