第152話 転移地点が出来たから


「ヨッシ、大丈夫?」

「うん、もう平気」


 少し休憩したらヨッシさんも落ち着いたようなので色々と再開していくとしよう。アルがやったのは無茶な移動ではあったけど、時間短縮になったのは間違いない。……ヨッシさんほどではないにしても、またやりたいとは思わないけど。さてと、エンに確認しておくべき事を聞いておこうかな。 


「そういや転移したい時はエンに言えば良いのか?」

『あぁ、転移に関しては俺に呼びかけてくれれば良い。ただ、転移地点までの経路が埋まったマップ情報だけは持っててくれよ?』

「あ、マップ情報は必要なのか?」

『まぁ俺の方で地点を指定する事も可能だが、送る相手がその場所への経路情報を持っている方が負荷が少ないからな。今後も転移地点は増やしていく予定だからその辺の協力も頼むぜ。そこも含めてマップ情報の無条件配布だからな』

「なるほどね。マップ情報の受け渡しってここでも出来るのか?」

『こっちから渡すだけなら可能だな。ここだと情報ポイントとの交換が出来ないから、情報提供の場合は悪いが群集拠点まで戻ってきてくれ』


 つまり転移地点までのマップが埋まってなければその地点には転移は出来ないということか。まぁみんなの情報提供によって集まった情報で埋まったマップはただで貰えるんだから、それほど厳しい条件ではない。分かれ道によって他の初期エリアへの最低でも4つのルートはあるだろうけど、全て自分で埋める必要もない訳だ。

 極端な話をすればこの『常闇の洞窟』の踏破を全くしなくても、誰かが経路を確立してしまえば行き来は誰でも可能になるわけだ。……色々とポイント的には勿体無いことになるだろうけどね。


「そっか。なら最新のマップを貰ってもいいか?」

「あっ、ケイさん!?」

「今回は俺の番。多分俺のマップが1番差分が少ないしな」

『おう、これだ。それじゃ引き続き、経路の調査を頼んだぞ』

「任せとけ!」


 とりあえずエンから最新版のマップ情報を貰った。本当なら情報提供してから貰ったほうが良いんだろうけど。……正直なところ、昨日提供してから俺的には通った事がある道ばかりだったのでほぼ内容が変わってないんだよな。行き止まりの分かれ道が結構埋まった程度だ。……それでも1%くらいはありそうだから少し勿体なかったかな。……まぁ今度ミズキの森林をソロの時にでも自力踏破して情報ポイント稼いどくか。


「ケイ、マップ情報を誰が貰うかについては次からは事前相談をして欲しいかな!」

「だな。……まぁ今回はケイが1番無駄がなくて結局ケイになった気はするが……」

「事後承諾は駄目だからね!」

「そうだよ。ケイさん、次は先に言ってね」

「……はい。次からは気を付けます……」


 勝手にマップ情報を貰った事に大不評を食らってしまった。……ちょっと相談なしは軽率だったか。アルの言うように俺が1番無駄がないと思ったからだったんだけど、事前に言っておくべきだったようだ。


「……とりあえず、貰ったマップ情報の話してもいい?」

「今更遅いから、仕方ないね……。どんな感じになってるのかな?」

「これは森林深部のプレイヤーからのみの情報っぽいな。んで、俺らのいる方向は突出してる。……他の方向は入り口に近い方は細かく枝分かれしまくってるけど、途中から分かれ道っぽいとこが減ってきてる感じか。途中から無駄がなくなったのか……?」

「それってコケが目印ってのは大当たりだったって事だよね!?」

「多分ね。……あとはベスタがコケでランダムリスポーンした跡みたいなのがチラホラと……。あ、この先の海水の地下湖の先っぽいとこもいくつか点々と埋まってる」

「そこは海水で沈んでいる洞窟って言ってた場所か。方向的にどんな感じだ?」

「点々と北東方向の方に存在しているから、海エリアへの経路はこっちで良さそうな感じだな。あとこの場所には光点で転移地点って注釈がついてる。あ、1ヶ所目の転移地点って最初の分かれ道の近くの安全地帯なのか」

