第153話 欲しかったスキル


「俺達の事はこの辺でいいとして、ケイさん達はどこ目指してるんだ?」

「海エリアに行こうかと計画中だな」

「なるほど、海エリアか。って事は、えーとこっちの左側の道の先か?」

「おう、そのつもり」

「んじゃ俺らは右側の方へ行ってみるか」

「僕はそれで良いよ」

「私も構いません」

「みんながそれでいいなら僕もそれでいいさ。折角みんなと行動出来るんだしね!」


 紅焔さん達は俺らとは違う右側の方へ行くらしい。ソラさん的には競争クエストも終わって、PT活動が可能になった訳だしな。どことなく嬉しそうな感じである。それにしても気になる事が1つある。紅焔さんがトカゲの方だったら火魔法もあるし気にはならなかったんだけど。


「……紅焔さん達って今は光源はどうしてるんだ?」

「あーそれか。実は俺以外は暗視持ちなんだよ。俺はコウモリの『音響把握』ってスキルだな」

「あ、そっちで対応してるんだ!」

「こっちの方が飛行メンバーが多いから対応しやすくてな?」

「なるほどね」


 今の紅焔さんのPTは全員が飛べるから、そっちの方が攻撃しやすいのか。種族によって使うスキルを変えるという事もあるのか。


「あ、そういやケイさん。推測のコケが目印ってのは当たってるっぽいぞ?」

「さっき最新版のマップを見てそうかと思ったけどやっぱり?」

「おうよ。情報共有板で確認情報が多数上がってるぜ。海エリアは海エリアで傾向が見つかったらしいぞ」

「お、そりゃ良い情報。海エリアはどんな傾向なんだ?」

「海水の流れの強さが違うんだと。正解ルートはクラゲのプレイヤーとか海藻のプレイヤーとかが移動せずにぼんやりしてると流されていく速度が早いってよ。って言ってもどこでも流されはするから初めから気にしてなければ気付かない程度の差らしいけどな」

「そうなってるんだね! やっぱりヒントはあるんだ!」

「他のエリアでは基本的にコケらしいぞ。ついでに森林エリアと草原エリアからケイさん以外のコケのプレイヤーもいたそうだ」

「お、マジか! やっぱりいたんだな!」

「まぁオンライン版からの初心者だったり、昨日始めたばっかりだったり、読み専だったりで書き込むことはなかったりするけど、普通にいるみたいだぞ」


 ……なるほど。俺も大岩騒動やアルと知り合っていなければ、今みたいに書き込むつもりもなかったから、そういう人や初心者だったりするって事か。でもコケ仲間がいたという事実が分かってなんか嬉しいね。


「ま、とりあえずそんなとこだ。それじゃ俺らは右側の方へ行くから、ケイさん達も頑張れよ!」

「おう! 紅焔さん達も頑張れよ!」


 そしてみんながそれぞれに声を掛け合ってから、先に紅焔さん達が出発していった。そして他のPTも何組かが転移してきている。これは転移地点ではあんまり長居はしないほうがよさそうだ。時間帯的にもこれから混雑し始めそうだし、今のうちにさっさと移動しておこう。


「さてと、俺達も出発するか」

「そうだな。行きますか」

「目指せ! お昼までに進化!」

「だね。私も頑張ろう」


 という事で左側の通路へと出発していく。改めて確認しながら行ってみるとこっち側は少し下りになってるな。……暗視だけだと色々と不十分なんだな。最低でも暗視と夜目の併用か、光源と夜目の併用が必須になっているっていうことか。


 しばらく進んで行く間にクモとコウモリを1体ずつ撃破していった。どちらもLv17なので結構敵のレベルも上がってきている。


「おし、これでLv19! あと1だ!」

「アルもあと少しか」

「私は進化先が出ない……。うーん、どうすればいいかな?」

「サヤの進化先か……。そういや今の時点で出てるのは単純な強化先だったっけ?」

「うん。『強爪グマ』ってなってるよ」

「サヤ、『操作属性付与』を可能な限り使ってみたら? Lv3まで上げてみれば何かあるかもよ?」

「他に当てもないし、それでやってみようかな?」


 このゲームが始まってまだ10日も経っていないから、明確な進化の指標なんてどこにもないからな。……思った以上にオフライン版から作り込みが増えていて、仕様変更も多いから参考にならないとも言う。まぁ全く同じだと手探りでやっていく楽しみがなくなるから別にいいんだけど。


 そして雑談をしながら奥へ奥へと進んでいく。時にはまだ行ってない分かれ道を見かけ、コケの分布を確認しながら進んでいく。他のプレイヤーと鉢合わせる事もあるけど、戦闘中なら横殴りにならないように注意する。


「あ、行き止まりだね!」

「意外と新しい敵が見つからないね?」

「少し大きな石があるくらいだね。これは石と言っていいのか岩と呼んでいいのか微妙な大きさだけど……」

「ま、焦らなくてもいいだろ。……これは多分石か……? 石と岩の明確な基準が分からん」

「確かに微妙なとこだな……。とりあえず引き返そうぜ」


<規定の条件を満たしたため、スキル『移動操作制御Ⅰ』を取得しました>


「お!? 『移動操作制御Ⅰ』ゲット!」

「ケイ、よかったね」

「おー! ケイさん、早速使ってみなよ!」

「まーまー、焦るな、ハーレさん。とりあえず仕様確認が先だ」


 行き止まりだったから引き返そうとしたら念願のスキルを手に入れた! 何はともあれ、実際のスキルを確認してみないとな。どれだけ便利に使えるものか、実際に使ってみるのが1番だし。百聞は一見にしかずってやつだな。


