第151話 エンの強化


「ケイさん、こっちはコケはほとんど無いねー!」

「ない訳じゃないけど、これだと群体化Lv3じゃ届かないな」

「あ、ここも行き止まりかな? ここも外れルートだね」

「外れルートには確かにコケは少なそう」

「この感じだとケイの推測は当たりか」


 検証の為にわざと埋まってない道に進んでコケの有無を確認していくが、行き止まりにぶつかるのも10ヵ所目。傾向としては極端にコケが密集しているところは大体すぐに行き止まりになり、逆に遠い間隔でコケのある所も長めの距離の先で行き止まりとなっていた。


「ケイ、距離的にはあとどのくらいだ?」

「んー正確な時間はわからんけど、このペースで検証しながらだとまだ結構掛かりそうだ」

「えー! まだ結構かかるの!? 目新しい何かが欲しいよー!?」

「まぁ特に目新しい敵もいないもんな」

「みたいだね。もうこれくらいにしてサクッと目的地まで行く?」

「それが良さそうかな?」

「まぁもう少し経験値も欲しいとこか」

「HPもほとんど減らないから、進化も難しそうだしね。よし、これでトドメ! 『アイスニードル』!」

「分裂するコウモリも慣れてきたもんだ」

「初めに拘束したら後は楽だしねー!」


 雑談しながら闇コウモリの最後の1匹を仕留めていく。ヨッシさんのアイスプリズンや俺のアクアプリズンで分裂前に拘束してしまえば後は楽勝なのである。攻撃のしやすさ的にはヨッシさんのアイスプリズンの方が隙間が出来るので、水球で閉じ込める俺のアクアプリズンより使い勝手はいい。アルのコイルルートは根で巻き付く性質上、飛んでる敵の拘束には向いていないか。

 同じ拘束性能がある魔法Lv3とは言っても、属性により結構特徴があって状況により使い分けるのが良さそうだ。


 出てくる敵は残滓ではなくオリジナルも多いもののLv15前後の既に知っている奴らばかりだった。出現割合は闇コウモリが多くて、闇ゴケがほんの僅か。あとはちらほらと光モリや光源グモや闇グモが出てくるくらいである。

 ……もちろん所々にカサカサと音がする地点が点在していたけど、どこも迂回路が用意されていた。試す気にもならないのでそこはスルーで。盛大に火魔法を撃ちまくっていて妙にテンションの高いPTもいたので、もしかしたら経験値は良いのかもしれないけど。



<群集クエスト《群集拠点種の強化・灰の群集》・群集拠点種:エン(始まりの森林深部・灰の群集エリア2)の強化が規定値に達しました>

<転移地点が生成されます>

<群集クエスト《群集拠点種の強化・灰の群集》・群集拠点種:エン(始まりの森林深部・灰の群集エリア2)転移地点 1/10>


「お、クエストが進んだか!」

「みたいだな。これでどっかに転移地点が生成されるわけだ」

「近くに出来たら良いのにね!」

「そう都合良くはいかないんじゃないかな?」

「まぁ10ヶ所もあるみたいだしね」


 多分作られる転移地点は正解ルートの中継地点になるんだろう。……海水の地下湖へのルートが突出していたらしいし可能性がないとも言えないけど、そもそも辿り着くまでは完全に正解のルートかもわからない。もし転移地点が作られたならば、そのルートは正解の可能性は高そうだけど。


 しばらく待ってみても特に何もないので、これは全く別の場所に転移地点が作られたっぽい感じか? まぁどういう風に転移地点が出来るのか分からないので何とも言えないけど。


「うん、外れっぽいね!」

「ま、そういう事もあるだろ」


 少し拍子抜けではあったけど、この広さを考えたら仕方ないだろう。分かれ道だって結構あるわけだし。まぁ転移地点が出来る瞬間ってのも見てみたいけど。


 それから雑談をしながら、敵を倒しつつ先へと進んでいく。さてとコケの有無も結構確定出来そうな感じだし、これならサクッと進んでも良いかもしれないね。


<群集クエスト《群集拠点種の強化・灰の群集》・群集拠点種:エン(始まりの森林深部・灰の群集エリア2)の強化が規定値に達しました>

<転移地点が生成されます>

<群集クエスト《群集拠点種の強化・灰の群集》・群集拠点種:エン(始まりの森林深部・灰の群集エリア2)転移地点 2/10>


 30分位経った頃に再びエンの強化のアナウンスが流れてきた。これは思った以上に強化が早いのか!?  