「あの辺りが転移地点なんだ!? それがマップ上に表示されていれば転移できるって事なんだね!」

「あとこの周辺もチラホラと埋まってるから、海属性の黒の暴走種もそろそろ出てくるかもな」

「おー! 新しい種類の敵だー!」


 他の方向もそれなりに成果は出ているようだし、エンの強化が進めば別経路の方にも転移地点が設置されるのだろう。このマップの最新状況を見た感じだとコケが目印だっていうのはかなり重要だったのかもしれない。……無駄な分かれ道情報が少ない状態で全経路を特定してしまえば、後から行き止まりの分かれ道を埋めてポイント稼ぎの為にも使えそうだし、かなり良い発見をしたのかも。


「よし、マップの確認も済んだし周辺探索と行きますか!」

「あ、ケイさん! イス戻しておいてね!」

「そういやそうだったな。戻しとくか」


 アルの樹洞の中にイス型の小石で移動していたからな。発動中の土の操作で再び光るコケ付きイスをハーレさんの巣に戻しておこう。うん、やっぱり周囲を照らすにはちょうどいい感じの高さだ。……折角だし1回土の操作を切って行動値の回復もしておいて、その間に次の予定を進めていこう。


「ところでヨッシさん、ハーレさん」

「ん? ケイさん、どうしたの?」

「ケイさん、何ー!?」

「そろそろ攻撃頻度下げて、進化の為にHPを減らしていくか? 敵次第ではあるけどさ」

「あ、そうだねー!」

「そうだね。そうしようか」

「んじゃそういう事で。サヤが万全に戦えそうで面倒でない敵がいればそうしよう」

「クモでさえなければ私は大丈夫だよ」

「それ以外は倒すのが厄介だけどね! 丁度良さそうな敵いないかな!?」

「そういや未成体もいるって話じゃなかった? 進化ならそれを狙うのもいいかも?」

「あ、そういやそうだったな。まぁその辺は見つけ次第考えようってことで!」

「うん、私もそれでいいかな」


 流石に分裂しまくる闇コウモリや、倒せないわけじゃないけどちょっと厄介な闇ゴケはHPを減らすのにはあまり向いていない。クモはサヤに精神的に負担がかかるので無し。……俺とアルの2人がかりで拘束してても問題はないけど、多分アンコウとかの他の種類の方がやりやすそうだ。未成体がいれば、おそらくボロ負けだろうからその辺は楽かな。アルが死なないように気を付ける必要はあるけども。


 会話しているうちに行動値も魔力値も全快した。また魔法産の小石での移動に切り替えよう。

 

<行動値1と魔力値4消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 40/41(上限値使用:4) : 魔力値 72/76

<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します>  行動値 37/41(上限値使用:4)

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 36/41(上限値使用:4)

<行動値を4消費して『土の操作Lv3』を発動します>  行動値 32/41(上限値使用:4)


 さて、これで移動の準備は完了。とりあえず大体確定の様な気もするけど一応念の為にコケの分布の確認をしておくか。って事でみんなで手分けして2つの道を確認していく。


「ねーケイさん! この左右の道、どっちも同じくらいのコケの分布だよ!」

「そういうパターンもあるのか。……行き先は4ヶ所あるから、どっちも正解って可能性もあるな」

「その可能性は充分あるよね。初めから入り口が4ヶ所に分かれてた訳じゃないし、途中で別の方向に繋がってる可能性は充分あるよ」

「とりあえず左側が海エリアへの可能性、右側は消去法で荒野エリアか草原エリアの可能性か」


 回りくねって遠回りして森林エリアという可能性もない訳じゃないけども、森林深部から見て西南西の方角に森林エリアがあるという情報はあるからな。今の俺達が向かっている方向はちょいちょい大きく曲がったりはしている場所もあるけど大体東方面である。