『移動操作制御Ⅰ』

 移動に特化した操作系スキルの制御方法。予め移動に使用するスキルの登録をしておく事によって行動値の上限値使用での発動が可能になる。使用上限行動値は登録スキル数に依存する。このスキルの登録に限り、魔法も魔力を消費しない。このスキルの発動による登録スキルの熟練度の獲得は不可能。

 ただしこのスキルを使って発動したものは一切の攻撃に使用出来ない。攻撃判定が発生した際には自動解除となり、再発動まで10分間待つ必要がある。

 登録枠数1個で上書き可能。


 単発じゃなくて連続でスキル登録が可能なのか。魔力を消費しないというのも地味に良いね。そして最重要なのが行動値の上限の使用で発動出来る事! これなら他のスキルと干渉しない! それにしてもこの登録式の仕様は……。


「これ、思いっきり一発芸に似てるな」

「一発芸に似てるんだ!?」

「逆じゃないかな? 一発芸がそのスキルに似せてるとか」

「あーそれもそうか。一発芸の方がどう考えても特殊だもんな」


 一発芸がメインでこっちがおまけって事はまずないだろう。一発芸は取得条件が条件だし。……そういや一発芸は最近使ってないな。熟練度入らないのもあれだけど、最近の移動はアルに乗ってるか、コケが少なくて群体化での移動が厳しい場所のどっちかだったしね。

 そしてこのスキルが手に入ったから、余計出番はなくなりそうだ。……群体化ってコケが多いとこなら途轍もない性能を発揮するけど、コケがなければ不便過ぎるんだよな。


「とりあえずちょっと使ってみる」

「おー! どんな感じなんだろ!?」

「……多分見た目的には対して変わらないんじゃねぇか……?」

「まぁ今までやってる事を登録するだけだしな」

「あ、それもそっか」


 なんか期待外れ的にションボリされてもどうしろと!? ……ハーレさんの期待外れっぽさはとりあえず放置しておくとして、早速使ってみよう。


<『移動操作制御Ⅰ』に登録行動がまだありません。移動に使用するスキルの登録を開始しますか?>


 まずは使用するスキルの登録か。なんか似たような登録を思いっきり見た事ある気もするけど、これは一発芸のほうが特殊だったと見るべき? それにしても登録枠は1枠か……。まぁ上書き可能だし、とりあえず水球移動で試してみるか。


<『移動操作制御Ⅰ』を登録モードで発動します。なお行動値の消費はありません>


 よし、これで登録開始。実際に発動する訳じゃないから、土の操作を発動中でも登録は可能のようだ。


<行動値上限を3使用して『水中浮遊』を発動します>  行動値 45/45 → 42/42(上限値使用:3)

<上限値使用のスキルは登録出来ません>


 え、マジか。……って事は水球移動の時は水中浮遊は先に発動する必要があるんだな。それなら小石移動の方を登録するか。ついでに行動値の消費表記も今の数値じゃなくて、全快時のが仮想表記になってると。


<行動値1と魔力値4消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 44/45 : 魔力値 72/76

<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します>  行動値 41/45

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 40/45

<行動値を4消費して『土の操作Lv3』を発動します>  行動値 36/45


 よし、これで登録終了を選択すればいい。っていうか登録方法、ほぼ一発芸と同じ! 登録の仕方が分かってて楽で良い。


<移動に使用するスキルの登録を終了します>

登録内容:『土魔法Lv1』・『増殖Lv3』・『群体内移動Lv1』『土の操作Lv3』

使用上限値:4


 これで登録は終わったって事になる。4つのスキルを登録したから使用上限値は4か。まぁ充分許容範囲。というか、他のスキルと同時発動出来る時点で、この程度の上限値使用に文句などない! ……これ、岩の操作でも登録……あ、攻撃には使えないからメリットないか……。


「よし、登録完了! 早速使ってみるか」


<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 30/41(上限値使用:4)


 とりあえず1回イス型の石の方へ移動して、魔法産の小石は土の操作も切って破棄しておく。制限はあったけども色々と便利だったよ、ありがとう。さて新スキルの発動だ!


<行動値上限を4使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 30/41 → 30/37(上限値使用:8)


 あ、一応個別にスキルの指定項目は出てくるのか。今いるとこの真横に生成場所を指定して小石を生成し、増殖が発動、そしてその中に核を移動して、土の操作が発動した。最後の操作対象はそれまでのスキルに関わったところだけなんだな。うん、発動の手順としては今までと何も変わらない。だけど移動操作制御の方が確実に便利だ。

 さっきまでと変わらずに俺は小石にくっついて浮かんでいる。さてと肝心の他のスキルはちゃんと発動するかも確認しておこう。照準は目の前にあるちょっと大きめの岩か石か微妙なラインのやつ!


<行動値2と魔力値8消費して『水魔法Lv2:アクアボール』を発動します> 行動値 28/37(上限値使用:8): 魔力値 64/76


 よし、命中! ちゃんと移動と他のスキルの同時発動が可能になったぞ。これで移動中に他のスキルを使えないっていう悩みはかなり軽減されたぜ!


「おー! ケイさん、小石移動のままで水魔法が発動したね!」

「おうよ! 思った以上に便利そうだ。これで弱点克服!」

「……ねぇケイさん。その石、なんか動いてるんだけど……?」

「え、マジ……?」


<未成体・暴走種を発見しました>

<未成体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>


 ……石だと思っていたのは石に擬態したカニの黒の暴走種の未成体だったようである……。鋭い爪を開けたり閉じたりしながらこちらの方へと向きを変えてきた。

 そういやベスタが言ってたような気はする。未成体は行き止まりの奥にいるけど、手を出さなければ何もしてこないと……。思いっきり攻撃しちまったんですけど!?

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