「あれ!? もう次の段階!?」

「もう次の経験値10%が貯まったのかよ」

「早い分には良いんじゃない?」

「ま、そりゃそうだ」


 クエストの進み具合が早いことには特に問題はない。さてと今回はどこに転移地点が作られるんだろう? そんな事を考えていたら、これまで進んできた道の方から妙な音が聞こえ始めた。……何の音だ?


「……なんか変な音がしてないか?」

「なにかが動いているような、擦れているような音……?」

「あー! みんな、後ろだよ!?」

「……後ろ?」


 確かに背後の方からなんか妙な音がしているし、段々と近付いてきているような気はするけど……ってなんか迫ってきてる!? まだ俺の光源の届かない暗い所だから具体的に何が来ているのかがわからないけど、何かがうねる様に動いてる!? ……大蛇とかじゃないよな?


「おいおい、なんだあれ?」

「何かのモンスターかな?」

「でも危機察知には反応ないよ!?」

「ちょいと確認するか……。大蛇じゃありませんように!」

「あぁ、ケイ。頼むぜ」


 苦手生物フィルタがあっても苦手な生物は苦手な事には違いない。姿を確認せずに突っ込んで大蛇だったりすれば冷静でいる自信もない。だから余裕があるうちに正体を確認しておいた方が安全だ。

 一旦土の操作での移動を破棄して、とりあえずハーレさんの巣にあるイス型石に移動しよう。自分自身が突っ込むのは無しだ。


<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 30/41(上限値使用:4)


 よし、次。確認用の光源を飛ばすために小石を用意。


<行動値1と魔力値4消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 29/41(上限値使用:4) : 魔力値 68/76

<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します>  行動値 26/41(上限値使用:4)

<行動値を4消費して『土の操作Lv3』を発動します>  行動値 22/41(上限値使用:4)


 徐々に近付いてきた謎のモノの正体を確かめる為の即興の光源の小石の完成! ……早く『移動操作制御』が欲しいな。今の状態だとちょっと無駄な手順が多い……。


「お、見えるようになってきたな」

「巨大なヘビ……? いや、なんか違うね?」

「……あれって根じゃないかな?」

「あれってもしかしてエンの根か!」


 見た目的には大蛇と見間違えそうな太い根が勢いよく迫ってきている。けどよく見れば特徴的には木のプレイヤーの根を大きくした様な感じだ。さっきの群集クエストの進展のアナウンスと合わせて考えれば高確率でエンの根だろう。


「……そういや海エリアの人が群集拠点種が伸びてくるって言ってたっけ」

「って事はこの先に転移地点が出来るって事!?」

「だろうな。……よし、これは良いチャンスか。『樹洞展開』『樹洞投影』!」

「え、アルさん?」

「どうするの、アル?」

「あんまり話してる時間もなさそうだから全員とりあえず入れ」

「……まぁそういうなら入るけど」


<行動値を4消費して『土の操作Lv3』を発動します>  行動値 18/41(上限値使用:4)


 とりあえず背後の方向を確認する為に使った小石は廃棄して、イス型の石を操作してアルの内部へと移動する。アルは一体何をどうする気なんだろうか? エンの根って事が分かったなら別にそのまま放置していても危険はないはず。みんなも不思議に思いながらもアルの樹洞の中へと入っていく。


「アル、みんな入ったけどどうすんだ?」

「こうするんだよ! 『根の操作』!」

「おわ!? おい、アル!」

「アルさん、無茶するね!?」

「みんな、落ちないようにしっかり捕まってないと危ないよ!?」

「おー! これは凄いね!」


 中から外の様子が見れるようにしていてくれた為、何をしたのかは分かった。すぐ側まで迫っていたエンの根の先にアルの根を絡みつかせて、そのまま伸びていくエンの根に引っ張られていく。流石に無茶な事をしているせいか、アルの中にいても揺れまくってあっちこっちにみんなが転がりまくっていた。……幸いな事に樹洞からは意識しないと出れないようで放り出されることはなかったけども……。

 ハーレさんだけは楽しそうにはしゃいでいた。そういや、こういうスリル系は大好きだったよな。


 それからどれくらいの時間、揺られ続けていたのかはわからないけどもようやく揺れが止まった。真っ直ぐなところばかりじゃないから上下左右に揺らされまくってちょっとキツかった……。何というか洗濯機で洗われる洗濯物になった気分。