「そういや海から見て南西が陸地とかいう情報もあったな」

「って事は海エリアなら基本的に北東を目指すのが正解か……? アル、それはどこ情報?」

「ん? 掲示板情報だ」

「あーそういや今日は掲示板見てなかった。そっか、そんな情報が出てたのか」

「ま、森林深部も陸地のどの辺か分からないから、あくまで簡単な目安だな」

「それでも何もないよりはいいんじゃない?」

「ここの左側に行けば北東方向にはなりそうだもんね。ところで今どのくらいの進み具合なのかな?」

「無駄なく進んでるなら意外と進んでるんじゃねぇか?」

「そうかもな。他のエリアからも進んできてる訳だし」


 凄く単純に考えるなら、5つの初期エリアから同じ常闇の洞窟を別々の入り口から探索していくわけだから、1エリア辺りの探索量は大雑把に5等分して20%くらいが上限だろう。そこから最低で4つの正解経路があって無駄な分かれ道を含めて1ルート辺り踏破率が最大で5%前後って所か。重複する部分もあるだろうからそう単純でもないだろうけどね。……大雑把過ぎてあんまり意味ない数字か。

 分かれ道を無視し続けて進んで2%くらいも行ければ、もしかしたら反対側から踏破してきているプレイヤーに遭遇する可能性もあるだろう。……楽観的に都合よく考えれば、森林深部側から1経路確立に必要な距離の3分の1くらいには既に到達しているのかもしれない。


 ……迷いまくれば最悪100%踏破しなければ到着しない可能性もあるのか……? いや、流石にそれはないよな? それを防ぐ為の転移地点のような気もする。


「ま、行くしかないだろ!」

「そうだね! ひたすら進むだけさー!」


 さぁ、進化の軌跡集めとヨッシさんとハーレさんの進化の為の準備を進めていくか! と思っていれば誰かが転移してきた。ふむ、早速新しい転移地点を使った人がいるんだな。


「お、マジで転移してこれた! これはかなりの時間短縮だな!」

「それはそうでしょう。それにしてもここは随分と明るいですね」

「ほんとだね。……あれ? あそこにいるのケイさん達じゃない?」

「あ、ホントだね。やぁ、みんな。昨日ぶり」


 そこに転移してきたのはライルさんとカステラさんとソラさん、そしてトカゲではなくコウモリになっている紅焔2ndさんであった。紅焔さんは2枠目をコウモリにしたんだな。他の3人は2枠目ではないようだ。


「みんな、こんにちは!」

「紅焔さんは2ndにコウモリを選んだんだ?」

「おうよ!」

「紅焔が我儘を言っちゃってね? 大型化の情報を得てからさっさと進化させるって焦ってるところだよ」

「そうそう。昨日のメンテ明けにそれなりに上げてはいたけど、さっきヒノノコで強引に成長体まで一気に育てたんだよね」

「え!? そんなに早く上がるの!?」

「レベルだけでしたらね。レベル以外はからっきしですけど」

「良いんだよ、中身は伴ってなくて! 必要なのはコウモリの翼だからな! その為の進化条件はまだだけど……」


 ほうほう、成長体に進化させるだけならそんなに時間はかからないのか。でもスキルの熟練度も稼げないし、進化ポイントも貯まらないし、あんまり慣れてない人にはすべきではない育て方だろうけど。それにしても必要なのは翼って事は、紅焔さんはもしかしてあの進化を狙っているのか?


「紅焔さんは融合進化を狙ってるのかな?」

「そのつもりだったんだけど違う進化になりそうなんだよ!」

「違う進化……?」

「あぁ、合成進化ってやつだ。ついさっき共生進化をやってみたけど、コウモリとトカゲじゃ共生進化の相性が微妙に悪くてさ。でも合成進化って選択肢が出て、内容を見たらこれしかないって感じだったぜ」

「え、合成進化ってやっぱりアイテムだけじゃないんだ!?」

「あー、そっちにも進化の輝石持ちはいるから知ってるのか。でもその反応だともう1種類の合成進化は知らないっぽいか?」

「……ある程度は想像はしてたけど、やっぱりあるのか?」

「あぁ、あるぞ。……一応聞くけど、みんないったんからの説明は知ってるよな?」

「あ、それは問題ない」


 あれはうちのPTには全員にちゃんと伝わっているから問題ない。……まぁ紅焔さんがその辺の事を気にするのは仕方ないか。それにしてもトカゲとコウモリの共生進化ってどんな状態になるんだろうか……? コウモリがずっとトカゲの背中にいるとか……? うん、想像がつかない。だから相性が悪いって事か。