 みんなはヨロヨロと樹洞から出てきている。……ハーレさんを除いて。ゲーム内で酔うような事にはならないように設定されているけども、これは気分的な問題だ。害がないからといって洗濯機の中に入りたいかと聞かれれば、はいと答える人ばかりじゃないだろう。


「ふー。ちょっと制御が厳しかったが時間短縮にはなったか」

「うん、楽しかった!」

「おい、アル! いくらなんでも無茶しすぎだぞ」

「……すまん。正直ここまで振動があるとはな?」

『……無茶な事をしてくれるな、お前ら』

「おう、エンか。すまんな、便乗させてもらった」

『まぁいいか。さて、俺は俺でやる事を済ませよう』


 エンの声が聞こえてくるという事は、やはりエンの根で間違いはなかったようである。そしてエンの根が掴んでいたのか、そこから落ちた小さな種が急激に育っていく。そして2メートルほどの木に成長し、その葉が青白い光を放ち出し周辺を照らしていく。

 その光に照らされた場所は今までの安全地帯とは異なり、不思議な光景へと変化していく。そのすぐ側には植物系のプレイヤーの為だと思われる地下湖が存在しているようだ。真っ暗な地下の洞窟の中に自ら発光する木とそれに照らされる洞窟と地下湖。……これはこれで凄い景色だ。


『よし、これでいい。これで多少の移動短縮にはなるだろう。あぁ、そうだ。強化の協力も感謝しとくぜ』

「おう。そういや、ここってどこだ……?」

『主要経路と思われる場所の途中だな。ここと群集拠点の間で転移用のネットワークを構築したぞ。あまりにも広い上に、枝分かれしまくってるみたいだからな』

「え、それじゃこことエンの所を行き来が出来るのかな?」

『まぁそうなる。ただ全く負荷がない訳じゃないからな。1日2往復までって制限はつけさせてもらうぞ』

「あぁ、それは問題ない。ケイ、位置的には今はどの辺だ?」

「あー、今確認する」


 転移は可能だけど、無制限ではない訳か。まぁそれは仕方ない話だろう。それにしてもアルが無茶な移動をしたから、現在地がさっぱりだ。えっと、現在地はどこだ? マップを開いて確認しようっと。


「あ、ここになるのか」

「ケイさん、ここはどこになるのー!?」

「目的地にしてた、海水の地下湖の手前の安全地帯っぽい場所だ」

「おー! まだ結構かかるって言ってたのが一気に済んだね!」

「……まぁ移動の乗り心地は最悪だったけどな」


 まぁ過程はどうあれ目的地には辿り着いたらしい。そしてこの地点がゲームとしての転移地点という事は多分正解ルートと見て間違いないのだろう。改めてエンによって転移地点が設定されたこの場所を見てみれば、今までの安全地帯より広く感じる。転移地点用の生えた木によって照らされているお陰で観光スポットのライトアップされた洞窟みたいに見えてくる。


 以前にここに来た時は気付かなかったけども、この場所は来た道と、前回行った海水の地下湖へと続く道が来た道とは反対側の左側、そしてもう1つの道がその右側にあった。そしてそのどれからも離れている場所にエンが木を生やした水場……それなりに広めだけど浅そうな地下湖も存在している。……これは通路から少し離れているせいで前は見落としてしまっていたらしい。


「ここにも地下湖があったのか。……完全に見落としてた」

「まぁそんな事もあるよ。それでケイ、海水の地下湖って右と左のどっちの道?」

「ここは左。右は全く進んでないな」

「左だね。それじゃここを中心にしてから左の方を重点的に探索かな?」

「そうだね! それで海属性の黒の暴走種を見つけよう!」

「ま、それが無難だな。休憩いるか?」

「……ごめん。もう少し休ませてもらっていい?」

「あ、ヨッシ、大丈夫!?」

「流石に酔わないとはいえ、絶叫系が苦手なヨッシには厳しかったかな?」

「……すまん、ヨッシさん」

「……次は流石にあれは勘弁してね?」

「……おう。もうあれはやらないと誓う」


 流石にあの急で無茶苦茶な移動はヨッシさんには堪えたらしい。下手な絶叫マシンよりも危なっかしい状況だったもんな。アルも流石に悪い事をしたと思っているようだ。これはヨッシさんが回復するまではちょっと休憩かな。

 

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