「なら良いか。まず、合成進化には2パターンあってだな。俺たちのPTではライルが確認した進化の輝石を使うパターン。……他にも合成可能なアイテムがある可能性もあるけどそこは除外しとく」

「確かに他にも何か合成進化用のアイテムがありそうな気はするよね!」

「そうですね。そこは私も同感です」

「でだ、もう1つは俺が確認した2枠目のキャラと合成するパターンだ」

「ほう、そんなのがあるのか。それって融合進化とはなんか違うのか?」

「合成進化もだけど、融合進化もまだ情報が全然ないからな……。多分、条件的には相性が良い共生進化からの派生だとは思うけど、まだはっきりとした事は分からん」


 まだどの進化も情報不足なのか。……まぁ最低でも2枠目を成長体までは成長させる必要があるから時間がかかるのは仕方ないんだろうな。誰でもパワーレベリングすれば良いって訳でもないし。……今ならベスタも教えてくれそうな気はするけど、最低限2枠目を成長体まで育ててからにしようか。


「話を戻すけど、合成進化は多分基本的には相性が良くない種族同士を組み合わせる進化だ。条件としては同じ進化階位で両方上限レベルである必要がある。そして主体にしたいキャラに、もう片方のキャラの1部を合成するって進化だ。……こう言えばわかりやすいかもな。要はキメラの生成だ。ちなみに進化階位は上がらない」

「ほう、そうきたか! って事は紅焔さんはコウモリの翼をトカゲに合成するんだな!」

「そういう事だ。欲しいのは翼だけだから、コウモリはパワーレベリングで一気に上限まで上げるんだよ。あ、ちなみに合成進化だと、どの部位とか特性や属性を合成するかも選べるらしいぞ。あと合成に使用するキャラのステータスの1割分が加算だとよ」

「へー! 複合進化って色々あるんだね!」


 ふむふむ、合成進化は他の種族の特徴を他のキャラに付け加える進化という事か。そしてその特徴を付け加える手段の1つに進化の輝石というアイテムも含まれていると。それにステータスの1割を加算か。……少ない系統のステータスを補うのも、高いステータスを更に上げるのも有りだな。え、でもその場合って2枠目って……?


「……その場合って2枠目のキャラってどうなるんだ?」

「1枠目に統合されて無くなるみたいだぞ? 1枠目のキャラが気に入らなかった奴も、狙った2枠目に合成進化で欲しい部位やらを合成したら、ステータスも加算されるから無駄にはならないんじゃねぇか? 枠も1枠空くみたいだし」

「そういう仕様か。……それ、何度も繰り返したらステータスがヤバくないか?」

「その辺りはいったんに確認してみましたが、同じ進化階位だと2枠目との合成進化は1度きりとの事ですよ」

「ちなみに2枠目を使う合成進化はいったんのとこでやるって話だ。進化候補に出てくればいったんが仕様の説明はしてくれるぜ。条件も両方の進化階位が同じになれば簡単に出てくるからな」

「まぁ紅焔ってコウモリを作ったは良いけど、合成進化の選択肢が出るまで『トカゲとコウモリで共生進化って大丈夫なのか!?』って焦りまくってたけどね」

「カステラ!? 余計な事は言わなくても良いっての!?」

「で、実際にやってみたらコウモリの首に巻き付く感じでバランスの悪さって言ったらね」

「それ以上は言わなくていい!」

「いやケイさん達、気になってる感じだったからさ?」

「あはは、紅焔もカステラもほどほどにね?」

「まったく、仕方ない人達ですね」


 紅焔さんとカステラさんがじゃれ合う様に追いかけあっている。紅焔さんのPTも仲が良さそうでなによりだ。それにしても思わぬ所で会った紅焔さん一行から、思わぬ新情報が手に入ったな。合成進化にも色々な使い道がありそうだ。……それにしてもコウモリの首に巻き付くトカゲって、なんかシュールだな。

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